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超音速の傀儡人形は冷たい戦争を俯瞰する  作者: あんきも
2章 惑星ノーティアと機密計画
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15.成層圏のログイン

ここのメンバーはトニーを除いてほとんどがノーティア人で構成されている。だからと言って何か性格上の違いが特にある訳でもなく、ウルスラの様に地球人と変わらないコミュニケーションを取る事が出来た。


「それで、どこまで進展したの。彼女との関係は?」

「そんな仲睦まじくする暇も無くここに来て別れたよ」

「あら残念」

 今会話してる女は。ここに半数居る性別の内の1人で名前をナツメという。


「間もなく2回目のテストだよ、次は敵暗号通信の解析シミュレーション。ログイン後1分以内に発信を開始する。それが終わったら耐超重力訓練だから」

 

 今ファイルを持ちながら入って来た男はトニーの右腕となっているカレバス。寝不足なのか常に目の下に隈を浮かべている。

「あれ嫌なんだよね、前回ゲロ吐いた奴。危うく精密機械にぶっ掛けそうになって」

「前回はマッハ3相当。今回は5まで負荷掛けるから覚悟するんだね」

 

 僕は実験動物と化して非常に忙しい日々を送っている。隊長の安否も分からぬまま1人孤独を感じる中でのテストだが、一つ楽しみな事がある。

「なあカレバス。カミュメントの様子はどうだ?」

「涙式モニターの観察ではまた新しい遊びを覚えたらしい。作成したオブジェクトの上から飛び降りを繰り返している」


 僕には特別な役割が与えられていた。試験場には実機の物と同じコックピットが設置されてあり、僕がそこに座ると彼が話し掛けてくる。

「こんにちはマーティン」

 その言葉を合図に脳内に空虚な空間が広がりポツンと彼がそこに居る。 


 「……ええっと、今日の影は水色寄りのグレーで。それでチーズの穴がマイナス5から20に増えてたんだ。それでね……」

「カミュメント。前歌ってた歌はまだ覚えてるのか?確か……カマキリが巨人のスネ毛を1本ずつ抜いて、その振動がどうとか」

「あの子は立派に巨人の耳の穴に入って行ったよ、残念」

 取り留めのない会話をしていると例の暗号が入って来た。今回のテストだ。


「行数247の単語27番と32番だって。変なの」

 実際これを解読するのは全てカミュメントの仕事である。僕の役割は曰く、コギトにアウトプットしてもらう為の手伝いだと言われた。

 現実の方のモニターにテスト終了の文字が並んだ。僕はお別れを告げてコックピットを降りた。結果をカレバスへ聞きに行く。


「試行時間2.76秒か。今回は体感でどれくらい繋がってた?」

「うーん……大体20分くらいかな」

 どうもあの場所に居ると時間の進み方にかなり差があるらしい。この前転写されたフィッツジェラルドの小説は約5秒で読破する事が出来た。


 正直操縦士の仕事のイメージとはかけ離れている。しかしその事を博士に聞いたら、曰く未来の操縦士は何でも自分で出来なければならないとの事だった。

 次の訓練を行う場所へ徒歩で移動する。途中、完成間近の機体の全容が遠くから確認出来た。

 機体から突出した棒はこの前説明を受けたが後部の胴体部も普通の物とは全く違う。純白の塗装が施されたそれは、主翼と胴体が溶けて融合したような継ぎ目の無い曲面と。翼も一番大きい上部とは別に水平尾翼とも言えない角度と場所から何枚かニョキッと生えている。それらも抵抗を受けないよう胴体が根元から曲面に延びている。その他にも機能の不明な膨らみや出っ張りが機体に融合しており何か飛行機とは違う異型の物の様な感想を抱いた。

「異型で、奇妙で、そしてなんて美しい機体なんだ」



──────────────────────

「こちらチェイサー任務中のメップス。現在ブルズアイから北に120マイル。高度40000フィート、速度500ノット! こっちはフルスロットだ。これ以上の追尾は難しい」

「了解、ホームへ戻れ」


 僕は今、あの奇妙な機体の中に居て空を飛んでいる。飛行服はまるで潜水服の様な分厚い物になり、視界は僅かに前方に風景が映され、その周りをガラスが半球状に膨らんだガラス製の計器が取り囲んでる。それも目盛りを針が刺す従来の物でなく、電気的に表記され動くマップに自機や味方機が連動して表示される全く未知の技術を使った物だった。


「コントロールからダブルシエラ。追尾を広域バンドにハンドオーバー、ピクチャーを報告せよ」

 ダブルシエラとはSSBFの頭文字二文字から取ったコールサインである。

「ダブルシエラ、コース上には障害物無し。300マイル先、2頭のマルスエプソルが高度600で北に向かって飛行している」

「了解、計画に変更無し。間もなくワルタン王国へ進入、速度制限解除、高度80000フィートまで上昇」


 僕はこの時カミュメントを呼び出した。

「ワルタン王国ってのはどんな所だ?」

「うーん…… 蜘蛛みたいな変なお城、メロディは好き」

「なんだそりゃ」

僕はスロットルを通常飛行での100%まで押し上げた。その瞬間に強烈な加速感が加わりシートに身体を抑えつけられた、機体は上昇角度60度にして裕にマッハ2を超えた。


「トニーだ。そのまま加速を続けマッハ3を維持しろ。ウェイポイント通過後、方位320に旋回。いよいよラムジェット飛行に入るぞ」

 ラムジェットはエンジンに取り込む気流をタービンではなく直接燃焼室に送り込むモードと聞いた。よく分からないがそれで更に加速する事が出来るらしい。

 目の前の空は薄暗くここはもう宇宙空間と言ったほうが正しかった。

 この速度になるとゆっくりとした旋回にも大きなGが掛かった。この前習った対G呼吸を実践する、まるで出産時の呼吸みたいだ。何とか目標方位に機体を向けた。

 スロットルレバーにはボタンが付いてありそれを押す事で更にスロットルを上げることが出来る。

「こちらダブルシエラ、ラムジェット飛行開始」


 機体が猛烈な加速をする中、正面モニターのメッセージログに不明な一文が浮かび上がった。『No.137 ポート0001にアクセス』

 以降、一部の英数字だけ変更された同じ文のアクセスログが大量に表示され画面を覆い尽くした。


「ダブルシエラ。博士、なんか文字が……」

「凄いぞマーティン君!モニターでマッハ6の達成を確認した!試験は成功だ」

 ついログに気を取られて飛行状況を確認していなかった。速度計を見ると4000ノットというフザケた数字が表示されていた。僕はスロットルを戻す、これだけ速度が出てるので一瞬で国を跨ぎ、海まで来てしまった。球面上の地表の向こう側にも陸地が見えるそこは緑の深い場所だった。


「ダブルシエラ。任務終了、これより帰還します」

「コントロール、了解した。ホームへ誘導する」

 減速したとは言えまだマッハ4の超高速巡航だが目が慣れてしまったのかゆっくり飛んでいる様に感じる。滑走路手前を200ノットまで減速した時にはほとんど静止状態だ。


「こちらタワー。ダブルシエラの着陸を確認」

機体はそのままハンガーまで自力でタキシングし、エレベーターで地下に降りる。今日はいつもより地上の出迎えが多い。


「マーティンそのまま機内で待機しててくれ」

 機体はすぐに各所にホースが接続され、メンテナンスやデータ確認が行われた。

「コンコン」

 キャノピーに何か叩く音、見るとナツメが開けるよう促してる。

「お帰り音速の貴公子」

「何だその渾名。馬鹿にされてる気分になる」

「アンタが偏屈なのは産まれた星の影響?それとも国?もしくは境遇」

「──全部だな。世界大戦は人の人間性を壊していった」


 ナツメは機外から覗き込む様にコックピットのモニターを確認している。僕の視界は彼女の身体に全て遮られた。

「そう言えば。さっき飛行中に変な表示が……」

彼女はログの確認で今その表示を発見した。そして一瞬身体を硬直させた。

「えっ…… これヤバい奴じゃん。直ぐ博士に連絡しなきゃ」

 彼女は血相を変えてタラップを降りていった。僕は自力で座席のベルトを外すしかないようだ。

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