69☆対談なんですけど
ホワイトパンサーズ最終戦は、るなのタイムリーツーベースが勝敗を分けた。
1試合のおあずけと、このあと待っている憂鬱な対談のフラストレーションを振り払うような一撃だった。
お立ち台に呼ばれ、『今度こそ噛まないぞ!』と慎重に答えたつもりだったが、サエとナルミに『意識バレバレー』と笑われた。
「トウコさん、お待たせしました」
チームメイトたちが入りたがらない壊れかけのシャワーブースで生ぬるいシャワーを浴び、るなはトウコと地下駐車場で落ち合った。
トウコの社用車はエアコンが効きすぎていて、火照った頭と身体にはちょうどいい。ノースリーグ2位のホワイトパンサーズにカード勝ち越しを決め、トウコはご機嫌で今日の試合のハイライトを語っていた。
対談が試合の後でよかったかも……と考え直するな。試合には支障なかったし、余計なことを考える暇がなかったからだ。交感神経優位のままだが、いつも冷静なトウコが近くにいてくれるから、大丈夫、と思えるようになってきた。
「電話のしょっぱな言われたわよ。『夕海るなの義理の姉です』ってね。好きで一緒になったお兄さんはともかく、親戚に記者ができたのは心地いいものではないわよね。あなた自身もだろうし、私たち裏方にとってもそうよ。隙あらばスッパ抜かれるような気がして」
「この前、兄と来た時も色々深堀してきて。あの時は兄が止めてくれたんですけど、今度はリカコさん1人で来るから……」
「そのための私よ? あなたと球団に不利なことは話させない。共通点でもある真鈴のこともどうせツッコんでくるだろうから、マネージャーである私が守るわ。だから、安心して?」
心強い台詞をもらい、るなはようやく落ち着いてきた。駐車場に車を入れ、るなとトウコは眩しい店内へと足を進める。
対談会場となったのは、アクアマリンの本拠地であるアクアドーム近くのラグジュアリーなカフェ。重厚な扉を開けると、赤いじゅうたんとクリスタルのシャンデリアがるなたちを出迎えた。
トウコが用意したドルフィンズのオフィシャルスーツに着替えてきたるな。写真には写らないとはいえ、ふかふかのじゅうたんを踏みしめる足元が愛用スニーカーのままなのが心残りである。
洗練されたジャズが低く流れる空間で、予約された最奥の個室だけが、異様な緊張感を孕んでいた。
「待ってたよ、るなちゃん。……じゃなくて、お待ちしてました、夕海るな選手、ですね」
わざとらしいほどの笑みを浮かべる義姉のリカコが、広い個室中央の席へと促してきた。ついさっきセシアナ入りして疲れているだろうに、メイクはバッチリで皮脂ひとつ浮いていない徹底ぶりはさすがである。
テーブルの向かいには、アクアマリンのロゴが刺繍されたスーツに身を包んだイズミがすでに座っている。るなの入室に気付くと、イズミは狙った獲物を決して逃さない肉食獣のような、怪しく湿った視線をよこしてきた。
目が合った瞬間、真鈴の部屋での出来事がフラッシュバックした。悪寒が身体中を駆け巡る。次の一歩を踏み出せずにいるるなの背に、トウコの手がそっと添えられた。
「るな?」
大丈夫……。今日はトウコがいる。カメラもある。怖いことは何も起きない……。そう自分に言い聞かせ、テーブルへついた。
「試合お疲れ様。ナイスタイムリーね」
イズミが不敵な笑みで称えてきた。1人で来たようだ。部屋にはリカコとトウコの他には誰もいない。るなは「どうも」とだけ返す。
部屋の隅に椅子を置くトウコの姿が見えた。るなの表情をすばやく察せるよう、トウコはイズミの斜め後ろに座ることにしたらしい。
るなとイズミの前に、甘い香りを漂わせるセシアンティーが置かれた。店員が退室すると、リカコがメモ帳代わりのタブレットを構えた。
「お2人とも、連戦の忙しい中お時間ありがとうございます。夕海選手は試合後でお疲れでしょうし、さっそく録音させてもらいますね」
リカコが、ICレコーダーをテーブル中央に置いた。4人の視線が赤い録音ボタンに集まる。




