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魔法術士は強くない  作者: 鳴瀬ルナ
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第四話 上級魔法は難しい


 魔法術を練習し出して一年が経った。


 俺は今母さんと王都ラベラの外にいる。

 所々に木が生えているが、草原が広がっていて風が涼しい。

 奥には川が見える。

 王都の周りには魔物は一匹もいない。

 まあ魔物が出るところに王都なんて置かないよな。

 魔物はいないが、王都という事もありラベラは城塞都市になっている。

 門はでかかった。


「よし、ここら辺ね」


 母さんが麦わら帽子を抑えながら一本木が生えた丘で立ち止まる。


「じゃあ今日もはじめましょっか」


 俺は三歳にして、初級•下級•中級の四元素魔法を覚えた。

 覚えてからは反復練習をしていた。

 一年間ずっと魔力を使ってきたので、魔力量もかなりある。


「はーい」


 俺はまず地面に触れる。


巨大岩(ヒュージロック)!」


 呪文を唱える。

 身体に魔力が流れるのが感じる。

 しかし、流れるだけで発動する寸前で散ってしまう。

 少し待っても何も起こらない。


 やっぱりだめか…


 俺は中級までの四元素魔法は難なく覚えることができた。

 しかし、上級は違った。

 全然できない。

 発動するイメージも頭で思い浮かべてる。

 しかし、魔力が寸前で散ってしまう。


「母さん、今日もダメみたい」


 ちょっと悔しいな。

 今まで順調だったから、余計に。


「うーん。原因はわかるの?」


「発動する寸前で魔力が散っちゃう」


「魔力が散る、ねぇ」


 母さんが顎に手を当てる。


「アルス、中級まではどうやって発動させてたの?」


「発動する瞬間をイメージしてた」


「魔力を操作しようとしたことはある?」


「魔力を操作?」


 あのビビッとくるやつ、操作できんの?


「そう。身体に流れる魔力を操作することよ」


 母さんが続ける。


「あなた、多分今までイメージする事で無意識に魔力が操作されていたんだと思うわ」


 なるほど。

 イメージする事で脳が勝手に魔力を調整してたってことか?

 能動的か受動的かみたいなやつ?

 いや、ちょっと違うか。


「普通なら、まず詠唱で初級から魔法を練習するの。中級くらいまでね。それで魔力を操作する感覚を掴むんだけど、アルはね…。あと、上級は初級から中級の魔法を魔力を上手く操作して威力をあげたりするのがほとんどよ」


 上級魔法は初級から中級の発展的なやつなのか。

 今までは無意識の領域でできたけど、流石にこれからは操作することを意識しないとダメっぽい。


「例えばね。風圧(ウィンドプレス)


 ブォン!!


 母さんの目の前で風が吹く。

 風圧(ウィンドプレス)は風の中級魔法だ。

 目の前に広範囲の風を吹かせる。


衝撃波(ショックウェーブ)


 バァン!!


 鈍い音がする。

 母さんの目の前の空間が歪んで見えた。

 こ、こわ。

 母さんこんな事できんの?

 白い魔女様、さすがです。


「今のはね、風圧(ウィンドプレス)の応用なの。風圧(ウィンドプレス)を発動させる時に注ぐ魔力を多くして、範囲を狭めたものが衝撃波(ショックウェーブ)。まあそんな感じに魔力を操作させるのよ」


 ほう。

 範囲を狭める、か。


「火の上級の爆発(エクスプロージョン)も、火球ファイアボールを生成して圧縮するだけよ」


火球(ファイアボール)


 ボワッ


 五メートルほど先の方に火球ができる。

 放出系魔法術って、その場に生成させる事もできるんだ。

 初めて知った。


爆発(エクスプロージョン)


 目の前にあった火球が見る見るうちに小さくなる。


 バァアン!


 小さくなったと思ったら、急に爆発した。

 びっくりして肩がビクッてした。

 ちょっと恥ずかしい。


「すごい」


「でしょ」


 母さんがドヤ顔をかます。


「あ…」


 母さんが声を上げる。

 俺は母さんを見ると、母さんは爆発が起こった方を見ていた。

 俺もそっちを見てみる。


「あ」


 地面に生えた芝生に少しの火がついていた。


水陣(ウォーターエリア)!」


 母さんが手を伸ばした。

 火の付いていた場所の辺り一面に水が張られた。


「危なかった…」


 母さんが肩を下ろす。

 芝生が燃えても大火事になる事はないが、辺りの芝生が焼け焦げるのは動物の生態的にまずいし、ご近所さん達から石を投げられそうだ。


「ま、まあ、こんな感じで周りに葉っぱとかがいっぱいあったらなるべく火魔法は使うのを控えましょうね」


 まるでわざとですよと言わんばかりに母さんが教えてくる。

 この人も、父さんと似てどこか抜けてるところあるよな。


「わかった」


 母さん、息子の前でカッコつけたかったのかな。


「コホン」


 母さんが咳払いをする。


「じゃあ衝撃波(ショックウェーブ)ね。範囲を狭めるイメージよ」


 範囲を狭める…


 身体に流れる魔力を意識する。

 狭く、狭く、狭く。


衝撃波(ショックウェーブ)!」


 …


 だめだ。

 結局何も起こらなかった。


「だめみたいね…。そうだ、アル。魔道具を使うっていうのはどう?」


「魔道具?」


「そう、私が初めてお父さんの鍛冶屋で買ったやつよ」


 昔聞いたことがあったな。

 たしか父さんが初めて作ったやつだったか。

 指輪だっけ?

 あ、違う、腕輪だ。


「腕輪のやつ?」


「そう。あれはね、魔力操作の補助の効果がついているの。今度使ってみる?」


 魔力操作の補助の効果…。

 それを付けて感覚を掴もうってことか。


「使ってみたい」


「わかったわ。とりあえず今日は帰ろっか」


「あ、そうだ」


 母さんが振り返る。


大地の恵み(ブレッシング)


 母さんが呪文を唱えると、さっき爆発で焼け焦げた芝生がどんどん青色に戻っていく。


 なにあれ!


 俺は気になって母さんに聞く。


「母さん! 今のなに?」


「ああ、これ? ブレッシングって言う回復魔術ね」


「回復魔術?」


 魔術か。

 確か魔法とは別のやつだ。

 四元素魔法の応用? 派生? か何かだったな。


「そう。系統的には土に属するわ。大地に染み込んでいる魔素を生命力に変換するの。だから回復魔術」


 へぇー


 この世界には病院とか無さそうだな。

 便利すぎる。

 足の小指ぶつけても、すぐ痛み和らぐじゃん。


「僕も使えるようになる?」


「アルならすぐにできちゃうよ」


 母さんが俺の手を握る。


「帰りましょ」


「うん」




 家に帰って母さんの腕輪を付けさせてもらったが、大人用のものが三歳児に合うはずがなかった。

 そして俺は新しく父さんに作ってもらう事になった。


――


 次の日。


 俺と父さんは今鍛冶屋に居る。


「魔力操作の補助かぁ…」


 父さんがぶつぶつ呟いていた。


「アル、大きくなっても使えるやつがいいよな?」


「うん」


 腕輪だと大人になった時に小さくて使えなくなるので、俺は父さんに別の物を作ってくれる事になっている。


「よし、何を作るか決めたよ」


 父さんがガタガタと引き出しを漁る。

 ある引き出しからは革紐、別の引き出しからは小さな金属。

 そして棚に置かれた青く光る丸い石を手に取った。


「父さん、僕に火つけさせて」


「ん? いいぞ。そういえばアルは今上級の魔法に挑戦してるんだって? 凄いな、お前は。 お父さん火と風の中級までしかできないよ」


 父さんが俺の頭を撫でてくれる。


着火(イグニション)


 嬉しくて少し声のトーンが高くなる。

 精神年齢は高校生くらいのはずなのにな。

 何故か撫でて欲しくなる。

 これが子供の本能なのだろうか。


「じゃあ後は任せろ」


 父さんが作業に入る。

 まずは小さな金属の棒を温める。


 温め終わると、金具を使ってそれを丸め出した。


 数分後。


 父さんが一旦手を止めた。

 作業台には加工された金属、そして石が置かれてある。

 これから溶接の作業に入りそうだ。


 父さんはルーペをたまに持ちながらジリジリと溶接作業をやり始める。


 数分が経ったところで父さんがブリーズを唱えて埃を払う。

 作業台に置かれた革紐をバチカンへ通す。


「完成だ」


 父さんが手に持っていた物を見せてくれた。


 ペンダントだ


 綺麗な青い石が埋め込まれている。


「王国一の魔法術士の誕生だな」


 父さんの白い歯が見える。

 俺の首に青いペンダントをかけてくれた。


「ありがとう! 大事にする!」


――


 三日後。


 俺はいつもの丘まで母さんと歩く。


 そういえば俺、魔法を覚えても何に使うか考えてなかったな


 ふと頭の中でそんな考えがよぎった。

 魔法がかっこよくて使いたいから魔法を練習する。

 っていうスタンスで今まで覚えてきたけど、いざ魔法が使えるようになるとなぁ…。

 目的見失っちゃったよ。


 今度は冒険者になってみようかな


 それならせっかく覚えた魔法も有効活用できそうだし。


「ふぅ」


 母さんが一呼吸する。


 ああ、着いた


 考え事をしているといつの間にか丘まで歩いてきていた。

 俺は父さんからもらったペンダントを首にかける。


「まあ! ペンダントを作ったって言うのは聞いていたけど、とても綺麗ね。そのペンダント」


「うん、お気に入り」


「お父さんに作ってもらえてよかったね」


 母さんがニコニコと笑う。


「じゃあ、やってみる」


 俺は手を地面に置く。


巨大岩(ヒュージロック)!」


 地面を触れた手先から身体を流れていた魔力がまるで吸い込まれるかのように失われた。


 ゴゴゴゴっと大きな岩が地面から出現する。


 やった!!


 できた。

 上級ができた。

 ついにできた。


「アルス! やったわね!」


 まるで自分の事のように母さんが喜ぶ。

 俺も嬉しい気持ちでいっぱいだ。


 俺は目の前の岩を観察する。


 上級魔法かぁ…


 ヒュージロック。

 文字通りのでっかい岩だ。

 攻撃型というよりはどちらかと言えば防御型だな。

 いざという時に遮蔽物になりそうだ。

 あとはちょっと小さくした物を複数個作れば目眩しにもなるかもしれない。


 次に俺は手を伸ばして岩に向ける。


 狭く、狭く、狭く


衝撃波(ショックウェーブ)!」


 バァンッと鈍い音がする。

 目の前衝撃波が生まれた。

 反動で自分も少し後ろへ押されて一歩後ろへ下がってしまう。

 目の前にあった大きな岩がドォンッという衝撃音と共にゴロゴロと崩れてゆく。


 つ、強すぎる


 人に向けるべきものじゃないのは猿でもわかりそうだ。

 骨折れるぞこんなの。

 もしかしたらそれどころじゃないかもな。


「アルス。あなた、もう立派な魔法術士よ」


 母さんがしゃがんで俺の目線に合わせる。

 母さんは真剣な顔だった。


「いい? あなたはもう人を傷つけるほどの力を持っているわ。あなたは強いの。むやみに力を使わないって約束できる? 人を傷つけないって約束できる?」


 まあ、そっか。

 今の俺が持つ力は、人だって殺せるかもしれないんだ。

 まあ前世では人を殴ったこともない。

 高校生のノリでケツバットとかやっても、実際は大した威力ないのに「やべ、やりすぎたかも」って思っちゃう。

 それほどには人を痛めつけるのに耐性がない。

 ようは俺はヘタレっぽい性格だ。

 そんな俺が魔法で人を傷つけられるわけがない。


「うん、魔法で人を傷つけない」


「約束よ」


 母さんと小指を組んだ。


――


「ふぅ」


 そろそろ寝る時間だ。

 俺はベッドに寝っ転がる。

 とうとう覚えることもあと少しになってきたな。

 そうだ、回復魔術とやらをまだ習得できていない。

 こんど練習してみようか。

 母さんは魔素を生命力に変えるって言ってたな。

 うー。

 すごく難しそうだ。



「やぁ」




 は?


 声がした。

 無邪気な声だ。

 びっくりして声がした場所を振り向く。


「ああ、驚かせてごめんね。僕、アズエル」


 そこには、椅子に逆向きで座っている男の子がいた。

 見た感じ元気そうな男の子だ。

 髪は薄い水色をしている。

 背中には白い翼が生えていた。


「だ、誰ですか」


 俺は咄嗟に腕を前へ突き出して魔法を唱える準備をする。

 ペンダントを付けていない。

 だから今は上級は使えない。


『約束よ』


 母さんの言葉がよぎって冷静になる。

 だめだ、俺は今この子に魔法を使おうとしたのか?

 なんでだ?

 この子に異常なまでの違和感を感じるからか?

 防衛本能か?


「だから僕、アズエル。安心してよ。別に悪い事しようだとか考えてないよ?」


 ニンマリと男の子が笑う。

 名前はアズエル、か。

 何しに来たんだ?


「どうやってこの部屋に入ったんですか? あと何しにここに来たんですか?」


「どうやってって、普通に窓からだよ。ほら」


 俺は窓に目をやる。

 いつのまにか空いていた。

 いや、俺が開けていたんだっけ?


「僕はね。ただ君とお話がしたかったんだ」


「話ですか?」


「そう。お話ー」


 アズエルは足をぶらぶらとさせる。


「君、転生者だよね」


 心臓がキュッとなる。

 なんでこの子は俺が転生した事を知っているんだ?

 わからない。

 とりあえずとぼけておいた方がいいかもしれない。


「転生者、ですか?」


「とぼけなくていいよ。君、転生魔術使ったんだろ?」


 アズエルが興味深そうに俺に聞く。


「転生魔術?」


「もしかして失敗してる?」


 うん、何言ってるのこの子。

 内容がイマイチ入ってこない。


「ふーん」


 まるで心が見透かされているかのようにアズエルが話し出す。


「転生魔術は古代魔術の一つさ。現代でそれが使えるのって覇王ヴィリマリスっていう魔族くらいだよ。けどもう一人いたんだ。ここにね」


 アズエルが指先を下に向けて「ここ」とジェスチャーをする。


「君が何者か知らないけど、君は恐らく転生魔術で失敗したんじゃないかな。前世の記憶がないんだろ?」


「まあいいや。今日は様子を見に来ただけだし。機会があればまた今度お話ししようねー」


 アズエルの姿が二重にも三重にもブレた。

 すると次の瞬間にはアズエルの姿は無くなっていた。


 なんだったんだ?

 転生魔術?

 俺は日本から転生してきた。

 そんなものは知らない。


 話を整理しよう。

 まず転生魔術という古代魔術がある。

 それが今使える人は一人しかいない。

 アズエルは日本から転生した俺も転生魔術を使って転生したんだと思ってる。

 しかし記憶を引き継げずに失敗したと思ってる。


 まて、記憶を引き継がない転生は普通の輪廻転生と同じじゃね?

 いや、アズエルは転生魔術を使ったかどうかを見分ける術があるのかもしれない。

 日本から転生した俺が何故かそれに引っかかった。

 そしてアズエルは俺が転生魔術が使えるすげー奴だと勘違いした。

 こんな感じか?


 結構頭の整理ができてない。

 アズエル。

 なんなんだったんだろう。


 俺は眠りにつくまでに時間がかかった。

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