友だちに
お久しぶりです。
文化祭から数日後――。
文化祭が終わって、賑やかな雰囲気も落ち着いてきた頃、龍野涼のクラスに三年の男子生徒がやってきた。
「――失礼する。このクラスに、文化祭二日目、オカルト研究部の『憤怒』という作品に一言残していった者はいるか?」
突然の訪問者に、クラスは少し静かになる。
男子生徒は周りを見渡しながら、前のドアからここぞとばかりに口を開いた。
「もし心当たりのある者が居たら、教えてくれ。そして、もし該当者がいるなら語り合わないか――?」
そう男子生徒は心当たりのある生徒を探すように、教室を見渡す。
教室の後ろの方に居た涼と鈴木遣、佐藤縁は、ちらりと顔を見合わせた。
「……違うと思うけど、鈴木だったりする?」
「違う違う。自分から関わらないようにしてるし」
佐藤に訊かれた鈴木は、小さく首を横に振る。
「そっか」と呟く佐藤に、涼が「なんだ」と佐藤を見て言った。
「佐藤じゃないのか」
「私は見えないもん、紙に書くくらいなら本人に聞くし」
佐藤も軽く首を横に振ってから、思い出したように続ける。
「もしかして、十川さんだったり?」
「まぁ、それは有り得るな」
「結構な割合でやりそう……」
三人が「うーん……」と考えていると、他の生徒たちの反応も薄いので、男子生徒は諦めたように口を開いた。
「いないか……。まぁ、もし何か知ってることがあったら、いつでもオカルト研究部まで来てくれ。それじゃ、失礼――」
そう男子生徒は言い残すと、少し肩を落として名残惜しそうに教室を出ていく。
少しの間静かだった教室は、また徐々に騒がしさを取り戻していった。
「……オカルト研究部に知らせた方がいいのかな」
「もし十川さんだとしても、知らせなくていいんじゃね? 生徒でもないし」
気にするように言った鈴木に、涼は「大丈夫だろ」と軽く手を払った。
佐藤も「そうそう」と頷く。
「何か、面倒なことに巻き込まれそうだしね」
「どの口が言ってんだか……」
「ちょっと、それどういう意味?」
むっと涼を見る佐藤に、鈴木は「まあまあ」となだめながら苦笑した。
「十川さんには伝えた方がいいかな」
「一応伝えるか。帰りに寄ればいるだろ」
「じゃあ放課後、十川さんち集合ね!」
「楽しみ」とにこにこする佐藤に、二人は相変わらずだな……、と顔を見合わせるのだった。
*
そして放課後、三人は十川 夕介の家にお邪魔していた。
「――てことがあったんすよ」
「へえ、そんなことが?」
涼から学校であったことを知らされた夕介は、熱心な子もいるもんだ、と思いながら準備していたお茶の入ったコップを三人の前に置く。
「そうなんです、だいぶ熱入ってましたよ、あれは!」
夕介から各々コップを受け取ると、佐藤が腕を組んで気難しい顔をした。
「あの雰囲気だと、絶対色々聞かれると思います……!」
「……佐藤も似たようなもんだけどな」
「全然違うから!」
横から口を挟んできた涼に、佐藤は間髪入れずに続ける。
「私は、ただ話を聞きたいだけ。話し合ったりしたいわけじゃないし」
「……どっちもどっちじゃね」
「そんなことないです〜!」
言い合う佐藤と涼を横目に、鈴木は夕介に声を掛けた。
「あの、十川さん」
「ん……? なに?」
首を傾げた夕介に、鈴木は佐藤に聞こえないように、少し声のボリュームを下げて尋ねる。
「あの、オカルト研究部の『憤怒』っていう作品にコメント残したのって、十川さんだったりしますか……?」
「ん……? あぁ、そうだね。他にも書いた人がいなかったらおれかな」
少し考えてから夕介が答えると「やっぱりそうだったんだ」と鈴木は呟いて続けた。
「オカルト研究部の人、結構探してたっぽいんですけど、十川さんのこと言ってないです。生徒でもないし……、言った方がよかったですかね……?」
少し不安げな顔をする鈴木に、夕介は「大丈夫だよ」と笑って答える。
「言わなくてよかったと思う。鈴木くんの言う通り生徒じゃないからね。ただの通りすがりみたいなもんだし」
そう夕介が伝えると、鈴木は安心したように笑った。
「ならよかったです」
「うん、だから気にしないでいいよ」
微笑む夕介に「はい」と鈴木は頷いて、コップにそっと口付ける。
すると、佐藤が驚きと困惑が混ざったような声を上げた。
「――ええっ!? なに?! 何で浮いてるの!?」
その声に驚いて、鈴木はお茶を噴き出しそうになるのを堪えながら、顔を佐藤の方に向ける。
そこには、人の影のようなモノ――通称影くんがお菓子を両手に持って立っていた。
「あぁ、お菓子持ってきてくれたんだ? ありがとう影くん――」
お礼を口にした夕介に、影くんは「いやいや」というようにお菓子を軽く左右に揺らす。
夕介と鈴木には影くんが視えているが、涼と佐藤には影くんが視えていないため、二人には二つのお菓子の袋が宙に浮かんでいるように見えていた。
「影くんが居るんすね?」
「そうそう。気が利くよね」
涼が夕介に訊くと、夕介は笑って影くんを見る。
影くんはまた「いやいや」と両手を振ると、お菓子の袋がガサガサと音を立てた。
「ちょっ、ちょっと待って?! 龍野にも見えてるの?!」
驚きを隠せない佐藤に、涼は首を横に振って答えた。
「いや、見えてない――けど、ちゃんと居るんだなって、今お菓子が浮いてることで認識してる」
と涼は浮いてるお菓子に目を向けてから、その周りにも目を向けてみるが、やっぱり何も見えなかった。
佐藤は立ち上がると、興奮気味に影くんへ近付いて凝視する。
「ここに……居るのね……!!」
佐藤の声に答えるように、影くんはお菓子の袋を揺らしてみせた。
「すごい……! 意思疎通ができる! ……って、ちょっと待って、もしかして文化祭にも来てたり?」
佐藤の問いに、影くんはまたお菓子を揺らしてみせる。
佐藤は「ほんとに?!」と驚きながら続けた。
「来てたのね――?! ちょっと鈴木、何で教えてくれなかったの!?」
急に矛先が自分に向いて、鈴木は「えっ」と驚きながらも、おずおずと答える。
「いや、だって……、佐藤接客してたし、居るとか言ったら今みたいになると思って――文化祭中に騒がれても、十川さんとか周りに迷惑になると思ったから……」
「ぐっ……確かに……!」
普段の自分を思い出して、佐藤は「正論だわ……」と額を押さえた。
「佐藤さんは会ったこと……というか、話題に出したことなかったっけ――おれの家に居る、人の影みたいなモノなんだけど、地縛霊とかでもなくて……けど悪いモノでもないから――改めて、影くんです」
と夕介は改めて影くんを手で示す。
影くんは佐藤にもわかるように、お菓子の袋でお辞儀してみせた。
「お辞儀してくれてる……!! わあ、初めまして、佐藤縁です。よろしくね、影さん!」
佐藤もお菓子の袋に向かって、笑顔でお辞儀をする。
影くんもそれに応えるようにお菓子の袋を揺らした。
それから影くんは、涼の方にお菓子の袋を向ける。
そして佐藤にしたように、涼にもお菓子の袋でお辞儀してみせた。
「あ、俺も……? どうも、龍野涼です。よろしく――」
涼が姿勢を正してから軽く頭を下げると、お菓子の袋が揺れた。
影くんは満足したのかお菓子をちゃぶ台に置くと、ススス……と夕介と鈴木の所まで移動して二人の間に収まる。
「なんか、友だちになれたみたいで嬉しいです」
鈴木が影くんに言うと、影くんも嬉しそうに頭を縦に振った。
涼と佐藤も夕介と鈴木の間に視線を向けるが、やっぱり何も見えない。
「見えないけど、居るんだよな」
「く〜……、鈴木が羨ましい……! でも、私たちも友だちってことでいいんでしょ?」
佐藤が影くんに向かって訊くと、影くんは「もちろん」というように頷いた。
夕介はこの状況をそのまま涼と佐藤に伝える。
「影くん、嬉しそうに頷いてるよ。二人には見えないかもだけど、仲良くしてね」
「はい」
「もちろん! 今度何か目印になるようなの持ってきますね! そしたら“そこに居る”ってわかるし――」
頷く涼と、テンション上がりまくりの佐藤に、夕介はよかったと微笑む。
「ブレスレットとか、ネックレス着けたらわかりやすいかな。両手首と首に着けるとか」
「確かに、それならわかりやすいかもな」
佐藤の言葉に、涼は想像して頷いた。
影くんも「いいね」というように親指を立ててみせる。
「いいねって影さんもグッドサインしてるよ」
「ほんとに? やった! じゃあ今度持ってきますね!」
ニコニコと楽しそうに笑う佐藤に、影くんも嬉しそうに頷いた。
「変なの持ってくるなよ?」
「ちゃんと似合いそうなの持ってくるって」
「……見えなくても似合うとかわかるの――?」
わちゃわちゃと話し合う三人と、どことなくそわそわしながら三人の周りをうろうろする影くん。
そんな四人を見ながら、仲良くやれそうでよかったと、夕介は微笑むのだった――
皆が帰ってから。
影くん(軽い足取りで部屋の中をススス…と右往左往する)
夕介「嬉しかったんだ?」
影くん「♪(ぶんぶんと首を縦に振り)」




