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当ててみて、私の箱の中に何が入っていると思う?〜俺の冒險用ミミックだ!  作者: 上部乱
第三部——召喚塔林

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第85話 唖者

 

「ムトゥス……」

 

チェラーレは匕首を握りしめ、

目つきを冷たく細めた。

「人蛇グループに入るはずがない。あんたは北海幫の人間じゃない」

 

仮面で顔を覆った男は、やはり何も答えない。

ただただ、手の中の短剣を静かに回しているだけだった。

その動きは亡霊のように音もなく、踏み出す一歩ごとに、致命の気配を帯びていく。

 

「職業殺し屋よ」

チェラーレは声を潜めて仲間に説明する。

「一切しゃべらないから、ムトゥス──『唖者』って呼ばれてる」

 

「こんな奴、今までの探知を全部すり抜けてたってわけか。

おまえの敵、こんなのまで混じってるのかよ……」

デレオはさすがに驚きを隠せない。

 

「敵……ね。まあ、そうとも言えるかしら」

チェラーレは二秒ほど考え込み、ふっと口元を歪めた。

「まったく、仕事熱心なこと」

 

女盗賊は銃口を「唖者」へ向ける。

 

だが、男はやはり一言も発しない。

 

「依頼主は北海幫でしょうね。自分たちの組織には、

わたしに勝てる奴がいないって、よくわかってる連中だから」

 

チェラーレがわずかに誇らしげに言った、その瞬間だった。

 

――そういう「得意になったとき」こそが、

もっとも隙のできる瞬間だ。

 

皆がチェラーレの言葉に耳を傾けたわずかな合間に、

ムトゥスの姿は、すでに彼らの視界から消えていた。

 

キンッ!

 

アビスウズとデレオの意識は、男の動きに追いつけなかった。

二人が「消えた」と気づくより早く、

チェラーレの匕首はすでにムトゥスの短剣を受け止めている。

 

二本の刃が、アビスウズの目の前で火花を散らした。

 

「速っ……!」

 

半惡魔化したアビスウズには、

悪魔の瞳による超人的な動体視力がある。

それでも、ムトゥスがどんな軌道で斬りかかったのか、まるで見えなかった。

 

「やっぱり、わたしが調子に乗った瞬間を狙ってきたわけね」

 

チェラーレの瞳は、

一気に底なしの泥沼のような深さを帯びる。

 

一撃離脱。

三人は、あっという間にムトゥスを見失った。

 

「速さは本質じゃない」

チェラーレは小声で仲間に警告する。

「暗殺者の戦いで重要なのは、“意図”と“盤面ゲーム”よ」

 

唖者が再び姿を現す。

 

今度は飛刀が、デレオめがけて飛んだ。

デレオは軽くスリングショットを構え、そのまま弾いて弾き返す。

 

あまりにも簡単すぎる防御。

 

「やっぱり」

 

チェラーレは冷笑し、匕首をアビスウズの胸元へと構えた。

その刃に、次の瞬間にはムトゥスの短剣がぶつかる。

 

ムトゥスの無表情な仮面が、ほんのわずかだけ固まった。

 

「このままじゃキリがないわね!」

デレオがうんざりしたように言う。

「俺が、あいつに“消えさせない”一手を――」

 

そこで、チェラーレはようやくムトゥスの張った盤面の全容に気づいた。

 

「デレオ! 下がって!」

 

彼女は焦りの声を上げるが、

どれほど大声を張り上げようとも、唖者の“無音”のほうが早い。

 

影のようにムトゥスが掻き消え、

次の瞬間には、デレオの背後に立っていた。

 

「独占アイテム〈暗影――〉」

 

デレオが言い終える前に、ムトゥスは肉薄している。

短剣の切っ先が、デレオの額へと突き立てられようとした、そのとき――

 

黒い霧が巻き起こり、銀色の鎧が瞬く。

 

デディカティオが突如現れ、雷光の大剣を薙ぎ払った。

その一閃が、ムトゥスを後方へと弾き飛ばす。

 

「聖光の御名において!」

 

蒼ざめた頭蓋骨の口から、威厳ある声が響き渡る。

「闇を行く者は、ここより先へは進めない!」

 

骸骨騎士の姿を見た瞬間、

ムトゥスの瞳に、初めて明確な「恐怖」が走った。

彼は素早く後退し、視線をさまよわせる。

何か、確認したいものを探しているようだった。

 

「ウンブラ……?」

 

ようやく発せられた声は、

ひどくかすれ、低く沈んでいた。

 

誰も言葉を返す間もなく、

ムトゥスの姿は再び影の中に溶けて消える。

 

「逆光、また会う」

 

それだけを残し、彼はこの場から完全に姿を消した。

 

アビスウズは肩で息をしながら骸骨騎士を見上げる。

「おじいちゃん……ありがとう。でも、どうして急に?」

 

デディカティオは答えなかった。

ただ静かに一礼すると、その身を黒い霧へと溶かし、消えていった。

 

「今の骸骨、完全に自分の意思で現れてたわね」

チェラーレは匕首を納めながら言う。

 

「たぶんウンブラ婆さんが、聖騎士デディカティオの魂を正式に解き放ったってことだろうな」

デレオは、デディカティオが消えた空間へ感謝の眼差しを向けた。

 

「どっちにしても、少なくともムトゥスは、正面からぶつかる気はなくなったわ」

チェラーレは、肩の力を少しだけ抜く。

厄介ごとがひとつ減った、といった顔だった。

 

デレオは額の汗をぬぐう。

「やっと……一息つけたか。少なくとも、今はな」

 

「戦闘終了~~……ふぅ~~~!」

 

アレカが、まだドキドキしながら戦闘結果を読み上げる。

 

『影のマント:2着

黒繭:3個

暗光の匕首:4本

ミスリルの匕首:1本

堅鋼短剣:1本

闇魔法結晶:12個

懸賞対象:6人

小型経験値結晶:4個』

 

レベルアップこそなかったが、戦利品はなかなかのものだった。

 

デレオは、自分の身体にどっと疲労が押し寄せているのを感じる。

アイテムを介せば魔力を消費せずに魔法効果を発生させられるとはいえ、

高レベルのアイテムを生成するときには、どうしても元々少ない自前の魔力を削られてしまう。

 

ちょうどそのとき――

 

通りの端に、見覚えのある影が姿を現したのだった。

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