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冥界へ誘うゴーストタワー(其ノ参)

「さて、黒幕や"M"については傍らに置いて、謎のタワーの真相について暴き出しに行くか。」


*


 真正面には四つの椅子が対面して置いてある。

 そこから距離を空けた所に椅子が列になって並べられている。そこに住民を初めとする聴衆が並ぶようだ。

 真っ白で単調な部屋の中でルインらは部屋の片隅(かたすみ)で立ち尽くしていた。

 ルインらは早く会場へと着いた。会場には早く着いた聴衆が三人いた。その内の一人はルインの元に近づいてきた。白い顎髭(あごひげ)(しわ)が目立つご老体だった。フレンドリーな表情が皺をさらに目立たせる。


「よーほっほっ、あんたらは確かタワーの謎について調べに来ている警察の方でしたかな。」


 祥子が「はい」と言って彼の視線を呼び寄せた。


「そうですが、横にいる眼鏡をかけた男性と小さな少女は警察ではなく探偵です。」

「私はルインと申します。横に立つ者は私の助手であるシーナです。」

「そうなんかい。ほへー。いやぁ、驚いたなぁ。あのルインさんかい。よく(うわさ)で聞いてたわい。腕のたつ名探偵ってな。」

「恐縮です。」

「あんたがいれば冥界(めいかい)(いざな)うゴーストタワーも簡単に解明されそうやなぁ。」

「冥界へ誘うゴーストタワー……。面白い。」

「そうじゃろ。(わし)ながらセンスがあるよのぅ、と思ってたところじゃからな。」


 彼は「そうそう」と繋いだ。


「名乗るのを忘れてもうたわい。歳を取るとどうも忘れがちになるんじゃ。許して貰えんかのう。それでじゃが、儂は(なだ) 宗明(ときはる)っちゅうもんや。よろしゅうな。」

「よろしくお願いします。」

「あんたらはやはりこっち側じゃろ?」

「こっち側とは、アルマーに対立している住民側ということでしょうか。」

「そうじゃ。」


 ルインは何色にも染まらない瞳で宗明を見た。


「いいえ、私達はどちら側にもつかない。目的はそのゴーストタワーの解明であって、アルマーの建設の反対ではありませんから。」

「そんな硬いことぉ。だがなぁ、あやつらとは違って正しい歴史は理解してそうじゃな。」

「正しい歴史?」


 宗明は心の中に秘めた想いを語り始めた。


「そうじゃ。この地域にはのぅ。ガウタマ=シッダールタ、そう仏教の創始者お釈迦様の加護があるんじゃ。そして、その加護に至るまでの歴史もある。儂らが守り続けた歴史じゃ。じゃがな、あやつらはそんな歴史を知らない。それどころかその加護を破壊することを容認する歴史を持っているんじゃよ。」


 健治は話の波に置いていかれて首を横に傾げた。


「えーっと、それはどういう……」


 その時、ルインが横から水を差す。


「待って欲しい。正しい歴史とは何か……。それは自己で決めた"正しさ"であって他人に押し付けるべき正義とは思えない。」

「どういうことじゃ?」

「歴史はその地理、物事に対する立場、位置、様々な要因で捉え方が変わってくる。それを異なる意見と交わせ抽出(ちゅうしゅつ)削除(さくじょ)を繰り返すことで真実に近い歴史を得るが、それ自身完全な歴史とは考えにくい。私は様々な歴史が存在していいと感じている。あまりにも()じ曲げられた真実とは程遠い歴史には異議(いぎ)(とな)えるが、そうでなければ認められるべきだと感じている。違うことは仕方ないからだ。

 歴史を知って貰うことは容認するが、自身とは違う歴史を否定することはして貰いたくない。自身の歴史感を他人に押し付けないで貰えないだろうか。」


 宗明の重心は後ろへと向かっていく。

 丁寧さを消した力強い口調が宗明を攻めていく。


「ど……どういうことじゃな。」

「学んだ歴史が異なる者に"間違った歴史""歪曲(わいきょく)した歴史"とレッテルを張り、自分の思う"正しい歴史"をその者に押し付けないで貰いたいのですよ。」

「儂ぁ、年寄りじゃ。儂にゃあ、理解できん。」


 健治が自慢げに前に出た。


「俺は理解したぜ!」


「つまり、こういうことだろ? 歴史に"正しい"も"間違い"もあるもんか。ないものを押し付けんなってことだろ!?」

「まー、そうだね。」


 宗明の髪が逆立っていく。


「なんじゃと!? 歴史を否定するのか?」

「そんなこと一言も言ってない。」

「あんたらは本物の歴史を学んでないからこうなるんじゃ!!」


 怒り心頭の彼にはルインの声が聞こえていなかった。

 ルインはそれを察知し無言になった。急な無音が静寂に変える。無音の空気は冷たさへと変わる。冷えた雰囲気が宗明の頭を冷やしていく。


「何か言ったらどうじゃ?」

「理不尽な難癖(なんぐせ)をつけられたら困るので、冷静になるのを待っていたのですよ。」

「なんじゃと!?」

「うるさい────静かにして!!」


 シーナの突発的な一言で宗明は言葉を失った。


「本物の歴史は分からない。

 歴史は古くなればなるほど情報が少なくなる。一つの史料から判断しざるを得ない歴史もあるだろう。歴史を残す者の捉え方からその歴史を後世へと残す。もし聞いたことを後世へと残したのなら間違いがあるかもしれない。時の権力者が都合の悪い歴史を消し去ったかもしれない。今でさえ事実への捉え方は違いが多い。その捉え方が全く事実とは違っている時もざらにある。それが古い歴史となればなるほど、その事実を確認するための史料も少なくなる。

 こう考えると歴史が本当かどうか怪しくなるだろう。正しいかどうか考えるだけで馬鹿馬鹿しいとも思えてくる。」


 ルインは綺麗にお辞儀をした。


「長話失礼した。言いたいことは一つ。討論の時に……」


 「「"歴史の正しさ"についてを討論に持ち出さないで貰いたい!!」」


 ルインは宗明から距離をとった。


「取り敢えず、これ以上はやめよう。"正しいかどうか"という正義の真理は追い続けても一生正解が見えてこない。」

「ふんっ、おぬしらはあやつら側じゃったってことかい。」

「言ったはず。私達はどちら側にもつかない。住民側に批難はしないとは言っていないですからね。もちろん、アルマー側へも同じ態度を取りますよ。」

「ふんっ、勝手にしろ!!」


 宗明は住民の席の最前列に座った。

 さっきまでの静寂も徐々に賑やかな音が混じっていく。いつの間にか静けさとはかけ離れた賑やかさへと変わっていた。


(あらし)が過ぎ去ったみたいだ。」

「ほんとなんだったんだろうな。」

「アルマーの建設反対に必死だったのだろう。味方であると思って話をかけたら全く違い、逆に攻めの一手を指摘(してき)された。それで逆ギレしてしまったのだろう。」

「やれやれだぜ。」

「こういう時は適当に相槌(あいづち)を打っていれば良かったのではありませんか。」

「良かったかどうかは結果でしか分からない。私が指摘したことで反発をくらったが理不尽な反論を防ぐことができた。一方で相槌を打てば反発されなかったかもしれないが、彼のためにはならない。」

「うーん。どちらか良かったのでしょうね。」

「様子見だな。」

「そうですね。」


 席は(まば)らに埋まっていった。

 おしゃべりが幾つも重なり、話をしていない者には雑音へと変わっていた。

 アルマーの役人が会場へとやってきて、決められた席へと座ると雑音はすぐに消えた。

 彼らはみな高価な黒服を着て誠実(せいじつ)さを(かも)し出している。(けわ)しい表情を見せる若い男性、寝不足に見える女性、ヒョロッとした男性、そして顔馴染(かおなじ)みな太っている男性。彼らは決められた席へと座る。


「おはようございます。私は司会を務めさせて頂く八木(やぎ) 九森(くもり)でございます。どうぞよろしくお願いします。」


 ヒョロッとした八木は他の役人達の説明をし始めた。


「私の反対側の端に座られますのが今回の覚王山金持(かくおうざんごんじ)タワーの建設責任者でおられる(かずら) 孝太郎(こうたろう)でございます。」

「よろしくお願いします。」


 険しい表情を見せる孝太郎に住民側は厳しい目を向けていた。


「その隣に座れますのは我がアルマー株式会社の顧問弁護士の一人でおられながら探偵という職を持つ飯田仁でございます。」

「どうぞ、よろしくお願いしますぞい。」


 壁際にいたルイン、健治、祥子は飯田の紹介を聞いて吹き出した。


「知らなかったよ。まさか、探偵と弁護士とを兼業(けんぎょう)していたとは。」

「……ってか、なんでここにいるんだよ!!」

「弁護士だって知らなかったです。」

「いや、そこはいいだろう。何故、俺らの行く数々の事件にあいつが関わってくるんだよ!!」

「切れない糸で結ばれているのだろうか。嫌だな、飯田との(くさ)れ縁。」

「それな。」

「今の衝撃(しょうげき)でこの会見の内容が耳に入らなくなりそうです。」

「切り替えよう。ここに来た目的を果たせなければ意味が無い。」

「……そうですね。」


 ルイン達は深呼吸をすることで同様を隠した。


「書記を務めさせて頂く耀海(あかるみ) 枸杞(くこ)です。よろしくお願いします。」


 眠そうな枸杞が話し終えると八木が聴衆に向けて口を開いた。


「わざわざ足を運ばれ会見へと集まって頂いた皆様に感謝申し上げます。まずは我々アルマー株式会社から説明申し上げます。その後、皆様の質問に一つ一つ答えていく時間を設けさせて頂いています。」


 スイッチを切り分けたルインらは壁際で冷静に状況を眺めていた。


「早速ですが責任者でおられます葛からお話申し上げます。」


 緊迫(きんぱく)した空気が広がっている。

 孝太郎は席から立ち上がった。重圧に負けずに口を開いた。聴衆もルインらもその口元に集中した。

 孝太郎が言葉を発する。それは本格的に今回の会見が始まったことを示していた。

これは何を言いたいかわかる人には分かりそうです。

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