第五話 誕生日
アズエルという男の子と出会ってから半年くらいが過ぎた。
俺は今日も王都の外だ。
青いペンダントを首にかけてそこら辺を歩く。
母さんは今日は忙しいみたいだからいない。
『いい? 母さんは今日は忙しくて来れないから、何かあったら爆発を空に向かって打ちなさい。火球を上に向けて打って、魔力を上手く操って爆発に変えるの。ドッカーンってね』
俺に何かあったら白い魔女様が駆けつけてくれる。
何も怖くないさ。
あと奥に見える森には近づかないように言われた。
名前は確かディグラル大森林。
あそこは沢山の魔物が住み着いているらしい。
でも森から出てくる事は滅多にないみたい。
魔物の印象としては森に住む熊とか猪とかの野生動物くらいにしか思えてないけど、ほんとは動物なんじゃないか?
あいつらだって凶暴だし。
いや、でも確か魔法術を使ってきたりするんだっけ。
俺は芝生の上を歩く。
いざという時に上級が使えるように魔力は残しておこう。
だから今日は魔法術の練習はやらない。
こんなところで魔力切れを起こしても嫌だしな。
俺はいつもの丘に着いた。
木を背もたれ代わりにして座る。
「…暇だ」
…
喉乾いたな。
「土生成」
「土操作」
俺は作り出した土をオペレイトアースで押し固めてゆく。
俺はコップを作った。
土といっても、込める魔力の度合いでサラサラだったりガチガチになったりする。
まあ初級の魔法だから魔力はそんな消費しないしいいだろう。
「着火」
一応できたコップを焼いた。
詳しい知識なんて持ってないが、なんとなく焼いたら固くなる気がしたからだ。
「軽風」
固まらずに表面についたままの砂を風で払う。
「流水」
一回水で洗い流してからコップの中に水を入れる。
土が浮いてこないか水面を見る。
よし、何もない
俺は水を飲み干した。
魔法って便利だなぁ
あ、燃えやすい物がある所は火魔法は気をつけるんだった。
火魔法…?
俺はここで母さんが使った魔法術を思い出す。
あ、回復魔術
よし決めた。
回復魔術の練習をしよう。
確か回復魔術は地中に染み込んだ魔素を利用した魔術だ。
魔素を生命力に変換、だったっけな。
生命力って何だ?
生きる命の力…。
それに地中の魔素はどうやって操る?
まあやってみるしかないか
「着火」
「流水」
俺は地面に生えていた葉っぱに火をつけて水をかけた。
葉っぱは焼け焦げた。
地面に水が染み込む。
俺は地面に手を当てる。
魔素を感じろ。
地中に染み込んだ魔素だ。
いや待て
まずなんで大地に染み込んだ魔素じゃないとダメなんだ?。
誰しもが持つ魔力、俺も持っている魔力の正体は魔素だ。
そう魔導書に書いてあった。
なら自分が持ってる魔素を生命力に変換したらいいだけじゃないか。
でも、多分このくらいの事なら誰でも考えることだ。
母さんだって多分そんなことは思い付いたはず。
だけど自分の魔素は消費しない方法でやってる。
誰もやらないんじゃなく誰もできないとか?
自分の持つ魔素と大地が持つ魔素が違うのかもしれない。
魔素は魔素でも別物みたいな。
純度の差?
地中のは純度が高くて体内のは低いとか?
根拠がなさすぎるな。
てか魔素が生命力に変換できるなら生命力から魔素にも変換できるんじゃないか?
「うーん」
この草燃やしただけで今日終わりそうだな。
この後が思いつかない。
ごめん、雑草くん
『地中の魔素→生命力→人が持つ魔力』の順で一方向に変換されていくとしようか。
てか地中の魔素って呼んでるからややこしくなるんんだ。
地中に染み込んだ魔素は魔素じゃない。
この世界の人たちが勘違いしてるんだ、多分。
うーん
生命力が魔素に変換できるって事は増えたり減ったりする。
量があるんだ。
魔素っていう考えからすると『生素』みたいな名前のやつがあるのかもしれない。
ネーミングセンスについてはノーコメントで。
それが生命力の正体かな。
地中にはそれが染み込んでる。
『生素→生命力→魔素』だな。
多分生素は常に生命力に変換されてその生命力は常に魔素に変換されてる、と思う。
一定の速さと量で。
そして生命力は常に満タンで完璧な状態だ。
寝たり時間が経てば魔力が戻るのは、常に『生命力→魔素』という現象が起きているからだ。
だけど寝て起きたら生命力がカラカラで死ぬなんて事は起こらない。
つまり生命力が魔素に変換されると同時に『生素→生命力』という現象も起きている。
回復魔術とはその現象を促すんだ。
より多く。
魔力切れの原理も説明できる。
魔力を使い切った状態でまた魔力を使うとなると生命力を消費しなきゃいけない。それで生命力が削れて意識が飛んだりするんだ。
まあ俺の考えがあってるかどうかなんてわかんないけどな。
俺は地面に再び手をつけた。
どちらかっていうと吸うイメージだな。
あ、でもこの芝生に回復魔術を使う場合は押し出すって感じか。
地中の生素を焼け焦げた葉っぱに押し出すイメージ。
「大地の恵み!」
ピーン
焼け焦げたはずの葉っぱがみるみるうちに再生してピーンと伸び上がった。
あ、できた
ピーン、ピーン
こいつ、めっちゃピンピンしてるじゃん。
生きてるみたい。
焼いてごめんよう。
元気になれて良かったね…。
でもこれって土の上じゃないとできないよな…?
俺はその後も生素と魔素について色々と考えてから帰った。
――
「「アルス、四歳のお誕生日おめでとう!!」」
え?
俺は家に帰り、食卓がある部屋へ入ると、父さんと母さんが俺の前に立っていた。
今日って四歳の誕生日だったんだ。
もう転生してから四年経ったのかぁ。
とても短く感じる。
死ぬことがなかったらあっちでは二十歳だな。
俺何やってたんだろう。
彼女とかできてたのかな。
まあいい。
「あ、ありがとうございます。今日って僕の誕生日だったんだね」
昔聞いたことがあったかも。
この国の人たちは四歳、八歳、十二歳、十六歳になったら誕生日を祝うんだったっけ。
ちなみに十六歳で成人する。
平均寿命は六十歳くらいらしい。
「そう、アルスは今日で四歳になる。これ、お父さんとお母さんからの誕生日プレゼントだ」
父さんが長方形の箱を俺に渡す。
包装紙に包まれた箱にリボンが十時掛けで結ばれている。
「ありがとう! 開けてもいい?」
「もちろんよ」
母さんが答えた。
ガサガサ
中には細い棒が入っていた。
魔法の杖だ。
先の方には赤く透明な石が付いている。
綺麗だ、とても。
「普通なら十二歳の誕生日にこういうのあげるんだけど、アルスもう上級魔法まで使えるでしょ? 特別よ」
「十二歳の誕生日に杖?」
「そう。十二歳が小学校を卒業する年なのよ。だからその年に杖や剣をプレゼントするっていう習慣があるの」
なるほど。
十二歳の誕生日プレゼントには卒業祝いみたいな意味も込められてるっていうことか。
でもなんで杖とか剣なんだ?
「なんで小学校を卒業すると杖とか剣なの?」
「小学校は読み•書き•算術•魔法術の初級•剣武術の六級から一級までを六年間で学ぶの。六年生になると魔法術と剣武術が主になるわね。それと卒業後に大学で魔法術や剣武術を学びたいって子も多いから。だから杖や剣をプレゼントするのよ」
「ちなみに、小学校の頃は魔法術や剣武術に優れているとモテるぞ。まあもちろん顔も大事だがな。お父さんは詠唱破棄が使えたからモテた。アルスは上級魔法まで使えるから全校生徒からモテるかもしれない。色んな子に手を出すんじゃないぞ? 相手は一人にしときなさい」
足が速いとモテる的なあれか。
まさか俺の人生でモテ期到来が約束されているとは!
異世界、愛してるぜ。
「真剣な顔して何言ってるのよ」
母さんは冷静にツッコミを入れる。
おっと。
危ない危ない。
鼻の下を伸ばしているのを見られらところだった。
「いや、ベル。これは重要な事だよ」
「まあアルスがモテるっていうのは確かね。可愛いもの」
母さんが頷く。
だめだ、この場にツッコミが居なくなった。
とりあえず話を戻そう。
「この杖は青いペンダントみたいに石が埋め込まれてるけど、これも何かあるの?」
「えーっとな。まず杖自体が魔力操作の補助役になっているのは知ってるか? 身体に流れる魔力が魔法術を発動する時に杖先に集まるんだ。だからコントロールしやすくなる。そしてその赤い石。それはお父さんが作ったペンダントの青い石よりも高価な物だ。その石は中で魔力を凝縮させる。だからより高密度な魔法術が使えるようになる」
「まあ簡単に言うとアルスはもっと強くなれるのよ」
母さんが簡潔に話す。
ちょっとまとめすぎな気もするが。
「へぇー。嬉しい。父さん、母さん、ありがとう」
俺は目を見てありがとうと言った。
そういえばちゃんと目を見て感謝の気持ちを言葉にしたのはいつぶりだろうか。
日本にいた頃は気恥ずかしさで両親とは目を合わせないで話してた。
思春期ってやつだ。
このアルスという人生でも思春期とか来るんだろうか。
また急に死んでしまったりするのだろうか。
「喜んでくれて嬉しいよ」
「そうね」
二人ともニコニコしてる。
心地のいい空間だ。
ずっとこのままでいい。
「じゃあ食べましょっか」
三人とも食卓の椅子に腰を掛ける。
食卓の上を見る。
真ん中にはこんがりと焼かれたお肉。
お肉の乗ったお皿には葉っぱが並んで飾りつけされていた。
周りにはミカンくらいの大きさのリンゴのような果物が入れられたバスケット、スライスされたパンが並ぶお皿。
他にもナンのような三角形の形をしたものなどがあった。
ご馳走だ
でも野菜は相変わらず少ない。
といってもどの国でも野菜を生で食べる文化はないらしい。
だからシチューなどの煮込み料理の中に入れられていたりする。
サラダ、久しぶりに食べたいな。
ドレッシングとかかけて。
お米もそうだ。
この世界に米なんてない。
味噌もない。
よく考えたら日本食あんま無いな。
あ、サラダは日本食じゃないか。
決めた。
俺はお米を作る。
この世界のお米に似た植物から品種改良を繰り返そう。
日本の美味しいお米も品種改良の末に生まれたもの、だった気がする。
俺の根気が強ければだけど
だめだ。
今は目の前のご馳走だ。
贅沢言うな。
母さんが俺のために作ってくれた料理だぞ。
「それじゃあ」
母さんが合図した。
「「「いただきます」」」
――
四歳になったということで、色々とグレードアップしたことがある。
まずはトイレだな。
おむつを卒業してトイレで大と小をする事になった。
この世界のトイレ、凄いぞ。
めちゃくちゃ不便なんだ。
あ、別に糞の便と掛けたつもりはないからね。
トイレの形としてはボットン便所みたいな奴だな。
穴が空いてる。
下水道なんかもないから、穴の奥に排泄物を溜めておくんだ。
まあ一応傾斜があって家の外で溜まるようになっているらしい。
それで溜まってきたら燃やして灰にするって感じだ。
一番気になるのは臭いだな。
一応母さんはたまに水魔法で水を流しているらしい。
まあまあ臭いがとれるんだとか。
次にお風呂だ。
今までは体を水を含んだタオルで拭いていたけど、樽風呂に入るようになった。
体を洗うというよりは湯舟に浸かるだけだな。
お湯自体は魔法で水を張って火で温める。
初級魔法は意外と便利だ。
物足りないので俺はいつもランニングウォーターを
頭上に発動させてシャワー代わりにして頭や身体の汚れを洗い流している。
でも温められないので冷水だ。
夏はいいが冬はやばそう。
あとは魔法術が使えるという事もあり、いつでも一人で外出する事が許された。
一応草原とかに行く時は父さんか母さんに言うように注意されたが。
よし
「行ってきまーす」
俺は玄関のドアを開ける。
これから散歩だ。
もちろん一人で。
俺は首にペンダント、右手に杖を握って外を歩く。
貰ったり買ったものをすぐに使いたくなるのは俺だけの癖なのだろうか。
前世でも気に入った服を買ったら次の日にそれを着て出かけたくなってたな。
あ、そういえば王都の中はあんまり武器とか持たない方がいいのかな?
いや、でも杖は武器のうちに入るのか?
それに前に大通りを通った時に腰に剣をぶら下げてた人もいた気がする。
まあ持ってても大丈夫か。
俺は右腕を伸ばしてまじまじと杖を眺めながら歩く。
うーん、行く当てもないんだよなぁ
とりあえず大通りに出ようか。
父さんのお店に遊びに行くのもいいな。
あ、そうだ。
この前父さんか母さんが小学校やら大学やらの話をしていたな。
見学に行ってみようか。
――
俺は大通りに出た。
うーん。
とりあえず道を尋ねてみるか。
…
ハ!
失念していた。
俺はコミュ障で高校デビューに失敗したんだ。
よく考えたら四年間生きてきて、会話の相手は父さんと母さんがほとんどだ。
そんな俺が知らない人に話しかけられる訳がない…。
…いいや、俺は日本にいた頃の俺じゃない。
俺はアルス•グラベルだ。
こんな、街の人に声を掛ける程度なんて、勇気出したらすぐ終わるだろ。
頑張るんだ、俺。
でも、誰に話しかけよう。
怖そうな人は嫌だな。
よし、あの人だな。
優しそう。
「す、すみません。小学校ってどこにあるんですか?」
俺は男の人に声をかけた。
「小学校? えーっと、大通りを進んだ先に噴水があるだろう? そこで左を向くとに左右に木が生えてる道があるんだけど、そこを進むと右手にあるよ。建物は大きいからすぐわかると思う」
「わかりました。ありがとうございます」
「それより君、一人だけど迷子かい?」
ま、迷子?
別にそんなことないんだけど。
「違いますよ?」
「ああ、そうなの。君見た感じまだ五歳くらいだから心配しちゃったよ。一人でお散歩かい?」
「そうです。小学校がどんなものなのか見たくて」
「へぇー、偉いね。じゃあ」
「ありがとうございました」
噴水を左、か。
なんだ、別に大したことないじゃん。
人と話すのが怖い?
勇気出せばすぐだったじゃん。
俺は何に怯えてたんだろう。
普通に人と話せた。
俺は顔を上げて小学校へと向かった。




