26 シェイラと無自覚さん
ひぇっ!?
突然ツヴァイ副隊長様から名前呼びをお願いされました!
「ツヴァイです」
副隊長様と付けようとしたら訂正されてしまい、視線がきょろきょろとさ迷います。
何故このような展開に!?
親族でも長い付き合いの友人でも恋人や婚約者でもない殿方を役職名無しの名前呼び・・・
いいのでしょうか?
もっと明るく社交的なご令嬢ならば躊躇いなく呼ばれるのかもしれませんが、私のような畏怖される化け物が馴れ馴れしくありませんか?
私が躊躇っていると、ツヴァイ副隊長様が悲しそうに眉尻を下げてしまいました。
しゅんっとした様子のまま、潤んだ漆黒の瞳が私を見ています。黒曜石がチラチラねだるように見ています。うぐぐっ。
「―――――っ、ツ、ツヴァイ、様?」
恐る恐る呼びます。
あの黒曜石の誘惑に負けました。
だって、私が呼ばない方が悪いみたいでした!卑怯な。
「はい、シェイラ嬢!」
「あの、ツヴァイ様?」
へにゃりと微笑むツヴァイ様がとても嬉しそうで、私の頬も熱いです。
ま、まさか、狙ってあの目を?・・・違いますね。
本当に無自覚たらしです!でも素敵です!
胸がぽかぽかして心地好い空気が四阿を満たします。ずっとこうしていたいです。
余韻に浸っていると、突然四阿の緑のカーテンが毟りとられ、陽の光が入ってきました。
「ツヴァイ・マカダミック!この間はタバスコで勝負を誤魔化されたが、今日こそは僕を認めさせてやる!!」
いきなり現れたのはツヴァイ様と同年代の殿方でした。
癖のある赤みがかった金髪につり上がった水灰色の瞳、ツヴァイ様と背は同じくらいですが細身で、失礼ながら強そうには見えない体格です。
タバスコ?勝負?
何のことでしょう?
「・・・?」
ツヴァイ様もぽかんとされてます。
本日会う予定のなかった方なのでしょう。不意討ちというやつですね。
「いや、タバスコドリンクはお前達が俺に負けたからだろ。しかも俺も後からアーモンディに飲まされたし」
ツヴァイ様が敬語じゃないです!
初めて聞きました。
敬語で話されるよりも雑な感じが親しげで、私が言われた訳ではありませんが少しドキドキいたします。
私もツヴァイ様ともっと親しくなれたら、私への話し方も変化するのでしょうか?
想像すると何だかわくわくいたします!
それにしても、この殿方はツヴァイ様の知り合いなのですよね?
先程からツヴァイ様を不躾にジロジロ見ては顔を顰めて睨んでおられます。お休み中にも関わらず出先で声をかけられるなんて、実はツヴァイ様と仲がよろしいのでしょうか。
私が居ることに気付いてないのか興味がないのか知りませんが、ずっとツヴァイ様だけを睨みイライラしたご様子。
対するツヴァイ様は興味なさげに適当にあしらいつつショコラタルトを美味しそうに頬張っていらっしゃいます。
目を細めてもぐもぐされるツヴァイ様が可愛らしいです!
お見合いの時のお食事では、少々混乱して余りツヴァイ様のお食事姿を拝見できませんでしたからね。残念です。
「うるさい!!僕と正々堂々勝負しろ!」
「・・・何故?そもそも俺が認めるって何を?別にお前第1所属じゃないなら仕事の昇格にも関係ないだろ。・・・所属どこだっけ?」
「第2だよ!この間合同訓練しただろ!?」
「あぁ、そう言えばタバスコドリンク作ったのアーモンディだったから、一緒に訓練したならば第2か。アーモンディなら腕を磨けばきちんと評価してくれるだろう?」
ツヴァイ様の態度は素っ気ないものです。
でも、この殿方の態度は最初から喧嘩腰でしたので致し方無いかと思われます。
何故このようにツヴァイ様へ突っ掛かっておられるのでしょうか。
「そうだ!だからこそ、貴様に認めさせなければならない!!さぁ、勝負を、」
「断る」
即答ですね。
「はっ!?勝負しろよ!!」
「断る。俺は関係ないだろ」
「アーモンディ隊長や周りに認められるためには、貴様を倒さねばならない!!貴様が同級生だったばかりに士官学校時代から僕がどんなに優秀で努力しても、ツヴァイの方が強い。ツヴァイの方が努力している。ツヴァイを見習え。と言われ続け、卒業して軍に入隊しても、同期のツヴァイは新人なのに優秀だ。ツヴァイはエリート近衛に引き抜かれた。ツヴァイはもう殿下の護衛を任されている。ツヴァイは最年少で第1の副隊長だ。と言われ、比べ続けられた僕の気持ちがわかるか!?」
わぁ。涙目で訴える姿が少し可哀想です。
ツヴァイ様、凄く優秀なのですね。
「だが、断る。俺と比べられたからと言って勝負する意味がわからないし、今デート中なのを察しろ」
「・・・何っ!?」
そこで初めて私の存在に気付かれたようです。
ツヴァイ様に夢中過ぎて本当に気付いておられなかったのですね。
まぁ、帽子を深く被ってますので彼方には私が誰かわからないのもあるのでしょう。
それよりも!
―――――デ、デ、デ、デート!?!?!?
え?
今、私ツヴァイ様とデートしているのですか!?
あの、恋人や婚約者やご夫婦がされるというデート。
化け物令嬢と呼ばれる私には一生縁の無いと思っていたデートです!
私に《妖精の祝福》を与えられた時に妖精の近くにいた《精霊の愛し子》を引き寄せるための打ち合わせだと思っていました。
嬉しくて、落ち着かなくてそわそわしてしまいます!
私が挙動不審になってしまったからか、ツヴァイ様が少し困ったように眉尻を下げでおられます。
「騒がしくしてしまいすみません」
「いえ、新たなツヴァイ様の一面が見られて嬉しいです」
「新たな一面ですか?」
不思議そうに首を傾げてきょとんとされます。きゅんっ。
「はい。ツヴァイ様が敬語を使われないのを初めてお聞きしました」
「あぁ、粗雑ですみません。仕事や友人など男相手だと話し方がどうにも雑になってしまいまして」
少し照れたようにはにかむツヴァイ様にきゅんきゅんです!
「いえ、素敵です!」
ツヴァイ様が何をやって、何を言われてもときめく気がします。
会う度に好きになってしまうなんて、ツヴァイ様は本当に無自覚で素敵です。
「貴様ら、僕を無視するなよ!?しかも、ツヴァイ・マカダミック!クソ真面目で堅物で女に興味がない貴様がデートだと!?」
私がツヴァイ様にきゅんきゅんしていると、横から邪魔をされてしまいました。むぅ。
しかし、内容を理解して胃が落ちたように青ざめます。
「えっ、ツ、ツヴァイ様は、そのっ、殿方がお、お好きなのですか!?」
そんなっ!?
もしツヴァイ様が其方の方だったらどうしましょう!?
私が殿方に成れたら良いのでしょうか?
はっ!《妖精の祝福》で性別が男性になれ、――――駄目でした。そういえば《精霊の忌み子》であるツヴァイ様には見えないのでしたね。役に立ちません。
「違います!変な誤解をしないでください!!俺はノーマルです。シェイラ嬢と出逢うまで特別心惹かれる女性がいなかっただけですから!」
私が悶々としているとツヴァイ様が否定してくださりました。ほっ。
今まで心惹かれる女性がいなかったというのは意外ですが、私が特別だ。一目惚れだ。と言ってくださるツヴァイ様の周りのご令嬢を見向きもしない様子が嬉しくて胸がぽかぽかしてきました。
突然、放っておかれた第2の騎士様(?)が、ツヴァイ様の口から出た私の名に反応されます。
「シェイラ?シェイラって、まさかシェイラ・ヘイゼルミアか?」
帽子を被って顔が見えない私をジロジロ見ているであろう視線を感じます。
本人に向かっていきなり呼び捨てですか。
この騎士様に見覚えがないのですが、いったい誰なのでしょう。
「・・・はい。私はシェイラ・ヘイゼルミアと申しますが、貴方様は?」
「僕はカシューネ侯爵家が三男リュメルだ。貴様が化け物となったあの日、ヘイゼルミア侯爵邸に居合わせた者だ」
え?
もしや、もう例の《精霊の愛し子》が接触してきたなんて・・・ありませんよね?




