冥界へ誘うゴーストタワー(其ノ肆)
孝太郎が言葉を発する。それは本格的に今回の会見が始まったことを示していた。
「我が社は富裕層に的を絞り、多大なる利益を上げてきました。この土地は彼らの好む自然の静けさと眺めの良い景色を併せ持ちます。我が社の投資する土地は比較的高価な土地であり出資するライバル企業は少ない。そのため、利益を一人勝ちしてきました。」
孝太郎は熱弁を振るう。
「我が社は安易なタワーを大量に造る会社と違い一つ一つ丁寧にタワーを造っています。タワーが建てられた地域住民への満足度を調査しまとめました。約六百人へアンケートしたところ、その内八十三パーセントが我が社のタワーに対して満足していると答えました。この金持タワーもまたあなた方に満足して頂けるものと考えております。どうかタワーの建設にご協力お願い致しませんでしょうか。」
彼は深々と頭を下げた。
そこに野次が飛んでくる。
「お前らが山の木を切って、今の景観は消えたんだ。さらにタワーを建てるだと!? タワーが目立って景観が台無しじゃねぇか。」
一人の男性の罵声とともに「そうだ、そうだ」と飛んでいく。
それを八木は制止させる。
「待って、待って下さい。まだ話は終わっておりません。質問などは後で時間を設けておりますので今はお控え下さい。」
罵声を浴びせた男性は「ちっ」と舌打ちをして腕を組み始めた。
彼が黙って聞く体勢になったことで他の聴衆も静かになり部屋が落ち着いた。
「次は弁護士の飯田からお話があります。」
ルインは壁にもたれている状態から少し前のめりになった。そのへいで体勢を少し崩してしまい松葉杖で体勢を整えることとなった。
健治はその様子に疑問を感じてルインの耳元に小声で囁く。
「どうした?」
「飯田の主張が気になってしまってな。」
「それな。俺も気になるぜ。けど、まだ怪我してるんだし気をつけろよな。」
「そうだね。気をつけるよ。」
飯田は拡張器越しに「ごほんっ」という声を出す。それがさらに緊張感を生んだ。
「あなた方は景観を守りたいということ。もしここに金持タワーが建てられなかった時でも景観を守ることは不可能だと存じますぞい。」
不穏な空気が漂い始めた。
「この世は全て"金"ですな。金で回っているのですぞ。この地域は過疎化と産業の移動で景観を維持する金も足りなくなっているのですな。ここの知事は建設に理解して頂いている。それはこのことを知っているのですかいな。あなた方も理解して欲しいのですな。」
傲慢な勢いに反発した住民が声を荒らげた。野次が飯田を襲う。
「だからと言って、自然を壊したら元も子もないだろ! なくなった自然はもう戻らない!!」
「だからと言って無法地帯な自然にするつもりですかい? それこそ景観は損なわれてしまいます。そのせいでこの地域はより人が寄り付かなくなって、さらに資金が底をついていきますぞ。」
「市民の手で手入れしていけば大丈夫だろ!!」
「本当に大丈夫ですかな。そのうちあなた方の中からこの地域を棄てて引越しする人が出始めるぞい。無造作に侵食する自然に嫌気をさしていき、さらに空巣が増えていきますぞい。空巣が増えれば放火魔や窃盗犯の住処になりますな。犯罪者がすぐそこにいるかもしれない地域になるかもしれませんのですぞ。」
「そんなことにならない。な、儂らはこの地域を見捨てないよな?」
野次の男性は周りを見渡した。見渡すと頷く人が半数以上いた。だが、頷いた彼らは若くはなかった。
「お年寄りは見捨てることはないかもしれませんな。これからの未来は若者にあるのですぞい。お年寄りに意志があっても若者に意志がなければ意味ありませんなぁ。それに、今ここで見捨てないことに意思表明していても気が変わるってこともあるまじきこと。この状態が変わってしまう可能性は高いですからな。」
飯田は腕を組んで住民達を見下げるように眺めていた。
「結局金持タワーがなくても景観は損なわれる。逆に景観を損なわないよう工夫している金持タワーを建てることが金をうみ、景観維持ができる。残された選択肢は一つだけですな。」
「「ここに金持タワーを建てることに同意しなければならないのですな。」」
その一言で住民側の導線に火をつけた。一瞬にして住民側に活気づく。
様々な罵声が交じり一つ一つの声を聞き取れない。
八木は慌てふためいて住民側から放たれる野次を止めようと拡張器越しで声をかけるが、その声は無視されていく。
飯田はその野次に真っ向から反論しようとする。それがさらなる火種を産んだ。
統制の取れない争いが繰り広げられる。
罵声が雑音へと変わって聞こえる。収集のつかなさそうな争いを横にルインらはその雑音を聞いて溜息を吐いた。
「駄目だな……こりゃ。」
「あいつ。ほんとに弁護士なのか?」
「どうだろう。ひとまず今回の会見は無駄に終わった。」
「そうですね。」
「"何かをしなければならない""何かをしろ"という命令や強制は時に人を反発させる。警察のように実行力と大衆に認められた正義があるのなら別だが、このような小さな枠組みでは強制はしずに相手に同意をして貰えるように持っていくテクニックを駆使して貰いたかった。」
「だな。もう謎のタワーについて何一つ参考にならなさそうだしな。」
「どうしますか? この後。」
「取り敢えず、聞ける人から情報を収集しよう。」
「そうですね。」
収まらないと思えた騒動は八木が強く放った「今日の会見の時間は終了しました!!」の一言で静まり返った。
「すみませんがら定時となりましたので会見は終了とさせて頂きます。第四回の会見及び質問会の是非と日程は後日回覧板を通してお伝えします。本日は足を運んで頂きありがとうございました。これを持ちましてお開きとさせて頂きます。」
人々は自由に帰り口へと歩いていく。彼らは不平不満を漏らして乱雑な足並みで帰っていった。
アルマー側の四人も会場を離れた。
会場に残っているのはルイン達と四人の住民だった。その内二人は人気のない会場でたわいない雑話を話している。一人はゆっくりと会場を帰ろうとして、もう一人は何かを描いているように見えた。
健治は帰ろうとする住民に声をかけた。
「すみません。」
「はい、なんでしょうか。」
「最近現れた謎のタワーについて調べているのですが、協力してくれませんか。」
「え、えーっと。刑事さんですよね。まあ、いいですよ。」
五十代ぐらい年齢に見える優しい顔をした男性だった。
彼は土方 翔聘。人事に関わる仕事を持ち、ここから車で三十分程度の場所に住んでいる。子持ちであり、実家がこの近くなためよく子どもとともに遊びにくるようだ。子どもに悪影響を及ぼさないかどうか、を争点としてこれに参加したようだ。ただ、会見の内容が思わぬ方向へと進んだため欲しい成果は手に入らなかったようだ。
「その……謎のタワーは僕も見に行ったんですけど、まあ、何といいますか、茶色の渋みと黒色のカッコ良さがあったタワーだったような気がします。」
「なるほど。茶色と黒色……」
「僕に言えるのはこれぐらいです。興味本位で一回行ってみただけで家はここにはありませんし、ちょっとこれ以上は分からないです。」
「そうですか。ご協力ありがとうございました。」
軽いお礼をし合った後、彼は帰っていった。
その内容をルイン達で共有する。
「すみませーん。何か困りことですかー?」
若いお姉さんが声をかけてきた。
白い無地の服の上のカラフルな油絵具が印象的だった。不思議なイメージを醸し出していた。




