リクエスト小話・没
拍手リクエストで頂いた、「入れ替わった先で『私』として過ごすシーファ(困惑気味)の明るいギャグ風味の話」ネタを試行錯誤していた時の没文です。5パターンくらい書いた内の最長の没がこれになります。
如何に迷走し苦心していたかわかっていただけるんじゃないかと思うくらいには、決定稿より大分ギャグ要素が微妙です。
何でも許せる方はどうぞ。
目が覚めて、真っ先に感じたのは、空気が違うということだった。
否、空気がというよりも、世界の根本から違うのだと理解する。
何がどうあっても己と切り離すことのできないはずの『力』を感じられないことが、その何よりの証拠だった。
身体を起こせば、視界に入るのは全く知らない――そして『知っている』部屋。
自分にとって『見慣れない』ものを注視すれば、それにまつわる『記憶』が再生される。
その感覚を享受し、己の都合で『巻き込んだ』人物の『知識』を馴染ませていく。
――闖入者が現れたのは、その最中のことだった。
華奢なつくりの――少なくともシーファにはそう思える――ドアが壊されんばかりの勢いで開かれ、飛び込んできたのは目の覚めるような金色と、対照的な漆黒。
「おっはよー! いい朝だね絶好の登校日和だから一緒に学校行こう!」
「婦女子の部屋に無許可で入るなって何度言えば分かるこの色情魔!」
にこにこと笑う金髪の少年と、その少年を睨みつける黒髪の少年を目にして、シーファは『記憶』を探った。
該当する人物はすぐに判明する。シーファの意識が内在している肉体の――『幼馴染』だった。
己にとってのレアルードのようなものだろうか、と心中で考えつつ、恒例であるらしいやりとりを『記憶』の通りにこなす。
訝しむ様子もなく扉の向こうへと逆戻りした二人に、どうやら自分はうまく『彼女』を演じられたらしいと安堵した。
身支度を整えつつ、つい先程の『毎朝恒例』の出来事について思い返す。『彼女』はそれに慣れて色々と麻痺をしているようだったが、一般的に未婚の女性の寝起きを、複数の血の繋がらない異性が襲撃するというのは如何なものだろう――そう思うものの、彼女の身体を借りているだけの自分がその辺りのことに言及するのは得策ではない。不審に思われる土壌を築くだけで終わりそうだった。よってそれについての思案は打ち切ることにする。
身支度を終え、扉の前で今か今かと待っていた金髪の少年と、その襟首を掴んで動きを止めていた黒髪の少年を伴い、階下に降りる。
階下では、『彼女』に似通った風貌の青年が満面の笑みで待っていた。『兄』であるというのはすぐに思い出せたので、向けられた挨拶にも戸惑うことなく返すことが出来たのだが。
問題は、階段があと数段残すのみ、となったところで起こった。
こればかりはシーファの意志やら努力やらではどうしようもない、時間の解決を待つしかない
リーチの違いでふらついた身体を、伸びてきた手が支える。その主である兄はまるで死の淵にある人を見るような悲壮な顔で、体調が悪いのなら休んだ方が良いと言った。
大げさすぎるんじゃないだろうか、とシーファが思ったのも当然だったが――シーファは知らなかった。異世界に在る己の幼馴染が、それと同レベルの心配を『シーファ』となった『彼女』に向けていたことを。