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狂医、脅威、狂気

おはようございます。

KURAです。

……はい。はい。



「……テメェ何で死なねェんだ?」


「うるせぇ、寝させろ。こちとら怪我人だぞジジィ」


「ほう、怪我人とほざくか。手負いの化け物の間違いじゃあねぇか」


鎖鬼はベッドに拘束されており動く事はできないが、微かに眉毛が動いていた。

目覚めにあんな言葉をかけられた辺り彼の抱いてる感情も察する事ができるだろう。

鎖鬼が気絶から起きた瞬間であるにもかかわらず医者らしき老けている男の言葉にすぐさまそう返す所から彼らの関係が近しいものであると推察できる。

感情のままに強張っている体から鎖鬼が力を抜く。同時にため息も一緒に吐きながら。

鎖鬼は自らの身体の状況を確認すると、医者らしき男を見据え、ある一つの質問を投げかけた。


「値段は」


薄暗い病室に今度は医者であろう男の深いため息が響いた。静かである為よく目立っている。

肩をすくめ、呆れたように首を振っている。

鎖鬼にとって今生きている事が重要であるようで、身体の壊れ具合というのはあまり関係ないようだ。

そしてある種の老人への信頼もあるのだろう。

ならばそれより莫大であろうと予想される治療費が大事なようだ。


「今回はテメェがやっと死ぬと思って処置してみたらよォ。なぁんで復活しやがるかなぁテメェよォ。……そうだなぁ、怪我の大きさ、俺の落胆、緊急料諸々合わせて七億くらい貰おうか」


老人はそれでも処置する辺り医者としてのプライドなのか、何なのか。

金の為かもしれないし、違うかもしれない。

鎖鬼は聞く事はないし、誰も聞くものはいないだろう。よって真意は誰にもわからない。


「ソレ落胆料何億入ってんだよ」


「あァ? そりゃ二億だよタコ」


「てめぇバカかよハゲ」


拘束された手足を動かそうとする鎖鬼をみて医者らしき男は笑う。

バカめという言葉を添えて。

そして老人のニヤニヤした顔をみて鎖鬼が顔を顰め罵倒を投げかける。


互いに罵倒を数分間ほど飛ばし合うと、鎖鬼が舌打ちをし、ため息を吐いた。

医者らしき老人を睨みつけながらその支払いに了承した。

言われて七億を了承するところに鎖鬼の異常性が現れているが、裏の医療じゃそんなに珍しい事ではない。


「で、どんくらいかかる」


「ケッ、テメェが寝てる内に体は動けるようになっとる」


「んじゃこの拘束なんだよクソジジィ」


「そりゃか弱い俺が殴られたら死ぬだろうが」


「一発殴らせろ」


「やだわタコ野郎」


「……チッ、何日寝てたよ俺」


「三日。化け物がよ」


「その化け物治したテメェは化け物も治せる医者って看板掲げたらどうだ」


医者らしき老人は鼻で笑うと鎖鬼の拘束を解き始めた。

本当に体は動けるまでに回復しているという事だろう。

拘束から解放された鎖鬼はすぐに己の体の調子を確かめる作業に入った。


鎖鬼を治した医者らしき老人。

彼は石砕きという名前で有名な闇医者だ。

良い噂も悪い噂も裏では有名だが、特に有名な噂がある。

良い噂として、彼は他の闇医者や医者に肩を並べられることの無いほどの腕を持っている。

悪い噂として、彼の医療費と肩を並べられる医者も居ないというモノだ。


そして鎖鬼はよく利用している為彼のもう一つの悪癖とも言うべきものを知っている。

それは人をあわよくば機械、つまり俗に言うサイボーグというものにしようとする事だ。

実際右手が切り落とされた患者来ねーかなーなんて言うのは彼の口癖だ。

鎖鬼は何回も動く腕を切り落とそうと提案されたり眼球取り替えようなんて言われたこともある。


「……鈍ってんな。まぁいい、ジジィ世話んなった」


「死ぬならココまで来いよ」


「やなこった」


何故自分から遺体を弄ばれに来ないといけないのかという呆れにも似た感情が鎖鬼の表情から漏れ出る。

石砕きはそれを鼻で笑い、他の患者を診にいくのだろうか、踵を返していった。

そして鎖鬼は石砕きの所有する隠し病院から出て行った。

思うように体が動いていないことを確認しながら。




病院から出ると鎖鬼は声をかけられた。

人数は三人だ。己の手を見ながら少し思考を巡らせていた鎖鬼は視線をゆっくり前に向けた。


石砕きは仕事柄敵を作りやすい。

闇医者で、更にはぼったくり。コレで敵を作らないのは奇跡にも近いだろう。

そして石砕き本人が敵を作る事を何とも思っていない。これも原因だ。

そしてその敵というものを具体的に言うならば、近しい人間を彼なら治せたのに治療費の問題で治せなかった人間等だ。

彼らは腕の良い闇医者の噂を聞きつけ、石砕きに会うのだがあまりの医療費の高さに絶望する。

何もできずに順当に大切な人間を亡くす。その悲しみと混ざった絶望は石砕きに恐ろしくドス黒く見るに耐えない程にみっともない感情を向けるのだ。

お前のせいだ、何てブツブツと呟きながら。


だが彼らは石砕きの病院の防犯システムを突破する事が出来ない。

石砕きもプロだ。そして人体を知り尽くしているし、サイボーグに挑戦できるくらいには機械への造形も深い。

だからこそ彼らはその周辺で張っている。

出てくる人間を狙って石砕きの営業妨害をしようと画策してるのだ。

だが彼らは気づかない。己のしている事がどれだけお門違いなのかを。

恨みや悪意程度では本当に聡いものを倒せたりはしない。

陥れることなど出来はしない。


「テメェ、石砕きのクソジジィの客だろ。金、持ってんだろ」


「石砕きの野郎に診てもらった事を悔やむんだな」


「……」


鎖鬼は彼らに絡まれても何も言わなかった。

彼らの八つ当たりにも近い言葉に何一つ反応する事はなかった。

視線を戻し、開閉される自分の手のひらを見ている。

手を開いたら閉じたりしながら感覚を確かめている。


「オレはなぁ。今機嫌が良いんだよ、わかるか」


優しく鎖鬼は語りかけた。視線は変わらず男たちを見ていない。

機嫌が悪いじゃなく良いのか等と絡んだ男たちが首を捻っている。

当然だろう。絡まれて機嫌が良いことを話す人間なんて居ない。

それが目の前にいるのだから不思議がる事は無理はない。


だがその瞬間はあまりにも勿体なかった。

その値千命にも等しい時間は無慈悲にも過ぎ去ってしまった。

彼らは目の前の男があの悪名高い鎖鬼だと知らなかった。

ただそれだけが原因である。


「だからよ。そんな風に目の前で立ってて」


彼らは気付いた。

鎖鬼の目に宿る危ない輝きに。


ゆっくりと彼の視線が、上がる。そして、彼らを黒目に、入れた。

目が合った男はすくみ上がる。その時彼は人間という頂点捕食者である地位を転がり落ちた。


「死んでも知らねぇぞ」


彼らは一つの恐怖に襲われた。それは悍ましく、形容しがたく、自らが定命の者であるという事を確信させるには足りていた。足りすぎていた。

己の魂が震えるような恐ろしい恐怖。


彼らは自らの首を必死に押さえた。押さえなければならないと言われた気がした。

誰でもない己の中から聞こえた声に従った彼らは動けない。

そんな余裕など一欠片も残っていなかった。

脳内はそのレッドアラート一色に染まっている。


「じゃ、またな」


鎖鬼は前へと歩みを進めた。

そして彼らとすれ違う時、彼らの肩をポンと叩いた。

叩かれた男は首を押さえることしか脳にない。

その為意識の外からの力にバランスを崩した。

体が前傾になって倒れ込む、頭を空中に置き去りにするように落として。


「うわぁぁあ……」


他二人の男はその様を見て悲鳴をあげた。

力の一欠片もない声を出すというよりも恐怖に喉が鳴るといった表現が正しいかもしれないその悲鳴。


目の前のさっきまで話していた男、人間という生命体が糞袋と脳袋という尊厳の無い物へと陥ったその光景は男達に大きな恐怖を齎した。

その大きな恐怖はその前まで覚えていたあの恐怖を忘れさせていた。

あの、自らの首を押さえなければならないという肉体の叫びにも似た恐怖を。

忘れさせてしまった。


「ア」


その言葉はどういった感情が込められていたのだろうか。

もう消えた命にそれを聞く事は出来ないし、聞こうとする人間もいないだろう。自らの死を悲しむ人間を失い、恨みを持った者達だったのだから。

つまりはもう終わった事、終わった命、終わった出来事であると言う事だ。


「面白ぇ、面白いぜ。銀城、いやシルバーマン」


下ろされていた髪を持ち上げ後ろに固定する。

露わになる凶暴とまで印象付けるほどの笑みが張り付いている顔面。

その顔に宿る感情は歓喜、または待望。

彼の目には景色は映っていない。

映るのは目の前にいない、あの獲物だけ。


「今度こそ俺の息の根を、止めてみせろ」

ホントは一昨日にほぼ完成してたんですよ。

片頭痛でダウンしてたせいでこんな遅れただけで。


とりあえず今月中にもう一話は出したいですね


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