第三話 四元素魔法
ザラザラー
出来た!
嬉しくてもう一度やってみる。
「土生成!」
ザラザラー
やっぱりできる。
魔法術を使うにはイメージが必要なんだ。
それに、土生成が発動する時、身体の中でビビッと何かが流れる感覚があった。
これが魔力なのかな?
今度は魔力に集中しながらやってみよう。
「土生成!」
確かに何かが流れた感覚がある。
これはやっぱり魔力だ。
俺、魔法使えるじゃん!
俺は椅子から飛び降りて喜んだ。
今の俺はこの世界の頂点に君臨するんじゃないかと思うほど。
アドレナリンがどばどばだ。
うっ…
視界がゆらゆらと歪みだす。
なんだ? 新手のス…。
バタンッ
俺の意識が飛んだ。
――
イザベル視点
ドンッ!
今二階から物音が聞こえた。
え?
そういえば最近はずっと庭で遊んでいたアルスも、今日は雨だから家の中で遊んでたはず。
アルスに何かあったのかしら?
私は急いで夕食の準備をする手を止めて、二階へ続く階段へ急ぐ。
「アルー。大丈夫ー?」
階段を上りながら声をかける。
アルスの返事が返ってこない。
不安ね
本棚がいきなり倒れてきたり、足を滑らせてベッドの角に頭ぶつけちゃった?
嫌な事しか想像ができないまま、アルスの部屋の前まで来た。
コンコン
「アルー?」
ノックをしてからドアを開ける。
うそ…
私が目にしたのはアルスが床に倒れている光景だった。
「アル!」
私は急いで駆け寄る。
「大地の恵み!」
とりあえず回復魔術を使って頭にできているたんこぶを治す。
よかった、寝ているだけみたい
本棚が倒れてきたりはしていない。
頭を打って倒れたってことではなさそうね。
でもさっきのたんこぶ…。
倒れて頭を打ったのかしら?
もしそうだとして、なんで倒れたの?
とりあえずアルスをベッドに寝かせる。
この部屋は寒いから布団をかけてあげる。
うーん、この部屋やたら寒いわね
周りを見てみる。
今日は雨の日なのに窓が全開だった。
窓の側には椅子があって、その横には分厚い本が開かれてある。
アルスが倒れていることにビックリして周りが見えていなかった。
私はその本を持ち上げると、ペラペラとページをめくりながら目を通す。
これは魔導書?
アル、いつのまにこんな物持って…
グッドサインを出してニコッとしているあの人の姿が浮かぶ。
レイが買ったのね。
最初に開かれていたページに戻ると、そのページを読んでみる。
『【土生成】初級四元素魔法。土を生成する魔法術。』
『【詠唱】「順義なる土之神よ この身に貴方の恩恵を 貴方の力の一端を宿したまへ 土生成」』
この子、もうこんなもの読めるようになったの?
私は空いた窓を見ると、ハッとなって窓の外の下を見る。
そこには芝生の上に山形になった土があった。
まあ!
アルス、きっと魔法術を使ったんだわ。
外の土の量を見るに倒れた原因は魔力切れってところかしら。
私は窓を閉めて魔導書を本棚へしまう。
窓際にあった椅子をベッドの側まで持っていって座る。
「アルは賢いね」
寝ているアルスの頭を撫でる。
それにしてもこの子、変わった子よね。
別に悪い意味じゃないんだけど、周りとは違うと思う。
産まれてからなかなか泣くことはないし、私とレイの言うこともちゃんと聞く。
私たちと普通に喋られてるし、今なんて魔法術を使ったのよ。
この子、まだ二歳なのに。
まあ、かわいいからなんてことないわね
――
アルス視点
ん…
頭に心地いい手の感覚を感じて、俺は目を覚ました。
母さんだ。
あ、でも寝てる。
俺が倒れているところに駆けつけてくれたのだろうか。
それにしても、頭を撫でられるのは心地がいいな。
前世では成長するにつれて撫でられることも無くなったし。
抱っこもそうだ。
何故か安心する。
「か、母さん。大丈夫?」
「んん…」
母さんが起きる。
「大丈夫って、アルスこそ大丈夫なの? 部屋で倒れちゃったみたいだけど」
あ、そうだ。
目眩がして倒れたんだ。
「うん、大丈夫。ちょっと貧血気味で目眩がしちゃっただけだよ」
「貧血ねぇ…」
母さんがニヤニヤしてる。
「アル、土生成って知ってる?」
ギクッと体が硬直する。
魔導書を買ってもらったのは父さんとの秘密だ。
とりあえずとぼけよう。
「な、なに? それ」
「アルが倒れた時、側に分厚い本があったのよ」
母さんは続ける。
「アル、魔法術使ったんでしょ」
魔導書を見られたのか!
だめだ、もう言い逃れはできない。
「はい、使いました。魔導書は父さんが母さんに内緒で僕に買ってくれました」
「やっぱり。アルス、魔法術を使う時は、魔力について意識しないとだめよ」
あれ、怒ってないじゃん。
「魔力についての意識?」
「そう、魔力量には限界があるのは知ってる? 身体にある魔力を全部使い切っちゃったら、さっきのアルみたいにバタンって倒れちゃうの」
なるほど。
俺が持ってた魔力はさっきので全部使いきったんだ。
魔力切れ、か。
まて? 俺の魔力って、砂場で作る砂山くらいの土しか作れないのか?
それって少なすぎない?
もしかしなくても、やっぱり俺に魔法術むいてない?
「魔力量って増えないの?」
「えーっとね。大きくなるにつれて魔力の量も増えてくるはずよ。アルスも大きくなったらバンバン魔法術使えるようになるわ」
ああ、よかった。
別に俺に才能がないわけじゃあないらしい。
「アル。私が魔法術、教えてあげよっか?」
「母さんも魔法術使えるの?」
「使えるわ。上級四元素魔法までね」
たしか、魔法術には初級、下級、中級、上級にわけられてるんだったな。
それの上級…。
え? それって凄くない?
友達ができたらデベソじゃなくて、やーいお前の母ちゃん凄腕魔法術士ー!とか言われちゃうぞ。
「すごい」
「まあね。私、元冒険者だし」
母さんが父さんに似たドヤ顔をかます。
ええ!?
母さん冒険者だったの!?
「ただいまー」
俺が驚いていると、一階から玄関が開く音がした。
父さんが帰ってきた。
「あ!」
母さんが急に立ち上がる。
「夕食の準備の途中だった!」
母さんは椅子を机の側まで戻すと、そそくさとドアを開ける。
「アルはもうちょっと休んでおいてね、頭ぶつけちゃったんだから。夕食ができたらまた呼びに来るわ」
「はーい」
ドアが閉まる。
母さん、上級まで使えるんだ
俺も上級まで使えるようになりたいな。
俺はそんなことを考えながら天井をぼーっと見ていた。
――
「「「いただきます」」」
今日の夕食は大きいベーコンみたいなやつと小さなパン、そしてポタージュだ。
「アル、ベルから聞いたぞ。お前魔法術を使ったんだって?」
「うん、少しだけだけど」
「いやぁ、凄いな!」
父さんが感心した目で俺を見る。
「魔導書を勝手に買ったの、私知らなかったわ」
ギクリと父さんの肩が硬直する。
「ま、魔導書ー? な、なんの事でしょうか?」
父さんがハハハと笑っているが顔は引き攣っている。
助け船でも出そうか。
「父さん。そういえば、母さんって冒険者だったの?」
「そ、そうだよ。結構有名で、白い魔女なんて呼ばれてたんだ」
白い魔女。
母さんは髪が白髪だから白い魔女、か。
「私、あんまりその呼び方好きじゃないのよねぇ」
「いやいや、俺は可愛いと思うぞ」
「もう…。やめてよ」
うん、目の前でイチャコラするのやめてもらってもいいですかね。
「父さんと母さんはどうやって出会ったの?」
「それはな。俺がまだお父さん、アルスのおじいちゃんだな。の仕事を手伝ってた時の事だ」
「ある冒険者がお父さんの鍛冶屋に来たんだ。そしたらその人、魔道具の装飾品が並んでる台をジーっと眺めててさ。びっくりしたよ」
父さんは続ける。
「その人髪が白くて、白い魔女だ! ってなったんだ。想像してたよりも全然若くてさ。一目惚れだったね」
「俺はカウンターの仕事をおじいちゃんに任されてて、カウンターにいたんだけど。その人これくださいって一個の腕輪を持ってくるんだ。その腕輪、俺が初めて作ったやつだったんだ」
「あの時はびっくりしたわ。タダであげますなんて言い出すのよこの人」
「いやぁ、ベルがすごい美人で、ついね。それからたまーに鍛冶屋に顔を出しに来てくれるようになったんだ。次からはちゃんと払います! って言って、俺の作った物を買ってくれてたんだ」
母さんは少し恥ずかしそうに頬を赤らめて、口元を隠すように水の入ったコップを両手で持ちながら口をつける。
「へぇー」
とても青々しい
青々しいのが腹立たしい!
俺はポタージュを一気に口に流し込んだ。
――
次の日。
今、俺と母さんは庭にいる。
昨日は雨が降ったからかちょっと芝生の草が伸びた気がする。
今日から魔法術の練習だ。
「昨日は土魔法を使ったのよね」
「うん」
「じゃあ次は別の元素の魔法使ってみましょう」
別の属性かぁ。
父さんが火を使ってたな。
よし、次は火を使いたい。
「火がいい」
「だめね。火は一番時間がかかるわ」
あっさり断られた。
「土ができたのなら次は水ね」
「はーい」
覚えられる難易度は土、水、風、火の順番なのだろうか?
まあ土と水は物体だからイメージもしやすい。
そして土は固体で水は液体だ。
風と火って火の方がわかりやすいと思生んだけどな。
でも地球人ゆえに火が物体が酸化する時に起こる燃焼反応だとか色々知ってるけど、この世界の人からしたらそんなのも知らないもんな。
風は気圧差で空気が運動してるだけだし。
「魔導書の流水っていうのが載ってるページ開いて」
ペラペラー
あった。
水を作る魔法か。
「じゃあ詠唱してみましょっか。アル、それ読んで」
水を作る魔法…。
水をイメージだ。
ペットボトルの水をコップに流し込むみたいに。
カップラーメンにお湯を注ぐみたいに。
「流水」
ジョボジョボー
指先から水が流れてる。
「おお! できた!」
「え?」
俺が喜ぶ傍で、母さんは困惑した顔をしていた。
「アルス。今、詠唱のところ読んだの?」
「詠唱のところ?」
「ここよ」
母さんが指を差した。
そこには長々とした文が書いてある。
「読めないところもあったから読んでなかったけど、これ大事なの?」
魔法の説明文がダラダラと書かれているのかと思ったら、違ったみたいだ。
「そうね。アルは会話はできるけど、読み書きはまだ完璧じゃなかったんだったわ」
母さんが続ける。
「アルが今やったのって、詠唱破棄って言うの。あなた、今すごい事したのよ」
すごい事なの? 父さんはイグニションと唱えただけで火を出したけど。
「父さんもやってた」
「あら、見よう見まねでやったの? いい? 詠唱破棄っていうのは、魔法術が得意な人ならまあできる人もいるわ。お父さんもお母さんもできるの。けどね、二歳のあなたができてるのはとっても、とーっても凄いことなの」
「アルス、あなた凄いわ」
母さんは俺の頭を撫でてくれた。
なんだか嬉しい
「アル、詠唱のところ読んでみる?」
母さんが魔導書をトントンと指先で叩く
「詠唱してみたい」
「一回試しにやってあげるね。『清艶なる水之神よ この身に貴方の恩恵を 貴方の力の一端を宿したまへ 流水』」
母さんの指先から水が流れ出す。
俺は手をグーの形にして人差し指だけ伸ばす。
「清艶なる水之神よ この身に貴方の恩恵を 貴方の力の一端を宿したまへ 流水」
ジョボジョボー
え、すごい。
水を流すイメージをしなくてもできた!
原理はよくわからないけど詠唱は魔法術を発動する時に補助輪の役割をしているのかもしれない。
「できたわね。次は風を出してみましょう」
俺は魔導書をペラペラとめくる。
どこだ?
あ、あった。
呪文は軽風か。
これ、父さんが使ってたやつだ。
「軽風」
ヒュウゥゥ
風が吹いた。
扇風機の弱くらいの風だ。
「アル、詠唱破棄完璧じゃない。あなた、もう魔法術士アルスって呼ばれても申し分ないわよ」
母さんが手を合わせてニコニコと笑う。
初級しか使えない詠唱破棄ができる魔法術士。
聞いてもパッとしないな。
「あ、そうだ」
母さんが急に真剣な顔になった。
「アルス、昨日は土生成どれくらい使ったの?」
昨日はたしか、初めてできたので一回。
嬉しくてまたやって二回。
魔力の流れを感じるためにやって三回。
「三回やったよ」
「じゃあ今日は六回までやってみましょうか」
六回!?
昨日は三回って言ったよね俺?
二倍になってますよ母さん!!
スパルタだ!
「大丈夫なの?」
「大丈夫よ。昨日も言ったけど魔力量はね、大人になるまで増え続けるの。それに何回も限界までやる事で魔素を溜める器がどんどん大きくなるわ」
え、魔力って筋肉だったの?
部活がトレーニングの日に先輩が似たような事話してたよな。
あれは超回復って言うんだっけ。
「母さんはそれで結構魔力量増えたのよ」
実例があった。
目の前に。
母さんが地球にいたらダンベル握ってたのかもな。
ジムが家とか言い出すかもしれない。
「わかった」
「じゃあ次は火をやってみましょう」
ペラペラー
魔導書をめくる。
火は着火か。
これも父さんがやってたやつだ。
よし。
「着火」
ボワッ
火が付いた。
「あらアルス、初級魔法完璧になっちゃった! 火は手こずると思ったんだけど。いらない心配だったわね」
母さんが続ける。
「じゃあ、あと二回ね。とりあえず水と風をもう一回ずつやって今日は終わりましょう。少しでも具合が悪くなったら言うのよ」
「わかった」
「流水」
「軽風」
あ、勢いで体調の確認とかする前に全部終わってしまった。
…
昨日みたいな目眩もなにもないな。
まだ上限までいってないのか?
いや、昨日は時差で倒れた。
もう少しでまた倒れるかもしれない。
…
少し時間が過ぎる。
「アル、大丈夫?」
「うん、なんともないみたい。もうちょっとやりたい」
「わかったわ」
結局俺は、今日は初級魔法を九回使ったところで倒れた。
イザベルママ、冒険者だったんですね!




