57.底なしの器
部屋中に銃声が響く。
ぱらぱらと天井から砂塵が落ち、低く地鳴りのような振動が地面を揺らす。
ソフィーンに腕の拘束を解いてもらい、ゆっくりと身体を起こした私は改めて「状況を」と情報を求めた。
「お前を拘束していた奴らはまだ応戦中だ。ハルトとマゼルカ、あとはお前の仲間もな」
シルヴァの背後を覗くように見れば、イヴァンの作り出した炎が敵を覆うように取り囲んだところだった。しかし、その隙間から雷撃が飛んで簡単に近づけていない。
応援に、と腰を上げかけたところでシルヴァに腕を掴まれた。流せ、と言われ一瞬考えた後、私は体内の魔力をほんの少しシルヴァへ渡す。魔力が抜けた感覚はほとんど無い。けれど、シルヴァだけが露骨に顔をしかめた。
「くっ、相変わらず濃密な魔力だな。酔いそうだ」
そう言いながらも魔力が受け入れられていく。先程まで全身にまとわりついていただるさが、幾分か軽くなった。
「そのまま聞け。元々この島が浮いていたのは、あの水晶内に充満した魔力によるものだ。ルナリアナが水晶を壊した結果、どれだけ魔力を入れても外へ出ることが無くなった。そして、留まった魔力がやがて重力に反する力となった。理屈は分からんがな。……その魔力が今、あの水晶の中にはない」
淡々と告げられる言葉に、息を呑む。わずかに傾いた床が、この異常事態を嫌でも感じさせた。そんな私に構うことなく、彼が呟く。
「……無理に昔の装置を起動するからだ。せっかく世界から魔法という技術が消えたというのに、復活させようとする気が知れん」
再び銃声が響く。熱風が吹き抜け、遠くで誰かの怒号が聞こえた。
けれど、私はシルヴァから意識を離すことができない。
「……魔力を戻せば、エスティアを再び浮かせられるんですか」
「理論上はな。だが、元々あった魔力分を詰め直したところで、前と同じように浮くのか、どうなるのかは分からん」
それでも、やってみるしかない。私は自分の真下にある石板に手の平をピタリとくっつけた。
先程シルヴァに送った時とは打って変わって、遠慮なく魔力を注いでいく。しかし、まるで底なしの器に入れているかのように、全く手ごたえが無い。早々にシルヴァからストップが入り、私は手を離した。
「石板もそうだが、水晶もどこかにひびが入ったんだろう。魔力の漏れが多すぎる。このまま魔力を入れても、お前の方が先に魔力切れだ」
シルヴァの視線が、石板ではなく私へ向く。その意味を理解して、背筋が冷えた。
その感覚を振り払うようにして意識を引き戻す。とにかく、今は魔力を集めるのが先。となれば、皆から魔力を分けてもらうしかない。そう考えて私はようやく、イヴァン達のもとへと駆けだした。




