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3・俺にはこの世界の魔法は楽勝なのかもしれない

 いかんせん情報が足りなさすぎる。これを見ている視聴者さんが居るならば、もう少し状況確認我慢してクレメンス。


「エミュ、こちらからも質問して良いか?」

「構わんよ」

「エミュの世界に魔法はあるのか?」

「ふむ、それを聞くと言う事は君の世界では」

「そうだ俺の世界には無い」

「でも概念はある」

「そうだ」

「面白いな、存在しないが概念だけはある」

「まぁ……憧れみたいな物かな?きっと昔誰かが魔法的な物を使いたいなぁって想像して夢物語にでも語り始めたんじゃないかな」

「そして概念だけが広まった」

「俺の勝手な想像だけどな」


「――ウィル・オ・ウィスプ」


 エミュはふわふわと空間を漂っているホタルの親玉を手元に呼び寄せた。


「ダンジョン探索者必須の照明魔法だ、慣れれば自然回復より少ない魔力で常時発動できるようになる」


 魔力は自然回復あり、魔法に熟練度あり使用魔力の軽減か。


「何かの媒体……宝珠オーブとか巻物スクロールを使って取得するのか」

「キミの所の魔法の概念とはそういうものなのか?魔法は家庭教師を雇って教えてもらうのが普通だ」


 学習による取得か、やっぱりハードモードか?

 しかも貴族でも無いと人を雇って教えて貰うなんて無理だろう?


「ウチの世界の物語では取得方法は色々だな、レベルが上がれば自然に使えるようになるとか、もちろん他人から教えてもらって覚えるというのもあったはずだ。俺も使えるかな?エミュ先生」


「確かに、空想の産物なら様々な取得方法を想像するよな。

 さて、流石に教えたことは無いからな。私の先生曰く『魔法はイメージが大切』なんだそうだ。無いものをそこにあると確信する想像力、そこに自分の中にある魔力を燃料として注ぎ入れる、最初はゆっくり――」


 カッ!


 いきなり出た。


「ふあっ?!眩しいっ!クレオ、やめてくれっ」


 あわわわわ。


 二人の間に突如輝き始めたLED電球的な輝き。

 マジか?!いきなり成功?!


 確かにエミュのウィル・オ・ウイスプに重ねてイメージしたのはLED照明。

 この部屋で目覚めてからずっと身体の中、心臓のあたりでヤモヤモしていた何かを『これが魔力なんじゃないか?』と当たりを付けて、そこから血管的な管を想像してLED照明に繋げてみた。


 もしかして魔法ってメッチャ簡単なのか?


 今度は魔力と管の間に回転するボリュームスイッチをイメージしてカチカチと回してみた。節度のあるスイッチが好きだな。


 段階的にウィル・オ・LEDは小さく暗くなっていく。


 同時に心臓周辺の魔力タンク(?)から流れていくヤモヤモの量も減っているようだ。


「お前、天才か?確かに誰かに魔法を見せてもらいながらその真似をすると取得が早いと聞くが、出力の微調整まで一瞬で出来るようになっただと?

 普通なら魔力を感知するのも至難の業だと言うのに、しかもトリガーワードも無しで」


 エミュは半分呆れ顔に近い。


 いやいやいや、LED照明と言う物を実際に知っているし、魔法の発動イメージは映画やアニメで目の当たりにしているし。

 日本でファンタジーアニメとかハリー〇ッターとか見てる人はみんなこんな感じで使えるのではないかな?


 ただ、この魔法が発動した事で一つ残念なお知らせがある。


 ワンチャンあった『エミュ達の方が現代日本の地下へ転移してきた』のではなく『俺自身が魔法が使える世界に転移した』と言う事が確定した。


 ここは異世界のダンジョン。

 ドッキリ番組ではなく、本当にモンスターが現れ、死んだら本当に死ぬという事だ。


 死んでも生き返る魔法やアイテムはあるかもしれないが少なくともザオ◯ク、レ◯ズ並にお手軽ではない。でなければとっくにルオハレートを蘇らせているはずだからだ。


「ならば、早速だがこれをやってみないか?」


 少し興奮気味のエミュはウエストポーチに手を突っ込みガサガサと漁ると金属製のカップを取り出した。


「ルオ……ハレートのバッグにも入っているぞ、取り出してみろ」


 ルオハレートから借りたショルダーバッグを開くと。

 バッグの中は闇で満たされていた。


「へっ?!」

「マジックバッグはクレオの世界には無かったようだな?」

 クレオの表情から読み取ったのか、何故かエミュがドヤ顔だ。


「カップを意識しながら手を入れてみろ、手に触れた物が必要な物だ」 

 言われた通り闇の中へ手を突っ込み指先に硬いものが当たった。そのまま掴んで引っ張り出したらやっぱり金属製のカップだった。


 マジックバッグはアリ。原理を解析して術式を確立すれば空間収納もいけるかもしれない。

 あと鑑定と異世界ショップとかがあれば完璧楽勝モードなんだが。


「探索者必須魔法その2だ」


 エミュの真似をして金属カップの縁を摘んでみた。


「いいか?私が教わった方法は。まず山の上に積もった雪が陽の光に照らされゆっくりと溶けていくイメージ」


 雪がある、少なくとも冬はある世界か。


「山肌に染み込んだ雪水が山の地を下り一本の水脈となり裾野の泉から湧き出す……『スプリング・ウォーター』」


 何も無いカップの底からじわじわと細かい水滴が滲み出し、水滴同士がくっつき水溜りとなり次第にかさを増していく。


 おお、クリエイト・ウォーターってやつだな。確かにこれもダンジョン探査者必須な魔法だろう。


「イメージは別に何でもいいんだな?」

「そうだな、他にどういったイメージがあるのかは思いつかんが」


 俺は。自分の指を水道の蛇口ととらえそこから伸ばした水道管を魔力タンクに繋ぐイメージ。今度はゆっくりと蛇口をひねっていく。


「ほおっ」


 エミュの口から溜め息に似た声が漏れる。


 指の先から流れる水がつつうとカップの内面を伝わり貯まっていく。


 縁から溢れる前にイメージの蛇口をひねって止めた。


「飲めるのか?」


 カップに貯まった水を見たらものすごく喉が渇いていたことに気がついた。喉の奥の粘膜が張り付きそうになっている。


「飲める水をイメージしたなら飲める」


 エミュは半分程に貯まったカップの水を煽って見せた。喉の動きが艶めかしい。


 エミュが飲み終わるのを待たずに俺もそれに倣った。


 美味い!


 二日酔いの朝に飲む水の旨さよ。


 ぷはぁ 滲みるぅ!甘露 甘露。


 これ、クリエイト・コーヒーとかクリエイト・コーラとかできんじゃね?ファミレスのドリンクバーのディスペンサーとかイメージすれば。


 ぐ〜〜ぎゅるるるる。


 あー。盛大に腹の虫が鳴いた。


 あーそうだよね、昨夜腹が減って買い出しに行こうとして会社出たんだもんね。


 きゅるきゅるる。


 エミュの虫も可愛い声で輪唱した。


「えーと、食いモンとかは……」

「残念だが魔法で固形物生成は無理だそうだ、複数の要素が混じり合った物は極端に魔力の変換効率が悪くなるらしくてな、相当膨大な魔力を抱えた御人ならともかく常人には難しいんだと思う」


 顔を赤くしたエミュも可愛い。

 エミュはマジックウエストバッグから掌サイズの四角い乾パンを取り出し2つに割ると片方を俺に差し出した。


「いいのか?」


「構わん、非常用だがどの道何日分もはない。むしろここは体力を維持してもらって共同した方が追加で食料が手に入る可能性が上がる」


 あー。なんとなく想像ついたわ。まぁ状況が状況だし仕方あんめぇ。


 乾パンは歯が立たない程にカチカチで、水に浸しながら前歯で削り取る感覚で食べていく。

 刻んだ胡桃とか甘栗の欠片みたいなのが入っていて味は素朴だが十分に旨い。


 満腹とまではいかなくても何とか人心地がついた。


「さてと、良いかな?クレオ」


「ああ、多分エミュの指示に従った方が生き残れる気がしてる」


「助かる。が、君の意見も聞いておきたいのでな、思った事は口にしてくれていい」


 多分エミュは貴族なんだろうけど、あきらかな庶民の俺にも気を使ってくれて好感が持てる。こんな上司の元で働きたかったよ。


「今、私達の選べる道は大きく2つある。いつモンスターが湧くか分からないこの部屋でジッと耐え忍び救出隊がここに辿り着くのを待つのが一つ」


「うん、消極案だな」


「そうだ、もしかしたらこの部屋のモンスターはリスポーンしないかもしれない、その場合モンスターと戦わずに済むが、恐ろしいのは餓死だ」


「現在地が分からない訳だからな、救出隊がたどり着ける程度の深さかどうか。もしかしたら一層上がれば合流出来るかもしれない可能性もある」


「その通りだ、私とルオハレートが飛ばされた地点は地下6層。そこからどれくらい離れたのか見当もつかない」


「上かもしれないんだな?」


「うむ、もちろんその可能性もある。そうだった場合ここに閉じこもっているのは最悪手だと言うことになるな」


「だがこの場所が過去の記録には載っていないとするとやはり下の可能性が高いのか?」


「浅い層の未発見エリアの可能性もあるからな、今のところ五分五分だと思っている」


「深い層とかだった場合は」


「その場合はできるだけ安全な場所で残り少ない余生を過ごすのが最適解になるだろうな」


 茹で蛙の理論だな。この場合茹で上がった方が正解になるわけだけど。


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