勇者の手錠
お久しぶりでございます。
KURAです。
いやはや忙しいのもありましたがここまで時間が空くとは。
趣味百%とはいえ筆の遅さが恥ずかしい。
ある一人の人物が捕まった。
その知らせは裏の世界に駆け巡り、そして震撼させた。
日本で活動する若く力の弱い悪党は警察の力にガタガタと部屋の隅で震えた。
年老いた悪党達はまた何かが起こると嵐の前の雷鳴を幻視した。
世界の悪党がこれから何か起こるのではないかと騒ぎ始めたのだ。
日本は人知れず悪事を働いていたが、表では評判の良かった人たちが自殺をするといった事が起こったり、何時もは何個も密輸される薬や武器等がぴたりと止まった。
一般人しか国境を跨がないようになった。
いつも裏の世界をかき乱す彼は捕まってもなおかき乱す。
それほどまでの影響力と力だ。
何の大きな事件もない長閑なある日。
辛徒はあいもかわらず空気の入れ替えが起こらない日々を過ごしていた。
陽を浴びながらコーヒーを啜り、さて新聞でも読もうかと言ったところだろうか。
甘城すら来ていないこの事務所は暇という日常から朝というほんの僅かな特別性により静かな幸福を感じさせるだろう。
勿論彼は堅気とは言い難いため、読む新聞も普通ではない。
狂気的なまでの情報愛を情報屋が発行する新聞を読んでいた。
一度の性交より二度寝より三度の飯より情報が好き、その男はまさに変態だった。
少しばかり高い金さえ払えば何時でも新鮮な情報を、そんなキャッチコピーで有名な新聞を愛読している彼は何時ものように朝の日課として読もうとしていた。
月何百万円かを払って配られる新聞を読むと、そこには目立つように特大に書かれている一押しの情報があった。
それを見て彼は珍しいと思いながらも目を通す。
見出しにする程の格がある情報は珍しい。良くも悪くも世界は平和なのだ。
「……あ?」
彼は思わず声が出る。そして固まる。
それを読んで疑問と共に怒り、そして呆れときてゴチャゴチャになった感情が彼の体の動きを止めた。
一瞬で流れていった感情は消えた訳ではなく、蓄積されていったのだろう。そうでなければここまで視線が鋭くなってはいない。
親の仇を見るかの如く新聞を睨みつけている。
彼は新聞に目を当てたまま、考える。自分が何をすべきかを。
彼は驚きにより考えが鈍っていることに気づいた。
ため息を少しつき、頬をペタペタと叩く。
そして頭の働きを少しでも良くしようとコーヒーを少しばかり啜った。
「……あのバカ、どんな風の吹き回しだ?」
面倒くさい、その喉まで出かかった言葉をそのままコーヒーで流し込み、他の情報を読むべく視線を動かした。
だがそれも叶わないらしく扉が開く音が事務所に響いた。
冷たい風が事務所を走り回る。
チラリと辛徒がそちらを見ると甘城が何時ものように出勤して来ていた。
換気をしていないせいか埃っぽいなんてガミガミ辛徒へと文句を言っている。
どうやら時間配分を間違えたらしいということに気づくと彼はビリビリと新聞を破り始めた。
裏の情報てんこもりの新聞を読ませないためだ。
裏へと踏み込ませない、辛徒なりの優しさだ。
「あっソレ今日の新聞ですか? 私読みたいんですけど」
「バーカ。自分の家のを読め」
「破るこたないじゃないですか!」
「こっちの方が捨てやすいじゃねぇか」
「……ケチですね。エコって知ってます?」
「お前こそ権利って知ってるか」
そんな言い合いをしながらも細かく破った新聞をゴミ箱へと辛徒は投げ込んだ。
このゴミ箱は辛徒が零に特注して作ったものであり、中に紙を入れるとシュレッダーにかけられ、そのまま水で溶かして固められる。
捨てる時はコンパクトに固められたものを捨てればいいと言ったものである。
つまりは入れられた新聞は絶対に読めなくなるのだ。
「……めんどくさくなりそうだ」
「何かあったんですか」
「なんもねぇよ」
辛徒は一際大きくため息をついた。
零は日常を過ごしていた。
いつものように最高効率でモンスターを倒して素材を稼いでいた。
そして他のゲームで確率に挑戦している。
さらにまた他のゲームでストーリーを楽しんでいた。
主にストーリーに脳のキャパシティを使っていたのだが、メールが来たことによってストーリーを進めるのをやめて其方へと視線を向けた。
ソレを見るに電子新聞ということを認識すると、そのまま全てのゲームプレイを中断した。
かの天才鴉であろうと人である事に変わりはなく、裏の世界を何の準備もなく生きていける訳ではない。
と言っても彼の機械の前には九割の問題は灰燼へと帰される。
だがその一割を求めて彼は情報屋と交渉をし、選別された情報だけを送ってくるように契約したのだ。
鴉の事さえも調べ尽くしたあの男は伊達ではなく鴉の事を知った上で選別してくれるため鴉はこのサービスを気に入っていた。
「……珍しい」
結構な金額を払い契約しているとはいえ零に伝えるほどの情報となると滅多に入らない。情報が回ってこない月なんて珍しくはない。
よって彼に新聞が送られてくるというという事実は彼のゲームのプレイを止めるほどの理由となっていた。
送られてきたファイルを開くと一面に書かれている情報に思わず零は動きを止めた。
一秒、一コンマでさえも気にする彼はRTA走者であり、効率主義者であり、ゲーマーだった。だが、今彼は一秒という時間すらも忘れて静止した。
数秒止まった後にすぐさまファイルを閉じ、パソコンを操作し始めた。
警察の重鎮へとメールを綴る。
情報屋へ追加の情報の依頼。
幾つかキープしている手足への要請。
そして鎖鬼への質問。
それを全てやり終えると疲れたように脱力し、ゲーミングチェアをクルクル回して気分転換をはかった。
苛々しているように頭を掻くと、近くに置いてある冷蔵庫からケーキを一つ取り出した。
一口白いクリームと一緒にスポンジ生地を放り込む。
少しは気が済んだようで、不機嫌な顔で頬杖をついた。
「迷惑」
大きく息を吸うと、この騒動を引き起こしたであろう張本人を今度会ったら腕を捥ぐと決意を固めるともう一口ケーキを食べた。
「美味しい」
どうやらケーキはお気に召したらしい。
このケーキを買った店を気に入ったようで、店のホームページを多くあるモニターのひとつへと映し出した。
恐らくこの店には定期的に注文が入る事だろう。
電話の呼び出し音が静かな部屋に響く。
その人類を焦燥感を苛ませる音はしばらく続いた後、その目的を果たした。
怠そうな手が二度ほど電話を叩いた後受話器をつかんだ。
「んー? ……なに」
寝ぼけながら受話器を取っているのは脳裏だ。
頭はボサボサで目も開き切っていない。
話しながらも欠伸をしている事からも察するにあまり目も覚めていないのだろう。
「あぁ、もうそんな時間かぁ。面倒くさいから入ってきてよ。此処で良くない? ……ダメ? ダメかぁ」
何かしらの要望を断られた彼は受話器を置くと、背伸びをしてストレッチをした。
ゆっくりと伸ばされる筋繊維は血流を加速させ、頭に順調に血が流れ出す。
固まっている体をほぐすとキッチンへと歩いていきそばにあったコップへと水を注いだ。
そして一口飲む。
「うぅん。久しぶりに飲んだけど匂い凄いな」
微かに顔を顰めながらも飲み干すと、コップをシンクへと置いた。
そのまま玄関へと向かおうとするが、ふと立ち止まった。
顔を触ると、彼は洗面台へと向かった。
そして鏡へと向かい合う。
「んー、髭くらいは剃ろうかな」
電話で呼ばれていた彼であったが急ぐ様子もなく、悠長に髭を剃り始めた。
何日も放置しているほど伸びてはいないのだが脳裏には気になるのだろう。
髭を剃り終え、改めて顔を冷水で洗うと満足したようだ。
改めて玄関へ向かい外へと出た。
出迎えたのは鬼のように険しい顔をした青年だ。
綺麗に決まったスーツはまるで戦闘服を着ているかのように硬くすら見える。
「遅い」
「髭が伸びててさ」
「……お前は立場を分かっているのか」
「勿論さ。寝ぼけてるように見える? ほら、はめなよ」
脳裏は青年に両手首を差し出した。
青年は一回だけ脳裏を睨み付けると、彼に手錠をはめた。
脳裏はその手錠を見て笑った。
ニタニタと気持ちの悪い笑顔で。
「いやぁ、僕が手錠をはめられるなんてねぇ」
「天網恢々疎にして漏らさず」
「国家は天じゃないぜ?」
「何が言いたい」
「褒めてるんだよ。君の熱意を。だからこうして僕は食後のヨガすら出来ない」
勲章を見せるかのように手錠を彼に見せる。
手錠を嵌められていても愉快だという感情を彼は隠そうともしない。
「お前がどんだけ大物だろうと関係ない。俺は悪を捕まえるだけだ」
「それが出来る人間がどれだけ居ると思うよ」
「ソレができる人間を警察というものだ。さっさと、無駄話をせずに乗れ」
「怖い怖い。そんな顔じゃ子供に通報されちゃうよ」
彼に睨まれふざけて逃げるように脳裏はパトカーに乗った。
そのまま青年も脳裏の横へと座る。
普通、後部座席には被疑者含め三人座るのだがある事情により今回は青年と脳裏しか乗っていない。
運転席に乗っている警官が二人が乗った事を確認するとパトカーは走り出した。
パトカーが走り出した事を確認すると青年は頬杖をつき愚痴り出す。
「ったく。なんでこんな事をしなければならないんだ」
「上からの命令だろう? 仕方ないさ」
「お前からの命令の間違いじゃないか」
「僕? まさか。捕まった後にどうやってするのさ。どうせ君は四六時中僕を見張ってたんだろ」
「脳裏の部下は優秀だと聞くが」
「彼らが僕の命令無しにするかよ。君達の上層部が勝手にやったんだよ。僕の機嫌を損ねるのが相当怖かったんじゃない」
「腐ってやがる」
「彼らは普通さ。君が特別なのさ」
脳裏は自分を逮捕した青年を誉める。
彼はなんの裏もなく心の底から彼を称賛している。
諦める事なく自分を逮捕して見せたことと少しの遊び心によって彼は未だ手錠を嵌められたまま此処にいる。
それが青年には腹立たしくて堪らないようではあるが。
「お前がこうやって勾留されているのもお前の一つの遊びに過ぎないんだろうな」
「……否定はしないさ。でも此処までやった奴は中々いない。全世界探しても今は君だけさ」
そう言われたが青年は話す気がないとでも言うように押し黙った。
脳裏は返事を求めるように彼を見たが、無駄だとわかるとつまらなそうに前を向いた。
今回もラストまで描き終えておりますのでラインまで毎日更新となります。
といっても数日間ですがね。




