煮えたぎる赤いスープ
こんばんは。
KURAです。
更新してねぇ!!!!!
はい。弁論はございません。
男の目の前にはグツグツと煮えたぎるマグマがあった。
訂正するならばマグマにしか見えない液体、という点だが些細な事だろう。
その凶器を目の前に男は健全にテンションを爆発的に上げていた。
「きっひひ、美味いんだよなぁ、コレ」
そんな毒物を掬い、口の中に入れる。
とても正気に思えないであろう正気を宿す彼はとても満足げに笑っている。
目を閉じ、毒物を存分に味わっている。
そして夢中になるように次から次へと掬っては口に入れた。
店内に充満しているこの毒物から出ているスパイシーな香りが少しずつ減っていく。
減ったとしても染み付いた匂いで鼻が痛くなりそうなほどのモノなのではあるが。
容器が空になると、匙をゆっくり置いた。
そしてとても上機嫌に息を大きく吐くのだった。
すると横に置いてあった氷水をぐっぐっと飲み干し、食べていた物から多量の熱量を貰ったようで暑そうに手で顔を扇ぐのだった。
幸せそうな満ち足りた晴々しい顔をしている。
「相変わらず、バカみたいな食事してるねぇ」
後ろからそう呼びかけられた男はピタリと固まり、目が細められた。
辛い物好きな屈強な男から剣のような眼差しを持つ男に変わった。
まるで唐辛子から隠し刀が飛び出たようだ。
「傷は良いのかよ」
「生憎僕も君と同じで頑丈でね。あとは改造してるし、ね?」
後ろにいた涙頭は後ろの席から移動して男の前に座る。
舌打ちと共に男はその鋭い眼差しと気配を霧散させた。
男は視線を後ろへと向け、机に何も乗っていないのを確認すると彼にため息と共に呆れたような半目を向けた。
いくら毒物を出すとしてもここは飲食店であると主張したいのだろう。
「なんか注文しろよ」
「するわけないでしょ、馬鹿なの? 辛徒、僕はね。お前みたいに舌がイカれてないんだよ」
イカれてちゃ店なんてできないしね、なんて付け加えて言った。
そんな彼に辛徒は僅かな怒りを覚えるが、言っても無駄な事は明白であり諦めてため息をついた。
空になった水を注いで、今度はゆっくりと傾けた。
辛徒は自分の行きつけの店に来た目的、つまりは本題について話せと視線で促す。
それをしっかりと理解した涙頭は話しだした。
「ぶっちゃけさ、勝てると思う? あれ」
「知るか。あんなもんでデータなんて取れるかよ」
「だよねー。零の奴は取り込み中らしいし、とりあえず場所が何となくわかる君のとこに来たのさ」
「けっ、お前はどうすんだよ」
「僕?」
「おん、脳裏テメェはどうすんだよ」
辛徒は仕事ネームで涙頭に呼びかける。その意図は彼に伝わった。
彼は涙頭を見つめている。
涙頭は彼に笑いかけた。
「どうする、どうするねぇ」
辛徒の質問を手で転がすように反芻してみせると、辛徒に目を合わせた。
喫茶店のマスター、涙頭はもはや消え去りそこにあの狂った悪党である脳裏が現れた。
「はっ論外って事か。相変わらず俺ららしい」
「そうじゃなきゃこんなつるんでないと思うよ」
「そりゃそうだ」
すぐに彼は霧散した。
残ったのは人の良さそうな笑顔を浮かべ、辛徒に話す涙頭だった。
辛徒はその言葉に肯定を示しながら席を立った。
それを涙頭が見ると彼もまた同じように席を立った。
彼は辛い物を、少なくともこの店に出てくるような極端な辛さのモノを食べようとは思わない為用のある辛徒に付いていくのだろう。
店の外、そこから帰路につくように辛徒は歩き出す。
だが涙頭はそれを追わず、立ち止まって声をかける。
「どんくらいやる?」
「全力」
「久しぶりに鎖鬼の由来が見える、かな」
「……俺の名前は裂鬼だ」
その言葉に堪えきれなかったように笑う涙頭。
彼の笑いを背中越しに聞く辛徒は眉間がしわくちゃになりながらも何も言わずその場から立ち去った。
陽が沈み始めていて、その背中は影になり黒く暗くなっていた。
「あー、笑った笑った。否定しないからそうなるんだよ。相変わらず馬鹿なんだよな」
体を伸ばし、いつの間にやら浮かび上がっている月を見ながら辛徒は自らの家への道を進み出した。
星は地上の光によって隠され、月だけが主張を激しく輝いていた。
丁度今夜は満月だったようだ。
脳裏の携帯が夜の静寂にやけに響く高音を響かせた。
着信だ。
「僕だよ」
「うん、そうだね。『全身全霊』頑張ろうね」
それだけを言うと脳裏は電話を切り、携帯を懐へとしまった。
口を歪ませ、携帯を見ていて下がった頭を上げる。
その時彼の視界にふと、まぁるい月が目に入った。
「いやぁ、こんな良い気分だと月も違って見えるね。あの頃とは大違いだよ」
小さく笑うと彼は弾むように自らの家へと帰っていった。
「俺だ。……面倒な事になる。来い」
それだけを言い切ると返事も待たずに切ってしまった。
鎖鬼は事務所の椅子に座って月の光を浴びながらクルクルと回る。
「どうすっかなぁ。…………ホント邪魔だよなァ」
そんな短いボソリとしか呟かなかった一言。
それには彼の、彼等の本質ともいうべき狂気が宿っていた。
彼ら三人組は着々と準備を始めていた。
その胸に秘めた狂った期待を叶えるために。
そして最高の楽しさの為に。




