『不知火』
「『不知火』」
その言葉を聞いた瞬間クロンさんは何故か後ろに跳んだ。
アルカさんは魔法を唱える様子も無く、構えても無いのになんで?
って思った瞬間さっきまでクロンさんが立っていた場所にアルカさんの剣が走る。
えっ、アルカさんが二人!?
と思ったら元々いたアルカさんはいなくなっていた。
今のは魔法?能力は生命力を奪うものの筈だから無いと思うが…
「歩法だよ、名は『不知火』って言って俺の作った技の中でも傑作の一つでね?
ノーモーションで急激に加速する技『不休』、
残像を残して移動する技『狐火』、
2つの技を合わせて使う技で有り得ない体勢でも加速して、しかもそれを気付かせない。
って言うのが理想の技。
単純にクイの使う不休の上位互換と思えば良いよ。」
えっ、えげつね〜。
クイちゃんの不休ですら有り得ない程強いし汎用性も高い。
それの上位互換、この技だけでA級冒険者になれる程強力だ。
「「『不知火』」」
二人は一切動いて無い様に見える。
しかし直後周囲で剣を打ち合う音が響く。
どんな体勢でも加速できる技だから恐らくほんの少しでも不利になったり僅かでもチャンスがあれば移動するって言う戦闘スタイルをとってるんだろう。
二人共残像を残しているからどちらが優勢なのか今どうなっているかなどさっぱりわからない。
でも、確かにとんでもない技だけどこの技もクロンさんが創ったんだ、アルカさんに勝ち目があるとは到底思えない。
アルカさんは何を考えてクロンさんに戦いを挑んだんだ?
勝ち目が無い事は俺より遥かに理解出来ている筈なのに…
「ガハッ!」
そう思っていた俺の耳に血を吐く声が入ってきた。
声が聞こえた方向を見ると脇腹を深く切られたアルカさんの姿があった。
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(アルカ視点)
「「『不知火』」」
終始、劣勢だった。
俺は不知火の対応策を知らないが、爺さんは技を創った人間として当然の様に知っている。
単純に俺は爺さんの残像を見抜けず爺さんは見抜ける、この差だけで後手に回ってしまう。
更に元々身体能力も魔法も俺より遥かに格上だ。
むしろ俺が今生きていられていることに明らかな手加減を感じる。
だがそんな事は最初から分かっている。
今はとにかく1秒でも長く耐えて生き延びるんだ。
まだ爺さんが油断して手加減している間はここで倒せる可能性もある。
「強くなったね、アルカ。
流石にたった百年かそこらで不知火を習得できるとは思わなかったよ。」
「皮肉にしか聞こえないよ爺さん、手加減されてもね。」
「いやいや、本心だよ。
確かに手加減しているけどそれでも国の騎士程度なら瞬殺できるぐらいにはやってるよ。
つまりお前もそんくらい強くなってるってことだよ。」
子供の頃を振り返っても爺さんに褒められたのは何回あっただろうか…
こんな言葉一つでも心が揺れてしまう、自分にほとほと嫌気が差す。
そしてそれぐらい強くなった筈なのに全く追いつけない爺さんに改めて戦慄を覚える。




