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最後の一欠片

こんにちは。

KURAです。

前書き後書きというものはどう活用すれば良いのでしょう。

自己主張の強い作者は嫌われるそうですが、書けるところがあるのだから書いてしまいます。


佐藤は自宅で唸っていた。

脳裏の言った最後のピースが何なのかということについて、どう頭を捻っても何の考えも出なかった為だ。

元来佐藤はこのように腰を据えて頭を使い答えを出すタイプではないのだが、彼はどれだけ聞き込みしてもそのピースの影すら見えなかった事を考え、まずそのピースとは何であるかという事を考えるという結論へと至ったのだ。


「……ワイダニット。推理小説ではないのだからそんなものを見つける事なんて出来るのだろうか」


机に水の入ったコップだけ置き、頭を抱え肘を置いている。

暗雲につつまれた彼の心とは違い照明は明るく彼を照らしている。

彼にも自分が何分こうしているのかわかっていない。

答えの出ない問いが佐藤の頭をぐるぐると回っている。


佐藤は豊前の置かれていた状況を思い出し始めた。

彼は天才であった。いい友もいた。

だが、家庭環境は劣悪であり、それを助ける者もいなかった。

当然だ。豊前はプライベートを話さず、人との深い交流をしなかったからだ。

手を伸ばさねば手は掴まれない。


「……泥酔した父親はよく出来た息子へ暴力を与えた。または、殺そうとした」


「追い詰められた人間は人を殺す。自分の命は他の命よりも大切であるから。そして、人を殺した人間は人殺しという人間になる」


佐藤は独り言なんて普段は言わないのだが、追い詰められているのだろうか。口に出して彼の調べた、そして予想した情報を整理している。


「コレが真実ではないのか」


ワイダニット、彼はそう言った。

彼の思考はそこで止まっていた。



その時雷鳴が轟いた。

佐藤は気付いてもいなかったが、いつの間にやら雨が降り出していたようだ。

強烈な光、そして地面を揺るがすような音。

それが佐藤の心を動かした。凝り固まった脳みそを吹き飛ばし、動かした。

それこそ天啓とすら言われるかもしれない一撃であった。


「俺は……。俺は善人になりたいわけじゃない。俺は、俺は……正義を成したいだけだった」


佐藤は立ち上がる。

雷鳴が停電を起こし、彼の自室は暗闇に包まれていた。

深い闇に包まれた中、彼は何処を見つめているのだろうか。それとも何処も見つめていないのだろうか。

激しい雨音だけが彼の耳に届く。


彼が呟いた言葉は呆然と紡がれたようだった。

それは本音というべきか、彼の芯というべきか。

余計な思考の無い無意識によって言葉は紡がれた。

全ての不純物が取り除かれた呼吸のようの自然な発言だった。


「…………待っていろ。豊前」


どうやら彼は何かを決めたようだ。

拳を握り、佐藤は自室から飛び出していった。

目には鋭い光が宿っていた。





「期待外れ……かなぁ」


涙頭は今留置所からも居なくなり、外へいた。

彼は無罪という結果を受け取り、晴れて外へと出ていったしまったのだ。

裁判所という予定調和を欠伸しながら傍観していた彼は今帰路につきながら最近の退屈を振り返っていた。

人生の小さな余興になると思っていた事象の事について。


「……はて。何か気に障る事でも」


「いや、こっちのことさ。面白そうだから入ったは良いものの、ヒントも上げてたのに途中から来なくなっちゃってさ。その面白い子」


「あぁ、例の。ヒントというのは」


「豊前奏って覚えてる?」


「……趣味が悪いお方だ」


「知ってるだろ」


涙頭はシーに落胆を伝えながらも彼の運転する車に揺られている。

そしてその次の瞬間には期待はずれの余興なぞ忘れたかのように話し始めた。


「そういえば報告ある?」


「特には。営業成績が少しばかり落ちたくらいかと」


「ありゃ、そりゃまたどうしてさ。僕が捕まった事は秘密にされてた筈だろ」


予想していなかったその報告に少しばかり面食らう涙頭。

自らの予想では捕まったとしても自らの喫茶店には影響がないと考えていたため、さすがの涙頭も驚いた。

シーは予報していなかったのかと驚くが細事であるとしそのまま気にも留めなかった。


「どうやら長い期間店長が休んだというのが噂を呼んだらしく、あの喫茶店の店長は捕まった、という噂が広まってしまいまして」


「ふーん、良くない噂は前からあったしそこから生まれたのかな。下らない噂もバカにできないなぁ。ま、僕が顔出せば収まるでしょ」


事実、涙頭の店には以前から人殺しだの悪党が集まるだの色々と良くない噂はあった。

そこで店長である涙頭が長い期間顔を出さなかった事でとうとう捕まったのだという噂が流行り始めた。


「では明日から?」


「うん」


「了解いたしました」


異常から日常へ、捕まるという異常を些細な事のように処理をして日常への移行を始める二人。

そして車は涙頭の家へと入っていく。

シーは車を止め、車を降りると涙頭の扉を開けた。

涙頭も車を降りて、体を伸ばす。


「さーて、明日から働かなきゃね」


「夕食はご用意しておりますが、どうなさいますか」


「お風呂は?」


「勿論」


「んじゃお風呂から入るよ」


「御意に」


完璧に日常へと戻った涙頭はいつものように夜を過ごした。

もう佐藤の事なぞ忘れて。




翌日、涙頭は朝から喫茶店Brainに入り、勝手な誤解によりばつが悪そうな従業員達を働かせていると開いてもいないのに扉を開ける音がした。

不審に思った従業員が対応するためそちらへと向かうと、そこには男が立っていた。手には刑事手帳を持っており、刑事であることがわかる。

勿論それを見た従業員は噂はやはり本当だったのではないかと思い顔を青くするが、肩を叩かれ振り向いた。

すると渦中の店長である涙頭が立っており、これまた小さい悲鳴をあげるほど驚いた。

その恐怖を察して涙頭は苦笑いを滲ませるが、そんな事よりもと対応を始める。


「どうやら僕のお客さんらしい。もう戻っていいよ」


「は、はいぃ!」


声を裏返し、不恰好に走りながらも帰っていく従業員。

それを涙頭は噂が深まりそうだなんて考えながら苦笑いで見ている。

そして振り替えり、件の刑事佐藤へと言う。


「また迷惑な登場だねぇ。どうせ僕の家知ってるだろ?」


「……そうだな。少しの嫌がらせもある」


「へぇ、硬っ苦しいだけじゃないんだね」


「意外か?」


「好印象さ。遊びにこそ良さが生まれる」


「……そうは思わんがな」


「さて、こんなところで話すのも何だし。もうすぐ開店だ。裏に案内するよ」


遊びの雑談をした後涙頭は己が持つ裏の店へと案内を始める。

紆余曲折した道を通った後、エレベーターへと乗り込んだ。

閉鎖空間の中、涙頭は笑いながら彼へと話しかけた。


「ビックリしたよ。もう諦めたかと」


「天網恢恢疎にして漏らさず。……知ってるか」


「そりゃもちろん。前も聞いたよ」


「好きな言葉だ。俺は逃さん」


「でも君は天じゃない」


「天が裁くんじゃない。天が裁かせるんだ」


「……悪くない。むしろ好きだよその理論」


「素直に受け取っておこう」


そしてエレベーターは止まり、扉が開く。

二人には、白くどこか寂しさを感じるであろう円形の広場が見える。

その中心には一つの机と、向かい合うように置かれた二つの椅子だけが置かれており、見るものに喪失感を味合わせる。


「悪趣味だな」


「……コレそんな悪趣味かなぁ。最近リフォームしたんだけど評判悪いんだよね。……僕気に入ってるんだぜ?」


「お前の気持ちは分からんが、趣味はもっとわからんな」


「………………まぁ、座りなよ。今日は何用だい?」


自らの趣味を全否定されると流石に傷付くのか、いつもの笑顔が崩れ微妙な顔をしてしまう。

だが彼もプロである。すぐに立ち直した。

悪友の二人がいれば烈火の如く煽り散らかすだろうが居ないのでそれは見る事ができないだろう。


佐藤は促されたまま座る。

そしてそれを見た涙頭も座る。


「君の事だから依頼じゃないんだろ。話すだけなら無料な僕に何のようさ」


座った涙頭はスイッチが入り、脳裏へと変わる。

悪い噂がある喫茶店の店長から正真正銘大悪党脳裏へと変わった。

まさしく仕事モードであり、愉悦の目で彼を俯瞰する。

だが、負ける事なく佐藤は切り出す。


「ワイダニット。お前に出されたヒントだ」


「ああ、あぁ。そうだったね。答え合わせといこうじゃないか。僕は白紙は許さない。間違えを恐れず言ってごらんよ」


「……まず、お前は暴力か何かに耐えきれず殺したのかと思った」


「うん、でもそうじゃなかった」


「お前は自分への暴力は耐えた。耐えていた。自分へならば」


その言葉を聞いて脳裏は笑みを深めた。

そして心の中で静かに拍手をした。

彼を讃えるように、彼を肯定するように。


だが、その笑みは愉悦であり、その眼差しは俯瞰である。

どれだけ足掻こうと、どれだけ努力しようと未だ彼にとって佐藤は虫ケラにすらみたない哀れで愛しい愚か者なのだ。


「脳裏、いや豊前奏。お前には妹がいた」



悪趣味なものを書いている自覚はありますが、これが自分の趣味なのだからと開き直ってすらいます。

これを読んでいる方はいないかもしれませんが、もし居たのなら趣味が合うかもしれませんね。

ではまた明日。


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