神社にて
お久しぶりです(_ _)
文化祭に誘われた夕介は――。
ある日の夕方、十川夕介は片手にいなりの入ったパックが入った袋を提げて、近場の神社に向かっていた。
近所に住む龍野涼と、その友人たちである鈴木遣と佐藤縁に文化祭へ来ないかと誘われたので、夕介は文化祭が上手くいくようにと願がけをしようと思ったのだった――。
「……ここか――」
住宅街から少し離れて小道の奥に入った所に、その神社はあった。
赤い鳥居があり、その両脇に狐の石像が鎮座している。
「静かだ……」
「お邪魔します」と軽く頭を下げて、夕介は中に入った。
少し中を進んでいくと、聞いたことのある声が聞こえてきて、その声がする方に向かう。
賽銭箱の近くに、学校終わりなのか制服を身にまとった佐藤と、ここの神主なのか赤い袴姿のすらりとした男性が談笑しているのが見えた――。
「……文化祭の成功祈願、ですか」
「はい! 調べたらここの神社が出てきて、来てみたら雰囲気も良くて、最高ですね」
「そうですか、ありがとうございます」
ふわりと微笑んだ男性に、佐藤は「あの……」と気まずそうに続ける。
「お賽銭はしたんですけど、その横の、お供えっていうんですか? 私、今飴しかなくて、飴をお供えしたんですけど、神様は怒りませんかね……?」
と賽銭箱の隣にあるお供えを置く場所であろう所をちらりと見て、佐藤が不安げな顔をするので、男性は手で口元を隠すようにしてからくすくすと小さく笑うと、大丈夫ですよ、と口を開いた。
「あれは気持ちなので、何を置こうが置くまいが、あなたが思う気持ちだけで十分なんです」
「そうなんですか、良かった……。飴も喜んでくれるといいな」
「はは、新鮮な気持ちで戴きますよ」
そう男性は柔らかな笑みを浮かべて佐藤を見る。
佐藤も釣られて「ふふ」と笑ってから「あ」と思い出したように言った。
「そうだ、足りない材料買いに行かないといけないんだった。すいません、失礼します――」
ぺこりと頭を下げて、佐藤は男性の前から立ち去っていく。
「お気を付けて」と男性は佐藤を見送り、階段にそっと腰掛けた。
「……面白い子だった――」
ふと視線を遠くに向けると、青年が木に手を当てて、何やら話しているようだった。
「あれは……」
男性がじっと見ていると、視線に気付いたのか、青年は近くにやってきて足を止めた。
「こんにちは――」
「……キミは、狐の男の子と会った人かな」
「え……?」
青年――もとい夕介がきょとんとすると、男性は「いや」と首を振ってから続けた。
「……前に、洋服を洗ってくれた人がいると、仲間の一人から聞いてね。その人の特徴と、キミの特徴が似ていて……。違ってたら気にしないでくれ」
そう男性が苦笑いすると、夕介は「もしかして」と思い出しながら続ける。
「……それって、水色の洋服で、緑色のズボンを穿いた子のことですか?」
確かに、その子なら前に洗濯と乾燥をした記憶がある――乾燥は影くんに勝手にされていたが……。
すると男性は「やっぱり」と笑った。
「そうか、キミだったのか。その節は世話になったようで……。助かったよ」
「……ということは、あなたも……?」
「あぁ――」
男性は頷くと、耳と尻尾を見せる。
ふわりと振った尻尾は、綺麗な金色で先にいくにつれて白くなっていた。
「見せて大丈夫なんですか?」
「ん? あぁ、大丈夫だよ、すぐに隠すから。それに、キミなら誰かに言いふらすこともないだろう?」
男性は柔らかく笑うと、ふっと耳と尻尾を隠す。
夕介はそんな簡単に隠せるものなのかと思いながら、手土産を差し出した。
「あの、これ、良かったら。お供えです」
「これは、わざわざありがとう――」
男性は袋の中を確認すると、美味しそうだと呟いた。
それから顔をあげると、夕介に尋ねた。
「そういえば、さっき木と何か話していたのかい?」
「え……? あぁ、ここは過ごしやすい環境だと言ってました。それは良かったねと返してて……。変、ですかね」
そう夕介が苦笑いすると、男性は「そんなことはない」と続ける。
「誰だって、何かしら人と違う所があるものだ。その部分を、人は自分とは違っている、変わっていると勝手に決めつける。そんなことは、本人にしか分からないのにだ――。これは勝手な解釈だが、キミはきっと、小さい頃からそうなのだろう? なら、それはキミにとっては“当たり前”なことで“普通”なんじゃないか?」
男性にそう言われ、夕介は「はは」と小さく笑ってから頷いた。
「そう……ですね。小さい頃からそうでした。自分にとっては当たり前で、それが普通でした。でも、歳を重ねるにつれて、自分の普通は、他の人から見たら普通じゃないのかと感じることが増えて……。でもやっぱり、これがおれにとっては普通なんですよね――」
そう夕介は優しく微笑む。
小さい頃から身近に感じていたそれらは、怖いこともあったが、優しくしてくれたこともあった。
それをなかったことにすることは、夕介には出来ない。
「……やはりキミは、良い意味で人と違うな」
「そうですか?」
「あぁ、雰囲気がそういってる」
そう男性は笑うと、夕介から貰った物を袋から出して、いなりを取り出すと一口食べた。
「ん、美味い――ところで、キミは何を願いに来たんだ?」
残りを口に含んでから、男性は夕介に訊く。
夕介は忘れるところだったと思いながら、ポケットから財布を取り出しながら答えた。
「えっと、さっきの子の文化祭に行くので、上手くいくように願いに来ました」
「あぁ、さっきの子の所か。あの子も同じ願いをしに来ていたな」
「そうなんですね」と笑って、夕介は財布から小銭を出して賽銭箱に投げ入れる。
それから鐘を鳴らし、二礼し、二拍手してからそっと目を閉じ、文化祭が上手くいくようにと願った。
そしてそっと目を開けて、最後に一礼をする。
「――願い、叶うといいな」
顔を上げた夕介に、静かに見ていた男性がふっと笑って呟いた。
そんな男性に、夕介は疑問に思ったことを訊く。
「……ここの神様じゃないんですか?」
「ん? どうだろうね」
「え? お供え物食べたじゃないですか」
「……確かに」
と男性は真剣な顔になってから、また「ははっ」と笑って言った。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない――」
はぐらかすように流す男性に、夕介は怪しいなぁと思いながら、それ以上聞くのはやめた。
誰だって聞かれたくないことの一つや二つはあるだろう。
「……じゃあ、そろそろ帰ります。お邪魔しました」
「そうか、気をつけてな。また来るといい」
「はい――」
軽く頭を下げて、夕介は神社を後にする。
鳥居から出て振り返ると、少し離れた所で男性が見送るようにこちらを見ていた。
夕介はもう一度軽く頭を下げて、家に向かって歩き始める。
「文化祭、上手くいくといいな……」
呟きながら、あの男性は神様じゃないのだろうかと、やっぱり少し気になる夕介だった――
夕介が帰ってから。
狐の男性「――ん、美味しい(飴を舐めながら)」




