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機械仕掛けの眼が彼を見る

こんにちは。

KURAです。

ちょっとボリューム多めなのは戦闘描写頑張って書いてたらいつの間にかこうなってたからです。

だらだら書くのはあんまり良くないんですがね。

驚く事に、あの恐ろしい速さで動く事のできる本気のシルバーマンよりも先に動いた男がいた。

それは鎖鬼だ。

彼は両端に重りのついた糸を二つ小型の機械から射出すると、用済みとばかりに投げ捨ててそのままシルバーマンの前方へと駆け出した。


シルバーマンは糸を視認すると、食らってはいけないという強迫観念にも似た衝動に突き動かされた。

その糸は脛の高さと首の高さに地面と平行に飛んでいた。

横に飛ぶにも糸の長さをうまく見ることができない。

後ろは論外。上は首よりも高く、さらに次攻撃が飛んできていた場合に避けることのできない。

そう思考した彼は前へと前転するように飛んだ。


「場数が違うんだよ小僧」


だが、鎖鬼はそれを読んでいた。

というより狙い通りにまんまとシルバーマンが動いただけだ。

前へと飛んで、前傾にも似た姿勢のシルバーマンのこめかみに鎖鬼の膝が突き刺さる。

頭に当たったその一撃は彼の体を回し、鎖鬼の怪力により数メートル程彼の体を飛ばした。

ブーメランのように飛ぶ彼は壁に激突すると凄まじい程の埃と煙をあげた。


「あん?」


「殺しちゃった?」


「……んにゃ、微妙に入りが甘かった」


「あ、そ」


怪訝そうな顔をしている鎖鬼に小瓶がぶつけられた。

鎖鬼の屈強な体にぶつけられ、砕けたその小瓶から液体がぶちまけられた。

気化しているようだが、煙が透明に近いためよくわからない。


「ケホッ……」


一呼吸鎖鬼が吸うも、すぐさま気道を塞ぎ、気体の留まっているその場所から退避する。

口と鼻を抑えて、取り込む気体を抑えながらも脳裏を睨む。

だが、脳裏は鎖鬼を見てすらいない。

彼が見ているのは吹っ飛んで行ったシルバーマンだ。

鎖鬼は視界が微妙に霞んでいる為数分動くことができない。


「邪、魔」


「野郎……」


入りが甘いと鎖鬼は言ったがその通りだったようで、人間ならば死んでいる一撃を貰ったシルバーマンはよろめいてはいるが、立ち上がった。

軽くもないが、致命的というほどでもないダメージのようだ。

目の前にいる脳裏を見ると、早速と殴りかかった。

一人でも頭数を減らしたいのだろう。


脳裏はどちらかというと頭脳派である。

鎖鬼のような屈強な体も持ち合わせてはいないし、鴉のような自らの技術力からくる肉体を補助する機械もない。

つまりは、人間を超えた力を持つシルバーマンからすると少し力を入れれば折れるような小枝のようなものだ。

だが、そんな単純な力で負けるようならばとうの昔に鎖鬼や鴉、またはそこらへんのごろつきにでも脳裏は倒されていることだろう。


「……当たらない?」


「そうだねぇ。僕の事、ちゃんと見えてる?」


シルバーマンはそう言われて気がついた。

彼は思う、言われて気付いたが、どれ(・・)が脳裏だ?

いや、何故何人も脳裏がいるのだろう、と。

今の状況、そして事前に調べていた脳裏の情報から毒物、または幻覚剤のようなものを摂取させられていると断定した。

そしてそれは正解である。


彼はその場に留まり続けるのは危険とし、急いでその場から退避行動をとった。

素早い行動で立ち退くと、ようやく彼の視界から何人かの脳裏が消え去った。

それを見て脳裏は感心しながらも、余裕を持った態度を崩さない。


「気づくの早いねぇ。もしかして僕の事調べてたりするのかい?」


「まぁな。お前のような初見殺しに殺されないためには、な。人生にコンティニューがあるなら調べないんだが」


「良いねぇ。とっても厄介で、楽しいよ」


脳裏は銃のような形をしている機械を取り出すとそのまま引き金を引いた。

銃口から飛び出すのは銃弾でもなく、針。

鋭い針が勢いよく飛び出た。


だが、拳銃の弾ほど速くないその針に当たるほどシルバーマンも無能ではない。

しっかりと目視して、その針を掴んだ。


「んー、開発してみたはいいけど……刺さらなきゃわかんないね?」


「……どうせ致死毒だろ」


「さてね」


今度はシルバーマンが動いた。

踏み込みが地面をえぐり、恐ろしい速さで体を前へと運ぶ。

強ばった手のひらが脳裏の頭蓋を砕こうと近づく。


「調べててコレ?」


今度は針ではない。

媒体は空気だ。

ガスマスクもしていないのに己ごと巻き込む範囲で少し灰色に濁ったガスが脳裏の体から噴き出した。

ギョッとマスクの下でシルバーマンが目を見開きながらも、一瞬体を強張らしてしまった硬直を気合で突き破る。

だが、その一瞬を逃してしまうのはただの三流だ。


脳裏は顔を狙っているという事をシルバーマンの姿勢から見抜くと、顔を腕の直線上から疾く退かせる。

そしてその途中にも針を射出した銃型の機械を素早く取り出してシルバーマンへと引き金を引いた。

もう片方の手で器用に注射器を彼へと投げた。


「……んー、ちょっと予想外だなぁ。一応この銃象を想定して設計したんだぜ?」


注射器は手で投げたため当然刺さらず、針は当たりはしたが、刺さらず落ちた。

空振ったシルバーマンはそのまま口を押さえて前に転がりその場から退避した。


「空気経由だと効くんだ。面倒くさいなぁ。あんまり致死的な奴は僕も流石に耐性持ってないしなぁ」


「どけ」


「うおっと危ないなぁ。アイツならともかく。僕はそんな頑丈な出来してないんだよ」


エレクトリカルに輝く剣の形をした触手のような機械を背中から生やし、脳裏へと振った鴉は脳裏に邪魔そうな敵意を持った視線を向けた。

鴉は腰に独自の操作板を付け、それを両手で操作して全身に組み込まれた機械を操っている。


「わぁ、ソレ持ってきたんだ。ってことは全身装備?」


「……」


「無視かよ」


もう脳裏への敵意すら無くし、シルバーマンはと視線を逸らした鴉。

彼はシルバーマンをじっと見つめている。

口には興味を含んだ笑みを浮かべている。


「良いね。興味があるよ」


「……俺はねぇよクソ餓鬼」


「実験開始だ。バカとアホは引っ込んでろ」


その鴉の言葉に盛大に眉間に皺を寄せた鎖鬼や変わらず笑っている脳裏が動こうとした。

そう、動こうとした。

だがそれは叶わなかった。


鎖鬼の足元にいつの間にか蜘蛛のような形をした機械が潜んでいたのだ。

殺気も、意志すらも感じれないソレに鎖鬼は気付くのが遅れてしまった。

その蜘蛛から蜘蛛の巣状にネットが射出された。

それを見事に食らった鎖鬼は苦虫を五匹ばかり噛み潰したように顔を歪め、ネットを己の体から剥ぎ取ろうとした。


「バーカ。僕の十八番を忘れたの」


そのネットから流れるは異常に強力な電撃。

像すらも昏倒させ、人体を破壊せしめるソレを食らって鎖鬼は怨嗟の声にも似た悲鳴をあげて気絶した。

流石に屈強な鎖鬼であっても数分の気絶は確実であろう。


脳裏の首を目指し蜘蛛が飛ぶ。

だが流石の脳裏それを避ける。

けれども死角にもう一匹蜘蛛がいた。

その蜘蛛型の機械がうなじに取り付く事を許してしまった脳裏。


「毒?」


「僕がお前の抗体を突破できるほどの奴作れると思うの?」


「……クソ陰キャ野郎」


彼もまた電撃を食らって捨て台詞を言いながら気絶した。

最後は笑みを浮かべバタリと倒れたのだった。


「……仲間殺しか?」


「最初はどうしようか。電撃耐性あるのかな」


「全員で袋にした方が楽だろ」


「刺突耐性は脳裏の奴がやってたな。毒も見た。あとは……圧も調べるか」


「鴉」


「さて、やるか。予想もある程度やったしね」


「……」


シルバーマンは痛感した。

コイツは俺を見ていない。

鴉はシルバーマンを見ていない。シルバーマンなんかに興味はない。

彼はそのスーツだけに興味がある。性能に興味がある。

だから、その中身は別に興味に値しない。


正しく実験。

スーツの性能実験。


それを許すほどシルバーマンは寛容ではない。

強く踏み込み前へと飛ぶ。

恐ろしいほどの力、そして積まれた戦闘訓練による技術により、縮地と遜色ないほどの速さで距離を詰める。

だが、光速は超えることはできない。


「速い、ね」


鴉の足元から細長い何かが飛び出た。


鴉の持つ機械群、六番。機能自動迎撃、捕縛モード。

蛇のように長い体を持つそれは必ず鴉の付近に潜んでおり、センサーにより近づくものを捕縛する。

そして鴉が手がけた高性能の演算能力により、間に合わないような速度の物質、または生物であっても初速、そして動きを察知して予想することにより捕縛する事を可能にする。


「なっ」


体を機械で縛られ、動きを止められたシルバーマンは驚愕する。

普通の状態ならまだしもこのリミッターを外した状態で、しかも鎖鬼のように動きを誘導するわけでもなく直接捕らえられたのは初めてだったからだ。

恐ろしい速さで近づいていた彼は体の動きを細長い機械でぐるぐる巻にされた状態では止まることもできず転がるように吹っ飛んでいく。


「そういえば、電気はどうだろう?」


転がり、体を打ちつけ、土に塗れてもなんのその。

シルバーマンは機械を引きちぎろうとする。

けれども鴉が腰につけた操作板のボタンを押すと蛇型の機械から電撃が流れ始めた。

確実に人が死ぬ程の電流だ。

彼はそれを気に留めるような動きすらせず機械を引きちぎった。

体についた土を払おうともせず彼は立ち上がる。


「ふぅん。良い性能してる。次は、どうだろ」


鴉がシルバーマンが動く前に操作板を操作した。

すると、背中の箱から全長二メートルほどの細い金属筒が取り出された。


「八番、十番、三十一番、召集。モード電磁砲」


早口でそう言うと音声認証だったのか周りに散っていた機械が三体金属筒へと取り付いた。

太くなったその金属筒はシルバーマンへと銃口を定めた。

それは青白く輝き始め、バチバチと嫌な音を奏で始める。


「発射」


「……!」


シルバーマンも危機を覚えたのか、急いで回避しようとする。

だが簡単に電磁砲は避けれるものではない。

けれども彼の身体能力は生物を超えたもので、心臓を狙っていたそれは左腕の肘に着弾した。


「……電磁砲を使えば貫ける、と。九番対象を回収」


シルバーマンの左腕、肘から先は宙を舞った。

この結果に落胆を覚えながらも、自身の装備の性能を改めて確信して嬉しそうな笑みを浮かべる鴉。

そして貴重な左腕というサンプルを確保するのも忘れない。


だが、楽しい時間はそう長くは続かない。

つまりは時間切れだ。


「楽しそうだなァ? 鴉」


「混ぜてよ、ね?」


「早いんだよ、化け物。……仕方ない。最後は意地でも」


立ってこちらを見ている二人をみて鴉は盛大にため息をつく。

数秒考え、邪魔をされると考えた鴉は最後、ある実験を意地でもやる事にしたようだ。

悪い笑みを浮かべている。


とりあえず一杯食わされた鴉を袋叩きにしようとしていた二人は鴉の笑みを見ると、己の経験からろくでもないことになると感じると一斉に工場から出て行こうと走った。


「広範囲での圧はどうなる? どうする?」


一瞬鴉はシルバーマン自身を見た。

そして操作板のボタンの一つを押した。


工場の周りから爆発音がし始めた。

まるで、建物の取り壊しのように。

そして、空が落ちてくる。

人間を、生物を、物質を守ってくれる天井が牙を剥いた。

その大きさ、重さ、全てを凶悪に示す。


「……嘘だろ」


逃げることもせず、ニコニコと実験の結果を待つように彼を見る鴉。


「さて、どうなるかな?」


シルバーマンは真上を見て、迫る天井を見た。

思考が目まぐるしく巡る。

逃げる、彼が実験から逃げることを許すだろうか。彼はその作戦を却下した。

彼の上等な脳みそから弾き出されたこの場の最適解は。


「無理……?」


つまりは思いつくことが出来なかった。

絶望したように、まるで祈るように首を垂れて、頭を守りながら天井を待つ。


そのまま瓦礫に包まれてしまった。


「生きてる?」


機械に防御を任せて、何のダメージも受けなかった鴉は呑気に座りながらシルバーマンの是非を観察する。

数分、彼はつまらなそうにため息を吐いた。


「無理、か。うーん、凡才?」


「誰が……凡才……だっ……て?」


「………………へぇ?」


鴉は単純に驚いた。

退避出来きず、対処もできずに瓦礫に包まれた彼はてっきり終わったと思ったからだ。

そして確実に埋まっていたのに生還した彼のスーツの性能にも驚いた。


「身が入ってるのに、生きてるのか」


彼の機械は基本的に人間が入れられていない。

このくらいの瓦礫の雨ならば耐えることのできる機械など容易ではあるが、身を入れたまま生還となるとコレはまた話が変わってくる。

かの天才鴉であろうと頭を悩ませるだろう。

彼のようにスーツに拘るのであれば、という条件が付くものではあるが。


「実験は十分かよクソ餓鬼」


「面白い。面白い、けど」


「つまらない、だろ? 鴉」


言葉の続きを代弁したのは鎖鬼だ。

すぐさま退避した後帰ってきたのだろう。

避難することに成功したのか体に土煙でついたであろう塵はあるが傷は見当たらない。

その後ろにも真新しい傷がない脳裏がいる。

嫌そうに服についた土煙を払っている。


「……物足りない?」


「何がだい?」


話がわからずシルバーマンは無言で三人を睨むが三人は話を進める。

土煙を払い終わった脳裏が尋ねる。


「なんつーんだろな。イカレ具合じゃねぇか」


「……技術?」


二人は脳裏の問いにそう答えた。

鎖鬼は狂気と、鴉は技術と。

シルバーマンはその答えに少しばかりの苛立ちを感じるが、そのまま話を聞いた。


「別にそれでも強いじゃん。何が不満なのさ」


「はっ、その面でそれを言うかよ」


「まぁね。あと僕ね、眠たくなってきちゃったのよ」


欠伸を漏らしながら脳裏はそう言った。

体を伸ばしながら振り返るとそのままシルバーマンのいる場所とは反対方向。

つまりは街の方向へと歩き出した。


「僕もういいや。おつかれ。二人ともかんばー」


その言葉を聞いて二人は顔を見合わせた。


「どうする?」


「なにが」


「助ける?」


「別に。そっちは」


「僕も」 


彼らがそう言うのと同時に動くものがいる。

シルバーマンだ。流石の疲労困憊シルバーマンも背中を晒してダルそうに帰る人間を見逃すはずもなく。


「逃げんな」


高速で動いているシルバーマンの飛び蹴りが脳裏の後頭部に迫る。

威力は明白であり、まともに当たれば頭蓋は砕け散るだろう。

けれどもそれは届かない。

届くはずもない。


「……うん、ご苦労」


三人(・・)

今シルバーマンが飛び蹴りによって吹き飛ばされた人数だ。

吹き飛んだ三人にそう声をかけながら脳裏はひょいとソレを避けた。


「じゃあね〜」


歩みを止めない脳裏はそのまま闇へと歩いていった。

追おうと立ち上がると、目の前に複数の人間が立ちはだかる。


「なぜ邪魔をするんだっ」


「我ら承った命令は邪魔をさせるな。よって、邪魔はさせない」


まるで機械のように無感情でそう言い切った彼はシルバーマンを脳裏の元へと行かせまいと構える。

そして、ぞろぞろと周りにいた者たちも構え始めた。

いくら超人的な力を持っていたとしてもコレを通り抜けるには時間を要するだろう。

つまりは脳裏を追いかけることは至難の業であろう。


「おいおい、俺らは無視か?」


この場で無視されたのはシルバーマンだけじゃない。

鎖鬼達も無視され、まるで観客のように蚊帳の外だ。

そして鴉の目から興味が薄れていた。


「……拘束」


「……ッ!」


「うん。それじゃ、ダメだ、ね」


「……あーらら。鴉お前もか」


飛び出してきたたこのような足を持つ機械がシルバーマンなら向けて飛んでいく。

それをただただ見ているほど彼は呆けてはいない。

すぐさまその場から立ち退いた。


けれど、それでも鴉の手のひらから抜け出すことはできなかった。

着地地点にもう、幾つもの足をカチカチと言わせるタコ型の機械が彼をまだかまだかと待っていた。


といっても鴉は今回操作はしていない。

拘束、と声でコマンドを入力しただけだ。

それは鴉の目に接続されている機械から視界を受信し、シルバーマンを捕捉、そして予め入れられていた捕獲方法に従い動いただけだ。

つまりはコレに捕まるのは訓練されていない素人か、凡人という事。


「……良いね。良い素材だ。……貰うよ」


近づき頭を持ち、顔に近づけて観察する。

そして、彼はシルバーマンのスーツを『良い』と判断した。

それを聞いた鎖鬼は少しばかり驚いて、口笛を吹いた。

彼は鴉の技術を知っている為鴉が褒める事の価値を知っているからだ。


右手は頭を持つのに使っているため、左手で操作板を操作し、背中にしょってある機械からアームが飛び出てシルバーマンの頭部分のスーツを乱暴に剥ぎ取った。


「やぁ、久しぶり。そしてさようなら」


採取出来たことに満足気に微笑みながら、マスク越しでない彼と目を合わせて挨拶するとそのまま彼を飽きたおもちゃのように投げてしまった。


「待て、どういうつもりだ……!」


「……命? 要らない。充分。あげるよ鎖鬼」


「あん? 俺?」


なんて言ってる間にも鴉の機械たちは動いている。

集まり、変形したかと思うと、それはまるで小型の飛行機のように見えた。

鴉は何も言わずにそれに乗り込むと、最後に二人に手を振った。


そして、彼は飛び立っていった。

何か急ぎの用事でもあるのかと思うが、何もない。

興味がないなら疾く帰る。何故なら家にはまだやり残したゲームがあるのだから。


それを知っている鎖鬼は呆れたようにため息を吐きながらも、シルバーマンへと向き直った。

悪を殺すと宣いながらも飽きられ、興味をなくされ、逃げられる。そうして己の持つ僅かなプライドと正義感をズタズタにされたシルバーマンはそれはそれは鬼のような顔かと思っていた彼だったが違った。


シルバーマンの顔に宿っていたのは落胆だった。

誰か。脳裏に、鴉に、鎖鬼に? 違う。

己に、であった。

金になれぬ、英雄になれぬ己は銀で良い。

皆を惹きつける金にならぬなら、蔑まれたとしても、否定されたとしても、悪を斬る刀のような銀の光で良いと。

そう言っていたはずなのにコレはなんだ。己はなんだ。

彼の頭はそれで一杯だった。

自分は、まだ人だったのか。

ただ一つの剣になれなかったのか。


そう彼は結論を出した。

今にも泣きそうな、だが怒ってるような、絶望。


「あいつらも薄情だよなぁ。やる事やって帰りやがる。勝手に期待して、勝手に見定めて、勝手に帰る。酷い話だな? えぇ?」


シルバーマンは応えない。

思考がぐるぐるぐると。

答えがあるのかもわからぬ問いを頭いっぱいに詰めてそんな余裕はない。

破れたスーツから土のような色の顔と脂汗が見える。


「無視かい。まぁ、ソレがアイツらだし俺らだからなぁ。さて、俺はいかねぇよ。殺したいなら殺ってやる。どうする」


思考が、苦悩へと変わり、心に打ち付けられる。

打ちつけ、打ちつけ、打ちつけ、打ちつけ、打ちつけた。

何も今日だけでは無い。

シルバーマンはいつも悩んでいた。

いつも、苦しんでいた。

折れてしまったら、廃人またはもう二度と立てなくなる。

立って戦えなくなる。


折れることは出来ない。

彼はそう誓ったから。いつかのあの日に戦い続けると。

けれど彼は己の心を打ち付けるその手を止めることは出来ない。

決して、絶対に。


「……へぇ」


そして折れずに打ち続けられたその心は今刃へと変貌した。


「…………」


幽鬼のようにフラフラと起き上がった。

彼の着ているシルバースーツも相まってかまるで死霊のようだ。

ゆっくりと随分と暗くなった瞳を鎖鬼へと向けた。


「それはイチジクの葉だろ? よくわかる。テメェ、凡人辞めたくて人すら辞めるか」


「…………」


「なら吠えてみろよ人でなし。そう生きるって決めたんだろ」


「……あぁ。やりあおうぜ人でなし」


そう返した彼の顔は歪んだ笑みが張り付いていた。

明日も12時を予定しております。

噂話では朝の方が良いとは聞いたことがありますが、なんとなく12時です。

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