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超音速の傀儡人形は冷たい戦争を俯瞰する  作者: あんきも
3章 進化を祝福する核の花火
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18.少女の思い出

『この地区は、現在レベル1の注意警報が発令されています。市民の皆様は、外出をお控えください』


 この都市は僕等の世界の文明に辿り着くどころかむしろ超えている。ビル街にネオンの広告、大型モニターは基地にあるコンソール同様全てカラーだ、一方でこの前空から見た周囲との発展差に大きな違和感を感じた。


 地上の病院に辿り着いた僕達は既にここの市民達の注目の的であった。

「何でこんな所に企業の特殊警備部隊が……」

「あの女の子って、ほら間違いないよ!この前のスタジオ対談番組に出てたの覚えてるもん」

「アイツら異星から来た奴じゃ……東の都市が攻撃されたなんて信じ難いが」

 市民らは陰口を叩いてるが周りを警護するコンシェルジュが睨みを利かせると、皆視線を下げて黙り込む、まるで王族の様な扱いだった。


 処置室に入ると直ぐ様止血バンドをキツく締め、患部を消毒した。

「染みるぞ?」

 トニーがガーゼを押し当てると意識が朦朧としていた隊長が悶えた。

「グワッ!! クソっ!斬られた時より痛え!」

「今から患部を手術する。悪いがその腕は諦めてくれ」

 隊長は握っていた腕を名残惜しそうに見つめた後、それをゴミ箱の方に放り投げた。


「……おい!居るかマーティン!」

 絞り出す様な声で隊長が僕を呼んだ。

「クソっ……こんな状況になって悪かった。最初からお前狙いの計画なら契約にサインなんてしなかったんだ……」

「僕の事はいいですから!こんな所でくたばるなんて悪い冗談は止めてください」


「最後までお前の傍に入れなくて悪かったな…」

 隊長はそんな意味深な言葉を残し手術室へ運ばれて行った。


 一方シルバートンには後続で到着部隊から報告が届いた。

「第3課は戦闘により指揮系統の混乱が生じている為、4課の私が報告させて頂きます」

「──ハーシスか、君が武装して現場に出てくるとは思わなかったよ」

「状況が状況なもので致し方なく……」

 その者は手帳を開きメモを追いながら説明を始める。


「敵の男が従えていた変異コンシェルジュは計3体の存在を確認。1体は男を引き連れ地下システムフロアの更に奥、旧城地下通路から結晶洞窟を抜け都市を脱出しました」


「上層役員が侵入を禁止した場所か……不意を突かれたな」

「その上層部ですが今回の件を受けて新たに緊急会合を開催。その場で……上層部は地球人の都市立ち入りを禁止する決定を下しました」


「はぁ、まぁ良いでしょう。こういう事態のマニュアルは既に配布してあります。それで他には?」

「3体中残り2体の刺客ですが4課によって無力化されました、隊長以下複数の者が重症と少なくない損害を受け。足りない人員全保安部職員とその他、研究棟鎮圧要職員からの抽出で賄っている状況です。特殊装備持ち出しに付きセキュリティクリアランスもシステムの上書きにより改定致しました」


「企業の動きについては理解した。市民の安全確保に付いて」

「当分の間は全地区レベル1に属する行動制限。メディアに対しては例の如く『使徒の襲来』をベースとした報道誘導を行なっていきます、現状避難計画に付いては所轄に一任している状況です」


「分かった、報告ご苦労。残りの地球人職員には私から基地に向かえと伝えておいてくれ」

「御意……」

 報告を終えた人物は新たな命令を下に病院を出ていった。


 隊長を見送った僕は忙しそうなシルバートンを尻目に1人この場に取り残されていた。周りに民間人はおらず皆が緊急時の対策で奔走している。そんな中で今僕と同じ境遇の人物がここにもう1人存在した。


 「企業の幹部だと言うのに何もやる事が無いんだな」


 「……アンタも薄々感づいているでしょ?私は言わば地球人の保険の様な物。プロジェクトの責任者は私だったけどその枠を超え今組織の事実上の決定権のほとんどをシルバートンが握っている。……上層部の予測した通りにね。そして皮肉な事に最も計画的にこの都市を存続させようとしているのも彼女。あらゆる手段を使って、我々がとても実行出来ない様な方法で」


 その計画とやらがSSBFなのだろうがそれ以上は聞き出せなかった。並んだベンチに少しの空間を空けて座る僕等は、周りとは隔絶されたようにゆっくりとした時間が流れている。


「そう言えば地上に来るのは久しぶりなんじゃないのか?」


「え? ……確かに、言われてみれば。──14地区には駅から大きい通りが伸びててね、建ち並んだビルで色んな買い物が出来たの。その日は偶にある外出許可日でママにまだ身体があった頃、そこにある博物館に連れてってもらったの」


 身体があった頃?また変な言い回しの話だがまだ生きてると捉えておこう。


「それでね!そこで飛行物研究の展示がされてて人が乗れるサイズのグライダーとかが置いてあってね、その椅子に座らせてもらった時から私の航空機の夢が始まった」


 そう、今僕が搭乗する機体はマイメの主導だと本人が話していた。


「彼等を引き入れた事でその夢は僅か一瞬で、そして想像を絶する地点まで容易に達成してしまった。私は後悔はしていない、例え犠牲が払われても計画を進めなかった事で起きる犠牲も等しいんだから」


 彼女の覚悟めいた言葉は、表から見えない部分の何か後ろめたい部分を包括したような物に聞こえた。


「母親は今どうしてるんだ」

 話を繋げるため何気ない質問をしてみる。


「それ私から聞きたい?まぁ異星人だから教えてあげる。この都市のシステムとは人由来なの。彼等が設計した何百枚もの基板の上に並んだ半導体、100万分の1単位で構成された部品とは違う。それでも元となった発想は同じだけど、私達の血統は中央処理装置としての親和性が極めて高かった。尤も企業という存在によって体系化する前はもっと原始的、宗教的な運用をされていたんだけどね」


 また意味の分からない単語の羅列が出て来た。親の話を質問して部品という単語が出て来るのは彼女の不幸な境遇を想像させるが、僕は同情心を示す事も無く「ふ〜ん」と言った反応でその話を受け流した。

 そんな会話で時間を潰していると用事を済ませたシルバートンが歩いてきた。


「二人とも、急いで基地に向かいます。暫くここには戻って来れない事を覚悟して下さい」

 僕の故郷はもっと遠くにあるのだが、恐らくは更に長い時間帰れる事は出来なそうだ。


「玄関前にそろそろ迎えが来る頃です」

 その説明から間もなく病院中が振動する大きな地響きが聴こえてきた、その騒々しい迎えを確認する為急いで外に出た。ありゃ何だ?


「許可は出てないが緊急事態だ、コチラでS-55を用意させてもらった」

 胴体の上に伸びた巨大なプロペラが突風を地面に吹き付けて浮遊している。似たような物をソ連軍が使っていたのは見たことがあった。まさかここで実物のヘリコプターに乗れるとは想像も出来なかった。

 僕等が機内に乗り込み出発を待っていると病院からトニーが走り込んで来る。


「手術は無事終わったよ、感染症等も無かった。暫くはここで安静にしている」

 隊長の無事を聞き心の中のざわめきが一つ晴れる。だが僕の不安要素のほんの一つが無くなったに過ぎなかった。

 ローターから発せられる振動が大きくなると機体は垂直に離陸を始め一同はSSBFのある場所を目指した。

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