27 ツヴァイの燻り
「違います!変な誤解をしないでください!!俺はノーマルです。シェイラ嬢と出逢うまで特別心惹かれる女性がいなかっただけですから!」
俺の愛しのシェイラ嬢に何て誤解を与えるんだ!?
顔色を青くして泣きそうなシェイラ嬢に男色ではないと必死で説明する。
俺はこんなにシェイラ嬢が好きなのに!
「シェイラ?シェイラって、まさかシェイラ・ヘイゼルミアか?」
んん~?
おい、コイツ普通にシェイラ嬢を呼び捨てにし出したぞ。
馴れ馴れしいな。
羨ましくなんて、ありまくりだ!くっ、羨ましい!
俺もいつか結婚できたらシェイラって呼ぶんだ!!
帽子を深く被るシェイラ嬢の顔を確かめるようにジロジロ見ているのも不快だ。
見るんじゃない!
俺のシェイラ嬢が減るだろ!!
・・・しかし、シェイラ嬢の知り合いなのか?
この第2の所属らしい男は中々イケメンだ。
明るい色がモテる上流階級で余裕で通用する赤みがかった金髪は癖を活かしてスタイリングされているし、シャープな水灰色の瞳はキリッとして見える。俺の平凡な黒とは大違いだ。
体格も騎士なのに細身でスラッとしていて威圧感がない。なのに程好く鍛えられているから姿勢が良いとかズルい。
身長は同じくらいのようだが、厚みが違うせいか涼やかで黙って立っていたら女性が放っておかないほどモテるだろう。くそっ、イケメンめ。
シェイラ嬢もこういうのが好きなのだろうか。
俺に勝てるのは役職階級と腕ぐらいだ。
うん。ヤバいな、不利過ぎる。
「・・・はい。私はシェイラ・ヘイゼルミアと申しますが、貴方様は?」
あれ?
知り合いじゃないのか?
シェイラ嬢が凄く怪訝な声だ。
「僕はカシューネ侯爵家が三男リュメルだ。貴様が化け物となったあの日、ヘイゼルミア侯爵邸に居合わせた者だ」
へー、興味なかったから名前初めて知った。
リュメル・カシューネか。直ぐ忘れそうだ。
・・・ん?おやおや?
今、コイツ6年前のあの日に居合わせたって言ったか!?
つまり、件の《精霊の愛し子》かその知り合い。
士官学校で俺の同級生ならば同い年のはず。
今俺は23歳だから、6年前だと当時のリュメルは17歳か。丁度成人する年だな。
12歳のシェイラ嬢の友人として招かれたにしては年が離れているから兄弟か親族の付き添いだったのか?
はっ!当時から絶対可愛かったシェイラ嬢を見ただと!?
大人になった今の年齢での5歳差は余り気にならないが17と12か。むむむ、意識するか微妙なお年頃だ。
「リュメル。お前、ロリコンか?」
「はぁ!?」
「美しく可愛らしかったであろうシェイラ嬢に惚れなかっただろうな?」
あの当時からシェイラ嬢に目をつけていたら、少女趣味の可能性がある。勿論、将来を約束された美貌に目をつけていた可能性もある。
ならばロリコンの方が成長した今、シェイラ嬢に興味を持たないかもしれない。
「何を言っているんだ?確かに元は可愛い令嬢だったが、当時の5歳差だぞ?ない、僕はロリコンではないからな」
ちっ。では今の成長して白百合の化身のごとく美しいシェイラ嬢を見たら危ない。
イケメンのライバルが増えるのはごめんだ。
「しかも、今では化け物だっ、ぐへっ!?」
「おい、誰に向かって化け物だと?」
気付いたらリュメルの襟首を掴んでいた。
ギリギリと絞め上げるとリュメルが空気を求めて口をはくはくと喘がせる。
「ツヴァイ様!?」
シェイラ嬢の声で手を離す。
自分で思っていたより低いドスの効いた声が出ていたようで、シェイラ嬢を怯えさせてしまったかと内心慌てる。
ついつい愛しの姫君を化け物呼ばわりされてカッとなってしまったようだ。
リュメルの目が蔑むようにシェイラ嬢を見たのが赦せなかった。
化け物に見えるお陰で俺のような武骨な男でもシェイラ嬢に求婚するチャンスをもらえる予定なのに。
随分調子に乗って自分勝手なことをした。
・・・俺って卑怯だな。
腹の底からもやもやした黒い感情が燻り蠢き出す。
「俺の前でシェイラ嬢をそのように呼ぶな」
それでも、シェイラ嬢が化け物と呼ばれ悲しそうな憂い顔を浮かべるのは見たくなかった。
大体、リュメルは何をしに来たのだろう。
俺に突っ掛かって来たと思ったら、デートしていたシェイラ嬢を知っていると。
しかも6年前のあの日に居合わせたとか。
どんな偶然だ。
普通に怪しすぎる。
「げほっ、くそ、ツヴァイ・マカダミック。貴様、何をする!」
「お前は《精霊の愛し子》か?それとも、親族か知人か?」
だから王太子妃殿下が言っていたように、俺がシェイラ嬢と一緒にいるのが気に入らなくて出てきたのだろうか。
そう思って問うたのだが、リュメルはぽかーんとアホ面である。
「は?《精霊の愛し子》って何だ?」
「・・・じゃあ、何で」
まず《精霊の愛し子》が何かわかっていないようだ。
ついこの間までの俺と同じだな。
魔術師でもない人間は、通常見ることも触れることもできない精霊や妖精のことなど詳しく知らない。
そういう存在がいるのかと認知してはいるが他人事である。
魔術師でなくとも、潜在的資質100の《精霊の愛し子》か、それに近い魔術師の素質ありは、力の使い方を学ばなくとも日常的に精霊や妖精が見えることがあるらしい。
見えると妖精が関わってきたり、彼等の囁く会話が聞こえるから自然と知識やルールがわかるとか。
他に彼等が見えるのは、魔術師にならず悪霊を使役したり禁忌呪術に身を堕とした魔女ぐらいか。
つまり、《精霊の愛し子》と言われても呆けているリュメルは、すっとぼけていない限り《精霊の愛し子》ではないだろう。
しかし、このタイミングでリュメルが現れたのは偶然だと思えなかった。
「僕が見られるなら、アイツと違って魔術師になっていたさ。そうしたら貴様と比べられたりしなかった!」
ん?
何だって?・・・・アイツとは?




