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51.未完の起動

 これまでの認識が、音もなく崩れていく。


「……どうして」


 脳内を巡る言葉が零れ落ちる。その問いに、男――王弟は視線を斜め上に上げ、考え込むようなしぐさを見せる。そうだな、と呟くと、こちらに歩み寄りながら両腕を広げた。


「魔法というものは、本当に素晴らしいと思わないか」


 その手から、ふわりと魔力の筋が浮かび上がる。髪を風が吹き上げていった。


「思い描くだけで、風を操ることができる。火や、水、電気まで生み出せるんだ。お金も、資源も使わずに。しかし――」


 王弟は背後の巨大な魔晶石へと目を向けた。淡い紫の光が、一際大きく脈打つ。


「何事も、きっかけというのは必要でね。我々は魔晶石を持つことで、身体の中の魔力製造器官を活性化させた。では、その魔晶石はどこからやって来たと思う?」


 背中越しに問われた内容に、嫌な予感がする。思わず息を詰めたのが分かったのか、王弟は肩越しににこりと笑って見せた。


「そう、君だよ。ルナ嬢。正確には、無属性と呼ばれる魔力をもった人間。自然界の中のごく微量な魔力を吸い取り、溜め込むことのできる人間だ」


 無属性。これまで分からなかった自分の属性。周りに誰も同じ魔力をもつ人がいない不安を抱えたこともあった。それが、名前が付けられていたと分かったのに、恐怖が消えない。


 王弟が一歩、こちらへと歩み寄る。

 逃げるように、足が半歩下がった。しかし、私の背後には黒服たちが立ち並んでいて、すぐに行き場を失う。

 目の前まで近づいてきた王弟の人差し指が、胸の中心を指差す。心臓を止められたかのような錯覚に、思考が止まる。


「無属性は、体内に魔力を蓄え続ける。……普通の属性なら、魔力が許容限界に近づくと暴走し、発散しようとする。しかし、無属性だけは、違う。その魔力を圧縮して、失わずに保ち続けることができる。極めて効率的だ。無駄がない。さらに、その力は外へと取り出すことができる。魔力と親和性の高い水晶に流し込めば、魔晶石となる。人の手で制御可能な、“安定したエネルギー”の誕生だ」


 王弟の視線が私の髪へと向けられる。かつて黒かった髪は、毛先から根元まで紫に染まっている。しかし、思えば数日前より色が深い。そんな気がした。


「ただ、魔晶石の有効範囲は有限だ。我々も、魔晶石を常に持ち歩かないと使えない。だからこそ、太古の人々は長い年月をかけて技術を完成させた。それが、これだ。世界中に魔力を供給するための装置。巨大な魔晶石と魔方陣によって、魔晶石の影響をより広範囲に及ぼすことができる」


 見れば、魔晶石の表面には魔法陣らしき紋様がびっしりと刻まれている。そして、魔晶石の反対側には、一段高く盛り上がっている石畳があった。私がそれを見ていることに気づいたのか、王弟がああ、と声を漏らした。


「大事なことを言っていなかったね。ルナ嬢には、私の理想の実現を手伝ってもらいたくてね。多少強引な手段になったことは謝ろう」


「……王弟殿下の、理想、とは?」


「人類の進化だ。後に人々は、私を偉人というだろうね。魔法という新しい力を、全ての人に平等に与えた人物だと。そして、私はそんな新世界の王になる」


 一拍置いて、王弟はゆっくりとこちらを見下ろした。温度の無い瞳に囚われて、喉がひくりと鳴る。

 拘束されたままの腕を掴まれたかと思うと、石畳の方へと引きずられ、投げ出される。受け身を取れずに倒れ込んだ私に向かって、王弟は優し気な表情で、にこりと微笑んだ。


「その礎として、君には役立ってもらう。安心したまえ。命を無駄にするつもりはない。君の中に蓄積されたそれは、壊れるその瞬間まで、余すことなく使うと約束しよう」


 言葉の出ない私から離れ、黒服の差し出した古い本を丁寧な手つきでめくり、読み上げていく。その言語は聞き覚えの無い、妙なリズムをもったものだった。


「うっ、ぐ……」


 言葉が重ねられるごとに、体内の魔力の巡りが早く、熱くなっていく。何もなかったはずの石畳には、私を中心に魔方陣が淡く輝き現れた。

 その一部から伸びた光の線が、魔晶石へと繋がる。光が魔晶石に触れた途端、全身を押しつぶすような強い圧と酩酊感に襲われた。首をもち上げるのすら、難しい。

 乱れていた光が、魔晶石の表面で一瞬だけ静まり返る。波打っていたそれは、均一な輝きへと整えられていった。そして、魔晶石を上へ上へと昇っていく。一筋だった光はだんだん強くなり、量も増していく。

 天井近くに達したときには、既にこの空間を明るく照らすほどの量になっていた。一際大きく刻まれた魔方陣に光が灯り、文字が露になっていく。


「やはり、無属性が必要だったか。先程は不発だったが……ああ、ついに! ついに、私の世界、が……ぁ」


 上ずった王弟の声は、しかし途中でしぼんでいった。光輝く魔方陣の線や文字が、大きくえぐれている。道の閉ざされた魔力が魔晶石の中で蠢いているのが分かった。

 それでも魔力は流れ続ける。低く、不快な振動が空間を満たす。魔晶石の表面がわずかに歪み、光が内側から押し広げられるように膨れ上がった。

 やがて――


 ピシッ


 大きくヒビ割れたかと思うと、魔晶石は嘘のようにその光を失っていった。

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