第91話 猪の丸焼き
チェラーレは腰のナイフを
慣れた手つきで抜き、
まず猪の脚から
関節の正確な位置を見定めて
一刀で切り裂いた。
鮮やかな赤い血が
ナイフの切っ先を伝い、
用意しておいた木桶へと
流れ込む。
カシアは器用に縄を結びつけ、
シミリスと協力して
猪のオスを吊り下げ、
次の処理に
取り掛かりやすいようにした。
チェラーレが血抜きを担当する間、
アビスウズは近づいて
ブラシを取り、
猪の体の泥や雑草を
優しく払い落とし、
引き締まった毛皮を露わにした。
血がゆっくりと抜けきると、
アペスが台所から
大きな熱湯の鍋を運び出した。
皆で協力して猪に
熱湯をかけ皮を湯通しし、
毛が緩んだところで、
一人が脚を持ち上げ、
もう一人が尾を引っ張り、
皆でナイフの背や
鉄ブラシを代わる代わる使って
毛を剃り落としていく。
この時、アビスウズは
皮下に残った木杭の破片や泥が
ないかを細かくチェックし、
後で切り分ける際に
不純物が付着しないように
徹底した。
猪が洗い清められると、
チェラーレは袖をまくり上げ、
胸と腹の境目を見定め、
慎重に腹を切り開いた。
その動作は手際よく、
かつ厳粛だった。
アペスは傍らで
感謝の祈りの言葉を
静かに唱えながら、
下ろされた内臓を両手で受け取り、
清潔な陶器の甕の中に
分けて入れた。
切り分けの作業中、
皆は談笑しながら、
どの部位がスープに
適しているか、
どの肉を塩漬けにして
食べるのが
一番美味しいかといった議論に
花を咲かせた。
陽光の下で、
ナイフの刃がきらめくたびに、
全ての工程に
この獲物に対する敬意が
込められていた。
猪が完全に分割し終わると、
肉塊は容器に
きれいに並べられ、
骨と内臓は
それぞれ分類された。
「こんなにたくさんの肉、
一日で食べきれるわけないでしょう?」
小山のように積まれた猪肉を眺め、
デレオは思わず
小声で嘆いた。
カシアは片付けた
アイテムをまとめながら、
笑って振り返った。
「アレカがいるから
大丈夫だよ。
この肉は好きなだけ
保存できるもんね?」
アレカはすぐさま
背筋を伸ばし、
自信に満ちた顔で
自分のびっくり箱を叩いた。
「任せてニャ!」
ブランチ時、
皆は庭の大きな木の下に
座って集まった。
アビスウズが
朝市で買ってきたパンを
運んでくると、
焼きたての香りが
空気中に漂う。
カシアは傍らで、
切りたての新鮮な猪肉を
器用にバーベキューコンロで焼き、
肉の皮がひっくり返り、
ジュージューと音を立てる。
脂が徐々に滲み出し、
食欲をそそる。
「みんな気づいた?
チェラーレがあの猪を倒した後、
私たちってレベルアップした
感じがしない?」
デレオはパンを噛みながら、
鑑定プログラムを起動し、
自分のステータス欄を
覗き込んだ。
カシアは腕を伸ばし、
得意げな笑みを浮かべた。
「うん、そうだよ!
まだチーム状態だから、
みんなに経験値が
分配されたんだと思う。
私は今Lv4で、
『忘却の詩歌』と
『戦闘離脱』のスキルを覚えたから、
これからあなたたちが
後衛に戻る手間を
減らせるわ!」
シミリスは
ソースのついた箸を振りながら
頷いた。
「ええ、私はLv2に
上がっただけだけど。
新しいスキルは
『真名強化』よ。
私が名前を呼べる対象なら、
魔力を消費せずに
相手を強化できるの。」
アビスウズが笑った。
「私はLv3。
『解剖学』に
目覚めたわ。
それに、死体を操るスキルも
増えたの。
さっきの猪の解剖と
関係があるのかしらね!」
デレオは
切り分けの工程を
注意深く思い返して言った。
「確かに解剖のプロセスと
関係があると思うよ。
僕はLv5になった。
皮革と骨の処理が
整備士の経験になったんだろう。
これで足部装備、
盾、
それにいくつか
中級の防具が
製造できるようになった。」
アペスは
手元の刃物を拭きながら
ぶつぶつ言った。
「でも私もLv4に
なったんだよ?
猪の解体は
格闘家には
関係ないんじゃないかな?」
デレオは推測した。
「君は朝に
特訓しただろう?
あれが経験値を
増やしたんだと思うよ。
新しい技は
何を覚えたんだい?」
アペスは
自信ありげに
拳を振り上げた。
「『雑念の排除』と
『拳撃強化』!
これで喧嘩する時に
もっと正確に判断できるし、
拳の打撃力も
増したよ。」
チェラーレは
指でテーブルを
軽く叩きながら、
目に一瞬の誇りを
閃かせた。
「ふふん!
これで君たちを
軽蔑できるわけだ。」
言い終わらないうちに、
皆が彼女の方を見た。
アペスは
わざと軽蔑したように尋ねた。
「へえ?
君は今や……」
チェラーレは
背筋を伸ばし、
口元をわずかに上げて、
誇らしげな様子を見せた。
「Lv6だ。
『毒理学』、
『体術強化』、
それに
『放血』スキル。
あのイノシシの血は
思ったより量が
多かったな。」
「きっと君が単独で
あの猪を仕留めたからだろうね。」
デレオはそう言いながら、
箸で香ばしく焼けた
柔らかい猪肉を挟んだ。
皆が楽しそうに
新しいスキルについて
話し合っていると、
遠くから
かすかな雷鳴のような音が
聞こえてきた。
「あれは自然現象じゃない。」
シミリスの顔色が変わる。
「遺跡の方向からの
魔力波動だ。」
デレオは
拳を握りしめた。
「どうやら、
僕たちに残された時間は
本当に少ないようだ。」
「後で、
みんなでどこかに
冒険に出かけない?
レベルとスキルを
鍛えに。」
シミリスは
デレオをじっと見つめ、
その口調には
期待が満ちていた。
そう、彼女の一番好きなことは、
デレオと一緒に
冒険に行くことなのだ。
「いいよ、いいよ。」
カシアは興奮した顔で
目を輝かせ、
ついでに
焼いている肉のスライスに
一つまみの香辛料を振りかけた。
「皆、何か提案はあるかい?」
デレオは尋ねた。
彼は冒険者ギルド発行の地図を広げ、
指先でいくつか印のつけられた場所を
なぞった。
「どこでもいいけど、
あまりにも古い墓地は
やめてくれ。
もう死体には
うんざりだ。」
アペスは頬を膨らませ、
大きな肉塊を飲み込んだ。
「うーん、
宇宙船の遺跡にも
行けないとしたら……」
アビスウズは箸を持ちながら、
考え込んでいる。
「大潮招の湿地帯は
どうかしら?」
シミリスが提案した。
「あそこの甲殻生物は
レベル上げに最適だし、
ドロップアイテムは
装備作りに
向いているわ。
それに、
アバドンに対抗するためにも、
もっと強い実力が必要よ。」
デレオは
頷いて同意した。
「確かに、
残された日はわずかだ。
少しでも実力を
上げることは
重要だよ。」
「暗くなる前に
戻って来られるかな?」
チェラーレが尋ねた。
「十分よ。」
シミリスは頷いた。
「私たちは
一瞬たりとも
無駄にせず、
強くなる必要がある。
決戦は
目の前だもの。」




