第6話 【作戦】ちかはわたしの参謀です
金曜二十二時、南ひまりの家で、南ひまりと並んで、夜顔ルネの生配信を見る。
この提案の何が問題か、念のため整理しておきたい。
問題点その一。金曜二十二時、夜顔ルネは配信をしている。
問題点その二。夜顔ルネは、わたしである。
以上。問題点は二つしかないが、二つで人生が終わる。物理法則への挑戦である。わたしに分身の術は使えないし、「録画でお送りしています」が許されるのは大晦日のテレビだけだ。
「――で? なんて断ったの」
火曜の昼休み。中庭のベンチで、ちかは今日も実に楽しそうだった。人の時限爆弾を娯楽にするな。
「『金曜は、家の用事があって』って」
「ふーん。で、南さんは?」
「『そっかあ、残念』って言ったあと、三秒考えて――『じゃあ土曜は? アーカイブ一緒に見よ』って」
「あっはっは」ちかは膝を叩いた。「軌道修正はっや。さすがプロ、切り返しが商談」
「笑いごとじゃないんだって。断る理由、もうないんだよ。土曜のわたし、ほんとに何の用事もないんだもん」
「行けば? アーカイブなら分身要らないじゃん」
「要らないけど! 隣で! 本人が! 自分の配信を! 二時間!」
「地獄のサブスク入ったねえ」
ちかは、ふ、と真顔になった。この切り替えの速さが、こいつの油断ならないところだ。
「でもさ、すみれ。行っといたほうがいいよ、それ」
「……なんで」
「敵情視察。あんた、南さんの『好き』がどれくらいガチか、まだ数値で把握してないでしょ。ライトなファンなら、話合わせて流してりゃいい。でもガチ勢なら――声の癖とか、歌の呼吸とか、そういう細部から気づくのは、いつも、ガチ勢のほうだから」
……ぞく、と背中が冷えた。
そうだ。身バレというのは、アンチや野次馬から始まるんじゃない。いちばん深く聴き込んでいる人のところから、始まるのだ。
「検証してこい、ってこと?」
「そ。インフルエンサーの『好き』は本物なのか。本物なら本物で、対策の立てようがあるっしょ」
ちかはそう言って、飲みかけのペットボトルのラベルを、爪の先で意味もなくかりかりと剝がした。
「――で。ガチだったら、帰りに教えて。いちばんに」
「? 報告は、するけど」
「ん。よろしい」
こうしてわたしは、土曜日、敵情視察という名目のもと、太陽の本拠地へ乗り込むことになった。
名目は勇ましいが、実態は、生贄の自宅配送である。




