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魔法術士は強くない  作者: 鳴瀬ルナ
3/6

第二話 しゃかいかけんがく?


 一年後。


「「行ってきます」」


「いってらっしゃーい」


 母さんの見送りを後に、玄関をくぐる。


「アルス、王都の真ん中に行くのは初めてか?」


「うん。真ん中までは行ったことない」


 父さんに肩車をしてもらいながら答える。

 グラベル家の家はフラスト王国という国の王都の左下らへんにあるらしい。

 名前は王都ラベラだった気がする。

 父さんが働く場所は王都の真ん中にある。

 今までは家の庭で遊ぶか、家の近くを母さんと散歩するだけだった。

 だからちょっと、緊張するな。

 家の前には川、ともいえない細い水路がある。

 水路沿いを歩き、橋を渡る。


「今日はお日さまが眩しいな」


 父さんが呟くと、俺は上を見上げる。

 雲一つない快晴だ。

 お日さま、太陽……

 あの太陽、確か誰かが作ったんだったな。

 名前は……

 そうだ、ラグランだ。

 神話ではラグランは太陽を作ったって書いてあったけど、太陽の神様なのかな。


「父さん。ラグランって太陽の神様なの?」


 父さんに聞く。


「ラグランは太陽の神様じゃない。火の神様さ。火之神ラグラン。皆んなそう呼ぶんだ」


 ほう、火之神か。

 じゃあ他の神様も水之神とかって呼ばれてるのかな。


「じゃあ他の神様は水之神と、風之神と……土之神?」


「そう。水之神アプトュル、風之神ラリアル、土之神ボルデア。四人揃って元素之神だ」


 元素之神……、たしか母さんも話してた。

 この世界は火、水、風、土属性が主流らしい。

 くさタイプとかこおりタイプ、でんきタイプだとか、日本にはもっといろいろな属性があった気もする。

 お互いに弱点とかあったら面白そうだ。

 

「おいおいアル、どうしたんだ? お父さんの髪いじって」


 俺は父さんの髪の毛をボサボサといじりながらそんな事を考え、左右に家が並ぶ道を進む。


「ガラガラガラ」


 聞き慣れない音を聞いて、顔を上げる。

 気づけば俺は大通りに出ていた。

 周りを見渡し、音の正体を探す。


「馬だ!」


 馬をこの目で見るのは初めてだった。

 いや、オカピなら見たことがあった。

 あの茶色い馬が引いているのは、何かの荷物だろうか。


「父さん、あれ何運んでるの?」


 指を指す。


「んー、多分商品だと思うぞ。馬車に乗ってるのは行商人だな」


「へぇー」


 行商人か。

 日本には焼き芋とか豆腐を車で売ってる人なら居たな。

 遠ざかる行商人を見ていると、買い物かごを腕にぶら下げて歩く女の人が、こちらに近づいてくる。

 その女の人の頭には、猫の耳の形をした物がくっついている。

 後ろの方には左右に揺れる尻尾があった。

 その女の人は俺と父さんの横を通り過ぎる。


 すげー


 俺は目を疑った。

 

「父さん、あの女の人は猫なの?人間なの?」


 父さんの頭をポンポンと叩く。


「あの人は亜人(デミ)だよ。見た感じ獣人族(セリアンス)だ。猫か人かと言われれば、人なんじゃないかな」


 亜人(デミ)、か。

 流石異世界だ。

 ファンタジー要素があってちょっとワクワクする。


「お、グラベルの旦那! ウチのもの買ってくれないか?」


 身体中の筋肉が圧縮しているかのような大男が父さんに話しかける。

 大男の前には野菜が並んでいた。

 八百屋か。

 にしてもいかついな、この人。


「ああ、ジークさん。こんにちは。悪いがこれから仕事だからまた今度寄るよ。息子もいるからかっこいいところを見せて、お父さん凄い! って言わせたいんだ」


 息子の前でそれ言うんだ。

 いや、前じゃなくて下だけどさ。


「その上に乗ってるチビ助が旦那の息子かい?」


「こんにちは」


 一応挨拶をしておこう。


「む、もう挨拶できるのか? 旦那、あんたの息子とは思えんな! ガハハハ」


「だろ? アルスは凄く賢いんだ」


 父さんが肩を揺らす。

 俺も揺れた。

 このジークさんとやら、面白そうな人だ。

 一緒に居たら楽しいタイプな気がする。


「じゃあ、俺たちは行くよ」


「おう、またな。チビ助も」


「さようなら」


 大男に手を振ると、父さんと俺は鍛冶屋へ向かう。


――


「アル、着いたぞ」


 鍛冶屋は八百屋の先にある曲がり角を曲がってすぐの場所にあった。

 父さんは肩から俺を降ろす。

 入り口を見てみると、ドアの上には剣を形どった看板がぶら下がっていた。

 父さんは鍛冶屋のドアを開けた。


 チャリンチャリン


 ベルが鳴る。

 中に入ると、左側に鎧立て、右側には剣と盾が並べてある。

 真ん中には装飾品が並べられた台、奥にはカウンターだ。

 鎧立てには、白く光る胸当てや、ゴツゴツとした肘当てと肩当てと膝当て、控えめな装飾の籠手や兜が一色揃って立てられている。

 その横には、それぞれの部位の防具が壁に掛けられていた。

 部屋の反対側を見てみる。

 壁に掛けられた高そうな剣が三本縦に並び、その横には盾が四つ掛けられている。

 下に目を移すと、剣立てに剣が六本ほど立てかけてあった。

 真ん中の台には首飾りや指輪、かんざしなどが置かれてある。

 カウンターに目をやると、奥にはドアが、端の方には短剣が三本並べてあった。


「……」


 俺の口がポカーンと空いていた。

 すげえ。

 異世界の凄さに感動すら覚える。


「どうだアルス、これ、全部俺が作ったんだ。奥の部屋も見せてやろう」


 カウンターの方へ歩き、奥のドアを開ける。


 入って左奥には炉が、その手間には台が、その左の壁には沢山の器具がぶら下がっていた。


「この前、冒険者から短剣を作ってくれって頼まれたんだ。お父さん有名だから」


 ドヤ顔でこちらを見てくる。


「あーアル、危ないからそこら辺で見といてくれ」


 父さんが指した先は、ドアから直進した所にあった椅子と机だ。

 冒険者。

 何をする人なんだろう。

 名前の通り冒険か? 日本で流行ってたゲームだと魔物退治とかするなんでも屋みたいな感じだけど。

 はい、と返事をすると俺は椅子に座る。

 机の引き出しが少し開いていた。

 俺は気になって引き出しを開けてみる。

 中にはメモ帳とペンがあった。

 メモ帳を開くと、一人一人の名前と、要望が書いてあった。

 父さんは意外としっかりしてるのかもしれない。

 カラカラっと木炭を入れる音がする。


着火(イグニション)


 部屋の奥から声が聞こえた。

 そこに目をやると、父さんの前にある炉に火がついていた。


軽風(ブリーズ)


 父さんが続けて呟く。

 すると燃えていた炎が火吹き棒で息を吹いたかのように、ボワッと激しくなる。


 !?……


 俺は驚いた。


「父さん、今何をしたの?」


「ああ、今やったことか? 魔法だよ。アル、魔法見たことなかったのか」


 魔法……? あの、ゲームやアニメに出てくるあの魔法?

 この世界の人間は魔法が使えるのか?


着火(イグニション)


「どうだ?」


 すごいだろ? といいたげな顔をして人差し指を上に向ける。

 まるでマッチ棒に火をつけたかのように、父さんの指先から火が出ていた。


「魔法って、僕もできる?」


「ああ、頑張ればできるようになるさ」


 父さんはエプロンを来てゴーグルとグローブを身につけると、作業に入った。


――


 父さんが一本の短剣を作り終えると、右側の壁に掛けられた2本の剣の横に掛ける。


「鍛冶師って凄いだろ?」


 やばい。

 さっき見た指先のあの小さな火。

 あの光景が忘れられなくて父さんの仕事に集中できなかった。


「父さん、僕魔法使いたい」


 やべ、思った事をつい……。


「う……。じゃ、じゃあ帰る時に魔導書でも買って帰ろうか」


 あ、早く父さんの事も何か言わないと。


「剣を作る父さん、かっこよかったよ」


「そうかそうか」


 父さんは満足したらしい。

 チョロいな。


 チャリンチャリン


 鍛冶屋のドアが開く音だ。


「すみませーん。依頼したやつってもうできましたか?」


 女の人の声がする。


「はい、出来てますよー」


 父さんが壁に掛かる短剣を取り出して、カウンターで待つ女の人の所へ向かう。

 俺も着いて行こう。

 茶髪の女の人が短剣を受け取る。


「わー。ありがとうございます。これ、依頼料です。」


 父さんに小袋を渡す。

 ジャリッと小銭同士がぶつかる音がする。


「はい、ありがとうございます。」


 父さんはドアの奥へと戻る。

 短剣を眺める女の人。

 それを眺める俺。

 女の人と目が合う。


「お姉さんは冒険者ですか?」


「そうだよ。ボク、冒険者に興味あるの?」


 女の人は短剣をしまうと、俺と同じ目線になるためにしゃがむ。


「うん。冒険者は何してるんですか?」


「簡単に言えば、危ないところにある葉っぱを取ってきたり、悪い魔物をやっつけたり、迷子の猫を探すんだ」


「へぇー」


 結局、ゲームやアニメで聞く内容だった。

 冒険者。

 楽しそうだ。


「でもね、冒険者は力を持った強い人達が集まるところだから、色んなルールがあるんだよ」


 女の人は話した。


「大銀貨三枚と銀貨一枚、確認しました。」


 奥の部屋から父さんが出てくる。


「あ、はーい」


「ありがとうございました」


「ありがとうございましたー」


 女の人は俺に手を振ってドアを開ける。


 チャリンチャリン


「父さん、冒険者ってどんなルールがあるの?」


 ルール。

 というより制限だろうか。


「んー。確か、冒険者証明書を持たない者は依頼を受けてはいけない。依頼内容以外の事をしてはいけない。人間及び亜人に武力を行使してはいけない。依頼を失敗した場合責任を負わなければいけない。とか、色々あった気がするな。ごめん、父さんも覚えてないや」


 当たり前と言えば当たり前か。

 依頼の当事者も信用できない人に頼みたくないしな。


「冒険者になりたいのか?」


「それより魔法使いたい」


 冒険者は今のところ興味はない。

 楽しそうだとは思うが。

 それより魔法だ。

 元地球人からしたら魔法はロマンだ。

 多分誰しもが一度は憧れる。


「わかったよ。本屋行こうか。お母さんには内緒だぞ?」


 やれやれと肩をすくめて父さんは炉の周りを片付けに行く。


――


 魔導書を買ってもらった。

 とても分厚い。

 今日は父さんが読み聞かせをしてくれる日だ。

 俺は言葉はわかるけど字を読むことは完璧じゃない。

 だから父さんに魔導書を読んで欲しいと言っておいた。

 魔法はまだ使えなくても、魔法についてを知っておいて損はない。


「アルー、本読むぞー」


「はーい」


 父さんは俺のベッドへ座り、枕元にあるヘッドホールドを背もたれ代わりにしながらあぐらをかく。

 俺はそのあぐらの上に触り、父さんを背もたれ代わりにする。

 父さんは腕を伸ばし、俺の前で魔導書を開く。

 最初の方に書かれていたのは魔法についてだ。


「魔法の説明が載ってるな」


『【魔法】魔素を消費して得られる火、水、風、土からなる四元素の現象。四元素魔法と呼ぶ。』


 火、水、風、土か。

 元素之神と何か関わりがありそうだ。

 お互い元素って名前ついてるし。

 この四元素魔法を元にして神話が作られたのかな。


『【魔術】四元素魔法を応用した魔法のこと。四元素以外の現象の事を指す。また、魔素を消費しない魔術も存在する。』


 簡単に言うと火、水、風、土以外にも属性があって、それのことを魔術って言う感じか。

 やっぱりくさタイプとかこおりタイプとかあるんじゃないか?

 もしかしたらエスパータイプとかも…。


『【魔法術】四元素魔法及び魔術の総称。放出系魔法術と生成系魔法術の二種類がある。』


『【魔素】魔法術の素となる物。』


『【魔力】魔力量とも呼ぶ。その人が持つ魔素、または量を指す。また、人によって魔力量は異なる』


「わかるか?」


「うん、大丈夫」


 難しい言葉が並ぶから父さんが心配してくれた。


『【魔法陣】魔力を注ぐと発動する手動型と、一度注げば自動的に発動する自動型がある。』


『【魔道具】加工された石や武器などに魔法陣を埋め込み、魔法術を使う道具にしたもの。』


「ここから先は詠唱について書かれてあるから、今日はここまでにしよう」


 父さんはパタリと本を閉じてベッドを出る。


「おやすみ、アル」


「お休みなさい」


 父さんは俺の部屋の本棚に魔導書を置くと、部屋を出て自分の部屋へと向かう。


 魔法術、か。

 明日から練習してみよう。


――


土生成(クリエイトアース)!」


土生成(クリエイトアース)!」

 

 俺はさっきから庭で土を作る魔法を唱えている。

 俺は今右腕を伸ばした状態だ。

 俺の横には開かれた魔導書。

 

 できない…


 なんでできないんだ?

 俺のやり方が間違っているのだろうか。


「うーん」


 さっそく挫折しそうだ。

 いや、俺だって楽しくもない部活を続けてこれたんだ。

 これくらいどうって事ない。

 逆にはじめからできる奴なんてほとんどいないだろう。

 バスケ初心者がスリーポイント入れちゃうようなもんだ、たぶん。

 俺は魔導書を読み返す。


『【魔素】魔法術の素となる物。』


 魔素が魔法術の素。

 魔素かぁ…。

 日本にはそんなものなかったからいイマイチ感覚が掴めない。

 もしかして俺の魔力量が少なすぎて魔法術が使えないのか?

 いやいや、そんな事ないよ。

 さすがにね。


土生成(クリエイトアース)!」


 やっぱりだめだ。


 結局何ひとつできないまま一日中が終わってしまった。


――


 魔法術を練習して二日目になった。


土生成(クリエイトアース)!」


 やっぱり何も起こらない。

 父さんは簡単に火を付けてた。

 風だって吹かせてた。

 父さんは呪文を唱えただけだ。

 俺も今呪文を唱えただけだ。

 原因はなんだ?


 だめだ、思いつかない


「ああー」


 俺は大の字でバタンと床に倒れる。

 やっぱり俺には魔法術は使えないんだろうか。


「アルー、そろそろご飯食べる時間よー」


 庭に居る俺に母さんが声をかける。


「はーい」


 俺は重い魔導書を持って部屋に戻った。


――


 三日目は雨だった。


 庭には行けないなぁ。

 しょうがないから部屋で練習しよう。

 窓側に椅子を引きずりながら持ってくる。

 椅子に立って窓を開ける。


土生成(クリエイトアース)!」


 だめだ、雨の音しか聞こえない。

 呪文を唱えるだけじゃだめなんだ。

 何かコツが必要なんだ。

 一旦椅子から降りて魔導書を読み返す。


『【魔力】魔力量とも呼ぶ。その人が持つ魔素、または量を指す。また、人によって魔力量は異なる』


 俺も魔素を持っている。

 魔素は魔法術の素。

 体の中の魔素をコントロールするのか。

 でもどうやって?


 んー…


 とりあえずイメージしてみよう。

 身体の中に流れる魔素。

 ってどんな感覚なんだ?

 まあいい。

 土を作ることをイメージしよう。

 手の平から土がザーッと出てくる感じだ。


土生成(クリエイトアース)!」


 ザラザラー


 うわ! 出た!

アルスが魔法術を使えるようになりました!

頑張ったね、アル!

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