冥界へ誘うゴーストタワー(其ノ伍)
「すみませーん。何か困りことですかー?」
若いお姉さんが声をかけてきた。
白い無地の服の上のカラフルな油絵具が印象的だった。不思議なイメージを醸し出していた。
「まあ困りごとと言えば困り事かもなぁ……。」
「そうなんですね。つい声をかけた方がいいのかなー、ってほど神妙な顔持ちでしたもーん。」
「そうなのか。気づかなかった。」
一秒ごとにどこかの体の部位を動かしている。周りから見れば浮いている感じを与える。自由さを感じられる雰囲気を醸し出していた。
それとは反対に真面目な雰囲気を持つ祥子が彼女に話しかけた。
「そうなんですよね。私達は警察で、最近この近くに現れた不思議なタワーを調べに来ているのですけど、全く手がかりが得られないのです。そこでなんですけど、何かそのタワーについて情報を提供して頂けますか?」
「いいですよー。」
その人は有益な情報を持っていなかった。しかし、彼女自身が有益な人物であった。
「あまり、役に立たなかったかな。」
「いいえ、役に立ちましたよ。」
「嘘つかなくていいよー。そうだ、いいこと教えてあげる。」
「いいこと? ですか。」
「うん。あたし、田邊 佳純って言うんだけど、実はここの区長の田邊 勝茂の実の娘なんだよ。」
「はぁ、そうなんですね。」
「えー、全然喜んでないじゃん。調べたいタワーのある山にはアルマーの関係者以外立ち入り禁止だけど、パパが認めたら入れるんだよー。」
「凄いですね。」
「きゃはっ、そうでしょ。早速行ってみる?」
そう言うと、佳純はスマホを取り出して触り始めた。マイペースに話を進める佳純に健治は口を開いた。
「いや、二日後にアルマー側から入る許可貰って……」
電車から眺める景色の一つのように健治の言葉は通り過ぎて消えてしまった。
佳純は手元のスマホの画面をルイン達に向けた。
「許可取れたよ。早速、行く!?」
ルインらは顔を見合わす。
健治以外は皆首を縦に振った。
「有難い。行かせて貰おう。早く行くに越したことはないからな。」
健治は「せっかくアポ取ったのに」と小声で嘆いていた。
そんな時、一年代遅れた時代の曲がその部屋に流れる。突如流れたその曲な音源を探すために見渡す。
健治はジーパンの後ろポケットを見つめた。その曲は健治の着信音だったためすぐに音源に気付くことができた。そして、ケータイを取り出すとルインらに一言「電話してくる」と言って人気のない場所へと出た。
ケータイの奥から刑事の声。
『もしもし。如月です。』
「おう、茂か。どうした?」
『こちらの方の怪死事件、その犯人が"M"の仕業であると特定しました。さらに、"M"の候補と思われる人物が一人、こちらの事件に関わっていました。』
「誰だ?」
『指定暴力団新田組の一員であった黄嶺颯太の被害者であり、現在も行方の知らない人物"長嶋朋花"。その人物の目撃情報がありました。今我々はその目撃情報を頼りに長嶋の行方を追ってます。』
「そうか。じゃあ、俺のあたっている怪事件の方は……」
『はい。"M"とは何ら関係ないと思います。』
「分かった。俺はこっちを終わらしてからそっちに行く。」
『警部補が行く前に終わらせますよ。ご自由にゆっくりしていてください。』
「言わせてくれるじゃねぇか。そっちは任せたぜ!」
『了解です。全力を尽くします。それでは失礼します。』
連絡が遮断された。「まじか……」と言いながらルインらの元に戻っていった。
ルインの元に見知らぬ男性が一人増えていた。
「遅いよー。もうパパ来ちゃったよ。」
「……と言われても、たった十分程度しか経っていない気がするけどな。」
男性はキチッとした服装を着こなしていた。
佳純がパパと言っていたため、彼が区長の勝茂であることに気付いた。
「私は区長の田邊 勝茂です。よろしくお願いします。」
勝茂は手を差し出した。
健治は自己紹介をしてその手に触れて握手を交わした。挨拶を終えると勝茂は穏やかに話し始めた。
「それでは早速山へと向かいましょうか。」
「ああ、楽しみだ。」
「そういや、だけどルインも山に登るのか?」
「そうだが、どうした。」
「お前まだ骨折中だけど大丈夫なのか?」
「それぐらい平気だ。それよりも視察できずに謎の解明が出来ない方が嫌だからね。」
「そりゃあ、そうだな。」
山の方へと向かう。例の山を遠くで見ると本当に不気味なタワーが建っていた。
しかし、ある程度近づくとそのタワーは見えなくなった。まさに、摩訶不思議という感じである。
勝茂の許可により山の中へと入っていく。
焦げた跡のように木や草の生えていない山。代わりに、絵の具で塗られた地面が目に映る。
「なんですか。この絵は……。」
「この絵はあたしの力作なんだよ。」
「どういうことですか?」
「それは私からお伝えしよう。この絵は佳純が描いた絵なんだ。本当はとめて叱らなければならないが、アルマーから「結局は山を崩すからそれまではご自由に」と言われこのようなことになったのです。」
キャンパスには茶色や黒色が目立つ。その色の所々には赤や黄色、オレンジ色など明るい色が混じり、見てて飽きない絵を創り出している。
「これを娘さんが描いたんですか? 普通の人では描けませんよ。」
「佳純は絵に関しては天才ですよ。今は長期休暇でここにいますが、学校は東京にある美術界のトップ大学に通い、それもそこでは優等生ですからね。」
「素晴らしい。未来が楽しみだ。」
「楽しみにしてて下さいよ。歴史に名を残すかもしれませんもん。」
絵の上を歩いて行くと沢山の岩場のある場所に出た。そこの岩にも満遍なく塗りたくってある。その上に被さるニスが光沢感を出している。
「すまん、俺は一旦ここで待機しておくわ。全員が同じ場所にいるともしもの時に対処出来ないからな。」
健治は近くの岩に腰を下ろした。
そして、シーナの頭を鷲掴みにする。
「それとシーナは俺とともにここで待機だ。お前はまだ小せぇからな。ここから先は謎めいた危険地帯。お前には危ねぇよ。」
「小さくない。シーナはとっくに社会人だから。」
「まだ十七じゃねぇか。俺の半分程度しかねぇチビじゃまだ早ぇから。」
「うるさい。」
ルインは松葉杖を器用に扱い健治の方を見た。
「……分かった。私達で先に進んでいる。見終わったらまた戻るよ。」
「おう、よろしく頼む。」
「それではお二人には道案内を頼みたい。そして、祥子は私の臨時補佐を頼む。」
「分かりました。無茶はしないで下さいね。」
「もちろんだ。」
勝茂と佳純はルイン達の前へと出た。
「行きましょう。実はここから先、私も踏み込んだことがないのです。ですので、慎重に行きましょう。」
「慎重に行ってもつまらないから楽しく行こうよ!!」
「こらっ、佳純!!」
ルインは再び回転した。
「それではゆっくりと楽しく行きましょう。」
「すみませんね。もう大学生となりますのにこうも無礼で申し訳ない。」
「いえいえ。こちらも楽しくなりますし、大丈夫です。」
ルインら四人は岩場の向こうへと進む。
小さな山の頂には生い茂る木々が伐採されずに残っている。凛と聳える木々は森となり、太陽の光を閉ざしていた。
少し薄暗いダンジョンへと足を踏み入れたのだった。
一方で岩場に残った健治とシーナ。
健治の顔にはさっきまでの笑顔が消えていた。神妙な顔持ちで声を発する。風の音だけが響いていた岩場でその声は重く真っ直ぐに進んだ。
「シーナ、聞きたいことがあるんだけどいいか。」
「何……?」
「「お前と"長嶋 朋香"は、本当はどういう繋がりなんだ?」」




