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あざらし子ちゃんが好きすぎるっ。  作者: 黒舌チャウ


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10/14

ep.10  一度言ってみたかった

 真瀬からもらった一粒は、甘い余韻を残して、あっという間に口の中から消えた。


 

 ――無用な期待は、すまい。



 そう――そもそも白井さんのそばにいられるだけで――ただそれだけでいいのだ。


 

 でも、ちょっとさみしい。


 ……せめて、「ごいっしょプリンタイム」だけでも。





「白井さん。オレ、購買でプリン買ってくるけど」



 昼休み。


 いつもの調子で、白井さんへのアプローチに成功した。


 「ごいっしょプリンタイム」への、布石。

 

 毎度毎度、緊張するが……今日も完璧に――


「あっ、熊田くん。今日は、プリンはいいの」



 なん……だと……?



「え…っ!? 熊田くん!?」



 人生で始めて、膝から崩れ落ちた。



 そうか……これが……。



 「崩れ落ちる」とは、よく言ったものだ。

 

 感覚的に言えば、自然と力が抜けて「滑り落ちる」に近いが――

 「滑り落ちる」では字面的にも違う気がするし、身体全体でがっくり地面に落ちる様は「崩れ落ちる」の表現がまさにしっくりくる感じだろう。


 

 思ったより、膝も痛くない。不思議。




「……え? 何やってんの? 熊田」



 姫滝か……。


 あれか……介錯に来てくれたのか……。


 

「まぁ、いっか。――それより、まどかっ。アレはー?」



 いいわけないだろ。介錯わい。



 ……ん? 「アレ」……?

 「アレ」って……やはり「アレ」なのか?



「うんっ。――はい、つねちゃんの分(ぶん)っ」


「おーっ、やったぁ! 毎年、楽しみなんだよねぇ」



 白井さんが、紙袋から何かを取り出した。


 紙袋もまで、かわいい。



 取り出したのは、これまたかわいい雰囲気のプリントがされた小袋で、リボンで口が閉じられていた。


 リボンも、かわいい。



 それを、差し出された姫滝の両手にちょこんと乗せる白井さんも、かわいい。



 白井さんが、かわいい。



「今年は、もうすこし甘さひかえめにしてみたの」


「え、マジで? ありがと、まどかー」



 そういえば姫滝って、甘い物得意じゃなかったな。

 長い付き合いだと思ってたけど、この間の鯛焼きの時に初めて知った。


 

 姫滝が小袋から取り出したのは、手のひらに収まるくらいの小さなタルト。


 タルトの生地自体も黒いが、中身も黒い。


 チョコタルト……みたいな感じだろうか?

 うまそう。



 オレは甘党だが、ビターなチョコも好きだ。

 カカオ70%ぐらいまでなら、うまいと思う。



 しかし――


 やはり「姫滝と友チョコ」ルートだったか。


  

 わかっては、いた。


 いたが――


 

 ――ふふ……涙が出ちゃう……。



「うまーっ」



 ……姫滝め……。


 ……うまそう。

 ちょっと頂戴よぅ……。



 いかん。



 それでは姫滝と間接キスに。


 しかも、タルトのような「かじり付き面積」の広い食べ物の場合、より間接キス感が増すような気がする。



 白井さんの前で、そんなっ。




「熊田」



 ――ん? 姫滝?



「うまーっ」



 ハァァァァァァァァッツ!!


  

 お前は…っ! お前ってやつは…ッ!!


 いつから、そんな子になったんだ!!



「あはははっ!! 何、その顔っ。――ほら、まどかっ」



 ぅぉおぁぁッ姫滝め許――白井さん……?



「う…うんっ。――あのね、熊田くん。熊田くんも、甘いの好きでしょ……? だから……これ……」



 白井さんが、オレに小袋を差し出す。


 姫滝のと同じ――かわいいプリントがされた、かわいいリボンの。



 いや……あれを持ってる白井さんがすでにかわいい。

 

 かわいい手に、かわいい小袋を乗せた、かわいい白井がかわ――

「熊田くん……?」


「ぃぃいやっ、なんでもないっ。大丈夫。えっと……オレに……?」


「うん……あんまり、おいしくないかもしれないけど……」



 白井さんの作ったものなら、ガン〇リウム合金スーパーセラミック複合材だろうがおいしいに決まっている。


  

「いや、姫滝の反応見ればわかるよ。うまそう」


「う、うんっ。じゃあ……はい、これ」


「あ、ありがと」



 顔だ……! 顔に気を付けろ……!


 気持ち悪い笑みだけは浮かべるなッ!


 ……だが、無表情はダメだ!

 自然に……自然な笑顔で……微笑みで……。



「――――んぐぅ」



 口元をグー手で隠した白井さんが、オレの手に小袋を乗せた瞬間――


 再び膝から崩れ落ちたオレは、意識を手放した。




 ――これ、一度言ってみたかった――

 




 


「意識を手放した」っていうアレ、なかなかハードル高くて使ったことなかったんですけど、使ってみました(´・∞・`*)


次話、気絶中ちょっと変なのと出会いますw(´=∞=` )

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