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魔法術士は強くない  作者: 鳴瀬ルナ
2/6

第一話 ベリーベリーベビー


「おんぎゃあぁあああああ」


 赤ちゃんが泣いている。

 うるさいな。

 まさか目覚ましでも母さんでもなくて、赤ちゃんに起こされるとは。

 ああ、なんだかすごく長い間寝ていたような気がする。


 ん?……


 目が見えない。

 正確には見えているが、暗い場所から明るい場所に移動した事くらいしかわからなかった。

 まあ時間が経てば治るだろう、きっと。

 ちょっと不安になる。

 それにベットじゃなくて、大きな手の上にいる感覚だ。

 今日見た夢は自転車で事故る夢か……。

 そうか、あの夢のせいですごい泣いてたんだ、多分。

 そのせいで大量の目やにができて目が見えないんだな。

 俺は適当に結論づける。

 何故か少し涙が溢れた気がした。


――


 

「     。   、         」


(見てあなた。この子、私と同じ目をしてる)


 女の人の声が、何かを話して穏やかに微笑む。


「  。         。          。  、                。                 。   」


(うん、とても綺麗な黄色だ。君の目にそっくりだよ。でも、髪の毛は僕に似て黒髪でかっこいい。この子はきっと沢山の女を連れてくる。逸材だ)


 大きくゴツゴツとした手が俺の頭を撫でる。


「  、      」


(もう、何言ってるの)


 クスクスと笑い声が聞こえる。


 なんだなんだ?


 この人達が何を話しているのかわからない。

 日本語じゃないな。

 中学レベルの英語しかわからない俺が、英語でも無いと直感で感じる。


 お、目が見えてきた


 目を凝らしてみると、目の前には俺の頭を撫でている黒髪の男が見えた。

 その隣にはニコニコとしている女の人。

 何かを話していたのはこの二人か。

 ていうかなに? この人達、美男美女すぎる。

 顔立ちからして日本じゃ無い。

 それからもっと周りを見渡す。

 俺は大きな籠の中にいた。


 あれ、これって……


 恐る恐る両手を伸ばしてみる。

 短い。

 そして太い。

 両足を交互に動かしてみる。

 今までの感覚とは似つかない関節の動き。


 俺、赤ちゃん?


「   、                  」


(この子、きっとあなたに撫でられて喜んでるのよ)


 ぷにぷにと俺の頬に指を当てる。

 なんとなくわかった。

 きっとこの2人は俺の母親と父親だ。

 あれは夢じゃなかった。


 俺、死んだのか……


 もう、父さんにも母さんにも、お兄ちゃんにも会えないのか。

 俺、スマホばっかいじってたし会話なんてロクにしてなかったな。

 後悔。

 その二文字が頭に浮かぶ。

 別に仲が悪かったわけじゃない。

 けどめんどくさがりの俺は「うん」とか空返事ばかりしていた。

 人間っていつ死ぬかわからないもんな。

 もう一度会いたい。


「   、           。            」


(いいか、お前はアルス•グラベルだ。これから元気に育つんだぞ)


 キラッとした笑顔と共に、男はまた俺の頭を撫でた。

 相変わらず何言ってるかわかんないや。

 まあ、笑っとこう。


「アウゥ」


――


 雨の降る夜。

 とある家の目の前に、白髪の女の子が姿を現す。

 女の子は家の2階の窓を見ると、その姿を刹那に消した。


「見つけた」


 いつのまにか2階にいた白髪の女の子は、ゆりかごの中ですやすやと寝ている赤子に近づく。

 女の子は赤子のそばに立つと、手を伸ばす。

 手の平から、ルービックキューブ程の大きさと形をした微かに紫色に発光したものが現れ、胸の中へ沈んでいく。

 

 女の子はうっすらと光る赤い瞳で、赤子を見つめていた。


――


 俺が生まれてから一年が過ぎた。

 この家は家電製品なんて物は何もなかった。

 水道は無いし、冷蔵庫も無い。

 キッチンには石窯とかしかない。

 窓の外を見てみると煉瓦造りの家が並んでいた。

 水はどこから来てるのか、不思議だ。


「アル、         」


(アル、後でお外で遊ぼっか)


 俺はアルスという名前だ。

 今母さんは俺をおんぶ紐でおんぶしながら家事をしている。

 ちなみに父さんは仕事だ。

 毎日働いている。

 父さんも母さんも俺の事はアルと呼ぶ。

 二人の顔立ちはどことなくヨーロッパ風の顔立ちをしている。

 それにぼーっと見惚れてしまうほどに美男美女。


 俺に兄弟は居なかった。

 日本ではお兄ちゃんがいたから今度は弟か妹が欲しい。

 一緒に遊びたい。

 あと、相変わらずこの世界の言葉はわからなかった。

 まあ、パパとママの単語と、俺の名前くらいなら分かるけど。

 父さんはよく「パパはどこだー?……。ここでした!」と変顔でいないいないばあをする。

 母さんはよく「アルー、ママのところまでおいでー」と両手を広げて、ハイハイの練習をさせる。

 父さんは母さんのことを「ベル」と呼び、母さんは父さんのことを「レイ」と呼ぶ。

 愛称なのかな。


 ブリッ


 あ……


 出た。

 何が出たのかって? 諸悪の身だよ。

 まだ一歳の俺は、ケツのコントロールなんてできない。

 一応おむつは履いてるけど、やっぱり毎度毎度お尻の心地は悪い。

 しかも臭い。

 俺は母さんの髪の毛をクイクイと引っ張って、何があったかを伝える。


「ママ、ア! ア!」


 言葉はわからないし、喉の発達もまだだからこんな事しか言えなかった。

 手でお尻を触ってジェスチャーした。


「  、ママ           」


(あら、ママの背中でうんちしたのね)


 ニコニコと笑いながら俺を背中から下ろす。

 申し訳ないと思いながら母さんに奴の後始末を任せる。

 なんだか、とても退屈だ。

 意思疎通が出来ないと人はこれほどもどかしい気持ちになるのか、と悟った感じを出してみる。

 今、すっぽんぽんだけどね。

 まあずっと言葉がわからないのもあれだ、色々と周りの物の単語を覚えることにしよう。


――


 単語を覚え始めて半年。


 今では簡単な意思疎通ができるようになった。

 といっても単語をずらずらと話すだけだが。

 父さんと母さんが話す単語も理解できる。

 高校の小テストの勉強で、英語の単語帳を使って単語を覚えるのとはまるで別だ。

 やっぱり、「あれ、何?」と目で見て、触って、聞いて、嗅いで、食べてみて、五感を使って覚える事が大切なんだと思った。

 そうだ、まだちゃんとした父さんと母さんの名前を聞いていなかった。

 今日は家にいる父さんに聞いてみよう。


「パパ」


 続けて話す。


「名前、アルス。呼ぶ、アル。パパ、名前、レイ? 呼ぶ、レイ? ママ、名前、ベル? 呼ぶ、ベル?」


 これで伝わるだろう。

 単語しか覚えてこなかったから文法は無視だぜ。


「んー……」


 数秒沈黙が流れる。


 あれ、流石に無理があるか?


 頭を抱えていた父さんは、ハッとこちらを見た。


「アル 賢い 。パパ ママ 呼んでる名前、覚えてる  。      名前    ついてる。パパ グレイダ 、ママ イザベル  」


(アルは賢いな。パパとママの呼んでる名前、覚えてるのか。それに愛称と名前の区別がついてる。パパはグレイダで、ママはイザベルだよ)

 

「グレイダ? イザベル?」


 グレイダのレイと、イザベルのベルか。


「   、カッコいい名前  ?    ママ 名前 超絶カワイイ」


(そうさ、カッコいい名前だろ? それでママの名前は超絶カワイイ)


 ははー。

 何言ってんだこいつ。

 とりあえず便乗しとこうか。


「かっこいい、かわいい」


 前から思ってたけど、この男はバカなんだと思う。

 グレイダとイザベルか。

 それで俺がアルス。

 よし、父さんの仕事についても前々から気になってたんだ。


「グレイダ、仕事、何?」


 あ、うっかり名前で呼んでしまった。


「パパ カジシ 」


(パパは鍛冶師さ)


 父さんが腕を曲げて力こぶを見せる。


「カジシ?」


 なんて意味なんだろう。

 腕を見せてるし、力が必要な仕事なのかな。


「  、カジシ。剣  防具 作ってる  。グレイダ•グラベル この国随一 カジシ   」


(そう、鍛冶師。剣とか防具を作ってるんだ。グレイダ•グラベルはこの国随一の鍛冶師なのさ)


 両腕を組みウンウンと頷く父さんは、やっぱりただのバカにしか見えない。


 剣と防具。

 鍛冶師か!

 いやでも、鍛冶師ってさ、包丁の職人とかならまだわかるが、剣と防具って。

 うん、どこのファンタジーです?

 嘘ついてるのかな。


 腕を組んで口の先を尖らせ、頭を傾げてジーっと父さんを見ていた俺に、父さんは言った。


「アル、いつか見せてあげる 。パパ 仕事」


(アル、いつか見せてあげるよ。パパの仕事)


「見たい」


 父さんの仕事を見てみたい。

 こんな嘘のつき方は流石に何か隠してる。

 そういえばさっき、父さん自分の事なんて言った?

 グレイダ•グラベル?

 それが父さんの本名なのか?


「パパ、グレイダ•グラベル?」


「   、  アル  言って     」


(そっか、まだアルには言ってなかったか)


 父さんがぶつぶつ呟く。


「  、グレイダ•グラベル。ママ イザベル•グラベル。   お前 アルス•グラベル 」


(そう、グレイダ•グラベル。ママはイザベル•グラベル。そしてお前はアルス•グラベルだ)


 グラベルは苗字か。

 アルス•グラベル。

 よし、覚えた。

 この家はグラベル家だ。


――


「「「いただきます」」」


 今日も食卓で夕飯を食べる。


 俺はまだ一歳だから、赤ちゃん用の椅子に座る。

 テーブルを見ると、麦からできたパンと、野菜の入ったスープが並んでいた。

 日本人からしたらとても質素だし、決して美味しくはないが、母さんの作る料理は美味しく感じる。

 俺はパンを一口サイズに千切り、口へ運ぶ。


「     、アルス   俺 鍛冶屋 行く約束 した  。」


(そういえば、アルスと今度俺の鍛冶屋に行く約束をしたんだ。)


「  、この子 剣   興味ある    。今度ケンジュツ 稽古      ?」


(あら、この子も剣とかに興味あるのかしら。今度剣術の稽古でもつけてあげたら?)


「俺 鍛冶仕事 興味 持って欲しい ……」


(俺は鍛冶仕事に興味を持って欲しいな……)


 違う、そうじゃない。と父が話す。

 クスクスと母さんが笑う。

 ケンジュツって言ってたな。

 なんなんだろう、ケンジュツ。


「  、危ない        大きくなってからね。」


(でも、危ないからもうちょっと大きくなってからね。)


 社会科見学はもうちょっと先になるっぽいな。

 俺はパンをひと千切りして、口へ運ぶ。

 母さんが俺のことをジーっと見る。


「      アルス 不思議  。産まれた時 産声 あげていた  、    泣かないもの」


(それにしてもアルスは不思議よね。産まれた時は産声をあげていたけど、それ以来泣かないもの)


「お昼 アル 話 したんだけど、  一歳   俺 言ったこと 全部わかる      。末恐ろしい子  。パパ   賢いかも !」


(お昼にアルと話をしたんだけど、まだ一歳なのに俺の言ったことが全部わかるみたいなんだ。末恐ろしい子だよ。パパよりも賢いかもな!)


「最近    言葉 お勉強してる   。『あれ何ー、あれ何ー』  」


(最近はずっと言葉のお勉強してるもんね。『あれ何ー、あれ何ー』って)


 母さんが「ねー?」と言いたげに顔を覗かせる。


「   ベル、    寝る時 絵本 読み聞かせたら   ?   早いかも     、言葉 もっと流暢 話せる   なるかも    」


(そうだベル、これから寝る時に絵本を読み聞かせたらどうだ? まだ早いかもしれないが、言葉ももっと流暢に話せるようになるかもしれない)


 お、読み聞かせか。

 ちょっと恥ずかしい気もするけど、文法とか色々と学べることはありそうだ。


「    。   早速今日  始めましょ」


(いいわね。じゃあ早速今日から始めましょ)


 母さんがニコリと笑う。

 俺はパンをまた千切り、口へ運ぶ。


――


「どこ   」


(どこだっけ)


 母さんが本棚で本を探す。

 俺はベッドで横になっている。


「あった!」


 母さんが一冊の本を取り出すど俺の隣へ来る。


「今日 このお話 しましょう」


(今日はこのお話にしましょう)


――


 パタリと本が閉じる音がする。


「今日 これでおしまい 」


(今日はこれでおしまいね)


 今日のおとぎ話は武神アークス•ベアドの英雄譚だった。

 とても強いらしい。

 俺はふと本の裏表紙に目をやると、長方形の絵が目に映る。

 地図だ。

 海と大陸が描かれてある。

 世界地図か?

 よく目を凝らしてみてみると、俺は急いで母さんに聞いた。


「これ、世界地図?」


「   、  知ってる  。  、私たち いるのはこの辺 」


(そうよ、よく知ってるわね。そう、私たちがいるのはこの辺よ)


 母さんは右の方にある大陸を指差していた。

 なんてこった。

 俺は気づいた。

 この地図には日本はない。

 大陸の形も地球にある大陸と違う。

 ヨーロッパだと思っていたここも東にある。

 普通は真ん中か左側にあるはずだ。

 俺は確かに転生した。

 だけど多分、転生したのは別の世界だ。

 それだと辻褄が合う。

 この家にある家具も、食事も、服も、どれも中世ヨーロッパあたりのものだ。

 化学技術が発展しなかった世界なのかもしれない。

 地図をまじまじ見ていると、地図の下には文章が書かれていた。


「ママ、これ、読む」


 母さんにその文を読むようにお願いする。


「どれどれ……」


 母さんが読み始める。


『ゼドが4人の神を生む


 ボルデアが大地を作り

 ラグランが太陽で照らす

 アプトュルが干からびた大地に水を注ぎ

 ラリアルが植物の種を運ぶ


 母なる大地を守るため

 四人の子供が手を挙げる


 プロネシスに知恵を

 ディカイオスに正義を

 アンドレアに勇気を

 ソプロシュネに節制を


 ゼドは徳を彼らに与える

            〜世界の産声〜 より』


 んー、さっぱり何言ってるのか分からない。


「有名 神話 。ゼド  言う神様 、ゲンソノカミ  言う四人 神様 生む 。その神様達 今いるこの世界 作った  。  、四人 子供  いうのは、シトクノコ  呼ばれてて、彼ら 今  存在してる  」


(有名な神話ね。ゼドって言う神様が、元素之神って言う四人の神様を生むの。その神様達が今いるこの世界を作ったのよ。あと、四人の子供っていうのは、四徳之子って呼ばれてて、彼らは今でも存在しているのよ)


 ゼド、ゲンソノカミ、シトクノコ。

 ややこしくなってきた。


「  アル  まだ難しい  。  寝ましょっか。お休みなさい」


(まあアルにはまだ難しいわね。もう寝ましょっか。お休みなさい)


 母さんはそう言うと、俺のおでこにキスをした。


「お休みなさい」


 俺は疲れていたのか、うとうとと眠りについた。

もっと良い表現の仕方が見つからず、見づらいセリフ文になってしまいました。すみません。

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