16.アクセレーション
「さっきのは何だったんだ」
「ん?友達を探してた」
カミュメントと下らない会話をして時間を潰してた僕は普段とは違う険しい表情をしたトニーに機体から降ろされここに連れてこられた。
「事態が緊急を要する為、通信設備はコチラで用意致しました、また本案件の当該飛行士であるマーティン特務兵にもこの会議に同席します」
部屋の前面に映されたプロジェクターには政治家っぽいのや、階級の高そうな人物が円卓に並んで座っていた。
「まずSSBF計画について。進捗は段階の8割を完遂しており間もなく初期作戦能力の認定を下せる事になります。問題はその為のプロセスであった超音速巡航テストの際に発生いたしました」
「操縦士マーティンがラムジェット飛行に切り替えた所、コギト137番は突如機体の通信システムを介して惑星上に5つ存在する都市基幹システムのファイアウォールを同時突破、中枢部にアクセスしました」
画面の向こう側の人物達はこの時点で状況を理解していないのか何とも怪訝な顔をしている。それは僕にも言えた事ではなかった。
「それで?MI6に呼び出されて我々が集められた状況をもっと具体的に話してくれ」
「簡潔に説明出来るよう努力します……」
彼等の手元にはとても説明しきれなそうな分厚い資料が置いてある。
「SSBFの意図しないネットワーク接続には功と罪、2つの結果が出力されました。まず良い方ですが、中枢システム接続後、各都市に保存されている膨大な量のデータを手に入れる事が出来ました。その中には都市1個を占領した亡命ナチス政権の現有軍事力と現在進行している研究開発の内容。そして地球に対する再侵攻計画等の資料も見受けられました」
画面の老人達は餌を見せられた犬の様に目の色を変えた。
「現在我が国の情勢は北から来るナチス残党の脅威と、その防衛負担の分散を任せてるアメリカとの間で雁字搦めになっている。目の上のたんこぶを無くす事は陛下最大の願いでもあるんだぞ?今すぐその資料で軍と対策会議を開くべきでは無いのか?」
トニーはそれに応えるも無く次の話を始めた。
「悪い方の話をしましょう。SSBFは我が国の技術とこの世界の技術を組み合わせた共同プロジェクトでした。その技術移転の際に都市とは幾つかの守るべき条約を結びました。これは過度の技術進展によるパワーバランスの崩壊を懸念した向こうの首脳部から示された最低限の条件でした。」
条約…… あのマイメを攫っていった連中が言ってた事だトニーは忘れたと言っていたが、そんなフリをしていただけだったのである。
「勿論表向きは定期的な監査を交えた合法的なプロジェクトでした。……ただ機体制御の部分でどうしても特別な技術が必要だったのです。代替案を探している内に計画は完全に停止していました。そんな閉塞感を打開する天からの恵みを彼、マーティンが授けてくれました」
「──137番かね、報告は担当のポールから聞いている。マーティン君、君は何故飛行テストで全方位に対するSIGINT活動を?」
画面の向こうから僕に対する質問が飛んできた。勿論僕自身何もしてないし、そんな事を出来るはずも無い。しかしどうやって説明するか言葉に詰まる。
「確実に言えるのは、僕はその手の操作を実行していないと言う事。カミュ…… いえ137番は時折不明な言動を発したりするので多分今回もその類いかと……」
僕は発言しながら一つ気掛かりな点に気付いた。このままカミュメントに責任を押し付けてよいのだろうか?もし人間の指示を受けずに1人でにやった事にしたら。欠陥品として廃棄されてしまうかもしれない、そんな事は絶対に嫌だ。
「あ、あの……」
僕がカミュメントを擁護する発言をしようとした時。トニーが手を挙げて遮った。
「SSBFはまだ完全な作戦能力は得ていません。しかしその遂行出来る任務の中には、高度なセンサーと高い処理能力を用いた敵通信の傍受と解読が含まれています。今回の件を技術デモンストレーションと捉えると、この結果には我々一同非常に満足する物を得られたと思っています。本会議の目的は条約違反による今後の予測出来る展開と対策に付いての連絡であり。その方針は責任を持って我がチームで解決策を考え、追って書類で報告させて頂く所存であります、ご清聴ありがとう御座いました」
トニーは何か急ぐ様に会議を切り上げようとしたが。その前に先方からまた質問が飛んできた。
「そう言えばトニー博士。君の経歴を参照したんだが…… 戦時中におけるレーダー技術や暗号解読等の輝かしい成績が並んでいたが、戦争前の君の出身、学歴、職歴共に一切の記録が載っていなかった。君は一体何者なのかね?」
トニーは少し間を置いて答える。
「──私はこの職に就くにあたりMI6の働きで自身の情報を抹消しました。つきましては長官に直接お伺いを立ててください。私からは以上です」
こうして急遽開かれた軍法会議は幕を下ろした。幸いプロジェクトが破棄されるような事も無さそうだった。
「……君は僕の存在を疑うかね?」
「疑う事は辞めました。疲れるだけですから」
「コンコン」
会議室のドアをノックする音。静かな部屋に妙に重く響いた。トニーが開きに行く。
「会議なら今終わった、研究室にはこれから……」
「トニー博士。それにマーティン。同行を命ずる」
現れたのは正装を纏った女。その姿には見覚えがある、コンシェルジュと聞かされた連中だ。武器を構えた集団に僕等が拒否する権利は無かった、博士は素直に応じるよう僕に求めた。
その後僕等は護送車らしき馬車に乗り都市中心部へと連れ戻された。どうも外郭から中へ入る地下通路が存在するらしく暗い道を通って行く。
「あー、やっぱり計画は中止でしょうか博士」
「ここに入るのに随分苦労したが、今や連れてこられるとはな。何とも皮肉な事だ」
博士には思い入れが深いようで僕は暫くそっとしておいた。
降車させられ建物内を歩かされる。最初に来た場所とは雰囲気が違う、実験棟のようだが何か歴史を感じるモニュメントも配置されている。
「ここに入れ」
部屋に入れられるとドアが閉じられ鍵を掛けられた音が聞こえた。
「マーティンじゃねえか」
もう懐かしいと思える声が聴こえるとその主は生き別れとなって消息の分からなかった僕の隊長であった。
「もう数週間こっちに来ないんで半ばもう二度と会えないんじゃないかと諦めてましたよ。ここで何してたんですか」
「……まぁあの後奴等に見つかってここで色々とな」
「拘束されて脳味噌弄くり回されたとか」
「まだ俺は正気だ、多分な」
健康そうで一安心するも予断は許さない。だがここは牢獄でも無さそうだし手錠で拘束もされていない。まだ罪が断定されたと言う訳では無いのだろうか。
考えを巡らせるもここに1人の男が入って来た事で状況は一変した。
「こんにちは諸君。私は国家社会主義ドイツ労働者党親衛隊情報部のシュタイムレだ。実験の成功おめでとう、随分とやらかしてくれたな」
目の前に居る男は敵だと語っている。僕は考える事を止めた。




