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第二話 終

 中央区銀座中央通り。

 オフィスビルが立ち並び、高級ブランドファッションのテナントが隣接する大都会然とした街の中。

 敵の量産型NSLが我が物顔で暴れていた。


『我らファナティックフォース! 狂信的な力なり!』


 わざわざ自らの組織名を大音声で発してバズーカをぶっ放す。

 火薬を含んだ弾丸がビルにぶち当たり、爆砕。コンクリートとガラスの破片が街の通りに降り落ち、逃げ惑う人々の悲鳴が上がる。


「クソッ、めちゃくちゃだ! なんなんだあいつらは!?」


 春斗は空中にいる龍天の中で悔しく歯を食いしばった。

 街は既にあらかた破壊されていた。そこかしこでプスプスと煙硝が立ち昇り、多くの建物が損壊している。

 敵は十三機。特機の姿は覗えない。全てオレンジ色の量産機だ。それほどの脅威にはならないだろうが、しかし、十三機とは。


「奴らはどこからあれだけの数のNSLを調達しているんだ!? 機体もそうだけど、パイロットは!?」


 日本はもちろん、ファナティックフォースのNSLはどこの国のものとも一致しない。加えて国内のNSL操縦適性のある者は全て把握管理が成されているはず。全員外人であるとしか思えないが、たまに発せられる言葉は全て訛りのない日本語だ。


 ――どうなってるんだ?


 独自にNSLを開発、製造し、国内のNSL適性者を秘密裏に集結させ、かつ統率が成せる組織がこの日本にあるということになるが、果たしてどれほどの規模の組織であればそんなことが可能なのか。少し考えただけでも必要なものがあまりに膨大すぎる。国でもなければ世界中のどんな組織も無理だろう。現実を疑い、有り得ないとすら思う。

 横を飛ぶ朱莉の搭乗するフェルゲスから返答があった。


『知らないわよ! 数はこちらの方が圧倒してるんだから、さっさとやっつけるわよ!』


 十三機の敵に対し、こちらは特機が二十七機にそれを上回る数の量産機が後方援護に就いている。だが油断はできない。敵機の操縦士の錬度も適能レベルも二・三年の先輩方を含め、自分たちを上回っていると聞く。戦力はこちらの方が上回っているが、気を抜けばやられてしまうだろう。

 フェルゲスは、ブオッ! と背面の噴出口からジェットを吐き出して街に降下していく。


「ああ」


 続けて春斗も降下。龍天の足で道路の地面を踏み、二本の刀を抜いた。

 数機の敵NSLが遠方で剣を構えている。

 ――やはり特機はなし。あの赤いNSLもいないか。

 この二ヶ月の内に起こったファナティックフォースによるものと確定しているテロ事件は、今回で実に八回を数えるが、特機の存在は未だ確認されていない。


 しかし断定的にではあるが、あの赤いNSLはファナティックフォースの特機であると目されている。襲撃のタイミングとやはりどこのものとも一致しない独自の機体であることから見て、他に考えられない、という理由の上でしかないのだが、まず間違いないだろう。

 つまりテロリストと対峙するのは、春斗はこれで二度目になる。しかし街が襲われているのを目の当たりにするのは初めてだ。瓦解した建築物や道路の惨状が自身のリアルな死を想起させる。緊張で全身に汗がじっとりと滲み、IRDに置いた手に必要以上に力が込もる。


 ――大丈夫だ。俺ならやれる。


 落ち着けと念じても、心は緊迫し続けた。

 学校の司令室から八重樫先生の声が届く。


『各機散開。無理な破壊は望みません。敵NSLを強襲し、撃退してください』

『『了解!』』


 各機一声に応答し、敵NSLに突撃を敢行する。

 春斗は集団より後方に孤立してアサルトライフルを構える一機に目をつけた。


「朱莉、正面のNSLは先輩たちにまかせよう。俺たちは後ろにいるあの一機を叩く」

『二対一なんて性に合わないんですけど』

「言ってる場合か! 奴らは俺たちよりも強い。油断はできないんだ。いくぞ!」

『しょうがないわねっ!』


 龍天が先行して飛び出し、フェルゲスが続く。


 春斗はぶつかり合う集団を飛び越えて二刀を振りかぶる。狙いの敵機は二機の接近に気づいてライフルを捨て、剣を抜いた。


「おおおおおお!」


 春斗が上空から斬りかかる。しかし敵機はひらりと後ろに跳んでそれをかわした。春斗の刀は勢いあまって道路を穿つ。

 フェルゲスがその上を飛び、後方に退いた敵機を追って大剣を振り降ろす。


『はぁあっ!』


 ガキンッ! と、剣で大剣を受け止める敵機。

 フェルゲスは敵機と幾度か剣と剣とを打ち合わせ、大振りの一太刀をかわされる。

 胴に回し蹴りを食らい、吹っ飛ばされた。


『キャア!』


「朱莉っ! くそっ!」

 春斗は敵機と一機で向き合う形になり、焦りを抱く。

 ――まずい。一対一では部が悪い。でも、やらなきゃ。

 何か策をと考えた。


『もっと肩の力を抜いた方がいいよ。――その方が、早く動ける』


 頭に浮かんだのは、数日前の歩の言葉だった。

 ふと洩らされた助言。あの時はロボットだぜと笑ったものだが――

 春斗は息を整え、ゆっくりと肩の力を抜いた。

 さらに脱力して、脱力して……

 その筋繊維の緩みは、IRDを通して機体にも伝わり、春斗もそれを感じ取る。そして――


「よし」


 落ち着いた声を出し、構えたまま相手の出方を待つ。

 敵機が超低空飛行で迫って来た。剣を上段から振り下ろす。

 春斗はそれを左の刀で受け流し、踏み込むと同時にもう一刀を横薙ぎに一閃した。

 その動作は、自分でも驚くほどの速度だった。

 振り返ると、敵のNSLは脇腹を損傷していた。致命傷にはいたらないが、十分なダメージだ。


『チッ!』


 敵機は噴出口からジェットを吹き出し、遠く空へと逃げていく。

 撤退だ。他の敵機もそれに続いた。

「やった。やったぞ!」

 歩――

 やっぱり、おまえはすごいやつだよ。




 ――それから数刻の後。




 ファナティックフォース基地。

 頭首室。

 モリスはその扉をノックし、短い返答を得て中に入る。

 LED蛍光灯の白光に照らされた、大仰な木製の机が一台あるだけの窓のない部屋。

 背広を着た一人の男がその机の椅子に座っていた。頬杖を突き、こちらに横顔を向けた脚を組んだ体勢で、何やら電子書類に目を通している。


「近況の報告に参りました」


 モリスは少しだけ姿勢を正し、若干固い声で言った。別に緊張はしていない。立場には大きく差はあるが、彼は自分と同じ二十四歳。付き合いの長さもそれなりの年月を数えている。


 男はこちらに顔を向けることなく、

「ふむ、聞こう」

 と、脚を組んだそのままの体勢で小さく口にした。


 少しは気心の知れた仲だ。モリスはその態度を特に気にすることもなく、組織の活動状況を報告する。

「では、まずは先日の鷹宮の件ですが、本人からの報告は未だ得られません。よほど口を噤みたい事情があるようで。何があったのか。諜報員の報告では学校のアリーナからは無傷で撤退をしたとありましたが、その後の行動は二名いる内の一人の男子生徒と接触があったという以外は何もわかりません。おそらくは何らかの理由で男子生徒の捕獲をあきらめた後、敵NSLとの交戦があったと思われますが」


 この報告には、モリスとしてはかなり重要な懸念が含まれているように思えたのだが、男は気のない声で応える。


「鷹宮からの報告は未だ成されずか。あれはプライドが高いからな、負け戦の内容の報告などなかなか出来たものではないのだろう。まぁ、本人が口にしたくないのなら別にいい。他に報告は?」


 別にいいなどと、組織の目的に特に支障のない事と判断してか、これといった感心を示すことなく言ってのける。男子生徒の拉致も組織のNSL研究員に頼まれて適当に了承しただけで、彼にとってはどうでもいいことのようだ。

 モリスは報告を続ける。


「中央区でのテロは予定通り、敵NSLとのわずかの交戦の後、撤退しました。報告は以上です」

「そうか。わざわざありがとう」

「いえ。失礼します」


 モリスは一礼し、部屋を後にするべく扉のパネルに手を伸ばす。

 もう声を掛ける用事もないのだが、顔を振り向かせて今一度男の姿を眼に収める。


 明晰な知性を漂わせる端正な顔立ち。短すぎず、しかし清潔感を第一にと耳を出してカットされたワックスの塗られた髪。長身でスラリとした肢体にどこか儚い雰囲気を纏い魅せる。


 男の名は青馬蒼一(あおばそういち)


 テロ組織ファナティックフォースの最高指導者にして、十年の一人の逸材。

 男性のNSL操縦適性者である。

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