ep.10 一度言ってみたかった
真瀬からもらった一粒は、甘い余韻を残して、あっという間に口の中から消えた。
――無用な期待は、すまい。
そう――そもそも白井さんのそばにいられるだけで――ただそれだけでいいのだ。
でも、ちょっとさみしい。
……せめて、「ごいっしょプリンタイム」だけでも。
「白井さん。オレ、購買でプリン買ってくるけど」
昼休み。
いつもの調子で、白井さんへのアプローチに成功した。
「ごいっしょプリンタイム」への、布石。
毎度毎度、緊張するが……今日も完璧に――
「あっ、熊田くん。今日は、プリンはいいの」
なん……だと……?
「え…っ!? 熊田くん!?」
人生で始めて、膝から崩れ落ちた。
そうか……これが……。
「崩れ落ちる」とは、よく言ったものだ。
感覚的に言えば、自然と力が抜けて「滑り落ちる」に近いが――
「滑り落ちる」では字面的にも違う気がするし、身体全体でがっくり地面に落ちる様は「崩れ落ちる」の表現がまさにしっくりくる感じだろう。
思ったより、膝も痛くない。不思議。
「……え? 何やってんの? 熊田」
姫滝か……。
あれか……介錯に来てくれたのか……。
「まぁ、いっか。――それより、まどかっ。アレはー?」
いいわけないだろ。介錯わい。
……ん? 「アレ」……?
「アレ」って……やはり「アレ」なのか?
「うんっ。――はい、つねちゃんの分っ」
「おーっ、やったぁ! 毎年、楽しみなんだよねぇ」
白井さんが、紙袋から何かを取り出した。
紙袋もまで、かわいい。
取り出したのは、これまたかわいい雰囲気のプリントがされた小袋で、リボンで口が閉じられていた。
リボンも、かわいい。
それを、差し出された姫滝の両手にちょこんと乗せる白井さんも、かわいい。
白井さんが、かわいい。
「今年は、もうすこし甘さひかえめにしてみたの」
「え、マジで? ありがと、まどかー」
そういえば姫滝って、甘い物得意じゃなかったな。
長い付き合いだと思ってたけど、この間の鯛焼きの時に初めて知った。
姫滝が小袋から取り出したのは、手のひらに収まるくらいの小さなタルト。
タルトの生地自体も黒いが、中身も黒い。
チョコタルト……みたいな感じだろうか?
うまそう。
オレは甘党だが、ビターなチョコも好きだ。
カカオ70%ぐらいまでなら、うまいと思う。
しかし――
やはり「姫滝と友チョコ」ルートだったか。
わかっては、いた。
いたが――
――ふふ……涙が出ちゃう……。
「うまーっ」
……姫滝め……。
……うまそう。
ちょっと頂戴よぅ……。
いかん。
それでは姫滝と間接キスに。
しかも、タルトのような「かじり付き面積」の広い食べ物の場合、より間接キス感が増すような気がする。
白井さんの前で、そんなっ。
「熊田」
――ん? 姫滝?
「うまーっ」
ハァァァァァァァァッツ!!
お前は…っ! お前ってやつは…ッ!!
いつから、そんな子になったんだ!!
「あはははっ!! 何、その顔っ。――ほら、まどかっ」
ぅぉおぁぁッ姫滝め許――白井さん……?
「う…うんっ。――あのね、熊田くん。熊田くんも、甘いの好きでしょ……? だから……これ……」
白井さんが、オレに小袋を差し出す。
姫滝のと同じ――かわいいプリントがされた、かわいいリボンの。
いや……あれを持ってる白井さんがすでにかわいい。
かわいい手に、かわいい小袋を乗せた、かわいい白井がかわ――
「熊田くん……?」
「ぃぃいやっ、なんでもないっ。大丈夫。えっと……オレに……?」
「うん……あんまり、おいしくないかもしれないけど……」
白井さんの作ったものなら、ガン〇リウム合金スーパーセラミック複合材だろうがおいしいに決まっている。
「いや、姫滝の反応見ればわかるよ。うまそう」
「う、うんっ。じゃあ……はい、これ」
「あ、ありがと」
顔だ……! 顔に気を付けろ……!
気持ち悪い笑みだけは浮かべるなッ!
……だが、無表情はダメだ!
自然に……自然な笑顔で……微笑みで……。
「――――んぐぅ」
口元をグー手で隠した白井さんが、オレの手に小袋を乗せた瞬間――
再び膝から崩れ落ちたオレは、意識を手放した。
――これ、一度言ってみたかった――
「意識を手放した」っていうアレ、なかなかハードル高くて使ったことなかったんですけど、使ってみました(´・∞・`*)
次話、気絶中ちょっと変なのと出会いますw(´=∞=` )




