冥界へ誘うゴーストタワー(其ノ壱)
真実への見方は人それぞれ違う。
我々の見る"本当の真実"とは実際本当ではなく、誰かの視点が幾つも合わさって真実に近付けた複合体なのである。
*
「Jだ。」
テーブルの真ん中にカードを置く。
ルインの置いたカードを見て、自身の手札を見る。
「パスします。」
「シーナもパスする。」
健治は移りゆくターンを見ながらニヤリとする。手札は二枚。Aと五だ。貧民から抜け出せない健治へ差し伸べられた神の光。ここでAを出して、次に六を出せば大富豪へと成り上がれる。
ルイン、健治、シーナ、祥子の四人は一つの机を囲んで"大富豪"と呼ばれるトランプゲームを行っていた。
ルールは自身の持つ手札が全て無くなれば勝利する。まず参加者は均等にカードを配られる。時計回りに進めていくターン制で、今回はジャンケンで勝利した祥子から進めた。
自分のターンには数字の書かれたカードを出す。場に出ているカードよりも強いカードを出すことができる。三が一番弱く、そこから数字が高くなるほど強くなっていく。Kまで行くと一周回ってAが強く、それよりも二が強い。一番強いカードは単体、もしくは同個体二枚で出されたJokerだ。
もし手札に場に出されたカードよりも強いカードが無かったり、もしくは敢えて出さない場合、そのターンはパスとして次の参加者にターンが移る。場に出されたカードに対し他の参加者がそのカードよりも強いカードを出さずターンが回ってきた時、場はリセットされ自由にカードを繰り出すことができる。
もし同じ数字が揃っていた場合、その数だけ出すことができる。例えばAが三枚手札にあり、場がリセットされていた場合にはAを三枚重ねて場に出すことができる。
もし重なったカードが自分のターンに回ってきたら、その重なっていると同じ枚数分、そのカードよりも強いカードを重ねて出さなければならない。例として、Aが二枚重なっていた場合に、二を出すとき二を二枚重ねて出す。場のカードが二枚ならば、一枚のみ出すことも三枚出すこともできない。
Jokerは他の数字のカードと重ねるとそのカードと同カードとして扱う。つまり、Jokerは単体かJokerの二枚重ねならば一番強いカードとなるのだが、もし三とJokerを重ねて出せばJokerは三と同じカードと見なし最弱のカードと成り果てる。
手札からカードを出していき最終的に手札を誰よりも先に無くしていけば勝利できる。
大富豪は地方ごとにルールが違うのが特徴だ。とある地方では七渡し、八切など独特なルールが存在するようだ。
しかし、今回の大富豪で使われるルールは二つ。
まず同じカードを四枚重ねて出す『革命』である。この革命が使われると、三が最弱でJokerを除けば二が最強という構図が真逆となる。三が最強となり二が最弱となる。ただし、この状態でもJokerは一番強い。もし、この状態で再び革命が使われた場合、再び三が最弱で二が強い構図へと戻る。
次に、一番先に抜けた勝者を大富豪、二番目に抜けた者を富豪、最下位から二番目の者を貧民、最下位を大貧民。そして、それ以外を平民とするルールだ。今回は四人で行うので一位から順に大富豪、富豪、貧民、大貧民となる。この称号は次に行う大富豪で活用される。大貧民の称号を持つ者はゲームを始める前に手札の中から一番強いカード、次に強いカードを大富豪の者に渡さなければならない。逆に、大富豪は大貧民から強いカードを二枚貰う代わりにカードを二枚渡さなければならない。大富豪が渡すカードは何でも良く、基本的には手札の最弱カードを二枚渡すことが多いだろう。貧民と富豪については、渡す枚数が変わる以外大富豪と大貧民の関係と全く同じで、貧民は手札の最強カード一枚富豪に、富豪は好きにカードを一枚貧民に渡す。
これが大富豪のルールである。現在三戦目である。三戦目の大富豪も終盤に入り勝負が決しそうである。大貧民健治は残り二枚、大富豪ルインは残り四枚、富豪祥子と貧民シーナはそれぞれ三枚だ。
健治は手札から一枚机の真ん中へと置いた。クローバーのAがJを上塗りした。
「残念だな。ここで俺はAを出すぜ!! お前らはもうパスしかねぇよな。」
ルインはその自信を見ると、笑いを堪えることが出来ずに表情に出した。
「どうしたルイン、何かおかしいか?」
「そうだな……」
ルインは四枚ある手札から一枚を抜き出した。
「それでは私は二を出そう。」
「まじかよ!!」
祥子やシーナはパスするしかなくすんなりと健治のターンが回ってきた。
「ちっ、仕方ねぇ。パスだ。」
ルインは真ん中のカードの山を端へと移動させた。場がリセットされる。そのフィールドに八が二枚も出された。
「これは無理ですね。」
「無理。」
「健治は一枚しかないからパス以外有り得ない。」
「くそっ、一番乗りはルインかよ。」
ルインは二枚の八を端へと移動させ、残り一枚の手札を場に出した。ルインが大富豪の称号を手に入れた。
数字の七が場を占める。
「私は九を出します。」
「シーナはJを出す。」
健治は手札を見た。
数字の五。場にある数字には到底敵わない。
「俺はパスだ。」
「私もパスです。」
祥子とシーナの手札は二枚。一気に健治の優勢が揺らいだ。
「六……」
シーナの出したカードは健治を飛んで祥子の目の前へとやってきた。
「七を出しますわ。」
「もう、あがる……」
シーナは数字の九を出し、手札を無くした。残る称号は貧民か大貧民か。健治はどうしても大貧民にはなりたくなかった。二回も大貧民となり、ここで負ければ三回目の大貧民となる。
お互いにカードは一枚。ここで祥子がパスをすれば、必然的にシーナから見て左側に座る健治にターンが移る。フィールドはリセットされている。残る五を出して大貧民にならずに済む……はずだった。
「次は俺の勝ちだな。お前がパスすれば俺のターンから始まる。そうすれば……」
「安心して下さい。山内警部補。」
お淑やかに笑顔を浮かべる。
健治はそれを見て負けフラグを回収した。
「もう番は来ないですから。」
場にはJが嘲笑っている。
健治の手から零れ落ちた五はJを前に地面に這いつくばっていた。
「ぬおおおお! ま……また負けたぁ!!」
「戦略が悪かったね。」
健治はルインを見た。
「戦略?」
「最後に弱いカードを残してしまったのが戦略ミスだったね。一気に攻めようとしたのは分かるがもう少し警戒していたら富豪にはなれたかもしれない。」
「しかしなぁ、ルインの持ってるカードが分かってればなぁ。」
ルインは机にかけてある松葉杖を手に取った。未だに療養中の足にできた怪我を杖でカバーして、窓から射し込む朝日を浴びに行った。
ルインは朝日を背に健治を目で捉えた。
「まあ相手の手札が見えない以上仕方ないからな。考え方は人それぞれだ。だからこそ面白い。相手の思考が丸見えなら何一つ面白いことはない。」
「俺、お前に思考を読まれてる気がするんだけどなぁ。」
「それは違うな。私は健治の思考を予測、予想しているだけで完全に分かっている訳ではない。人なら誰しも他人の考えは完全には分からない。」
ルインは窓を開け、レールの上に腰を軽く下ろす。
「他人のカードは分からない。だから、予測しながら自分の最善の一手を打つ。話が飛ぶが、事件の真相だってそうだ。」
「事件の真相は一つじゃないのか? ほら、某小学生名探偵の名言にもあるように、真実はいつも一つってな。」
「真実はいつも一つだ。それは間違いない。が、その真実が記録、記憶される時、誰か人間を媒介しているものだ。人間は個々に違う価値観を持っている。双子でも全く同じ価値観を持つことはないだろう。微妙な環境の違いで価値観は変わってくる。」
「それで?」
「その真実は誰かの価値観を通して伝わっていく。誰かの主観が交っているせいでたった一つの真実も様々な真実が生まれていく。絶対に正しい真実なんてほとんどないのではないだろうか。」
「んー。そんなもんか。」
「真実への見方は人それぞれ違う。私達の言う絶対に正しい真実は様々な真実を照合し、限りなく主観のないものにした真実だと言うことだ。」
「へー。」
ルインは前のめりになる。
「大富豪はもう終わろう。それはそうと、消えては現れる謎のタワーについて教えてくれないか?」
「そうだな。」
ルインを照らす朝日のスポットライトが健治に移る。健治はライトに当たりながら柔い口を開き始めた。
1、2の通りならステレオタイプをメインに書こうかと思ったけど、テレビを見て変えました。多分、伝えたいメッセージは其の参に書きそうです。




