文化祭へ
お久しぶりです。
夕介、文化祭へ――。
「賑わってるなぁ……」
十川夕介は、龍野涼と鈴木遣、佐藤縁が通う高校の、文化祭に訪れていた。
校内は活気に溢れ、楽しげな声が響き渡っている――。
「すごいね。影くんも気になるのあったら言ってね、食べ物とか買ってあげる」
と夕介は隣に居る人の影のようなものに声をかける。
人の影のようなもの……もとい影くんは、首を縦に二回振り、辺りを見渡すようにキョロキョロした。
懐かしい駄菓子屋や、クレープやアイスを売っている所もある。
「……涼くんたちは二階だったかな――」
夕介は歩きながら、二階に向かうため階段を探すことにした。
階段を探す途中に、影くんが気になった物を買ったり、お菓子を買ったりして、文化祭を楽しんだ。
影くんにお菓子などを持たせると、他の人には浮いて見えるので、一応夕介が持って、食べる分だけ影くんに取ってもらうことにする。
外だったり、夕介の周りに人が居なければ、気にせず影くんに渡しているのだが、今は涼たちの学校ということもあるので、涼たちに迷惑がかかることは、なるべくしないようにしようと夕介は思っていた。
階段見付け、上って少し歩くと、メイドカフェの看板が見えてくる。
メイドの衣装を身に着けた女子生徒が、板の看板を手に、呼び込みをしていた。
「メイドカフェやってまーす、よければお茶していきませんか〜? 美味しいスイーツもありますよ――」
すると、ちょうど顔を横に向けた女子生徒と夕介の目が合い、笑顔で促される。
「よければお茶していきませんか〜? 美味しいコーヒーもありますよ!」
「じゃあ、入ろうかな」
「ありがとうございまーす! さ、ドアを開けてください、そしたらお出迎えがありますんで! それでは――」
女子生徒はニコニコと説明をすると、また新しいお客を捕まえるために、呼び込みに戻る。
夕介は「仕事熱心だなぁ」と思いながら、ドアに手をかけた。
影くんも横で「なんだろう」というようにそわそわしている。
ドアを開けると、四人のメイドが笑顔で出迎えてくれた。
『お帰りなさいませ、ご主人様!』
元気な出迎えに、影くんは驚いたように夕介の後ろに隠れる。
それから一人のメイドが確認した。
「おひとり様でございますか?」
「ふた……はい、一人です」
思わず二人と言いそうになりながら、夕介は言い直す。影くんは他の人には見えていないのだ。
「――では、お席ご案内させていただきますね!」
もう一人のメイドが案内を始めると、残りの三人も各々仕事に戻っていく。
教室にはそれなりにお客が入っており、それぞれ接客していたり、楽しそうに話していた。
席に着くと、案内をしてくれたメイドが説明を始める。
「当店のメニューは、愛情たっぷりコーヒー、愛情たっぷりオムライス、愛情たっぷりパンケーキの三種類となっております。コーヒーが苦手な方にはジュースの提供もしておりますので、ドリンクメニューからお選びください。では、ご注文が決まりましたら、お近くのメイドにお声がけ下さい――」
そう笑顔で頭を下げると、メイドは仕切りの向こう側にはけて行った。
きっと向こう側で調理などしているのだろう。
「……コーヒーでいいかな。影くんは何か食べる?」
落ち着かないのか、隣に寄り添ったままの影くんに訊くと、首を横に振った。
ここに来るまでにお菓子など色々食べたので、お腹は空いていないらしい。
夕介はわかったと頷いて、近くにいるメイドを探す。
すると、ちょうど仕切りから佐藤が出てきて、夕介を見つけた。
「あ、十川さん、来てくれたんですね――!」
とメイドの衣装を身に着けた佐藤は、嬉しそうにやってくる。
「うん――。お客さん結構入ってるね」
「はい、昨日今日とだいぶ入ってもらえてます! 売上トップ目指しますよー!」
ぐっと腕を曲げてみせる佐藤に、夕介は「はは」と笑ってから注文した。
「売上トップにあんまり貢献できないけど、コーヒー一つ頼めるかな」
「わかりました! いいんですよ、十川さんはお客さんなんですから――。そうだ、鈴木と龍野にも声かけてきますね」
と佐藤は手元の伝票に「コーヒー1」と書くと、奥に戻っていく。
しばらくすると、コーヒーを乗せたトレーを持った鈴木と、涼がやってきた。
「お待たせしました、愛情たっぷりコーヒーです――」
「来てくれたんすね」
鈴木がコーヒーを差し出して、涼も声をかける。
夕介は「ありがとう」と受け取って、二人に顔を向けた。
「誘ってくれたしね」
「ぁ、影さんも来てくれたんですね……!」
鈴木が影くんに気付いて声をかけると、影くんは嬉しそうに頷いて見せる。
「一緒に行くかって訊いたら頷いたから。結構楽しんでるよ。ね?」
夕介が訊くと、影くんは大きく頷いて見せた。
鈴木は嬉しそうに笑って「そっか」と呟く。
涼には見えていないので、居るのかと夕介の隣を凝視したが、見えなかった。
「――このコーヒー、俺と鈴木で淹れたんすよ」
「そうなんですよ、どうですか?」
「そうなんだ」と呟いて、夕介はカップに口をつける。
一口飲んで、夕介はほっと息を吐いた。
「……うん、美味しいよ」
「よかった……」
「練習した甲斐があったな」
「うん」と頷く鈴木に、涼もにっと笑って見せる。
「お疲れさま、残りも頑張ってね」
「はい。ありがとうございます」
「頑張ります――」
と鈴木と涼は頷いて、じゃあ戻りますと奥に戻っていった。
出されたコーヒーをゆっくり味わい、佐藤が接客しているのを見届けて、そろそろ行こうかなと夕介が席を立とうとすると、佐藤がやってきた。
「――十川さんもう帰るんですか?」
「あぁ、うん――皆の顔も見れたし、佐藤さんの所作も良かったよ」
「ほんとですか?! ありがとうございます!」
ふふんと満足そうに笑ってから、佐藤は「そうだ」と思い出したように続けた。
「最後にオカルト研究部の展示見てってほしいです。昨日、私気になって無理やり鈴木連れて見に行ったんですけど、なんか、全部作り物だったんですよ。でも、鈴木が一つだけ異様に見たがらないのがあって……」
無理やり連れて行ったのか……と少し苦笑する夕介に、佐藤は気にせず期待を込めた瞳を向ける。
「それって、中に何か入ってたってことじゃないですか! しかも霊的な何かが――! それって、ただのプラスチックで出来た透明な空箱なんですけど、何が入ってたのか私に教えてくれないんですよ。中身がどうしても気になって……! だから、十川さんに中身見てほしいんです。それで、中身は何だったのか教えて欲しくて……!」
熱量の高い佐藤に、夕介は「ははは……」と苦笑いしながらも、わかったと頷いた。
「これから見てくるよ。それで、後でまた伝えるね」
「ほんとですか?! ありがとうございます! 楽しみにしてますね!」
きらきらと瞳を輝かせる佐藤に、夕介は「うん」と頷いて、会計を済ませてから教室を後にするのだった。
*
佐藤に言われて、夕介は影くんと一緒にオカルト研究部の部室に来ていた。
部室内は白い長テーブルが置かれており、その上に空の瓶が数個並んでいて、瓶の前にタイトルが書かれた紙が貼られている。
展示だけだからか、部員の姿はなかった。
ちらほらとお客さんもいるが、パッと見で空の瓶だと分かると、すぐに出て行ってしまっている。
「……鈴木くんが見たがらないってことは、相当だろうな――」
順番に見ていこうとテーブルに近付くと、ちゃんと「不穏」や「空気」、「邪念」などタイトルが振られているが、どの瓶も空のようだった。
「確かに、空だ。……中入ってる?」
影くんに訊くと、ずずっと瓶に顔を近付けて見てから、影くんはスッと顔を離して首を横に振る。
「だよね――あれかな、透明な箱って……」
一番端に置いてあるプラスチックの箱を見つけて、夕介は近付いた。
その箱の前には「憤怒」と書かれた紙が貼られている。
「これは……」
鈴木が異様に見たがらない理由がわかった。
題名の通り、プラスチックの中には怒りの表情で大きく口を開けて、何か叫んでいるように見える煙のようなモノが入っている。
今にもこちら側に出てこようとする気を感じられて、夕介は思わず苦い顔になった。
「確かに、これは言えないなぁ……というか、凄いな。これを作った人が居るってことか――」
影くんは箱に近付くと中の怒り顔に驚いて、びゃっと夕介の後ろに隠れる。
「はは、大丈夫だよ。外には出てこないから。にしても……――」
夕介は少し考えてから、紙とペンを拝借して文字を書いていく。
そしてその箱の横に紙を置いて、よし、と呟いた。
「じゃ、戻ろうか。佐藤さんに何て説明しよう……」
「う〜ん」と考える仕草をする夕介をマネるように、影くんも「う〜ん」と腕を組む。
そんな影くんを見て、夕介は小さく笑って「ま、適当に誤魔化そうか」と部室を後にするのだった。
――しばらくして、オカルト研究部の部長が部室に戻ると、一番端の箱の近くに紙が置いてあるのに気付いた。
「なんだ――?」
紙を手に取り、文字を確認すると「怒らせてもいいことないよ」と一言書かれている。
「ふっ……、まだ学校に面白い奴が居るんだな」
そう部長が一人口角を上げたことを、夕介は知る由もない――
戻った。
佐藤「何が入ってたんですか?」
夕介「感情かな」
佐藤「感情…??」




