陳腐な答え
こんにちは。
KURAです。
どうにも自分の感性に従って書き暴れてると上手く面白さが表現できずに未熟さを知る毎日です。
後ろをす振り返ってみると今がベストとは思うのですが、辛いものですね。
「豊前奏という人物について教えていただけませんか」
佐藤正義はある地域で聞き込みをしていた。
ある高校の職員室にて、初老の男に質問を投げかけている。
初老の男は困惑しながらも、その質問に答えようと懸命に記憶を遡っている。
周りは奇異の目で見るが、男は人が良いようで周囲に見られてなお真面目に佐藤の問いへと答えようとした。
「豊前くん……ですか。私はあまり交流が……というよりもあまり周りと交流しない子だったと思います」
「なるほど」
「あぁ、でもそうだ。一人だけ、一人だけ仲の良い子がいました」
「その子は今何処に?」
男も流石に記憶が定かではないのか佐藤の問いにすぐさま答えることが出来ずに時間がかかる。
「確か……実家の仕事を継ぐって言っていたと思います」
「なるほど。実家の場所を教えていただいても?」
「警察の方……ですよね?」
「はい。この通り」
佐藤は警察手帳を見せる。
それを見て男は周りを見渡してコソコソと話し始める。
人の住所を教える、その行為はとても人に褒められたものではない。
男は相手が警察であるという事からこれが善行であると信じて話す。
「あんまり言っちゃいけないんですけどね。学校近くの商店街にある豆腐屋です。大きくはないですが唯一なので行けばわかるかと」
「ご協力、ありがとうございます」
佐藤は頭を下げて、その場を後にした。
少しばかり己のした事に疑問を持ち後悔しながらも礼を受けた男は人に見られ、刑事に感謝されるという出来事に困惑や照れなんかも滲ませながらも机につき、日常へと帰っていった。
高校近くの商店街へと佐藤はすぐさま向かった。
時間はまだあるが、彼にはとても多くは思えない量であった。
商店街は現代では珍しく寂れておらず、人通りが多くこの街の活気がわかる。
佐藤は豆腐屋を探しながら歩いていると子供が足にぶつかった。
キョロキョロと見回しながら歩いていたのでぶつかる事は珍しくない。
佐藤はよろけたが、子供はそれを気にせず走っていった。
「気をつけろよ! ……俺も、か」
佐藤は怒りを込めずに注意すると、そのまま歩き出した。
子供は走り去っている為聞こえているかは分からない事だが。
そこから数分ほど歩いて、佐藤はある違和感を覚えた。
自分は深く思考していた訳でも、気を抜いた訳でも無いのに何故前から走ってくる子供に気付くことすら出来なかったのだろうか、と。
確かに、周りを見渡しながら歩いていたが自分は前から走ってくる子供に気付かない程集中していたか、気を抜いていたことになる。
それは事実なのだろうか、と。
そしてその違和感は確信へと変わる。
子供がぶつかった足を見てみると何やらゴミがくっついている事に佐藤は気付いた。
そしてそれをよく見るに佐藤は昔秘密裏にスパイが逮捕され、スパイの使っていた道具が押収された時に見た小型の機械を思い出した。
その機械とそっくりであると思った佐藤は断定した。盗聴器であると。
「……なるほど。どうやら俺は近づいているらしい」
小型の機械を地面へと落とし、踵で砕くとそのまま歩きだした。
今度はより一層警戒を深めて。
「……で、辿り着けたのかい? その……なんとかっていう友達には」
「……一之瀬次郎。知ってるだろう」
「どうだったかな。名前覚えるのは苦手でね。どんな奴だった?」
取り調べ室で脳裏は続きを問う。
どこまで調べられたのかと、どこまで近づけたのかと。ニヤニヤしながら彼に問う。
対して佐藤は己の調べた情報がよっぽど大きいものだったのかいつもは恐ろしく皺が刻まれている眉間も心なしか緩んでいる。
ゆえに彼もそれを不快に思い怒鳴るほど追い詰められているわけではない。
そして佐藤は話し始めた。
自分が聞き込んだ情報を、詰将棋の答えを読み上げるように。
「一之瀬君は担任が言うにはとても明るい子で、冷たくあしらう君にも諦めずに話しかけていたそうだ。そして彼と話してわかったよ。それは事実だと。彼は明るく話してくれたよ。学生時代の思い出をね」
「……」
続けて、脳裏は言わずにそう伝えた。
佐藤は勿論とばかりに続けて言い放つ。
「本ばかり読んでいたと言っていた。特に……医療系や化学について。脳裏といえば人類の化学の十歩先は進んでいるのではないかと噂される科学力。俺は確信を深める事になった」
「……何処の学校だっけ?」
「◯◯◯高校」
「へぇ、ソコかぁ。自慢じゃないが僕の脳みそは一級品さ。そんな噂が流れるくらいには、ね。でもその学校はとてもじゃないが難関とは言えない。そんな所に入学するかな」
「それは自分で学習する能力がない奴にとっては、だろう。餓鬼が持つ持論にしちゃ捻くれてるじゃないか。高校一年の頃から高校の範囲はおろか論文まで読んでいる奴に学校なんてものはただの枷でしかない。だから授業は聞かなかったし、それを教師も認めていた。認めざるを得なかった」
「確かに、そうかもしれないね」
「授業は聞かない、対応も素っ気ない。そんなお前に唯一声をかけていたのは一之瀬君だ。彼は冷たく対話すらしようとしないお前の扉をこじ開けた。……皆から親友と思われるくらいには。一之瀬君は言っていたよ。彼はそう思っていたかは知らないが、少なくとも自分はそう思っていたってね」
「友達関係なんてそんなものじゃないかな。……んで? ごちゃごちゃプライベートな話しないで本題にいこうとしようじゃない。問題は僕の初めての殺人について、だよ」
なかなか本題へといこうとしない佐藤に少しばかり辟易しながらも彼は続きを促す。
だが口にはまだ微笑を絶やしてはいない。
そんな薄っぺらなプライベートは関係無い、そう言われた佐藤はそれでも目は揺らがなかった。
「親」
「……陳腐だね」
「現実なんて陳腐なものだ。刑事の俺が言うんだ間違いない。母親は癌で亡くなり、残された父親は酩酊の中に妻を見出した。何処にでもある陳腐で手垢のついたような状況だ。だがただ一つ強烈なオリジナリティがあった」
「面白い。それは?」
「お前だ。豊前奏。お前は家庭環境の劣悪さに耐えかねて人殺しになってしまい人生に殺人という染みを作った哀れな少年に、ならなかった。お前にとって人を殺す事は簡単だった。更にはそれを隠す事も隠し続ける事も。だが親友一之瀬君は言っていたよ。二年の夏休みが終わってから奏は雰囲気がおかしかったってさ。親友だからこそ分かる変化があったのかもしれないな」
「君らの言う殿堂入りの大犯罪者、脳裏はそんな陳腐な悲劇から生まれた哀れな殺人鬼、と」
「そうだ。お前はやれてしまったからこそ殺人鬼になるしかなかった。つまりお前はただ止まれなくなっただけなんじゃないのか。豊前。もう止まっていいんじゃないのか。一之瀬も会いたいと言っていたぞ」
それは、懇願にも近しいものだった。
佐藤は哀れな哀れな痛々しい犯罪者を前に、止まれと言っているのだ。
それは哀れみであり、願望であり、情だ。
佐藤自身人一倍情がある人間である事は事実だ。
だからこそ、犯罪者一人一人に涙を流さんとしながらも堪え、烈火のような怒りを持って接する。
そんな刑事であった。
だが、残念ながら脳裏には届かなかったようである。
涙は流れず、笑みすら消えない。
「そうだねぇ。あと一ピース、かな。その絵には一ピースが足りないんだよ佐藤正義クン」
「……はっ……?」
「それをここで教えてあげたっていい……が、生憎今日僕は忙しくてね。二人もお客さんが来るんだよ。……いや客というより呼び出しか? まぁ、いいや。解答欄は分からなくても埋めるもんだよ。全部埋めてから来てね〜」
「ま、待て! 豊前! 豊前ッ!」
「うるさいなぁ。じゃあヒントだけでもあげるよ。ワイダニット。そこに最後の一ピースはある」
そしてそのまま脳裏は去っていった。
立ち上がった佐藤だけが取り残され、なんとも言えない沈黙が場を埋めている。
数秒の硬直の後、佐藤の握り拳が机へと振り下ろされた。
その一撃にこもっているのは怒りか、悔しさか、屈辱か、哀れみか。彼にしか分からない。
ただ机が殴打され鳴った音だけが取り調べ室を反響していた。
脳裏が前を歩く警官の指示に従い、ある部屋へと入る。
彼が部屋へと入ると、目の前にガラス板があり、その奥に男が座っている。
鎖鬼は不機嫌といった顔ではないが少なくとも機嫌が良いわけではなく少しばかりは不満があるようで笑いもせずに彼を見ていた。
「珍しいね。心配でもしてくれた?」
「馬鹿言うな。お前の心配するくらいなら明日の晩飯考える方が有意義な時間を過ごせる。……んでだ、お前何を考えてやがる」
「そりゃあ僕がやる事なんだから一つしかなくないかな。暇潰しさ」
あっけらかんと言ってのける脳裏。
それは事実である。
心の底からの言葉だ。
それを彼は常識かのように言う。
己は捕まり、取り調べを受けていると言うのにそれを暇つぶしと言ってのける。
「だろうな。まぁ、そこはいい。俺に関係ねぇからな。けどお前俺に繋がる情報とか流してねぇだろうな」
「流してないし、流しても無駄だろ? あぁ、でも佐藤正義って刑事は凄いぜ。彼が僕を捕まえたんだからな」
「流されたら面倒だろうが。だが、刑事? そりゃまた珍しいな。お前の目が止まるなんざ。当人は大迷惑な事だろうがな。んでいつ出てくるんだよお前」
鎖鬼は当たり前の事実を言うかのように聞く。
鎖鬼も脳裏の影響力は知っているし、以前一回捕まったが無事に出てきたことを知っているからだ。
プラスで鎖鬼たちのこの程度でコイツは死なないと言う奇妙な信頼もあるのだが。
「出てくる予定? 珍しい……何か依頼でも入った?」
「あー……まぁな。詐欺で金ぶんどった後捕まえて連れてこいだとよ。……俺にくる依頼じゃねぇだろっつの」
「たまにあるよね。あー、期限とかあるのそれ」
「無いらしい。金は払うし待つから、だってよ」
「OK、出たらやるよ。金はもちろんじゃんけんだろ?」
「当たり前だろ」
すると鎖鬼はもう要件は終わったようで、立ち上がった。
脳裏が引き留めそのまま数分の間雑談をした後、帰ってしまった。
彼も軟禁レベルの自由は効くものの、やはり暇ではあるようでどうにか雑談しようとしたのだが、相手にされずに帰られてしまった。
脳裏は残された面会室の椅子に座り時計を見る。
「……あー、でももうそろそろだね」
脳裏の言うもう一人の客人が来る時刻がもうすぐであった。
彼は立ち上がるのも面倒だということで座ったまま待機をしている。
側に立つ警官は何も言う気配は無かった。
数分経つと扉が開いて、小柄な男が入ってきた。
鴉だ。
いつも通りの無表情ではあるが、何の利益もない外出という事で若干機嫌が悪いのか目つきが悪くなっている。
「やほ」
「……。お前」
明るくあいさつする脳裏に鴉の冷たい目がもっと冷ややかになり、鋭く睨みつけ出す。
脳裏は気にする様子を見せず、明るく話しかける。
「いや、迷惑かけてないだろ? ちゃんとそこは情報止めたって」
「でも」
「そりゃ君が勝手にやったことじゃないか。君がスルーしてたとしても何も起きなかったはずさ。僕は悪くない。そんなことより座りなよ。僕の喫茶店にも行けないし、鎖鬼はすぐ帰るしで暇だったんだー」
「やだ」
「そう言わないでよ。面白い刑事がいるんだって」
「……へぇ」
どうやら鴉の好奇心にヒットしたようで、少しは話を聞く姿勢となった。
脳裏はそれを見てコレ幸いとベラベラと喋り出す。
口と頭は一級品を超えて特級である脳裏は流れるように喋り、それでいて飽きさせない構成で話す。
片や流れるように喋る男で、片や最小限の言葉しか発しない男。
彼らの雑談は意外にも長く続いたことだった。
明日も同じ時間であります。
予約投稿をする時一番困るのは時間設定だと思います。
朝のほうがいいだとか聞いた事もありますが、自分が朝に得意ではありませんので実感がわきません。
なので12時というのが無難と思うのです。
それではまた明日。




