ナース・スキル
ルシアンさんに拾われて、お屋敷に来て1週間が経った。
特に何をするわけでもなく、ルシアンさんは私に衣食住を与えてくれた。
何もしないわけにもいかないので掃除や洗濯などできる限りの家事やお手伝いを行ない使用人の方とも仲良くなれてきた。
朝起きて、3食食べて、穏やかな人たちとお話ししながら太陽の下で働いて、夜に寝て、なんて幸せな毎日なんだろう‥やっぱり太陽の力って絶大だなぁ。
外で洗濯物を干しながら太陽の光と穏やかで風を全身浴びて気持ちが良い。
『スイ様。そろそろ休憩しましょう。』
『はい。』
使用人のメイドたちに呼ばれて、屋敷に戻った。
『そういえば、今日はルシアンさん見ないですね。』
『ルシアン様は王都におでかけですね。』
『へー。お仕事?』
『ルシアン様は、毎月当社様である侯爵様と共に王宮に住む国王陛下ならびに王族の方々の健康状態を診察されに行くんですよ。』
『王様の健康診断までするなんてすごいのね』
『はい、ルシアン様ほどのヒーラーは国中どこを探してもいませんよ!』
『へー!すごい!それなのに、なんでこんな辺境地に暮らしているの?』
『それは、ルキアン様が変わり者だからですね‥』
『え?』
『ルシアン様は、研究熱心で魔法の研究のほかに薬草採取や薬の研究開発にも勤しんでおられますから、この近くの森にも様々な植物がありますし、研究過程にはあまり体に良くない毒素のようなものが出ることもありますか、王都でするとテロになってしまいます。』
『なるほど.それはそうね。』
メイドたちと話しながら厨房でお菓子を食べていると、厨房のドアが勢いよく開いた。
顔を真っ青にした執事の青年がやってきた。
『大変だ!クララちゃんが倒れた!』
『え?』
急いで、クララの部屋に向かうと、部屋のベッドで横たわっており、苦しそうに息を荒くしている。
そばには、執事長であり祖父のジェイソンが心配そうにクララを見つめている。
『クララちゃんどうしたんですか?』
『あ、スイ様‥実はクララは身体が弱くてよく体調を崩すのです。いつもならルシアン様が治してくださるのですが、今は王都へ出かけられておりますので‥』
『よくこうなるの?』
『はい。月に一度ぐらいの頻度で‥』
『そう、見せてみて』
『‥え?』
スイは、クララのそばにかけると手慣れた手つきで手首の動脈に手を当てて脈を測る。
同時に胸郭の動きを確認し、呼吸数を測定した。
脈125回、呼吸数30回、それと発熱‥まだ手先は冷たい。チアノーゼはない。
少しこきが
クララは、顔を赤くして苦しそうだ。頭に氷嚢をあててもらっている。
スイは、部屋を見渡した。
クララの部屋は窓は閉め切らられており、カーテンも閉まっている。室内はじめっと湿気でおり、空気が悪い。布団は比較的新しいが埃や汚れが目立つ。
『まずは、窓を開けて換気をして。部屋が湿気ているし、室温も暑すぎる。それにまだ熱が上がりかってないのに氷で冷やしてはダメよ。』
『え、でももう体は熱いですよ』
『手先がまだ冷たいわ。もっと熱が上がる。それに体が震えている。寒い証拠よ、今は肩まで布団を被せてあげなくちゃいけない。手先まで暑くなってきたら熱が上がりきった証拠だからそこから掛け物を薄くして、脇、鼠蹊部、腰部に氷嚢をあてるの。』
『わ‥わかりました』
『それに、この布団も清潔なものに変えたほうがいいわ。清潔なシーツを持ってきて。』
『はい!』
『クララは昨日も湯浴みをしていないの。清潔にする必要があるのなら、今から湯浴みしたほうがいいのかしら?』
『今は体力が落ちてるし何より体が辛いでしょ。湯浴みや体拭きは解熱してからの方がいいわ。』
『クララの呼吸が苦しそうです』
『なら、クッションか何か持ってきて。上半身をおこすと少し呼吸が楽になるから‥』
使用人たちはクララの部屋の窓を開けて空気を入れ替え、掛け布団のシーツも新しいものに変えた。クララの背中にクッションを挟んで上半身を起こすと少し呼吸が楽になったようだ。
『クララちゃんは元々喘息持ちなの?』
『ゼンソク‥ですか?』
『えっと‥息が苦しくなりやすいの?胸からヒューヒュー音がするわ。』
『ルシアン様も同じように言っておられました。』
『ルシアンさんから薬か何か預かっていないの?』
『今は何もありません‥』
『そう‥クララちゃん、昨日から何か食べれてる?』
スイの問いかけに、クララは少し呼吸が楽になったようでゆっくりと口を開いた。
『‥スイ様、昨日の晩に、パンを食べました。』
『水分は取れてる?』
『あまりとっていません。コホコホッ‥』
『誰か、クララちゃんにお湯を持ってきて。少量ずつお湯を飲んでもらうわ』
『分かりました。』
『あと‥この部屋が汚いわ。ちゃんと掃除してる?』
『うっ‥』
少し気まずそうな顔をするクララ。
『こんな狭い部屋に埃やダニがあって換気もしてない、喘息持ちなら余計に悪化してしまうわ。ハウスダストアレルギーの可能性もあるわよ。部屋は綺麗にしないとダメよ。』
『す、すみません‥』
そして、部屋も掃除もされ、白湯を少しずつ飲み、呼吸が楽になり、熱も上がりきったことで各種部位に氷嚢を当てクーリングをおこなった。
スイは、その間。クララのそばを離れずずっと手を握っていた。
『スイ様‥』
『大丈夫.気しないで。クララちゃんにはお世話になってるから。お返しさせてね。』
2日後。
ルシアンが屋敷に戻ってきた。
『クララはどこだ?大丈夫なのか!?』
クララの状態をジェイソンから聞きつけ、急いで戻ってきたようだった。
ルシアンは、クララの部屋で急いで行って、勢いよくドアを開けた。
そこには、顔色が良くなりベッドでお粥を食べながら、スイと笑顔で話しているクララがいた。
顔色は良さそうだ。
『ルシアン様。お帰りなさいませ。』
『ルシアンさん、女の子の部屋に入る前はノックしないとダメですよ。』
『‥クララ、元気そうだな。』
安堵するルシアンをみて、嬉しそうに微笑むクララ。
『ルシアン様、ご心配をおかけしてすみません‥』
『いや、いいんだ。それよりも驚いた。いつも薬を渡さないとなかなか治らないだろう。』
『はい。けど、スイ様が看病してくださいましたので‥。』
『スイが?』
ルシアンは驚いた様子でスイを見つめた。
『スイ‥君は一体何者だ?』
『ただの元看護師ですよ。』
『かんごし‥』
『この世界にはいないんですか?病気や怪我をした方のお世話をする仕事ですよ。』
『うむ‥知らないな。何をしたんだ?』
『いえ、特に何も。部屋を掃除して換気をし、清潔な環境にしました。白湯を飲ませて、身体をさすって、呼吸しやすいように状態を起こしました。』
『‥それだけか?回復魔法は?』
『私は魔法は使えません』
『‥なんだと。』
『けど、スイ様がずっと手を握ってくれていました。とても暖かくて、体が楽になりました。』
『手を当てると書いて、手当てをすると読みますからね。ボディタッチは看護の基本です!』
『‥確かに。クララの状態はかなり良くなっている。』
『そんなの分かるんですか?』
『ああ、額に手を当てると全身の血の流れと魔力の流れを読み取って状態を知ることができる。』
『へー‥』
スイも見様見真似で、クララの額に手を当てる。
すると‥
クララの頭上にメーターと数字が現れた。
HP35/50 MP50/80 スキル:鑑定
と書いてある。
『なにこれ‥』
『‥何か見えたのか?』
『HPとMP、スキル鑑定って書いてある。』
『『‥!!!』』
クララとルシアンは顔を見合わせた。
すると、クララのHPが光り輝き『HP上限アップ。50→75へ。』と表示された。
『クララちゃんのHP上限が上がったわ‥』
『え!?』
『そ‥そんなこと分かるのか!?』
『クララちゃんの頭上に出てるわよ。ルシアンさんもそれをみてるんじゃないんですか?』
『俺のはあくまで、血の流れと魔力の流れから状態を読み取り、評価するだけだ。正確な数値が出るわけでない。』
『そ‥そうなんですね。』
『‥やはり、スイ。君は女神様から導かれた人間だな?』
『え?女神様?』
そういうと、ルシアンは胸元につけているロケット型のブローチを取り出して.中に入ってる一枚の肖像画を見せてきた。そこには、美しい女神のような女性の姿が映し出されていた。
『彼女が女神フローレンス様だ。』
『フローレンス‥』
『フローレンス様だ!』
『はい!失礼しました!フローレンス様!』
『ゴホン‥この世界の創造主であり、加護をお与えることもできる癒しの女神だ。祈りを捧げることで癒しと苦痛の軽減ができる。そして、女神様の魔力は暖かくそして癒しなのだ。』
『へー‥私はこの人に導かれたの?』
『君を見つけた日。私は1人で薬草を取りに森へ行った。するとこのロケットが光り出して、一本の光がまっすぐどこかを指してきた。その先へ進むとそこに君がいた。』
『‥ええ。』
『君を見つけて、君のそばまで行くと光は消えてしまったんだ.おそらく君を見つけるように女神様が頼んだのだと思った。だから俺は君を助けたんだ。』
『なるほど。そういうわけでしたか‥』
『君は女神様の力を持つ魔法使いか?』
『あー‥私、特に信仰心熱いタイプじゃないからそういうのはちょっとよくわからないわ。ごめんなさい。』
『ふむ‥まあいい。』
『‥あ、はい.そりゃよかった。』
『君はしばらく俺のそばで監視する。その看護とやらがどういうものなのか俺の目で確かめよう。』
『え‥』
『よろしく頼む』
『あ‥よろしくお願いします。』
この私に拒否権などない。
なぜならこの人に見限られたら、住む場所も食べるものも、仕事もお金も着る服もない。
とりあえず今はこのルシアンさんのいう通りに動こう。




