鏡越しのパズルピース(終章)
健治は怪我を負っているルインを見て、彼の身に起きた悲劇を痛感した。
健治は慌てふためいてルインに近づいた。
「おい、どうしたんだよ! 何があったんだよ!!」
「黒幕を尾行していた。もうすぐで暴けそうだったんだが、見つかってしまったよ。」
「黒幕って確か暴力団と関係性があったはず。もしかして、その暴力団のアジトに潜り込んだのか?」
「潜り込んではいないがを拠点地を発見することが出来た。」
ルインはさっきまでの記憶を手繰り寄せた。
最近"M"が新田組の一人を殺害した。ルインはその場所に向かった。"M"を見つけることは出来なかったが新田組の一人を見つけることは出来た。
そして、ルインは新田組の一人を尾行していくことで彼らの拠点地を発見することが出来た。
路地裏から彼らの出入りを見る。
その時───とても低い声がルインに向かって投げられた。そこには巨体な男が立っていた。手には鉄で出来た廃材のパイプを握っていた。
巨体な男はルインをじっと見るや否や鉄パイプを強く握った。「しゃあねぇ、見られちまったには、ちと死んで貰うか」と言い放ち、ルインを殺そうと襲いかかってきた。
ルインは身体を捻って攻撃を避ける。警官時代に鍛えてきた運動神経により紙一重で済んだ。
次々振り回される鉄パイプ。ルインは辛うじて躱していく。さらに、速度は上がっていく。攻撃が腹に直撃した。
痛さで地面に転がる。そこに、鉄パイプが思いっ切り振り落とされた。ルインは痛みを噛み締めながら移動するように転がる。だが、攻撃の止まる気配がしない。腹を押さえながらその場から離れた。
振り回される鉄パイプを掻い潜りながら逃亡する。だが、全ての攻撃を避けられることなく幾つかの衝撃がルインを襲った。横に振られる鉄の塊。ルインは廃家の外壁を蹴り飛ばして勢いよく地面を転がった。しかし、そのせいで立ち上がるのが遅れた。頭部に向かって振り落とされる鉄パイプ。
「予想していると思うがそこで私は彼らに見つかり殺されかけた。」
巨体な男の眼に入る眩い光線。ルインは小型の懐中電灯を懐から取り出し、そこから放たれる光の筋が敵の目に入るように先頭を向けた。
目が眩んだ敵はなりふり構わず真下に向かって振り下ろす。そのお陰で攻撃を避けれた。ゴガンッ──。脳死の一撃が地面に強く当たる。地面に与えた衝撃の一部が鉄パイプを通って巨体な男に向けて跳ね返っていく。
巨体な男の手に蹴りを入れてさらに衝撃を加える。鉄パイプが落ちた。地面に転がる鉄パイプを蹴り飛ばした。地面を勢いよく真っ直ぐ滑っていく。そうして、巨体の男と彼の持つ武器が離れ離れとなった。もし武器を取りに行けばこのまま逃げ切ることが出来る。
ルインは必死になって逃げた。薄暗い路地の裏をひたすら走っていく。太陽の光がここには届かない。暗い路地裏は迷路のように複雑に入り組んでいる。陽光射すゴールに向かって走っていく。その後ろから武器を取らずに追いかけてくる巨体な男。その男はルインに向かって殴っていく。ルインはそれを躱したりそれに当たってもすぐに立ち上がって逃げたりした。
目の前に見えるゴール。だが、そのゴールの光が消えてしまった。身体から力が抜けていく。敵の渾身の一撃がルインの瞼の底から色を奪った。動けないルインに向かって容赦ない攻撃が加えられていく。意識が段々遠ざかっていく。
「そこで、誰かは分からないが私を襲った相手を殺した人物が現れた。その者は私を殺さずに見過ごした。その後、私の状態を見た一般人が通報し、今ここにいる。」
「殺した人物だと?」
「ああ。だが、私にはそれが誰だが分からない。その時には殺されかけていたため意識が朦朧としていたからね。」
地面に這いつくばる。眼前の敵は留めをさそうと近付く。瞳には巨体の男とは別に死神が写る。
パンッ───。
銃声音が聞こえる。目の前で紅い液体が粉々に散らばった。
一気に塗りたくられた赤色がパレットを支配した。
だが、すぐにどこからか現れた黒色がパレットを占拠し、目を覚ました時は白色が支配していた。
「"M"とともに一網打尽にしようと思っていたが失敗したよ。今度こそは何方とも暴いて見せるよ。」
「一ついいか……。」
「何だい。」
健治は冷たく、だけど温かい声を出した。
「例え、お前の危険すぎる行動が警察や沢山の人々や……」
想いが声に加わる。その負荷が声を途切れさせた。深呼吸の後、ルインの近くで強く低い声を通らせた。
「他の誰かに許されても、俺は絶対に許さねぇし認めねぇ!!」
ルインには暴かなければならない目的がある。しかし、健治の気持ちを受け取りたいという感情もある。その葛藤から逃げるように健治の視線から外して目線を逸らした。
「お見舞いの品はここに置いておくぞ。」
健治はカラフルなフルーツの入ったフルーツバスケットを机に置いた。
「ルイン……」
「どうしたんだい。」
「元気になったら楽しく話そうな。」
「勿論だ。」
健治は少し満足げに病床から離れ、今度は祥子がルインと軽く話した。話し終えると、近くにいた愛家が二人を呼んだ。
「ここに私がいるのは、ルインのお見舞いだけではなくお前たちに知ってもらいたいことがあるからだ。」
祥子は興味津々で愛家を見た。
「知って貰いたいこととは何でしょうか。とても興味がありますね。」
「ルインが殺そうとした男を殺した犯人についてだが……」
愛家は二人に資料を渡した。
そこにはルインを殺そうとした男、その男を殺害した犯人について書かれていた。
その犯人は……"M"だった。
黄嶺颯太が殺害された時に使われた拳銃が男殺害した時に使われた拳銃と種類が一致している。"M"で間違いないと考えられる。
「これは本当ですか?」
「ああ、事実だ。」
"M"は指紋を一切残さない。殺害する際、"M"は晴れも関わらずレインコートを着用していた。つまり、逃げる際の服装に血が着かないようにしていたということだ、近くのゴミ箱に血の着いたそれが見つかっている。勿論、犯人を特定できる証拠は残されていない。
そう思っていた────。
しかし、"M"は一つ重大なミスを犯した。"M"は殺害の際に拳銃をほぼ零距離のところで撃った。レインコートとともに参照して、血の飛び散り方を見るとその可能性が非常に高い。
殺害された男は胸を撃たれ即死。まさにプロだ。裏に精通している可能性が高い。だがそのために、相当斜めに銃弾が入っている。身体を突き抜けた斜めに空いた風穴。それは、上から撃てば銃弾が近くの地面に転がる。逆に下から撃てば遠くの方で転がっている。"M"の場合、下から撃っていたことが判明した。銃弾は回収されておらず、予想では回収する程の余裕がなかったと考えられる。
これによって"M"の身長は百五十センチ前後ということが計算されて導かれた。
完璧に犯行を熟されていたと思っていたがようやく"M"の尻尾を掴めた。その身長はあまりにも低い。裏に精通している人物だけでは絞れなくても低身長となら犯人を絞り込むことが容易となる。
「私からはそれだけだ。」
「「確認致しました!」」
愛家の与えた情報を見て心が震え立つ。緊張と興奮が交わっていく。"M"を捕まえられるかも知れない。それだけで力が湧いていく。
健治はルインと別れを告げその部屋から出ようとした。ただ、ふとあることが頭を過ぎったので踵を返してルインの近くに行った。
「そういや、ルイン。シーナはどうしたんだ?」
単なる興味本位だった。そのために健治は戻ったのだ。祥子は呆れながらも健治に着いて行った。一方で、愛家は用が済んだために先に帰って行った。
「シーナは今日、友達と一緒だよ。」
「なるほどな。確かあいつはまだ十八にもなってなかったし、その友達は今は女子高生か。大変だな、一方を社会人で一方は高校ってのも。」
「いや、その友達に一度だけ拝見したことがあるが、相当年齢が高いように感じられたが。」
健治はさっきあった緊張と興奮の感情が一瞬にして消えて、驚きに変わった。
「確か長嶋朋香という名前だった。シーナとその長嶋は歳の差はあろうと仲良い関係に見えたよ。」
「おう、そうなのか。それでお見舞いには来たのか?」
「いや、遊びに夢中でこのことに気付いてないのかも知れない。取り敢えず、後々来るだろう。」
「あ、そうか。」
健治は安心したような顔でルインを見た。
「まあ、俺らは帰るわ。」
「ああ、今度は元気になったらだ。」
「早く怪我、治せよ!!」
健治と祥子はその部屋を後にして、出口に向かって病院内を歩いていた。
健治はふとルインの言った言葉を反芻した。
「確か長嶋朋香という名前だった。」と言う声が何度も頭の中で流れていく。
"長嶋朋香は黄嶺颯太に騙された一人では無かったか───。"
健治は長嶋が"M"の候補であることを思い出した。彼は、帰宅後、長嶋についての資料に目を通した。
『現在、消息不明。』
現在の長嶋について、それだけしか確かな情報を得ることが出来なかった。
~過去篇・鏡越しのパズルピース end~
150cm前後は145~155ぐらいと考えて下さい。(←最大のヒント)




