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超音速の傀儡人形は冷たい戦争を俯瞰する  作者: あんきも
3章 進化を祝福する核の花火
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17.攻撃布告

 隊長が腕を組み睨みを利かせる。

「俺は今完全に自由な状態だ、今すぐ貴様の首を圧し折ってやる事を想像出来なかったか?」

「お前がその質問をした時点でその行動を取るリスクに怖じ気付いてと言う事だ。その態度に比べて慎重なんだな」

 隊長は目線を反らし溜息をついた。実際状況は好ましく無い、ここにシュタイムレというナチスの軍人が居ると言うのはこの都市が和平でも結んだと言う事も考えられる、そして僕等の行動は筒抜けだ。


「何故私がここに居るのか知りたいんだろう?顔に出てるぞ正直者めが。これでも一応大使なんでな、外交は無益な衝突を避けるのに必須だろ?」

「まるで説得力が無いな、もっと上手い二枚舌の使い方を学ぶんだな」

 隊長は疑いの姿勢を崩さない。

「私が嘘をつくとでも? 博士!新入り共にここでの歴史を教えてやれ」


 自分に話が回ってくるとは思わず微睡んでいたトニーは驚嘆した。

「えっ!?ああ、すまない。この所寝不足でな。ええっと…… この星ノーティアはそもそもドイツ人が発見した物だ。当時ワイマール共和国で資金難に陥っていたドイツ人研究者達は我々に資金提供と共同研究を持ち掛けてきた。最初はただの地質学と磁場異常の関連を探る物だったのが、あろう事か3次元上でセパレートされた空間の発見に至った、私は専門外なんで詳しく経緯は知らんがね。同じくして人が突如行方不明になる事件が発生し、間もなくコギトなる生物の存在も確認された。転移方法が確立される頃、不幸にもヒトラーが政権を奪取し国家社会主義体制に移行、英独の共同事業も終わりを迎えた」


「それでも尚、研究員同士の個人レベルでの交流は第二次大戦勃発以降も続けられた。──状況が急変したのは終戦直前に発生したドイツ国防軍とナチス党員残党の大規模亡命騒動だ、奴等はドイツ研究員の実権を掌握し、当時周辺から細々と調査が行われていた東の都市、ケナルセンルートフォンドの制圧作戦を開始したのだ」


 話を聞いたドイツ人の男は手を挙げて反論した。

「開拓者は何時だって悪者にされる、そうだろ?終戦後に我々の医療論文や技術者を奪い合ってた連合国は実に醜い物だったよ。今回もその役割を我々が買って出たお陰で、こうして君達のプロジェクトも成就出来たんだからな。その手の藁人形的プロパガンダを行ってきたのは何も我々だけではない」


「──我々は一線を越えなかった!」

「だが越える必要があった」

議論がヒートアップして来た、この一見研究以外興味の無いような博士でも正義の心と言うのは持ち合わせているらしい。

「煩いね…… 頭の中がガンガンする」

 次に愚痴を漏らし入室したのはシルバートンだった。目に隈を浮かべ最初に会った頃より窶れたように感じる。すぐ後ろに付いてきたマイメもそうだ。あのあどけなさが残っていた少女は眉間にシワを寄せ口を噤んでいる。


 ドイツ軍人は彼女等に気付くと会話を終わらせ挨拶をする。

「これはどうもお二人さん。中央には既に司令部から話が入ってたかな?察するにそんな顔をしている」

 シルバートンは溜息を付いた。

「あれは一体何だ?この都市に対する脅しか?普通交渉するなら要求があるだろう。ここで詳しい話を聞ける事を期待している」


 シュタイムレは一息つき説明を始めた。

「大英帝国並びにパルマリック社の皆さん、本日はお集まり頂きます誠にありがとう御座います。情報部並びに外交使節シュタイムレですよろしく。それでは改めて栄えあるナチス第三帝国の公布を発表します。『我が帝国は先程の電子的攻撃により甚大な被害を被った事。更に周辺国による更なる先進兵器の開発を国家存亡に関わる危機と位置付け、ここに先制的専守防衛戦を発動する事をここに宣言する物である』続きまして、防衛手段のご説明を……」


 シュタイムレは一枚の紙を全員に渡す。

「我が帝国に対する直接的な脅威、及び独自に選定した副次的な目標に対する攻撃計画です。開幕即時終末的な打撃を与える、事で帝国の損害を限りなく低くする事を第一の目的として計画されました」


 紙には攻撃に使用される兵器とその目標が記されていた。第一目標をパルマリック本社と研究棟、英国共同研究基地とし、第二に秘密拠点の設置が想定された周辺国の人口密集地と書かれている。問題は使用される兵器であった。


「核兵器だと……」

 シルバートンは資料を放り投げ頭を抱える。シュタイムレは更に補足を付け加えた。

「独自の核物質の生物濃縮法により開発されたインプロージョン型原爆で、威力はヒロシマ型の大凡10倍です。次に投射手段について、帝国はV2ロケットの実用化以降、アグリガットロケットの更なる大型化と長射程化を実現し2段式弾道ロケットA9/A10の実戦投入を決定した」

 ここまで流暢に話を進めるシュタイムレに対してトニーは違和感を覚えた。


「ちょっとまて!何故我々に計画の全てを伝える?」

「──単純な事ですよ。貴方方にこの作戦の正当性、そして回避手段が無い事を理解してもらう為だよ。そしてこの攻撃が成功したら計画は第二段階へ移行する。同じ物を連合国の各都市に撃ち込むのだよ。パリ、ロンドン、モスクワ。アメリカは特別に3発だ、だってズルいじゃないか?自分だけ一方的に使用して戦争を終わらせるなんて」


 他国を攻撃するには余りに稚拙な流暢だがその男の顔は決意に満ちている。

「交渉の余地は無しだな。よし、開戦のお返しとしてお前のクビをへし折ってやる」

「あ、おい!君!?」


 隊長がトニーの静止を振り切りシュタイムレに掴みかかろうとした。

 その瞬間隊長の伸ばした腕から血飛沫が噴出する。そしてその先の部分は床に転がった。余りに突然の出来事で目の前の事態を理解しきる前にシュタイムレはニヤケ面を隠さずに説明した。

「君はもう少し賢いと思ったんだがな、丸腰でここに来る訳がないだろうが」


「……誰の攻撃だ……」

 隊長は無造作に千切れた腕を拾う、脳内物質と言う奴か。戦場で撃たれた兵士ソ連兵が何事も無く突撃して来たと聞いたが興奮状態では痛みを感じなくなるそうだ。

「これから攻撃を宣言する国へ丸腰で来る訳がないだろう?この世界には優秀なボディガードが存在してな、我が軍もコイツらには苦労させられたさ」

 天井から何者かが降ってきた、黒いマントで全身を覆ったその存在は、全身をグニャりと通常では無い反らし具合で静止し、手が地面に付きそうな程異様な前傾姿勢で顔を上げ不気味にこちらの方を覗き込む。

 シルバートンは直ぐにその正体に気付いた。

「コンシェルジュのネフィリム化…」


 「如何にも。問題のあった精神安定と命令認識力を母体から胎児を育成後、コギト処理を行い逆隷属する事でなんとか実用化に漕ぎ着けた物だ、分裂意識の選別には苦労したがね」

 男は少し自慢げにその作り方を話している。すると突然部屋の壁が崩壊すると共に、そこから槍のような業物が銃弾程の速さで敵の異型を狙い定め飛んできた、それを避けた事によって少し隙が生まれる。


「護衛!マイメ様を優先して全員をSSBF基地まで緊急退避!シュタイムレは敵だ!!」

 壁が崩れた事による土煙で視界が遮られるなか、シルバートンの鬼気迫る号令が聴こえると同時に、僕の身体が何者かに担がれ、猛スピードで移動を始めた。


 この場から退避する瞬間、あの化け物と目が合った気がする。一瞬悲しみと憎悪が入り混じった感情と共に、都市で軍隊と戦闘する記憶の様な物が視えた気がした。都市に降り注ぐ砲弾、空を舞う爆撃機、無差別に銃撃する兵士達、まるでデジャヴだ。


 「男のバイタルが低下している、腕を1本取られただけなのに」

 隊長を担ぐコンシェルジュの見下す様な報告が聞こえた。

「早く止血しないと、包帯か何か無いか!?」

 ここで一番治療の知識があるであろうトニーは処置の方法を模索している。ここでマイメが何か閃く。


「私に提案がある。今第14地区の真下に居る、地上に出れば近くに病院があるよ!」


「……幹部の命令だ、御意」

 僕等は壁を伝って地上を目指した。

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