50☆撮れたんですけど
付き人のアリサが迎えに来たのは2時間後。
シーズンつかの間の連休を自宅で過ごす真鈴に礼を言い、るなとサエはアリサの車へ乗り込んだ。
「じゃあ明後日。お2人もよい休日を」
タワーマンションの地下駐車場まで見送ってくれた真鈴が、後部座席の2人に手を振る。運転席のアリサに英語で何か指示すると、「では」と言ってドアを閉じた。
車はゆるゆると駐車場を抜ける。昼もセシアナの太陽は元気いっぱいで眩しかった。
「あぁ……現実に戻されていく感じぃ……。まぁでも、明後日からは交流戦で3週間は家離れるし、気合い入れ直して遠征の準備とか冷蔵庫の整理とかしないとだな」
「ですね。私も明日は引っ越しなんで、帰ったら追い込みです」
「そっか。いよいよ神月真鈴とのお隣さん生活も終わりってわけね。まぁ、交流戦はチーム全員同じホテルの屋根の下だから、まだ寂しくはないか」
「あははっ。私、大人ですよ? 日本を離れる時はさすがに寂しかったですけど」
笑ってはみせたものの、図星だった……。
異国で独り寂しさを半減させてくれていたのは、他ならぬ真鈴が隣にいてくれたからだ。胃袋を掴まれ、なんだかんだ食事を言い訳にしても真鈴の存在は大きかった。
ハイウェイに入り、隣のサエはうとうとと舟を漕ぎ出した。アリサは英語しか話せない。退屈しのぎに、るなはスマホを取り出した。メッセージが来ていた。
『あなたがいなくなった部屋は寂しすぎて泣きそうです』
『早く明後日にならないかな』
『るなさんに会いたいです』
『あなたといる時だけが、あたしの心安らぐ時間です』
同じ時刻に4通。そして、数分置いてもう1通届いていた。
『だから、嫌われないように頑張りますね』
……ここに真鈴の全てが詰っている気がした。
イズミとの一件で、るなとの距離の取り方に迷いが生まれたのだろうか……。
一緒にいたい。でも、近付きすぎると嫌われるかもしれない。そんな葛藤が、最後のメッセージから伝わってくる。
先程の『そんなにあたしが分からないんですか?』と言ったあの冷えた表情の裏には、どんな思いが隠れていたのだろうか……。
分かっているつもりだ。でも、知れば知るほど分からなくなっていくのも本音だ……。
単純なようで複雑で、純粋すぎる真鈴……。
「ルナサン?」
運転席から、アリサが話しかけてきた。英語しか話せないと聞いていたので、るなは緊張のあまり「はい!」と背筋を伸ばした。
だが、アリサは正面を向いたまま、ちょいちょいと右側を指指すだけ。隣ではすっかり夢の世界のサエが窓にもたれている。
そのサエの向こう。ハイウェイは海岸沿いを走っていた。コバルトブルーの海面は、南国の照りつける太陽でキラキラと輝いている。眩しさに目を細めていると、海面を何かが跳ねた。
イルカだ。一頭、二頭、競うように何頭ものイルカが海面を飛び跳ねている。
「うわー……! 初めて見たぁ……」
思わず身を乗り出した。スマホで連写する。るなの顔が間近に来たのにも気付かず、サエはぐっすり眠っている。サエにも見せたい。起こそうか迷ったが、そのうちにイルカたちは見えなくなった。
るなは御礼を言おうと「さ、さんきゅー」と運転席に顔を出した。アリサは左手で親指を立てただけだが、るなのカタカナ英語は伝わったらしい。
左右の海が、どんどん迫ってくる。ひょうたん型のセシアナの、ちょうどつなぎ目に来たのだ。ここから先は南島。北島とはしばしのお別れだ。
「真鈴に送ってあげよっかな……」
メッセージアプリを開いたはいいが、返事に困った。シートに深くもたれ、何度も読み返す。
話を逸らしてしまおうか。『奇麗に撮れた!』とだけ打った。
……いやいや、さすがに真鈴の葛藤を丸ごと無視はダメでしょ……と消去。
次に『頑張らなくていいよ』と打った。これもなんか違うな……と消去。
その後も、打っては消して、打っては消してを繰り返す。真鈴のメッセージに対して、どんな言葉も安っぽくて、結局文字で気持ちを伝えることは諦めた。
『今度、一緒に見たい』
素直な気持ちと共に、コバルトブルーの海を飛び跳ねるイルカの写真を添付した。




