お屋敷
平川翠。婚約者に振られた限界ナースだ。
そして、私は、異世界にいる。
『‥つまり、君は異世界から来たのか?』
『そうみたいです』
『‥確かに、服装が変だと思った。』
『そ、そうね。』
『‥まあいい。名前はなんて言うんだ?』
『平川翠です。』
『ヒラカワスイか、変わった名前だな.なんて呼べばいい?』
『‥スイでお願いします』
『分かった。俺の名前は、ルシアンだ。好きに呼んでくれ。』
『はい!ルシアンさん!』
なぜか私は異世界に転移され、とりあえずこのイケメンについていくことにした。
イケメンなルシアン君は口数は少ないがとてもいいこで悪い子ではなさそうだ。
彼の家で休ませてくれるそうなので、ついていく。
こういうときに見知らぬ男についていくのかやばいと分かっているが、もはや異世界に来た今。
どうとでもなれという感じだ。
彼に連れてこられたのは、森の中にある屋敷だった。
二階建てで古い洋館のような佇まいをしているが、綺麗に掃除が行き届いている。
無駄なものは何もなく必要最低限のものしかなく、利便性や機能性に特化したような屋敷だ。
この屋敷といい、彼の身なりといい、どうやらただものではなさそうだった。
『おかえりなさいませ.ルシアン様。』
屋敷の玄関にルシアンさんと立っていると、The執事!みたいな背筋の伸びた上品なお爺ちゃんが現れた。白髭がとてもお洒落だ。
『ただいま、爺や。』
『こちらのお嬢様は?』
『おじょ‥もうそんな歳じゃありませんよ』
『原っぱで倒れていたんだ。行く当てがないみたいで、面白そうだから拾ってきた。身なりも貧相だから何か着るものを与えてやってくれ。あと食べ物を。』
『かしこまりました。』
『え‥めちゃディスられた。』
『こちらへどうぞ。』
『あ、どうも‥』
爺やと呼ばれるお爺さんの後ろをついて歩く。
『ルシアン様が失礼いたしました』
『あ‥いえ‥私こそ、行き倒れいたところを助けていただいて感謝しています。』
『そうですか。ルシアン様が人を連れてくるなど珍しいですね。初めてかもしれません。』
『え?そうなんですか?』
『はい。着替えを行いましょう。私ではあれですので‥侍女をお呼びします。』
そういうと爺やは、廊下を少し歩いてドアをノックした。
するとそこからひょっこり顔を出したのは、若い女の子だった。10歳くらいかな‥??
『はい.お祖父様。』
『こちらは私の孫娘で侍女見習いのクララです。』
『は、はじめまして』
『はじめまして‥こちらの方は?』
『ルシアン様がお連れになられたお嬢様です。名前は、スイ様。湯浴みと着替えをお願いしてもいいですか?』
『かしこまりました。』
そういうと、可愛らしい雰囲気の女の子はひょっこり出てきて、部屋に案内してくれた。
『こちら客人用のお部屋になります。好きにお使いください。湯浴みの準備を行いますね。』
客人用の部屋か‥その割には私がたっくんと暮らしてた1LDKマンションより広いな‥。
セミダブルサイズのベッド。
2人掛けのソファ、テーブルが配置されていて、ラグが敷かれている。
湯浴みの準備といい、クララは隣の部屋に行った。おそらくそこにお風呂があるのだろう。水が流れる音がした。
ルシアンさんは、見た目通りどうやら貴族っぽい‥。
『あのクララさん』
『クララで構いません。』
『えっと‥クララちゃん。ルシアンさんは貴族の方なの?』
『‥知らずに着いてきたんですか?』
『ごめんなさい、この国のことあまり知らなくて、あはは。』
『‥よその国からいらしたのですか?』
『うーん.国っていうか、別世界?』
『‥ほお。』
『別に私には敬語じゃなくていいのよ。私貴族でもなんでもないから』
『でも、ルシアン様がお連れしたお客様ですので』
『そうね‥ルシアン様はやっぱり貴族なの?』
『はい。ルシアン様はジークフリート侯爵家の御子息です。』
『侯爵家!なんか聞いたことあるわ‥とにかく偉いのよね?』
『はい。偉いです。』
『うーん‥なんでこんな怪しい市民を侯爵家の人が拾って介抱してくれるの?』
『‥ルシアン様は変わり者ですから』
『へー‥そうなんだ。』
『湯浴みのお手伝いをしますね。』
『ひ、ひとりではいれるよ!』
『いえ、お手伝いします。』
‥おそらく、謎の女が現れたし、身の上を調査するためにも身体検査がてら湯浴みをするのね。
んじゃ、とりあえずお言葉に甘えて入りますか‥。
『わー!!気持ちいい!!お風呂久しぶり!』
『それはよかったです』
やばい。ちゃんと湯船に浸かるのなんて1ヶ月振りぐらいだわ。気持ち良いな‥。
それになんだか良い香り。高級なバスボムとか使ってるのかな?
『お着替えはこちらにご用意しておきます』
『ありがとう!クララちゃん!』
『はい。』
しばらく湯船に浸かってのんびり鼻歌を歌う。
あー‥極楽。
1人でこんなに広いお風呂に何も考えずに浸かるのなんて何年振りだろうか‥。
幸せだ‥身も心も安らいでいく。
一方その頃。
コンコン。
ドアをノックする音。
クララが扉を開けると、ルシアンが立っていた。
『クララ、客人の様子は?』
『はい。今湯浴みをされています。』
『そうか‥怪しいものではないだろう。』
『はい。危険なものも持っておりません。ですが‥』
『ん?なんだ?』
クララは、先ほどスイが脱いだワンピースを綺麗に畳んだものをルシアンに見せた。
『こちら、鑑識魔法にかけましたが。やはりこちらの世界のものではありません。スイ様が別世界から来たというのはおそらく事実かと思います。』
『そうか。ありがとう。』
『‥悪い人ではないかと』
『クララがいうのであれば間違いないな。ありがとう。』
『いえ、滅相もございません。』
『では、引き続き監視を頼むよ。』
『はい。かしこまりました。』
そのままルシアンは、去っていった。




