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当ててみて、私の箱の中に何が入っていると思う?〜俺の冒險用ミミックだ!  作者: 上部乱
第三部——召喚塔林

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第86話 招待


チェラーレの家を出ると、石畳の通りの先に、ぴかぴかのロングリムジンが静かに停まっていた。

車体には銀の縁取りが施され、議会の紋章が刻まれている。窓ガラスは夕陽を受けて金色にきらめいていた。


久しぶりに見る執事モーリスが、車の横で背筋を伸ばして待っている。


「ひゅ〜。」

チェラーレが景気よく口笛を鳴らした。

「さすがお偉いさんの送迎ね。」

そう言うやいなや、血誓の匕首をくるくる弄びながら、遠慮なく先に車内へと乗り込む。


車の中ではカシヤが待っていて、むくれたように口を尖らせた。

「遅いよ、みんな! どれだけ待たせるの!」


「カシヤ!? なんでここに?」

デレオは思わず声を上げる。さっきの殺し屋たちが戻ってくるのを警戒していた。


「わ、わたしだって心配だったんだから!

おじいちゃんが『出かけるな』って言い出す前に、運転手さん脅してここまで連れてきてもらったの。」


アビスウズがそっと耳元に顔を寄せて、小声で囁く。

「安心しなさい。うちのおばあちゃんの呪いは、あと十一ヶ月と三週間は続くから。」


「……呪い?」

カシヤが眉をひそめる。


アビスウズは意味ありげにウインクして、いかにも真面目な顔で言った。

「恋のライバルたちと一緒に、ボロ家で一年間共同生活する呪いよ。」


カシヤは吹き出しそうになりながらも、わざと顎を上げる。

「ふん、その家、ぜんっぜんボロくなんかないし!」


アビスウズは指を振ってみせる。

「じゃあ“恋のライバル”って言葉は否定しないのね?」


その一言で、車内にいた数人の頬が一斉にほのかに赤く染まった。

みんなそれぞれ俯いて、荷物の紐を直したり服の皺を伸ばしたりと、なにかと手を動かして誤魔化す。

いつもは肝の据わったチェラーレでさえ、どことなくぎこちない。


アビスウズは満足げに微笑み、ぼそりと付け足す。

「ふふっ、やっぱり気まずくさせるの得意だわ、わたし。」


全員が車に乗り込むと、運転手は静かにエンジンをかけ、広場を離れて石畳の道を滑るように走り出した。


三十分も経たないうちに、車はスコラリス邸の正門をくぐる。

門の脇には礼装をまとった従者たちが並び、車が止まると同時に丁寧な所作で扉を開けた。


「皆さま、こちらへ。

まずはご着替えを。スコラリス様が、クラスアップの儀式にふさわしい礼装をご用意なさっています。」


そう告げて、従者たちはそれぞれを別々の控え室へ案内していく。


の部屋には、ほのかな白檀の香りが漂っていた。

隅には彫刻の施された鏡台、そして古びた真鍮のハンガーには、新品の装備が一式掛かっている。


きらりと光るゴーグル。レンズには室内の灯りが反射していた。

深紅のステッチで冒険者ギルドの紋章が刺繍された防炎マント。

つま先に鋼を仕込んだブーツは、見事なまでに磨き上げられている。

作業用ベルトには、小型の工具が並んでいた。


摩耗に強そうなレザーパンツは柔らかな本革製で、

上着はポケットをこれでもかと縫い付けた、多機能な一着だ。


サリクス老が、礼儀だけではなくデレオのこれからの生き方まで見通して選んでくれたのだと分かる装備だった。


「……あなたのところの旦那様に、お礼を言っておいてくれ。」


デレオはそっと、その新しい装備に手を滑らせる。


従者は恭しく一礼した。

「かしこまりました。お着替えがお済みになりましたら、礼拝堂までご案内いたします。他にご用は?」


「いや、大丈夫だ。」

デレオが首を振ると、従者は足音も立てずに部屋を後にした。


装備に着替えてみると、一つ一つが驚くほど身体に馴染んだ。

ボタンも紐も、自然と指が正しい位置を見つける。

最初から彼のために仕立てられていたとしか思えないフィット感だった。


部屋を出て廊下を歩いていると、角を曲がった先でカシヤとチェラーレに出くわした。

廊下の突き当たりの窓から差し込む夕暮れの光が、三人の顔を金色に染める。


いつも賑やかなカシヤでさえ、今は少し口数が少ない。

「……おじいちゃん、自分で儀式を見届けるって言ってたから。」

唇を噛む横顔には、一族の長への畏れと、自由を求める思いが交錯していた。


デレオはそっと彼女の肩に手を置く。

「心配するなよ。これは“外出禁止”じゃない。サリクス議長は、昔からやり方が開けてる人だ。」


「ぷっ。」

チェラーレは「外出禁止」という言葉に耐えきれず吹き出し、慌てて口元を押さえる。


「もうっ、チェラちゃん! 笑うとこじゃないからね!」

カシヤがぷりぷり怒りながら、ぽかぽかと軽く拳で叩く。


チェラーレは首を振り、からかうように微笑んだ。

「ごめんごめん、わたしが悪かった。

もしまた閉じ込められたら、そのときはわたしが盗みに行ってあげる。

派手に、お姫様救出作戦ってやつね。」


カシヤの服装は、柔らかな草色のシースルーブラウスに、白い膝丈スカート。歩くたびに裾がふわりと揺れる。

頭には小さな水晶の髪飾りが差され、星屑のような光をこぼしていた。


チェラーレは深紅のタクティカルジャケット。

シャープなラインに銀色の装飾が映える。

足元のサイレントブーツが歩みを無音にし、

肩に掛けた黒いマントが、彼女の落ち着きと自信を際立たせていた。


三人は目を合わせて微笑み、言葉を交わさずとも気持ちを通わせる。

そして肩を並べ、礼拝堂へ向かって歩き出した。


礼拝堂の前では、アペスがドア枠に寄りかかって待っていた。

手には、レスリング協会会長のものというレスラーマスクを弄んでいる。

唇には、いつもの落ち着いた笑み。


重厚なオーク材の両開きの扉を押すと、厳かな空気が押し寄せてくる。

赤い絨毯が祭壇まで真っ直ぐ伸び、その両脇には侍従と数名の教会代表が整列していた。


儀式の中心となる祭壇の前には、礼装を纏ったサリクス老が静かに立ち、皆の到着を待っている。

炎に照らされた燭台が半円形の儀式空間を形作り、

その内側、左右には、アビスウズとシミリスがそれぞれの位置についていた。


参列者は多くはないが、一人一人の肩書は重い。

法衣を纏った老賢者たち、勲章を胸に下げる軍人たち。

聖騎士たち、そして四大教派の高位神官。


さらにデレオは、彼とチェラーレを育ててくれたメジェドの祭司たちの姿を見つける。

ウンブラ婆さん一家、アペスの家族は言うまでもなく、最前列に陣取っている。


彼ら全員が、まもなく行われる職業のクラスアップを、真剣な眼差しで見届けようとしていた。


本来なら、これほどの顔ぶれが一堂に会するクラスアップの儀式ともなれば、

貴族式の伝統に従い、豪華な装飾とともに

政財界の要人を大勢招待し、盛大な宴が催されるはずだ。


だが今は、アバドンに対する戦いが差し迫った非常時。

壁炉の薪がぱちぱちと燃える音と、

赤い絨毯を踏む足音だけが、この場の荘厳さと切実さをいっそう際立たせていた。


 


付録

職業クラスアップについて


第一次クラスアップに必要な道具は、百貨店に行けば普通に買えるレベルのもの。


第二次クラスアップに必要な道具は、たいてい上位機関の認可や鑑定が必要になる。


第三次クラスアップに必要な道具は、何らかの高難度クエストを達成しないと手に入らない。


四階に到達したあとは、その上の階級にクラスアップする職は存在しないが、

クラスアップツリーの中で、現在の職業に最も近い「分岐職」へとクラスチェンジすることができる。


クラスアップ・クラスチェンジをしても、それまでに習得したスキルはすべて引き継ぎ可能。

ただし、クラスアップするたびに成長速度は半分になっていく。


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