銀は夜を照らせるか
こんにちは。
KURAです。
えっと、はい。
最後まで書こうとしてたら11月になってました。
明日も更新します。
「おいおい、そりゃフルパワーじゃねぇだろ。そんなんじゃ勝てねぇぞ」
シルバーマンが纏っているのはいつもの明るい銀色のスーツだ。
それを見て鎖鬼は文句を言う。
シルバーマンはそれを無視して構える。
そうして、駆け出した。
昨日見せたような生命として異常なほどの動きはできないが、補助くらいはするためオリンピックで金メダルを総なめするくらいの身体能力は出る。
だが、足りない。
「お前、脳みその、代わりにスパコンでも、入ってんじゃねぇだろうなぁっ」
「あん? 慣れだよ。慣れ。お前ら素人相手に事を起こすことなんざ何千回もあったんだ。無意識にだってできる」
シルバーマンはまるでピエロのように踊っている。
腕を振り、ステップを踏み、体勢を崩しては、急に立て直す。果てには倒れ込んだり、跳ねたりもしている。
そう見える。
だが、実際はそんな曲芸では無い。
水平にピンと張られた糸が猛スピードで彼の胴を泣き別れさせんと迫っている。
そして同時に斜めに張られた糸が彼の首を刈り取ろうと進んでいる。
その目視する事が困難な殺意を彼は視認し、完璧に避けている。
完璧に避けないと斬られるか、斬れなかったとしても絡めとられる。それは確実に詰み、だ。
だがそれは糸を視認することが難しいため、側から見るとただの曲芸師にしかならないのだが。
「チッ、仕込んでた分全部避けきりやがった。ま、そのスーツにしちゃよくやってんじゃねぇの」
「ありがとよ。クモ野郎」
「そりゃどうも。さて、邪魔が入ったら面倒だ。はやく、来いよ」
邪悪に顔を歪ませ、指を曲げて鎖鬼は挑発をした。
とても警戒されているとは思えない姿勢。
確かに彼は特に警戒をしていない。
シルバーマンは前に飛ぶ。
その鼻をへし折ろうと。
だが、その途中足を地面に叩きつけ、軌道を変えた。
バネの微かな音がシルバーマンの耳に届いたからだ。
シルバーマンの居た場所を弾かれたように飛ぶ二つの球体がその判断が正しかった事を示している。
「耳いいじゃねぇの。本気の本気。全力出せよ。楽しもうぜ」
ギチギチと筋繊維が限界まで張られたような音が鎖鬼から聞こえてくる。
それは両掌からであり、彼のつけている特殊な手袋からは彼の得意とする武器が大量に仕込まれている事を予感させる。
「びっくり箱みてぇな奴だなお前」
「俺がびっくり箱ならテメェはなんだ。お人形か?」
鎖鬼の前方に風が吹き荒れた。
自然の風ではない。いくつもの糸が射出され、空気を裂くことによって生まれた風圧だ。
鎖鬼が後方にいくつもの銃を投げ捨てている。使い捨てなのだろう。
だが、シルバーマンはそこにはいない。
けれど華麗に避けるには身体能力が足りず、みっともなく転がり避けた。
そしてそのシルバーマンの体に影がさす。
彼は息を呑んだ。
彼がゾッとするような予感を受けすぐさま真横へと跳ぶと、彼が今までいた場所に鎖鬼の踵が振り下ろされた。
コンクリートが粉砕されている。
鎖鬼の力もあるが、靴に何か仕込まれているのかもしれない。
鎖鬼は糸を使った奇妙な戦術や糸を仕込んだ特性の兵器を多用する戦術を得意とするが、彼は大柄であるし、筋肉量も大いにある。
よって肉体戦も得意も得意、大得意なのだ。
鎖鬼は仕留め損なった事を悔やみもせずに、すぐさま次の手段を行使する。
「凡人小僧。さっさとコッチまで墜ちてこねぇと死んじまうぞ」
シルバーマンを中心として糸が絡めとるように飛んでいる。
それはまるで一匹の鳥のために編まれた鳥籠のよう。
彼は眼球をぎょろりぎょろりと見回して逃げれる隙を探すが見つからない。
死んだ、そう思った瞬間。
「待った」
小瓶が投げ込まれた。
そこから発生したのは紫色の奇妙な気体。
紫色の煙は鎖鬼の糸を溶かし、生命を侵そうと手を広げる。
シルバーマン、吸うと死ぬのだが流石のスーツ性能、糸すら溶かした煙に負ける様子はない。
それもそのはず鎖鬼は多種多様の糸を操る。
相手に合わせた糸を持つのだが、今回は物理的耐久に特化しているため容易に溶かされたようだ。
投げ込んだ本人は廃工場の外れた屋根からこちらを覗いている。
月が彼で隠れて暗い工場が一層暗くなっている。
「脳裏」
「うん、なんだい」
「邪魔すんじゃねぇ」
「それはこっちの台詞だぜ? 蚕野郎」
何処から取り出したのか鎖鬼はクナイを脳裏に投げるが、ヒラリと避けられてしまう。
そして脳裏は器用にも足腰にダメージがこない高さの機械を経由して地面へと降りてきた。
脳裏も私服ではない。本気の仕事着だ。
白衣をはためかせ、チラチラと多様な色の瓶や機械が見えている。
「ドクター、とでも?」
「僕君のそういうとこ好きだぜ」
かすかに息を切らし、それでも軽口を叩くシルバーマンに苦笑いしながらも笑って彼のことを褒める脳裏。
それは本心から来たものであり、何の裏もない。
純白の白衣をはためかせ、彼はそのまま足元から幾つかのガラスが割れるような音を響かせた。
それを見るに、何かの液体が入っていたモノのようで液体は床に撒き散らかされると沸点が低い液体のように自然に気化しはじめた。
それは紫の煙で、視覚から明らかに吸ってはいけないと警告していた。
「閉鎖空間でんなもん使うなっての」
「そりゃあ人の嫌がる事をするのが戦いだぜ。シルバーマンはこの程度効かないだろう。僕は勿論。ならコレは誰への嫌がらせだと思う?」
盛大に鎖鬼は舌打ちをした。
あまり吸わないように口を手で塞いでいる。
鎖鬼もその紫の煙は吸えないようで、寄られまいと後ろへと後ずさった。
彼もこの状況をどうにか打開しようと頭を回すが、出てこない。
上へと上がらないことから空気よりも重い気体であることは明白である。
彼は一瞬天井を切り落とすかと思ったがこの理由により断念。
壁を切り抜こうかと彼は思うが、時間がかかりすぎると答えが出た。
対象が人であれば、瞬時に作ることも可能ではあるが壁が対象となると難しい。
壁というのはその一面が独立したモノではない。
繋がりがあるため糸が通しにくいのだ。
しかも外へと出れば脳裏の第二の手足たちが鎖鬼の部下と戦いながらも歓迎してくれるだろう。
彼は考えた結果静観することにした。
「さて、やろうぜ。シルバーマン」
「……足を引っ張り合うなんて愚の骨頂だな」
「フフッよく言われるよ」
鎖鬼の手の出せない紫煙の中、シルバーマンと脳裏の戦いが始まろうとしている中。
一つの乱入者が舞い降りた。
否、者ではない。物だ。
天井の穴から球体が落ちてきた。
「ッ! これは」
脳裏は気付く。
見覚えのある球体だと。
そして全力で球体から遠ざかる方向へと走り出した。
ピーッと警告音のような高い機械音が球体から鳴る。
脳裏が思いっきり前に飛び、耳を塞ぐ。
雷鳴が落ちたような爆音と閃光が工場を揺らした。
爆弾だと判断し、対ショック体勢をしていたシルバーマンは直にそれを食い、耳を押さえて這いつくばっている。
そしてシルバーマンが霞む目で周りを見渡すと、視界を悪くしていた紫煙が無くなっている。そして冷たい夜の風をぼんやりとしながら感じた。
音爆弾に近いそれは空気を盛大に揺らし、それは廃工場に残っていたガラスに伝わった。
縮んだりしながらも風を弱めたり防いだりしていたそれは激しく振動し、その振動に耐えきれなくなったガラスは綺麗な甲高い音を鳴らしながら割れていった。
しかも運の悪いことに今日は風が強かった。
「……くぅ、頭痛い。これ、鴉だろ」
「うん」
脳裏がその名前を呼ぶと、それに応えて犬のような四足歩行の機械に乗った鴉が天井から飛び降りてきた。
金属が地面のコンクリをえぐり、鴉は無事着地した。
鴉の背にはパソコンの本体のような金属製の箱がある。
そして彼の服には白や銀の装備品が大量に付いており、それは恐らく彼お手製の機械だろうとわかる。
「これで毒ガスが無くなった、な。感謝するぜ? 鴉」
「なら出てけ」
「そりゃあ聞けねぇなぁ。さて、俺らは結局手を尽くしてもこう三人集まる訳だな」
「みたいだね」
「……」
三人はシルバーマンを中心とした三角形のように立ち、視線を交わし合った。
そう、彼らは己の使える部下、組織、機械を使って他二人を排斥しようとした。
だが彼ら考える事は同じ、工場の外では三つの陣営が殺し合っているがそれ故に誰もこの三人に手を出さない状況になってしまった。
鎖鬼は呆れて肩をすくめて、脳裏は苦笑いをして、鴉は無表情を貫いている。
「ま、テメェらにゃ差し向けても鎧袖一触。無駄だろうとは思ってたがな」
「じゃ、どうするよ。どうせなら協力でもする?」
「……正気?」
「俺は背中刺されて死ぬような間抜けな死に方はまっぴらだな」
「信用ってのがここまで無いとはね」
「そりゃ、テンション上がってる今のお前は、やるだろ」
「ソレ言われたらおしまいだけどさぁ。ソレ君が言えるのって事よ」
そんな会話を聞きながらも何もいえずにいたシルバーマン。
彼は先程の鴉の音爆弾のより意識が混濁していたが、やっと回復することができた。
地を這いつくばりながらも、三人を睨む。
そして、ようやく三人はシルバーマンを見た。
一人は楽しそうに。
一人は機嫌が良さそうに。
一人は興味深そうに。
「お前らは、お前らは仲間じゃないのか。何故、戦う。何でそんなにも、無駄な戦いをする……」
それを聞いた鎖鬼が大きなため息をついた。
先程までのわくわくしていて楽しそうな笑顔からは一転、落胆の色を滲ませている。
そして彼だけが口を開いた。
「お前はほんっとわかっちゃいねぇなぁ。いや、わからねぇからそうなのか」
「わからないし、わかりたくもない……!」
「フッ、そうかい。まぁ、はっきり言ってやろう。俺らは仲間じゃねぇ。俺らは他二人を何の躊躇もなくぶっ殺せる。勿論、殺そうとした事なんざ両手じゃ数え切れねぇ。残念ながら死ななかったがな」
「本当に殺してしまったらどうする気なんだ」
「本当に死んだら? そりゃあ……そうだなぁ……がっかりするな」
そう話す鎖鬼に脳裏は頷きで肯定をしめした。
鴉は微塵も興味を示さなかったが。
それこそが彼らの在り方だった。
シルバーマンはそれを聞いて、とても信じる事ができなかった。
彼にとって一緒にいる、一緒に戦うというのは仲間だと思っていたからだ。
勿論目の前の三人も。
だが、それは違った。ましてや殺そうとした事があると言うではないか。本気で。
己の常識とはかけ離れた存在にひどく動揺していた。
「なんなんだお前らは。い、イカれてる。狂人だ、お前らは人として終わっている。いや、生命として終わった存在だ……!」
「狂人ねぇ。だって、鎖鬼。僕たち狂ってるらしいよ」
「そうだなぁ。世間一般的にはそうなるらしい。……にしても狂っている、終わっている……今更何を言うかと思えば」
動揺して、思考が纏まらないまま叫ぶその言葉を聞いても飄々としている二人はそう話す。
むしろ笑っている。狂人だと、救えない存在だと言われてもなお笑っている。
そんな他人事のような態度を見てさらに狼狽する彼は叫んだ。
「……お前らは悪だ。絶対的な悪だ。そして俺は悪を倒さなければならない。……絶対に」
シルバーマンは首の金具を引き抜いた。
そしてあの音声が聞こえる。
『Dust to dust.I trust you to be dust!』
鎖鬼から歓喜の声が溢れた。
脳裏は戦闘のスイッチが入った。
鴉は何一つも見逃さないように眼球に仕込んであるカメラを起動した。
そうして戦闘が始まった。
明日は12時を予定しております。
今回も含めて四話更新となります。
四ヶ月で四話って一ヶ月一話ペースかぁ……。
まぁ書いてない日が多すぎるんですがね。




