初代と69代目
「文明を破壊するのが目的である宇宙人のアジトっていうからもっと派手で仰々しいものだと思ってました。」
意気込んで出発して徒歩2時間程、そのアジトはフリエさんがさらわれた森からすぐそこにあった。
遠い秘境で地下をくりぬいて作られたオーバーテクノロジーの巣窟、そんな場所を想像していたらそこらの盗賊のように洞窟を拠点にしていて少し拍子抜けした。
「むしろ文明を破壊するのが目的だからこそ監視の意味も込めて主要な都市の近くにあるんだよ。単純な話文明が成長していなければ破壊する必要ないし。人に見つかり易かったとしても単純で見つかっても問題ないぐらい簡素なら直ぐに別の場所に移動できる。後はあいつらの理念故にかな」
ポツリと零した俺の疑問に分かりやすく答えてくれる師匠。最後の言葉が慈しむような声音で凄く印象に残った。まるで出来の悪い我が子のことを話すかのような呆れと優しさがあったような気がした。
「あいつらの星は発展し過ぎた兵器を使ったせいで滅びたって言ったでしょ?そのせいであいつらは本来別に使っても問題ない兵器以外の機械も使わないでわざわざこの星の文化レベルに合わせてんだよ。やろうと思えば絶対に見つからない施設を作るとか簡単だろうし」
言外に「馬鹿だよねぇ」とでもつきそうな程に呆れの感情が籠った言葉だったが、口元は優しく微笑んでいた。師匠がこういうような顔をするのは珍しい。いつもはどこか達観したような雰囲気を持つ師匠がこんな風に感情を表に出すのは本当にごくまれだ。
珍しいものを見れて少し良い気分になっていると洞窟から白い『なにか』が出てきた。
「やあ、ノア。こうして顔を合わせるのは初めてだったね。とりあえず、初めまして?」
すでに気づいていたのか、それが出てきても一切の驚きを見せず、軽口すら叩く師匠。
「しょ、初代?なんで生きてるんですか。あなたがここをやめてから一万年以上たってるのに」
対して彼はあり得ないものでも見たかのように驚きで声を震わせる。
「とりあえずずっと立ってるのもつらいし、お邪魔するね」
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洞窟はまるでアリの巣のように複雑だった。多すぎる分かれ道と、松明があっても数メートル先すら見えない暗さで既に帰り道が分からない。
もし俺が一人で来たら奥にたどり着けず迷って死んでいるかもしれない。
さっき師匠が見つかっても問題ない単純にできているとは言っていたが、まず見つからないように工夫はちゃんとしてあるわけだ。
最深部はかなり広くて周りには火とは違う見たことのない発光物がたくさんあった。
洞窟の中で火も使っていないのに温かな光を感じられる、この事実が改めて彼らが宇宙人だということを認識させた。
「えっと、まずは座ってお茶でもどうぞ」
事前に伝わっていたのか目の前には白の丸いテーブルに5つの椅子があった。テーブルの上には5つのカップと紅茶のポットが湯気を出していた。中央にはお茶菓子の山がある。
「じゃあ遠慮なく頂くよ」
俺、シルド君、シアの三人は緊張してたどたどしく座ろうしていると、師匠は何のためらいもなくドカッと座り紅茶をすすり始める。
いつもと全く変わらない師匠の姿に、俺達は毒気を抜かれ苦笑を漏らしながら席につく。
「目的は何ですか、っていうのは分かりきっていますね。そこの三人を見れば」
ポツリとそんなことを呟くノアさん。
「そもそも文明を破壊なんて必要なんですか?あなた方の星は滅びてしまってそうですけど俺たちの星が滅びるとは限らないじゃないですか」
「もしボタン一つで街を、国を、人を吹き飛ばせる兵器があったらどうなると思う?」
「え?」
俺がそもそもの疑問をぶつけたらよく分からない質問が返ってきた。
「そんなの使わなきゃ良い話じゃ……」
「ダメだね、そんな脅威が存在すると分かったら周りの国や人は必ずそれを奪おうとする。表立ってはその兵器を恐れて特に何も起きないだろう、だが裏では血みどろの戦いが繰り広げられるだろうね。そしていずれその兵器は使われて人は何人も死に絶え戦争が起き更に人は死ぬ。これはどんなに使いたくなくても遅かれ早かれ必ず起こる。俺達はそれを止めるために文明を破壊するんだ」
「そんなこときっと起きない!」と言いたいが余りにも現実感の籠った言葉だった。この人達はこの人達なりの正義感を持って行動している。それを無知な俺の感情論でどうして否定できようか。
「それに言い訳くさいけどメリットはちゃんとあるんだよ?自然環境はまだ全然ダメージを受けてないし、どこの国も文明を破壊されると一旦余裕がなくなるから戦争はかなり起きにくくなってるし」
一応の利点も説明するノアさん。ただの未来予想だけでなく今発生する明確なメリットを説明させてしまっては俺としては何も言えなくなる。
「個人の気持ちとしては返してあげたいんですけどね、20代の女の子をさらってエネルギーに使って半年も眠らせるとか倫理観的にヤバいですし。でも何分時期が悪い。もう前回の文明破壊から三百年程、そろそろ人を殺さずに終えるのが難しいんですよ」
「相変わらず甘いね。一切人を殺さずに技術の発展を止めるには相当早いペースで壊し続けなきゃ無理だ。準備にもかなりの時間がかかる。子孫も安心して過ごせる時間なんかほとんどなくなる。それでもまだ不殺主義を貫くのかい?」
「ええ勿論、だってこちらは別に誰も命を失う訳ではありませんから。生きていれば必ず幸せになれる。俺も自由な時間は少ないですがこれまでの人生は楽しかったですもの」
そのやり取りはとても俺の心に残った。俺もほとんど同じようなことを言って師匠から呆れられているから分かる。はっきり言って現実が見えてないような甘いこと言ってるのはノアさんの方だ、ただ目的を達成する、自分たちの幸せを考えるのなら師匠の言うとおり不殺主義なんて諦めた方がいい。
それでも理想論はノアさんの方だ。どこの誰だろうと生きていれば必ず幸せになれる、だからこそ誰も殺さないようにする。そしてノアさんはその理想を体現できる確かな実力がある。
ノアさんのあり方は俺の目標だな、もしこの件が終わっても忘れずにいたい。
「まあ正直言って死にさえしなければどんな状態だろうと俺が治せるから別に良いんだけどね、エネルギーに使うぐらい」
その言葉を聞いたノアさんは今まで不安気な顔だったのが一転してホッとしたような表情を浮かべる。
「良かったですよ、俺はよく知らないんですけど初代は恐ろしく強いっていう話はあなたの伝記でよく知っていますからね。戦わなくて済むならそれが一番ですよ」
「その俺の伝記とやらは後で一つ残らず燃やしておくとして、まあそんな感じでさっさと終わらせて……ちょっと待て、フリエちゃんの魔力ですら半年は眠るだと?お前ら何使おうとしてる?」
穏便に終わりそうだった話の結末は師匠の態度でいきなり不穏なものに変わった。
「『ブリューナク』、あれは本来城ごと吹っ飛ばすような魔法だぞ?それを簡単に使えるフリエちゃんが半年は眠る。明らかにやべーもの使おうとしてないかお前ら」
「え?今回使う予定なのは『シヴァ』っていう装置ですよ。建造物を跡形もなく吹っ飛ばせるって書いてあったので今回は少し余裕を持って行動できたんですよ」
「ばっかやろう!」
ノアさんの言葉を聞いた瞬間、師匠は今までの余裕がある態度はどこへやら、血相を変えて大声を上げテーブルを叩き立ち上がる。
「馬鹿お前、あれはそんな生易しいもんじゃないの!使ったらそれはそれは大変なことになる。ああもうこんな事になるんなら処分しとけば良かった」
「い、いやでもあれがないと今後誰かの命を奪わなくちゃいけなくなるんで……」
「あれはそんな次元じゃないの!人を殺す殺さないの次元じゃない。今まで積み重ねてきたもの全部吹き飛ばすの!やめる気ないなら交渉決裂、絶対にあれはぶっ壊す」
邪魔する敵を恐怖だけで殺しかねない程の圧力を放ちながら師匠は今までの会話を全てご破算にしてノアさんと敵対することを宣言した。




