第4話 見えない戦場
戦場で戦うのは、何も兵士だけではない。
アキラとレイが地下で“ナニカ”と対峙しているその頃ーーー
遥か後方でも、別の戦いが繰り広げられていた。
輜重隊
前線へ物資を運ぶトラックが、夜の荒野を走る。
敵影はない。だが、緊張は消えない。
「急げ!あの二機が動くなら、燃料がいくらあっても足りん!」
砂煙の向こうで、誰かが叫ぶ。
彼らの戦場は“補給線”そのものだった。
調達部隊
基地の倉庫では、別の戦いがあった。
「これも足りない、あれも足りない・・・・・・誰だよ、こんな計画立てたのは!」
「文句言う前に走れ!前線は待ってくれねえ!」
必要な物資をかき集め、足りないものは他部署から奪い取る勢いで動く。
彼らの戦場は、“在庫“だった。
経理
そして、最も過酷な戦場がここにあった。
「経費が・・・・・・増え続けています・・・・・・!」
「予算枠を超えました!
このままでは、我々の“来年度”が死にます!!」
「死ぬのは来年度じゃない!今だ!!」
数字という名の敵は、容赦なく襲いかかる。
彼らは電卓と書類を武器に、今日も戦っていた。
「・・・・・・認めたくはないが、
“調律者“がここにいれば“楽ができた”と思ってしまうな」
白衣の男が、書類を机に投げる。
「だが、いないものは仕方ない。
我々のやり方で対処する」
その笑みは獰猛だった。
だが、どこか懐かしい。
“かつての同僚”の影が、微かに宿っていた。
地下空洞
そして、すべての戦場を俯瞰するようにーーー
トリックスターはコーヒーをすすりながら呟く。
「さて、みんな頑張ってるねえ。
戦場ってのは、どこにでもあるもんだ」
湯気の向こうで、目覚めた“ナニカ”が二機へ襲いかかる。
「さあ、次はどんな“選択”を見せてくれるのかな」
敵の笑みは、誰よりも楽しそうだった。
概念の凝縮体
それは恐れ。
あるいは敬意。
信頼と拒絶。
希望と幸運。
そしてーーー名城しがたい“ナニカ”。
それはただの感情ではなかった。
ただのエネルギーでもなかった。
概念、とりわけ「感情」に関わるものが凝縮し、
同時に拡散したかのようなーーー矛盾そのものが成立した存在。
イグニスのセンサーが震え、アークのコアが低く唸る。
「・・・・・・これ、感情の“塊”か?」
アキラが息を呑む。
「違う。塊じゃない・・・“流れ“だ。
でも、流れているのに、そこに“居る”・・・・・・?」
レイの声は、理解を拒むように揺れていた。
その“ナニカ”は、形を持たない。
だが、確かに“触れてくる”。
恐れを押し付け、
敬意を与え、
信頼を囁き、
拒絶を突きつけ、
希望を見せ、
幸運をちらつかせる。
矛盾が矛盾のまま、成立している。
まるでーーー
*世界の裏側に流れる“感情の総量”が、一つの意思を持ったかのように*
イグニスの装甲が軋む。
アークの外装に走る光が乱れる。
「アキラ、来るぞ!」
「わかってる!」
二人が操縦桿を握りしめた瞬間、
“ナニカ”は2機へと襲いかかった。
ーーー
その様子を、トリックスターは湯気越しに眺めていた。
「感情ってのは便利だよねえ。
形にもなれるし、形にならなくてもいい。
・・・・・・さて、二人はどう“扱う”かな」
彼の笑みは、いつも通り“楽しそう”だった。
だが、その瞳の奥にはーーー
ほんの一瞬だけ、別の感情が揺れた。
それが何だったのか。
恐れか、経緯か、あるいはーーー名状しがたいナニカか。
誰にもわからない。
名がもたらす変化
“ナニカ”が迫る中、イグニスとアークはそれぞれの方法で応じた。
イグニスは、火のように燃える意思を持っていた。
怒りではない。焦りでもない。
*「進む」ことそのものが炎なったような、純粋な推進力。*
アキラが操縦桿を握ると、機体のコアが脈動し、まるで心臓が鼓動するように熱が走る。
「イグニス、行くぞ!」
応えるように、白い光が赤へと変わり、
炎の尾を引くように、“ナニカ“へ突撃した。
一方、アークは氷のように静かだった。
レイが息を整えると、機体の外装に走る青いラインがまるで“凍てつく風”のように冷たく輝く。
アークは守る。
だが、それは受け身ではない。
**“護るために立つ“という、揺るぎない意思。**
迫る“ナニカ“の波動を受け止め、
その衝撃を吸収し、拡散し、無力化していく。
「レイ、後ろは任せた!」
「任せろ。アークは・・・・・・こういう時のためにいる」




