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当ててみて、私の箱の中に何が入っていると思う?〜俺の冒險用ミミックだ!  作者: 上部乱
第三部——召喚塔林

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第87話 クラスアップの儀式


礼堂の蝋燭の炎がゆらめく中、デレオは、闇の奥から視線を感じていた。

――メジェドの目か……と、心の中でつぶやく。


「試練を乗り越えた証を、ここに示しなさい。」


サリクスの声が静寂を切り裂き、広い礼堂に響き渡った。


最初に前へ進み出たのはシミリスだった。

彼女は両手で一枚の精巧な御印を高く掲げる。


「わたしが手にしているのは、大精霊の御印です。

原初の大精霊と竜王バハムートの前で、わたしは力と感情の均衡を取り戻しました。

欲界の幻に惑わされることなく、万物の本質を見据え、その真なる名を詠唱できると証明しました。

今、すべての塔主が、わたしの職業転換を認めてくれました。」


サリクスは厳かに頷き、言葉を紡ぐ。


「運命の紡ぎ手クロートよ、その御名において、

彼女に真実を見抜く力を与えたまえ。

この者が、これより真名師として世にはばたくことを許さん。」


神官たちが一斉に頭を垂れ、礼堂の空気が一段と重くなる。


続いて、デディカティオの骸骨騎士がゆっくりとアビスウズの前へ歩み出る。

薄い燐光が彼の骨格を縁取り、紅い絨毯の上に長い影を落としていた。


アビスウズは祭壇の前で片膝をつく。


「わたしの前にいるのは祖父の遺骸。

彼は死してなお一族を守り続ける偉大な魂であり、それこそが死霊法師の真髄を象徴しています。

わたしたちは、死者に代わって、生者との約束を果たす媒介者です。」


サリクスは厳粛な表情で手を掲げ、詠唱する。


「よろしい。運命の紡ぎ手クロートよ、その御名において、

彼女に安魂の祈りを捧げる力を与えたまえ。

この者が、これよりネクロマンサーとして世にはばたくことを許さん。」


祭壇の蝋燭がふっと揺れ、今の宣言に同意するように瞬いた。


サリクスの視線が、アペスとチェラーレへと移る。

その声は一段と重みを増した。


「卓越を求める二人よ、祭壇へ。」


二人は目を合わせる。

そこにはさまざまな感情が入り混じっていたが、足取りに迷いはなかった。


アペスは落ち着いた歩調で進むたび、炎の光にその影が揺れる。

暗紅色のタイトな装いのチェラーレは、足音一つ立てずに進み、その瞳は鋭く冴えている。


「汝らの第二次クラスアップは、己を超えるだけでなく、

周囲からの承認も得なければならぬ。

さあ、その証を示しなさい。」


言葉が終わると同時に、礼堂の空気はぴんと張り詰めた。


アペスは両手でレスラーマスクを高く掲げる。

古びた牛革と真鍮の鋲で作られたそれは、額の部分だけ汗で濃く染みをつくっている。


「これは、わたしの所属するレスリング連盟の会長が、自らの手で渡してくれたものです。

それは、わたしが教わった技をすべて身につけ、自分自身の格闘流派を打ち立てる覚悟ができた証。

力と名誉は両立できる、その証明にします。」


サリクスは満足げに微笑む。


「よろしい。結末を見届けるクリシュナよ、その御名において、

彼女に“受け”を強化する力を与えたまえ。

この者が、これより格闘家として世にはばたくことを許さん。」


次に、チェラーレが腰から血誓の匕首を抜き放つ。

刃にはまだ、拭いきれなかった血の跡がこびりついていた。


彼女はその匕首を胸の前で水平に掲げる。

背後の影が、引きずられるように長く伸びる。


「これは血誓の匕首。

わたしは自分の手で北海幫の“命の鎖”を断ち切り、

殺手協会が課した最悪の試練を生きて通過した。

この刃についた一滴一滴の血は、暗黒街に対してわたしが結んだ契約そのもの。」


観覧席の貴族たちがざわめき、恐れを隠せない者もいれば、

好奇の色を隠さず、匕首を凝視する者もいる。


殺し屋という職業は、公の場に姿を現すこと自体が稀だ。

ましてや、クラスアップの儀式にこうして立つことなど、なおさら。


サリクスは一度、場のざわめきを静かに受け止め、感情を押し隠してから口を開く。


「たしかに、我らの想像を超える証である。

だが、北海幫が積み上げてきた血の債務は、ついに彼女の手で清算された。

光と闇は、元よりこの世に並び立つもの。

我らが問うのは善悪ではなく、鉄と血の螺旋を引き受ける覚悟があるかどうかだ。」


チェラーレは顔を上げ、まっすぐにサリクスの視線を受け止める。

その声は冷静でありながら、わずかに誇りを滲ませていた。


「もしあなたが言う“覚悟”が、復讐と、さらにその先の殺戮を意味するのなら――

そんなもの、とっくに決めてある。

これは、運命がわたしに押し付けた道なんだから。」


その宣言に、場内はどよめき立つ。

報道係らしき者が何人か、立て続けにカメラのフラッシュを焚き、

この張り詰めた一瞬を記録していく。


サリクスは杖を高々と掲げ、厳かに告げた。


「よろしい。秘密を埋めるのメジェドよ、その御名において、

彼女に感情を制御する力を与えたまえ。

この者が、これより殺手として世にはばたくことを許さん。」


蝋燭の炎がゆらめき、サリクスの厳しい横顔を照らし出す。

この瞬間、礼堂全体が一つの「時代の転換点」として刻まれたかのようだった。


「これはもう、明日のニュースはネタに困らないね。」


カシヤはくすくすと笑い、小さく頬を赤らめる。


「笑いごとじゃないぞ。絶対に、お前のじいさんの政敵が突っついてくる案件だ。」

デレオが小声でつぶやくと、彼女は肩をすくめ、手にした詩集をひらひら振った。


「大丈夫大丈夫。おじいちゃん、そういうの慣れてるから。」


カシヤの声音には、家の長への信頼が揺るぎなく根付いていた。


サリクスは最後に、デレオとカシヤへと厳かに視線を向ける。


「よく己を鍛え上げた二人よ、祭壇へ。」


カシヤはデレオの手を握る。

指先はひんやりしているのに、しっかりとした力がこもっていた。


二人は共に階段を上り、

好奇と敬意を帯びた無数の視線を浴びながら、祭壇の光の中へと進む。


「カシヤ、デレオ。」

サリクスの呼び声が、礼堂に響いた。


「はい!」

二人は声を揃えて返事をし、その声は人々の胸の奥まで届いていく。


「えへへ……なんか、ちょっと結婚式っぽくない?」

カシヤがそっとデレオの耳元で囁く。

その小さな秘密めいた声が、祭壇の上の空気を少しだけ柔らかくした。


サリクスは一瞬だけ口元を緩め、すぐにまた厳しい表情に戻る。


「汝らの初めてのクラスアップは、すでに己を乗り越えた証でもある。

さあ、自らをどう認めるのか、その証を示しなさい。」


カシヤは、擦り切れた表紙の詩集を高く掲げる。

角は丸くなり、ところどころに前の持ち主の書き込みが残っていた。


それは、ノールールマーケットで二人が見つけた、古詩を集めた一冊。

ページごとに誰かの夢や想いが封じ込められている。


デレオは、バックパックから宇宙船遺跡で見つけた作業マニュアルを取り出した。

黄ばんだ紙、表紙には古代文明の紋章が刻まれている。

中身は記号と工程表ばかりで、

彼の「どこからともなく湧いてきた記憶」がなければ読み解けない内容だ。


カシヤは背筋を伸ばし、はっきりとした声で言う。


「これは、わたしが一番大好きな詩集です。

わたしは吟遊詩人になって、危険の最前線で、歴史の現場をこの目で見届けたい。」


貴族席のサリクスは、孫の言葉を誇らしげな笑みで見つめていた。


「よろしい。結末を見届けるクリシュナよ、その御名において、

彼女に速記と速読の力を与えたまえ。

この者が、これより吟遊詩人として世にはばたくことを許さん。」


最後に、デレオが宇宙船遺跡の作業マニュアルを掲げる。


「これは、宇宙船の遺跡で見つけた超古代文明の文献です。

これは作業手冊で、古代文明の技術工程や工芸の秘密が記されています。

わたしの知る限り、この内容を読めるのは今のところ俺だけです。

将来は、この手冊を手掛かりに古代人の知恵を解き明かして、

整備士という職業にもっと多くの可能性を持たせたいと思っています。」


サリクスは口元に満足そうな笑みを浮かべ、低い声で言う。


「ふふ……どうやら、しっかり将来設計まで考えているようだな。

ならば――秘密を埋めるのメジェドよ、その御名において、

彼に基礎的な防具製作の力を与えたまえ。

この者が、これより整備士として世にはばたくことを許さん。」


儀式が終わろうとした、そのとき。


デレオの手の中の作業マニュアルが、ふっと淡い光を放った。


「どうやら、メジェドが君に何かを語りかけているようだね。」

サリクスは意味ありげに目を細める。

「おそらく、君のクラスアップを見届けているのは、この場にいる者たちだけではないのだろう。」


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