第92話 大潮招の湿地帯
午後、
太陽が拳六つ分ほどの高さになった頃、
この六人の仲間と
一匹のびっくり箱が
大潮招の湿地帯に到着した。
今日の大潮招の湿地帯は
異常なほど静まり返っており、
普段よく聞こえる
虫の鳴き声さえ消えていた。
シミリスが、
彼らをアシの生い茂る小道へと
案内する。
「ここは普段、
こんなに静かじゃないわ。」
シミリスは
今日の異変に気づいた。
「何かが来るぞ!」
アペスが眉をひそめる。
その瞬間、
水面が突然
激しく波立ち始めた。
大潮招の湿地帯の水たまりの下に潜む
巨大な甲殻生物の巨体が、
気泡と鋭い角を出しながら、
ゆっくりと移動しているのが
かすかに見える。
一匹の巨大な甲殻類が飛び出し、
水面で光を反射させる
巨大なハサミを振り回し、
行く手を阻んだ。
「これがここの名産、
巨大シオマネキよ。」
シミリスは
嬉しそうにデレオの腕を抱き、
顔に得意げな笑みを
浮かべた。
蟹の甲羅は
日光の下で金属のような
光沢を放ち、
巨大なハサミは
湿地の縁の岩を
絶えず叩きつけ、
まるで侵入者である
外敵を挑発しているかのようだった。
「これ、食べられるの?」
カシアは
腰の琴の弦を弾きながら、
好奇心から
前へと身を乗り出した。
「食べられる。
しかもすごく美味しい!」
チェラーレは
皆の注意がハサミに向いている隙に、
こっそりと
シオマネキの側面へと
回り込んだ。
彼女は
濡れた甲羅の上に
軽やかに飛び乗り、
棍棒のように太い眼柄を掴み、
短剣を振り上げて、
ためらうことなく
切り落とした。
温かい蟹汁が、
瞬時に泥の上に
飛び散る。
「じゃあ、
これで鍋にする?」
アビスウズは
スケルトンナイトに指示を出し、
蟹の背中に
飛び乗らせると、
彼も刀を一閃させ、
もう一本の眼柄を
切り落とした。
アレカが飛び出し、
蓋を開けて
落ちてきた蟹の目を
キャッチした。
巨大シオマネキは
痛覚が鈍いらしく、
両目の視力を失ってから
ようやく狂ったように
暴れ始めた。
その巨大なハサミが
空中で乱暴に振り回され、
風を切る音を立て、
泥の上の水しぶきを立てて
波紋が広がる。
ハサミの一撃が、
今まさにカシアの頭上に
落ちてこようとした。
「戦闘離脱!」
カシアが叫ぶと、
瞬時に見えない力で
隊列の後方へと引き戻され、
靴底が泥の上に
長い擦り傷を残した。
蟹のハサミは
振り回され続ける。
アペスはそれを見て、
すぐに頑丈な前腕で
その重い一撃を
力任せに受け止めた。
彼女は体を
前方に踏み込み、
正拳突きを
蟹の脚の関節に
叩き込んだ。
「カチッ」
という音が響き、
硬い殻がひび割れ、
蟹の脚は
力なく垂れ下がった。
「ちぇっ!
最初に覚醒したスキルが
拳撃だなんて、
私はレスリングを
極めたいのに!」
アペスは自嘲しながら、
手に付いたわずかな蟹汁を
払い落とした。
デレオは
魔力を凝集させて
破城槌を作り出し、
同じ側の別の蟹の脚めがけて
数回強く打ちつけた。
泥水が飛び散り、
甲殻が砕け、
蟹の脚は完全に折れ、
巨蟹はバランスを崩して
片側へ倒れ込もうとする。
「アミット!」
シミリスが
高く呼びかけると、
彼女の足元から
黒い霧が立ち上り、
冥府の巨鰐が
現れた。
巨鰐は
巨大な口を開き、
シオマネキの側面の殻を
噛み砕き、
バリバリと咀嚼する。
湿地には
蟹肉と生臭い香りが
漂った。
アレカは
銅製の鈴を取り出し、
空中で振る。
その音は
澄んで響き渡った。
「カーンカーンカーン!
戦闘終了、
みんなレベルアップだよー!」
「そうなの?
私の情報端末も、
全然メッセージが
見えないんだけど?」
カシアは
不思議そうに瞬きをして、
アレカを見た。
「だって君、
さっき戦闘離脱スキルを
使っちゃったから、
経験値が
計算されなかったんだ。」
アレカは
肩をすくめ、
困ったような
表情を見せた。
「同情するよ、
君の気持ちはよくわかる。
僕だって
レベルアップできないんだからね!
ううう……」
アレカは前足で
涙を拭うふりをし、
芝居がかった口調で
カシアを慰めた。
「そんなの
ひどすぎる!」
カシアは
少し怒って足を踏み鳴らし、
琴の弦が
哀愁を帯びた低い音を
奏でた。
「気にしないで、
今度戦闘離脱のスキルを
使った後は、
すぐに戦闘に再参加して、
ついでに補助か回復の詩歌を
使えばいいわ!」
シミリスが
彼女の肩を軽く叩き、
優しさの中に
励ましを込めた口調で
言った。
「じゃあ、
早く始めましょう!」
カシアは
切羽詰まったように手を上げ、
両眼を
期待の光で輝かせ、
足元では
無意識に軽快なリズムを
踏み出した。
「焦るなよ。
まずは敵を
見つけなきゃ。」
アペスは
仕方なさそうに手のひらを開き、
肩をわずかに下げ、
少し気の抜けた口調で
言った。
付録
デレオ Lv9 手防具製作。
アビスウズ Lv5 骸骨護身。
アペス Lv6 踢撃。
チェラーレ Lv8 人体動力学。
シミリス Lv3 燃焼の印記。




