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あざらし子ちゃんが好きすぎるっ。  作者: 黒舌チャウ


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13/14

ep13.  ありがとう、製菓会社の人

 ――そうだ。


 これ……横に転がればいいのでは……。




 よいしょ。



 い……一瞬ほっぺたに白井さんの太ももを感じたが、ここはスルーだ……!




「ごめん、白井さん。オレ……いつの間にか倒れてたんだな」



 自然かつ速やかなローリングで起き上がることに成功した。

 その流れで出たセリフも、見事に動揺を隠せている。



 いいぞ、オレ!



「あれ。熊田、起きた」


「あ……」



 ……ん?



 なんだ……?



 白井さん、なぜそんな浮かない顔を。


 姫滝も微妙な表情。なんだ、その顔は。



 ――は……ッ! そうだ、タルトは……!?



「あー、はいはい。――熊田、これ」



 慌ててあたりを見回すオレに、姫滝が小袋を差し出した。


 リボンの色からして、オレがもらったやつだ。



 察しが良いな、姫滝。助かる。


 

「よかった……。無事みたいだな」


「熊田、倒れてもそれだけは死守してたからね。――こんなん、してた」



 姫滝が笑って、上半身を反るように倒しながら腕を突き上げる。


 水中に落ちた人が、スマホが水没しないように守ってる感じ。



 よくやった。オレ。すごいすごいよ、すごすぎる。

 すこし前のオレを、強く抱きしめてあげたい。


 

 ――しかし、そう……これが……っ。


 白井さんがオレのために作っ――


 

 ――いや。



 自惚れるな。姫滝のついでだ。


 材料が余っちゃうからとか、きっとそんな感じだ。



 でも、嬉しすぎる。


 キラキラ輝いて見えるのは、オレの瞳に浮かんだ嬉し涙が見せた光の屈折か――



「――熊田、食べないの?」


「え?」


「ん?」



 姫滝、何を……?



 ……食べる? オレが? ……これを?



「食べなよ」



 何を言っているんだ、こいつは――



「え?」



 え?



「食べないの?」


「……いや……」



 食べないってば。



「せっかく、まどかが作ったのに」



 ぅぅううるさい…っ!


 食べたいに決まってるだろ!

 だが、白井さんの手作りだぞっ!?


 もう二度と、この手にできないかも知れないんだぞ……! 



 持ち帰って、眺めて、写真撮って、眺めて、味を想像して、角度を変えて眺めて――


 そうやって、毎日幸せに暮らすんだ……!


 ほっといてよぉっ……!



「熊田くん……もしかして、タルト嫌いだった……?」



 ……は…っ!!



 思いもよらぬ問いに、白井さんを見る。


 口元に手をやり、普段からハの字気味の眉をさらにハの字にした白井さんの姿が――



 かわいい。



 言ってる場合か。




 ――そうだ。


 「ついで」とはいえ、せっかくオレのために用意してくれたというのに……。


 なんと浅はかな男か。

 くだらないエゴで、白井さんの好意を無駄にするところだった。



 こんなオレを、清らかな光で導いてくれる白井さん。



 やはり天使あざらし。



 

 「マイロード」って思わず言いそうになるけど、あれ、「road」じゃなくて「lord」なんだってさ。

 「我が道」のほうが、信奉感があっていい気がするが――



「いや。タルトも好きだよ。……その……なんだか、食べるのがもったいなくて……」



 紛れもない本心。これだけは伝わってほしい。



「あー、そういう……。――また作ってくれるってよ? ねー? まどか」


 ままままマジか!?


 ……いやいや。姫滝が言ってるだけで…


「う…うん。熊田くんさえ、良ければ……」


 いいに決まってる…ッ!!



 いや……いいのか……? 白井さんの負担になったりはしないだろうか……?



 いやいやいや。

 今はそんな、実現するかもわからない夢の話にとらわれている時じゃない。



 今はただ――白井さんのせっかくの好意に、全身全霊をもって応えるのみ。

 


  

「お……おお……」



 いかん……。


 小袋からタルトを取り出した拍子に、思わず声が漏れてしまった。

 


 く…っ、キモいぞ……! 表情にも気を付けるんだ……!



「じゃ、じゃあ……いただきます……。……おほ…っ」



 ………………。



 表情に気を取られるあまり、食べた瞬間にもキモい声が。オワタ。



 ……いや……もはや、表情にも自信がない……。




 うますぎる。

 

 幸せすぎる。



 生クリームとフルーツの、シンプルなタルト。


 ――いや、これはカスタードも、か?


 それに――わずかだが、ナッツのような香ばしさと食感も感じる。



 素朴だけど華やかで、予想外な小さなおどろきもあって――


 まるで、白井さんのようなタルト。

  

 

 ……もう、キモさが止まらない……。


 

 でも、いいんだ……。


 こんな幸せの中でなら、「キモい男」として終わるのも悪くはない……。


 嫌だけど。

 


 ――待てよ?



 かの「天使あざらし」たる白井さんに、蔑みの眼差しを向けられるというのもこれまた――



 ――だめだ……完全におかしくなってる。



 タルトを頬張る中、心の中で感動と惜別の涙を流しながら白井さんを見てみると――



「…………?」



 ……なんだか、もじもじしているように見える。


 姫滝はニヤニヤし…するなっ!



「熊田、『うまい』ってさ。まどか」


「う……うん…っ」



 姫滝のニヤけ顔は癪だが、言葉にできないオレの感想を代弁してくれたのはありがたい。



「……ホッとしたら、お腹すいちゃった」



 そう言うと、白井さんは紙袋から別の小袋を取り出した。



 白井さんの分だろうか?


 

「あれ? まどかの、タルトじゃないんだ?」



 姫滝の言うように、白井さんが取り出したのはタルトではなかった。



 ケーキだ。


 フルーツが乗っていて、ピンク色をしている。


 いちごクリームだろうか?



 なんて、かわいいんだ白井さん。


 似合いすぎる! かわいい!



「うまそー。――ねぇ、まどかぁ」


「だめー、あげないよ? これ甘いし」


「ひとくちなら、甘くてもだいじょうぶだからっ。耐えられるからっ」


「えぇぇぇ~」



 ものすごく嫌そうな顔の白井さん。かわいい。



「じゃあ…………はい」


「いや、渋ったわりに少なすぎ……! 掠っただけじゃん!」



 ケーキの角《かど》をわずかにスプーンに乗せ、姫滝に差し出す白井さん。好きだ。



「んっ。でも、うまー」


「うん、おいしいっ」



 

 ――どうやらオレは、「キモい男」として最期を迎えることを免れたようだ。



 かわいいケーキを食べながら幸せそうに微笑む、かわいい白井さん。


 すでに、二つめを食べ始めたようだ。さすがだ。



 

 ――バレンタインデーに女子がチョコを贈るという日本独自の風習は、海外の風習を参考にどこかの製菓会社の人が考えたものらしい。


 

 今となっては、色々な事情で廃れつつある日本のバレンタインデー文化だが――


 すくなくとも、片田舎のしがない男子高校生に最高に幸せな一日をもたらしてくれた。



 ありがとう。


 製菓会社の人。





実は先々週末、腰を痛めまして(´;∞;` )おぶぅぅっ

ようやく完治状態までこぎつけました \(´・∞・` )うおー


このお話のタルトやケーキ、実は他サイトで頂いたまどかのイメージ絵が元になっておりまして(´・∞・`*)

バレンタインデーにタルト、この二人の関係性に合うのではないかと、ここで使わせて頂きました(´・∞・`*)

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