60.腕の中で
身体の重さが、ずしりと増したようだった。
「ルナ……?」
周囲では制御を失った薔薇の蔦がさらさらと光の粒に変わって空中へ漂っていく。ルナの姿だけが、そこだけ時間が止まったように静かだった。
「ルナ! イヴァン!」
俺の前にアイリーンが膝をつく。小さく震える手が、ルナの首元や鼻先を何度も往復する。アイリーン、と声をかけようとしたタイミングで、すっと横から男性の手が割り込んできた。
「失礼」
白手袋を外したソフィーンの手が、ルナに触れる。数秒の沈黙。そして、静かに首を振った。
ソフィーンが何を伝えようとしているのかは分かる。なのに、その意味だけが頭に入ってこない。
温かいルナの身体を抱き寄せる。力なく傾いだ頭が胸に深くもたれかかった。
いつもと変わらない、はずの温もり。
「ルナ」
起きろ。……否、起きるはずだ。だって、そうだろう?
そんなはずない。嘘だ。
頭の中だけ騒がしいのに、焼けるように熱い喉からは何も出てこない。
俺の肩に置かれた手の感触に、遅れて振り返る。ライアスやカイ、リヒトが顔を歪めながら、絞り出すように俺を呼んだ。
彼らの言葉が右から左に通り過ぎていく。視線を腕の中に戻すと、穏やかな表情のルナが変わらずそこにいた。
思い描いていたルナとの夢が、音もなく崩れ落ちていく。
俺はいつまでも、腕の力を緩めることができなかった。




