61.空白の中で
帝都から少し離れた丘の一角。堂々とした佇まいの教会の横には墓石が等間隔に並び、色とりどりの花が添えられていた。
その中の一つ。
『ルナ・フォルテ・ディ・アーク』
そう刻まれた墓石には他の墓よりもたくさんの花が添えられて鮮やかだ。
「何とか今日中に来れてよかった。ルナ、元気にしてるか?」
返事がないことは分かっている。それでも、ここに来るとつい話しかけてしまう。
返ってくるのは静寂とひんやりとした石の感触だけ。分かっていても胸が痛くなる。
「あれからもう3年……か。月日が経つのはあっという間だな」
少しだけ沈黙が落ちる。風が、墓地の花を揺らしていく。
「……変わったことは、いろいろあったよ」
言いかけて、そこで言葉が途切れる。
変わった。確かに変わったはずなのに、何がどう変わったのか、うまく言葉にできない。世界は何事もなかったかのように進み、自分だけ別世界に落とされた。そんな気分。
「……俺はまだ、ここから動けてない」
指先に力が入る。離すと、本当に全部終わってしまう気がして。
――隊長、と遠くで聞こえた気がした。
反射的に振り返るが、誰もいない。
「……気のせいか」
気付けば、そういうことが増えていた。
ルナの声を聞いた気がして、立ち止まる。ルナの気配を感じて、手が止まる。いるはずがないのに、それでも、身体の方が先に反応する。
空はいつも通りに明るい。あの日と同じように、何もなかったみたいに。
ふ、と息を吐いた俺は首元からネックレスを取り出した。ペンダントトップにマリアライトの紫が光を受けて輝く。
あの懐かしい日々の中で、お互いの色だと笑いあった光景だけは、今でも鮮明に思い出せる。
指先でそっと握りしめる。冷たいはずのそれが、妙に温かく感じた。
「……また来る」
胸元にネックレスを大切にしまい直す。
遠くで風が草花を揺らした。




