銀の光を闇が包む
こんにちは。
KURAです。
最近寒くなってきましたが皆様暖かくして下さいね。
健康が一番大事ですから。
鉄塔の横には月があり、眠い目を擦るように沈もうとしている。
空気がスッと軽くなり早起きな善良な人間と夜更かしをする真綿で自らの首を絞める愚か者が重力から少しだけ解放される心地よい時間がきた。
空が黒から解放される。
「さて、小手調といこうか」
鎖鬼が腕を振ると彼から放たれた糸が地面を蛇のように這い走る。
彼独特の技術により実現するこの奇妙な光景は素早く敵を捉え、バラバラにしてしまおうと迫る。
それに対してシルバーマンは跳んだ。
前にではない。上に、だ。
紫にも見える空を駆け始めた。
「おいおい、ソレで逃げれたつもりか」
鎖鬼はあるものを投げた。
それはキラキラと光を通すガラスだ。
そしてそれには鎖鬼特性の糸が付いている。
この糸は普段使いしているものと違い、視認性を格段に悪くすることにより、悪辣な威力を発揮する。
「大丈夫」
それは鎖鬼に対してではない言葉だった。
恐らく己自身へと向けた言葉だったのだろう。
きっと何の確証もない賭けだろう。
でも自信だけは人一倍あるようで、一ミリの眼の揺れも無く、鎖鬼を見つめていた。
その時太陽が気怠げに顔を出した。
光が差し始めた。
確かにシルバーマンに糸は見えなかった。
だが、太陽光という光がやってきたことによってガラスは視認することが出来たのだ。
「こっちにこい。鎖鬼!」
猛烈に飛ぶガラスを掴み取りそのまま着地すると、乱暴に引っ張り上げた。
それを呆けて見るほど鎖鬼は馬鹿ではない。が、一瞬遅かった。
特殊な動作で手に繋がる糸を切る一瞬前に彼はシルバーマンの圧倒的な力によって引き摺られた。
だが、鎖鬼は長年闇稼業をしているプロだ。
そう長々と引きずられるほど甘くない。引き摺られはしたもののすぐに糸を切ってしまった。
「チィッ」
思わず鎖鬼も舌打ちが漏れ出た。
切ったとはいえ引き摺られ、体勢を崩したのだ。
頭を上げる頃には敵を粉砕しようと飛びかかってきているシルバーマンと目があった。
体重全てと機械により増幅された力全てが乗った壊滅級の拳。
それを受けるのは鎖鬼の体……ではなく糸だった。
「あやとりが上手だな」
「昔お婆ちゃんにおしえられたんで、ね……」
蜘蛛の巣、というよりは傷んだ布ほどの密度の糸が両手の間に構成され、シルバーマンの拳を阻んでいた。
糸は貫けない、よって単純な力勝負へと持ち込まれた。
だがこの威力は結局鎖鬼の指へと伝わる。
結果的に鎖鬼の指はギリギリと嫌な音が鳴っている。
威力重視というよりは距離優先といった蹴りがシルバーマンの腹部へと着弾した。
拳へと意識を向けていたシルバーマンは呆気なく食らってしまう。
押し込むようにして後ろへと飛ばされる。
だが鎖鬼の力では何メートルも飛ばない。
すぐさま鎖鬼は後ろへと下がり距離を空けた。
「……アレだ。覚醒イベントってよくあるが、敵からしちゃたまったもんじゃねぇな」
「それなら悪役のお前はさっさと退場したらどうだ?」
「最近はヴィランにも人気がでる時代だぜ。ほら、この前も映画あったろ」
「今のトレンドは勧善懲悪らしいぞ」
シルバーマンが素早く距離を詰め、打撃や蹴りを繰り出す。
武道の心得でもあるのかそれを受け流し、出来るだけ身体のダメージを減らして受ける鎖鬼。
シルバーマンのスピードは増していき、鎖鬼は減らしきれなかったダメージが体に蓄積していく。
誰が見ても結末は明らかだ。
「おっと」
いつのまにか展開していた糸がシルバーマンの胴を切り落とそうと迫るが、それを彼は跳躍して回避した。
思わず鎖鬼から笑みと舌打ちが溢れた。
鎖鬼は懐から球体の金属を取り出すと二、三個投げた。
それは中にたっぷり糸が仕込まれたネット爆弾であり、爆発すると周囲の生物の動きを止める。
「普通爆風と共に飛んでくる糸を避ける奴を人間と呼ばないんだが」
「君達は言っただろう。狂気が足らんと」
「まぁ」
「だから、覚悟を決めた。命も、善も、悪もどうだっていい。善かろうと善くなかろうと俺が正しいと思った事に何もかも捧げる。その覚悟を」
健全にニコリと鎖鬼は笑う。
そしてもう言葉はいらないとばかりに構えた。
勿論それを見たシルバーマンも言葉を紡ぐことをやめた。
地面を粉砕するほど踏み込んでシルバーは前に飛ぶ。
鎖鬼は迅速に、確実に周りの環境を視認し、掌握し、罠を作り出し、戦略を立てる。
脳みそはフルで使われ、目は蚊のように素早い。
シルバーマンもみすみす目の前で罠が張られることを目逃すバカではない。
固く握られた拳が鎖鬼の頭蓋を狙う。
けれど地面に付けた軸足がグイと引かれた。
拳は鎖鬼の目の前で落ちていき、体は前と傾きゆく。
そして胴体へ向けて鎖鬼は蹴りをくり出すが、それを一瞬で掴み、そこへ手を着き前転の要領で体を回転させた。
回転した体を良しと見て彼は足を首に絡ませてそのままへし折ろうとするが、足首に糸の感触を感じて引かれる前に引きちぎった。
そのまま倒れる形で着地したが、すぐさま体勢を直した。
鎖鬼は肉弾戦を良しとせずに距離をとった。
シルバーマンは経験は確かに多くない。
だがその正しさと自らへの盲信でがむしゃらに向かっていく。
「もう日が上り始めた。もう少し時間が経つと、面倒になる。次で決める。そして決めろ」
「その前に一つだけ聞かせてくれないか。死を恐れないのか」
「今死んでも俺は俺の人生を最大限に楽しんだ。ただそれだけだ」
「そうか。じゃあ、やるか」
破れた覆面から見える銀城の目が朝日に照らされる。
狂気にそまったドロリとした色ではなく、白く輝いている。
狂気的なまでに研ぎ澄まされた意志のみしか存在しない。
すまわち二人の心は揃い、定まった。
シルバーマンは消えたと錯覚するほどの動きで横に動き、鎖鬼への後ろへと回った。
方向を変えるよりも一直線に動いた方がスピードは落ちないし、力も分散しない。だが彼も目の前を直線で動くほど無策では動かなかった。
だから、死角となる後ろから。
振り返る時間すらも与えず後頭部を砕く、それが彼の作戦だった。
彼は何回か何かに引っかかるような感覚を感じた、気にせず前へ進み続けた。
対する鎖鬼。
流石の彼といえどこれを目で追うのは難しい。
けれど何個か感覚の無くなった糸から予想し、策を考える。
シルバーマンは鎖鬼の後ろ五メートルほどにたどり着くと、直角に曲がり、鎖鬼へと一直線に飛び込んだ。
固く握られた握り拳が、自らの決めた悪を砕かんと軋む。
「ここで死ねッ! 鎖鬼ッ!」
鎖鬼は振り返らない。
拳が迫る。
一メートル。
五十センチメートル。
十センチメートル。
けれど拳は頭を貫かずに止まった。
彼の力をもってすれば糸はちぎることが出来る。
故にシルバーマンは動揺していた。
何故千切ることができないのか、と。
「あぁぁぁっ!」
足を地面へめり込ませ、腰を捻り、声を張り、体のリミッターを最大まで外す。
けれど、体は動かない。
ブチブチと体の筋繊維が切れる音を彼に届けるだけである。
拳は届かない。
そして鎖鬼も振り返らない。
「半分。半分だ」
彼は振り返りもせずに話しだした。
光がさし、シルバーマンを彼の影が覆う。
彼に先ほどまでの力みは無く、緊張すらもない自然体だった。
「お前を止めるのに必要な糸だ。誇っていい。久々だ、こんなに糸を使ったのは、な。だが、半分だ」
「……」
「もう捕らえた。今からお前は何をしようと俺に届くことは、ない」
眼球から血が出るのではないかと思うほど目は開かれ、視線が鎖鬼を貫く。
深く息を吸い、大地が揺れそうなほどの声を口から吐き出す。
喉が壊れそうなほど震える。
けれども体は動かない。
ガクッと力が抜けてシルバーマンが蜘蛛の巣に囚われた虫のように空中に浮いている。
半分剥がれたマスクからリラックスしたような顔が見えている。
「諦めたか」
「いんや? だが……無理なら、仕方ないだろ?」
「……そうか。なら、じゃあな」
「あぁ、また」
鎖鬼は一回も振り返らずにそのまま歩きだしてしまった。
そして彼が歩き出すと、周りの壊れた機械がぎしぎしと軋み出す。
そのままその工場に放置された錆だらけの機械はシルバーマンへと動きだした。
シルバーマンはそれを見ているが、体が動かせないため、何もしていない。
ギロチン台にはめられた貴族のように。
「……ははっそうか、これが」
そしてその鉄の猪はシルバーマンを包み込み、工場には赤錆と歴史を感じる奇妙なオブジェが誕生した。
やっと静かになったその場所を太陽が暖かく見つめていた。
明日も12時を予定しております。
よっぽどの事がなければ予約投稿なので投稿されると思います。
私もここで書き始めて数年になりますが予約投稿なんてほぼ使ってこなかったので未だにあまり慣れません。




