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さよならを言うために  作者: すずきあい


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2.言えない


白の英雄・クウリ


俺には親友がいた。


あいつは子供の頃から俺よりも背が高くて、体格も良かった。いつも冷静でいながら、剣を持たせれば誰よりも早く斬り込んで魔族の首を落とす。その動きには一切の無駄がなくて、全てが終わった後に小さく一つ息を吐く仕草が悔しいほどに様になっていた。


いつも最前線で剣を振るうあいつは、返り血を目立たせない為に常に黒い服を来ていた。それはあいつの黒い髪によく似合っていた。特に夜の戦場は、夜目が利くあいつの遊び場のようにも思えた。



俺は魔術師として戦場に赴くことはあったが、長距離の大規模魔法で魔族達を焼き払うので、どんな戦場に立たされようとも傷一つ、埃一つ付くことはなく出撃した時と寸分違わぬ姿で帰還する。だからその力の証として、いつからか真っ白なロープを身に纏った。

そしてその大規模魔法から辛うじて逃れた魔族を狩る為に、あいつは出撃する。俺が焼き払って整えた舞台へと向かうあいつの背中を見送るのが、俺に背中を預けてくれるように思えて、特別な存在になれたような気がしてひどく心地好かった。


しかしそのことをあいつに告げるには身分差や俺の高貴な血筋が邪魔をして、絶対に言えないと思っていた。



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「国王陛下の身代わりを務めよ。ただし、一度なら断ることも許そう」


俺は平伏する木偶達を見下ろした。奴らは一様に震える無様な背中を見せている。いや、一人だけ違うことに気付いた。確か元軍人だったか、と思い出し、精一杯の矜持だろうと肩を竦めた。


今回の作戦は、かつてないほどの好機だった。


魔族が愚かにも国王陛下を暗殺するというのだ。この国の建国記念式典で、陛下は王宮から神殿に移動して直々に神に祈りを捧げる。その祈りの場では陛下と数名の神官だけになる。祈りの場には魔族の入り込めない強力な結界が施されているが、直接馬車で乗り付けるわけにはいかないので、ほんの短い通路の移動時に僅かな隙が出来るのだ。そこを狙って魔族が襲撃して来るつもりだと確かな情報筋からもたらされた。


俺はすぐさま奴らを迎え討つ作戦を立て、陛下に奏上した。防ぐのは誰でも出来るが、敢えて誘き寄せて殲滅する。それが有効な手段だ。


その為に俺は、陛下と神殿内に付き従う神官の影武者を仕立てることにした。彼らを囮として、ノコノコとやって来た魔族共を殲滅する。その為には影武者ごと一気に葬る必要があるのだ。少しでも間を置いて気付かれては駄目だ。だからこそ影武者の選定は気を遣った。

ヤツらに気付かれないように、最期の瞬間まで陛下の影武者であることを貫き通せる者で、更に失っても戦力には影響の出ない者が適任だ。


その選定は俺が自ら目を通し、怪我で一線を退いた退役軍人や、もう余命宣告をされた者などに話を持ちかけ、当人の希望まで聞いてやった。自らの命と引き換えに、金でも爵位でも領地でも望む者に与えることを約束した。ただし、最期まで影武者を務められなかった場合は、自分が財産を渡す約束をした相手の将来は潰えるとも包み隠さずに告げてやった。


「この先ゴミのように散る命を、高い価値として買い取る。良い話だろう?」



作戦は大成功だった。


おびき出した中に、魔王の側近でもある大魔族がいたのだ。しかも向こうも失敗は許されないと、かなりの数の精鋭を引き連れて。そして偽物とは言え同胞諸共に殲滅させるとは思っていなかったのだろう。俺の魔法の範囲内に入った瞬間、間を置かずに全てを焼き尽くした。影武者のボロが出る前に発動出来たおかげで、その場にいた者は全て死に、骨も残らなかった。


たった両手程度の役立たずと引き換えに、魔族側に大打撃を与えた。一応尊い犠牲として弔慰金を少しばかり上乗せして、英雄として陛下からお褒めの言葉を賜った俺が直々に遺族の元を訪ねてやった。が、そこにいたのは、その頃には「黒の剣聖」として俺のすぐ後ろまで追いついて来た親友の姿だった。


「何故あんなことをっ!」


怒りに震える声とともに、俺の頬に衝撃が走った。まさか親友に出会い頭に殴られるとは思っていなかったので、俺はそのまま吹き飛ばされて床に手を付かされてしまった。


「何をする!」

「ジャック!止めて!」


俺とあいつの間に飛び込んで来たのは、地味で貧相な女だった。どこにでもいる茶髪で、器量もさほど良くないし身なりも貧しい。その女があいつに縋り付いていて、仕方ないといった風にあいつも動きを止める。そんな非力な女に止められるくらいなら、俺に手を出す前に飛び込んでくればいいものを。


「何故あの方を巻き込んだ!もう戦からは退いて、穏やかに過ごしていただく筈だった!」


陛下の影武者を務めた退役軍人は、どうやらこいつの元上司で、この女はその娘だということだった。


こいつは真面目なのはいいが少々頭が固いところがあるから、怒りを鎮めるまでに時間を要したが、自ら国の役に立ちたいと志願したのを説明したことでやっと大人しくなった。


「申し訳ございません!英雄様も父の望みを汲んだ上でお辛い決断をされたのですね」


何故かあいつの代わりにこのしたり顔の女が謝罪をするのは妙に腹立たしかったが、それ以上にこの女の前ではまるで牙を抜かれた狼のようになったあいつの姿にもっと胸の奥がムカついた。お前は、俺と並ぶだけの資格を持った唯一で、こんな路傍の石ころみたいな女の隣にいるべきではない。


「…彼女は?」

「レナ。私の、妻です」

「…は?」


ああ、こいつは私の足元に追いつくことも、理解することも出来ない愚鈍に成り下がったのか。俺の足元に、ぽっかりと絶望の穴が開いた気がした。



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俺は治癒魔法が得意だという女の申し出を断って、黒のローブに身を包んで聖女メリーアンの元へ向かった。普段は白しか纏わない俺が黒を被るだけで誰も気付かない。そのままメリーアンの元に向かえば、暗闇も手伝ってあいつが訪ねて来たように見えるかもしれない。そうなればいい気味だ。


メリーアンは実家が寄り子の子爵令嬢で、周囲には幼馴染みと思われているが、俺達の間に勝手に割り込んで来たくせに「どちらにも特別扱いされているけれど、どちらも大事で選べない私」に酔っている気色悪い女だ。あいつの見目だけ見てポーッとなるくせに、俺の実家の爵位と資産に物欲しそうな態度で擦り寄って来る。

きっと俺とあいつが仲違いしたと言えば、勝手に「私が仲を取り持ってあげなきゃ」とあいつに近付くだろう。そこで妻を娶ったことを知れば、わざとらしく擦り寄って奪おうと躍起になるのは目に見えている。浅はかな性格は昔から変わらない。


メリーアンは外見だけは華やかで愛らしいと評判なようなので、それと比べてあんな地味女との婚姻は間違っていたとすぐに気付くだろう。

真面目なあいつは、実際に手を出さなくても気持ちの上で不貞だと思えばすぐさま離縁を申し出る筈だ。そしてメリーアンは「そんなつもりじゃなかったの」と目を潤ませるだろう。決して零れることがないように調整された涙を目の縁ギリギリまでに溜めて。



その後、俺とあいつの仲は表向きは元通りになったかのように見えた。この国の最大戦力である俺達が仲違いしていては、全軍の士気にも影響が出る。だがあいつの態度はよそよそしく、どこか薄布一枚隔てたようなザラリとした手応えの、どうにも受け入れ難い空気が俺達の間には存在していた。


お前の目は、常に上を、俺を目指していなければならないのに、妻帯してすっかり腑抜けになったあいつは自分のすぐ隣にいる女を見つめている。以前と変わらぬ、いやそれ以上に功績を上げているが、あいつの向上心はどこにもなくなってしまった。あいつの目が向いているのは、すぐ横の、斜め下。


メリーアンも思ったよりも役立たずで、あいつと女の間に入り込めずに苛ついていた。そして己の無能を誤摩化す為に、常に「私がクウリとジャックの仲直りの切っ掛けを作ったのよ」などと恩着せがましいことを口にする。何もなし得ていないくせに。



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そんな苛つく日々に、ようやく朗報がもたらされた。


かねてより研究していた、対魔族に絶対的な威力をもたらす大規模魔法の構築が終了したのだ。


メリーアンが組み上げた魔族のみに反応する探知魔法と、魔族に絶大な効果を発揮する浄化魔法を組み合わせ、魔族のみを選別して追尾、攻撃して殲滅させることが可能な魔法が完成したのだ。

王宮の地下で多くの魔術師が数年がかりで魔法陣を構築してようやく発動を可能にしたもので、今はまだ王宮を含む王都全体が射程効果範囲に含まれる程度だ。更にその魔法は膨大な魔力を消費するため、一度最大出力で使用してしまえば年単位で再び魔力を溜めなければならない。


強力ではあるが様々な制限もある為、実戦で使うには射程内になるべく多くの強い魔族を誘い込む必要があった。しかしそうなると王都が戦場になる。それを避けるには魔法陣を動かす必要があるのだが、国王をはじめとした貴族達がそれを渋った。魔族の殲滅よりも、自身の安全を優先したがったのだ。


俺は内心、そんな先も見通せない王にすっかり敬意を失っていた。こんなことならば、あの時に身代わりを立てる策など奏上しなければよかった。



折角構築した魔法陣の使い道も定まらないまま、くだらぬ議論で時間を費やしているうち魔族にその魔法のことが漏れたらしい。


「まさか魔王が直々に出て来ただと!?」

「慌てるな!これはあちらが焦っている証左に他ならない。ヤツらを攻撃範囲まで引き寄せろ!」

「しかしそうなれば王都が戦場に…そのまま王宮まで攻め入られたら」

「それに魔王軍とは別動隊も王都に向かっていると。そちらが先に到着すれば戦況は不利になります」

「数はこちらの方が上だろうが!」

「そ、それが…別動隊もかなりの戦力と…それに両方に戦力を割けば」

「ええい、魔王軍を叩ける距離まで持ち堪えろ!!」


魔族はいよいよここが正念場と覚悟を決めたのか、これまでとは比べ物にならないほどの兵力を王都に向かわせて来た。特に今まで存在すら掴めなかった魔族の頂点である魔王が、自ら軍勢を率いて進軍して来たのだ。その実力はさすがに魔王だけあって、相当の実力者を有していた辺境軍でさえも紙くずのように吹き飛ばされた。辛うじて帰還した者の話では、魔王の姿すら一顧だにしてないと言う。


その事実にみっともなく騒ぐだけの王と側近に、俺はただ黙って大人しく控えていたが、内心はうんざりしていた。俺はこの混乱に紛れてあの魔法陣の使用権限を奪えないものかと、意味のない会議を聞いているフリをしながら策を練っていた。


「では、わざと王都の一部の防御を緩めてそこに集中させ、敢えて引き入れるようにすればよろしいかと」


いい加減腹も減ったので、俺は欠伸を誤摩化すついでに適当なことを提案した。


「だが…」

「魔族を王都北側に集めるのです。別動隊をそこで足留めし、その後に魔王軍が合流してから王都内に引き込めばいいでしょう。北の門は王宮から最も遠く、あの門からはどの道を行っても必ず噴水の広場を通過します。念の為、そこに浄化魔法の得意な聖女達を置いておきましょう。多少魔族が入り込んでも、時間稼ぎくらいにはなるかと」


その場の思い付きで言ったものの、そこまで悪い案ではない。俺のこれまでの実績もあって、そこからはすぐに策がまとまった。無能でも自分の命が掛かると働きが違うようだ。


「どうやって魔王軍も北門に誘き出す。策はあるのだろうな、『白の英雄』クウリよ」

「勿論でございます。『黒の剣聖』殿を北の王都外に充てます」

「彼奴(あやつ)はこの王宮の守りの要。魔王軍が来た時には先陣を任せ…」

「しかし、彼に恨みを抱く魔族は多いのです。彼が北の門前にいると知れば、魔王も同胞の仇として進軍速度を上げて向かって来ることでしょう。彼が北の門外に出ている間は、わたくしが王宮を守りましょう」


魔族との戦いは、俺の方が圧倒的に多く屠っているが、近接で一体一体を切り伏せるあいつの方が顔は知られている。魔王を討てるとは思わないが、エサとしておびき出すには悪くない。どうせ魔族との戦いが終われば、剣が強いだけのあいつはただの役立たずだ。ただの孤児で賢くもなく、俺の隣に立つべく努力もしない腑抜けには、過分なまでの花道をやろう。


もしそこで覚醒して再び俺の隣に立つ覚悟を見せれば、これまでのことは水に流してもいいと寛大な俺は思っていたのだった。



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「馬鹿なっ!?まだ魔王軍は王都に入っていないのだぞ!」


俺は王宮の空に浮かび上がる巨大な魔法陣を見て、思わず叫んでいた。


王が「神の審判」と名付けた魔族殲滅の最大の秘策は、射程範囲内に入り込んだ魔族のみを狙い撃ちにする大規模魔法だ。今はまだ王都内しか射程範囲がないので、魔族をわざと範囲内に引き込んで攻撃を仕掛ける筈だった。折角魔王自ら餌食になりに進軍して来たのに、その射程内からはまだ遠く離れた場所にいるにも関わらず魔法陣が起動していた。


本来は王宮から最も離れた北側の防御をわざと薄くし、そこに誘い込む予定だった。その策が功を奏し、魔王軍はまんまと北側に進路を取った。だが何故か、そことは反対側、王宮に最も近い南門から別動隊が王都に入り込んだとの知らせを受けた。


この「神の審判」は威力が桁外れなだけに、消費魔力も半端ではない。そう何度も放てる訳ではないと幾度も説明していたのに、使用権限を有している上層部が王都に入り込んだ雑魚どもに恐れをなして起動させてしまったのだ。上の奴らの予想を越える愚かさに俺は歯がみしながら、上空の魔法陣から美しい光の螺旋が渦を巻いて王都の南方向に飛び散って行くのを見守ることしか出来なかった。



上空の光が全て消えた後、俺は屍がゴロゴロと転がっている王都を巡った。


どいつもこいつも人成らざる醜い異形達。それが急所である額を撃ち抜かれて絶命していた。王都の住民達は外出禁止令が解かれていない為に人通りはない。目に映る範囲の住民達は、既に物言わなくなった物体と化した者達だけだ。


この光景を見ると人間の勝利にも思えるが、肝心の魔王は取り逃がしている。この魔法が起動した時点で、王都付近までやって来ていた魔王軍は呆気無いほど速やかに撤退した。まさか魔王がそんなに腑抜け…いや、慎重と言うべきか。


そしてあいつは、魔王軍とともに消えた。


死んだとも、逃げたとも伝わって来るが、今のところ遺体は出ていない。戻って来た騎士の話によれば、最後に見たのは一瞬の隙を突いて魔王に向かって一直線に掛けて行く後ろ姿だったという。



俺はきちんと魔法が発動したかどうかを確認すると適当なことを告げて、血の匂いが充満する王都内を見て回る。今王宮内の愚かな者達の顔を見ていると、苛立ちのあまり攻撃魔法を放たないように堪えるのに苦労するからだ。


戦力を北側に回していた為にこの南側は手薄で、入り込んだ魔族に住民が蹂躙された。しかしそれも魔法が発動する少しの間だけで、被害は最小限だったろう。ただ魔族の死体は額の傷だけで、住民の方が切り刻まれ潰された状態で、街を汚らしい景観にする要因となっていたことに俺は思わず眉を顰めた。


「誰だっ!」


背後で微かな音がして、俺は大きな声を上げた。そこには平民の掘建て小屋があって、ゆっくりと扉が開いた音だった。


「…え、英雄、様…」

「お前…!?」


扉から顔を出したのは、かつてあいつに妻と紹介された見窄らしい女だった。真っ青な顔をして、扉に縋るように足元が覚束ない。


あいつを堕落させた汚らわしい女ではあるが、それはあいつの心根の問題もあった。それにどんな者でも怪我をしているのなら「白の英雄」としては手を差し伸べねばならない。どこで誰の目があるか分からない為、薄汚い平民女になど触れたくもないが、仕事だと割り切るよりないだろう。


「怪我を、しているのか。それならばすぐに医師を」


俺は、女の姿を見て言葉を続けられなくなった。


女の服の腹の辺りに、小さな穴が空いていた。そこから足元に掛けて血が広がり、裾と靴も染めていた。女は治癒魔法を使ったのか、その血は止まっているようだった。だが、俺が絶句したのはその姿にではない。


「……貴様、子を、孕んでいたのか」

「は、はい…夫(ジャック)との…」

「この…!裏切り者がァ!!」

「ひっ!」


その女の腹に残されていた痕跡。そこから微かに残る魔力の残滓は、紛れもなく「神の審判」で貫かれたものだった。


あの魔法は、魔族を感知して急所である額を貫いて瞬殺するものだ。つまり、この女の肚に魔族がいたことに他ならない。


「さては貴様、魔族に与した挙句、この王都に魔族を引き入れたのか…?」

「そ、そのようなことは絶対に有り得な…」


女の喚く耳障りな声に我慢がならず、俺は女の顔を鷲掴みにすると炎魔法を発動させた。


ヤツは息を吸う代わりに炎を吸い込み、一瞬で気道も肺も焼けた。そのせいか呻き声一つ上げずに倒れ込み、踏み潰された虫のように体液を垂れ流しながら手足をバタバタさせてしばらくもがいていた。だがそのうちにそれも小さくなり、全身が細かく痙攣をし始めてやがてそれも止まった。


俺はその一部始終を、冷たい怒りに満ちた感情を必死に抑えながら眺めていた。


ああ、あいつは。ジャックは。こんな卑怯な女に騙されたのか。きっと魔族の脅威であったあいつを貶める為に。俺(・)の(・)、隣から奪う為に。


そして完全に息絶えたのを確認する為に女であったモノを爪先で蹴り上げてから、俺は王宮に足を向ける。


王宮に戻れば、消えたジャックの手掛かりが届いているかもしれない。あいつが死ぬ筈がない。もし戻って来たら、また再び俺の隣に立てるように導いてやるんだ。妻と思っていたモノの裏切りに傷付いていたら、俺が仇は取ったと教えやればきっと立ち直れる。


俺が整えた戦場という舞台に、堂々と上って行くジャックの背中を見送れるのは俺だけだ。あいつが背中を預けられるのは俺だけだと、今度は言葉にして告げてやろう。


俺の才能について来られる奴は誰もいない。だが、ジャックなら隣に立つことが出来る。そう、ジャックだけが許されているのだ。



俺は道端に転がる屍骸を跨ぎながら、王宮への道のりを急いだのだった。



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